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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第四章

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65話 とある年のクリスマスイブ

 本日は12月24日。毎年物悲しい気分になる日だが、今年のおれはちょっと違う。4人も嫁がいるのだ。日本でこんなことを言ったら、ああ、二次元の嫁ね。おれもいっぱいいるよ?なんて返されるだろう。まあ、嫁と一緒にいるのが危険な森で警戒態勢中だっていうのが減点だが。


 転送魔法陣を作動させる際に一番危険なのが転送先の状況がわからないということだ。転送してみたら、目の前にドラゴンがいました、なんてことにもなりかねない、緊張の一瞬だ。


「周辺には何もいない」


 ここは先日のハーピーの巣があった地点のすぐ近くだ。転送後即座に気配察知を発動し、何もいないのを確認する。


「私の探知にも何もかかりません」


 サティの言葉で構えていた剣をおろし、緊張を解く。ティリカがほーくを放ち、周辺の警戒にはいる。


「マサル、魔力を分けてちょうだい」


 転送には大量の魔力を消費する。剣でも戦えるおれと違って、エリーは魔力切れが切実な問題になるので優先して回すことにしているのだ。


 奇跡の光で魔力をチャージしてやると、エリーは満足気に礼を言った。


「ありがとう、マサル。まずは進行方向を決めましょうか」


 みんなでレヴィテーションして森の上に出る。使えないサティだけはおれが抱えてるが、他は全員使える。ただアンは覚えたてで不安なのかエリーに掴まっていた。ちょっとぷるぷるしている。


「家で決めた通りゴルバス砦に向かうんだけど、まずはあっちの山脈の方へと向かいましょう。山が近くなったら方向転換して砦の方へ向かう」


 そう言って、エリーが山脈が連なる方向を指差す。太陽の方向から見てほぼ北側だろう。そっち方面は見渡す限りの山で既に山頂付近は雪に覆われている。この辺りはそれほど雪が降る地方ではないが、それでも雪が降りだすと山脈近くはかなり降り積もり、森での行動も制限される。それまでになるべく経験値を稼いでおこうという計画だ。


 北方の山脈を越えた先は魔境となっていて、魔物はそこからやってくるのだと言われている。麓には広大な森が広がっている。


 周辺の地形をだいたい確認できたので、地面へと降りる。地形と言っても森しか見えないわけだが。


「ハーピーはどうする?」


「見つかればやればいいわ。あいつら行動範囲が広いから、近場に巣があるとは限らないしね」


「この周辺にはいない」と、ティリカが報告をする。


「よし、じゃあ出発するか。頼むぞ、サティ」


「はい、お任せ下さい!」


 隊列はサティ、ティリカ、エリー、アン、おれの順である。サティが先頭なのは聴覚探知で振り向かずに後方の様子が見えて手間が省けるからだ。サティに聞いてみると、音だけで位置や動きがはっきりわかるそうだ。


 前回と違い、そこそこ早いペースで進んでいく。今回は一匹残さず殲滅しろなんて無茶ぶりはないので見敵必殺の方針だ。


 30分ほどして、サティが立ち止まった。右手のほうを窺っている。


「遠いですけど。何かいます」と、森の一方向を指差す。


「数は1ですが、そこそこ大きいと思います」


「1匹か。ドラゴンサイズじゃないよな?」


「そんなには大きくないと思います」


「ほーくを向かわせた」


 ほどなく偵察結果がもたらされた。熊だ。


「よし。やろうか」


 ただの熊とは言え、過酷な異世界を生き抜いてただけあって地球の熊よりもでかくて凶暴だ。一度こちらで見た熊は、日本の動物園で見たことがあるのより倍近くはありそうだった。


 ちなみに熊の分類は魔物になる。動物と魔物、どう分けるのか聞いたら人を襲うかどうかで決めるらしい。じゃあ野うさぎは魔物か?と聞くと、ああ、うん。そうかも。と曖昧な返事だった。釈然としない。野うさぎは絶対に魔物だと思うんだが。


 数分、移動をするとサティが熊を確認した。その場で3m級のゴーレムを1体生成する。


「サティ、ぎりぎりの距離で弓を撃て。当てる必要はない、こっちにおびき寄せるんだ」


「はい」


 ああいうやつは攻撃を食らっても大抵は逃げない。人間ごとき数匹集まっても餌が増えたくらいに考えてるんだろう。


 ゴーレムを木々の間に潜ませ、その周りで待ち伏せをする。ほーくも戻ってきてたいがと交代をし、そのたいがはティリカの脇で伏せの体勢だ。


 サティがざざっとこちらに飛び込んできた。サティはとんでもない速度で走ることができる。一度本気の走りを見せてもらったが、同じ人間か?って思ったほどだ。スキルの敏捷ブーストに加えて獣人としての運動性能が高いんだろう。


「きます!」


 かなり距離はあるが、でかい熊がすごい勢いでこちらに走ってきている。ガサガサバキバキと森の中をまっすぐ突っ切ってこちらに向かっている。ちょっと怖い。でも大丈夫だ、万一こっちまでこられてもゴーレムで受け止めればいいと自分にいい聞かせる。いつでもゴーレムを動かせるようにして待ち構える。


「サンダー!」

 

 ある程度引きつけたところにエリーのサンダーが炸裂し、大熊が走ってきた勢いのまま地面に突っ込み倒れた。軽めにと言ってあるので麻痺のみでダメージはそれほどないはずだ。


 そこにアンとティリカの氷弾が突き刺さる。2発くらっても大熊はまだもがいている。


「まだ生きてる。もう一発だ」


 更にもう一発ずつの氷弾が突き刺さり大熊は息絶えた。3m超の体躯を持ちかなりタフそうではあるが、身動きできないところで頭部に4発もの氷弾を食らえばひとたまりもない。


「サンダーからの連携攻撃は鉄壁だな」


「そうよ。これで失敗したのなんて、あのドラゴンの時くらいかしら」


 死んだ大熊を収納し、みんなのメニューを確認してみる。


「ティリカとアンのレベルが一つずつ上がってるね」


「召喚をあげる」


「ここでやるの?」


「お願いする」


 メニューを開き、召喚をあげる。



ティリカ 2P レベル6


料理Lv1

魔眼(真偽) 水魔法Lv3 召喚魔法Lv3→Lv4



「上げたよ」


「……」


 ティリカがうつむいて黙りこむ。


「ん?どうしたの。今すぐ何か召喚してみる?」


「危険だからやめておく」


「危険って?」


「次のレベルは契約の儀式が必要になる。具体的には戦って倒さなければ主人として認められない」


「それって一対一でか?」


「みんなで倒せばいい。召喚士自体はそれほど強くないから」


 確かにな。召喚士に単独で戦えって言われてもたいがどころか、ほーくにすら苦戦しそうだ。


「それならなんとかなるかなあ」


「大丈夫よ!出てきたところを魔法で集中攻撃すればドラゴンでもイチコロだわ」


「うーん、まあそうかな。じゃあどこか広場でもみつけたらやってみる?」


「街の近くのほうがよくない?何かあったら怖いよ」

 

 そうアンジェラが提案する。


「森の近くでやれば人目にもつかないかな。ホークにぐるっと周辺を偵察してもらえばいいし」


「そうね。狩りを中断して戻りましょう。早く新しい召喚獣を見てみたいわ」


「私も新しい魔法覚えて練習したいな」


「アンは水魔法でいいの?これならレベル4まで上げられるよ」


「うん、それでいい」


 アンジェラは7Pある。水魔法を3、4にしてちょうどポイントを使いきることになる。



アンジェラ 0P レベル5

家事Lv2 料理Lv3 棍棒術Lv1

魔力増強Lv2 MP回復力アップLv2

魔力感知Lv1 回復魔法Lv4 水魔法Lv2→Lv4


【水魔法Lv4】①水球 ②水鞭 氷弾 ③水壁 氷雪 ④氷竜 水竜



「水魔法レベル4まであげたよ」


「うん、うん。ありがとう」


「じゃあ戻りましょうか。ここの転送ポイントの設定はしたし、ゲートを開くわよ?街の外のでいいわよね」


 今のところ、家の地下室と街から少し離れた草原の2箇所と狩場に転送ポイントを設定してある。


「ちょっと待って。やっぱり今日はだめだ。やるなら魔力を万全にしてやりたい。アンも魔法の練習してからのほうがいいだろ」


 転送を使ったら当然おれが補充をすることになる。魔力は万全にしてやりたい。


「それもそうね。今日は戻ってゆっくりしましょうか」


「それがいい。熊も結構いい値段になるんだろ?」


 獲物が1匹というのはちょっと残念だが、あれだけ図体がでかいんだ。きっと肉もいっぱい取れるだろう。


「肝が薬の原料になるらしいわ。肉もいっぱい取れるし悪くない味よ」


「ほう。じゃあ売る時少しもらっておくか」


「熊肉、楽しみ」


「うちのほうじゃ熊鍋っていうスープ料理が定番なんだ。今日はそれにしようか」


 こう寒いと鍋が恋しい。和風出汁がないのが残念だが、ラーメンのスープストックでも使ってみるか。きっと美味しいだろう。


「マサル様の料理は久しぶりです」と、サティが嬉しそうに言う。最近家事とか任せっきりだったしなあ。


「よしよし。今日はおれに任せろー」


「楽しみだわ。マサルの料理ははずれがないものね」


 うん、カレー以外はね。あれだけはいつかまた挑戦せねばなるまいと密かに心に決めているのだ。


「じゃあゲートお願い」


 みんなで集まり、1箇所に固まりしゃがみ込む。街の外の転送地点は草原の草が高い地点に設定しており、しゃがんでいれば転送で出現しても見えないはずだ。


 転送が発動し、草原に場面が切り替わる。転送時には反動のようなものは何もない。目でもつぶっていれば魔力感知以外ではいつ転送したのかもわからないくらいだ。


「周りには何もいないようです」


「こっちも探知に反応はない。立ち上がってもいいよ」


 ここは街からも街道からもかなり離れた位置になる。移動が面倒だがばれるよりはいいだろうとこのあたりになった。


「じゃあアンの魔法の練習にもうちょっと森のほうに行くか。大規模な魔法だと結構街のほうまで音とか届いちゃうからね」


 練習と言ってもスキルで覚えた魔法は失敗することはない。威力とか範囲を確かめる試射といったところだ。


 少し歩いて十分街から離れただろうという場所でやることにした。


 レベル3の2種はティリカので見たことがある。水壁はそのまま水で壁を作る防御魔法だ。水で壁ってどうなんだろうと最初は思ったが、壁の中で水が渦巻いており、矢くらいなら余裕で防ぐ。


 氷雪のほうはエリーの使うウィンドストームの氷版といったところだろうか。氷を含んだ嵐が発生し、敵を切り刻む。


 氷竜と水竜も文字通り、氷と水で竜を形作る。作った竜は自在に動き敵を攻撃する。大きさも調節でき、持続時間もなかなかのものだ。単発で即ぶっ放す火や風魔法に比べ、威力は落ちそうだが応用はききそうだ。実際の威力を見るために10m級ゴーレムを作って的にしてみたところ、水竜の攻撃をくらいあっさりと破壊されてしまった。ゴーレムが弱いのか、水竜が強いのかいまいち判別がしかねるところだが、とりあえずの威力は確認することはできた。


「いいものが見れたわね。水魔法もなかなか悪くないわ」


「すこし怖いわよ。森で少し狩りをしただけでこんな魔法覚えるとか、ちょっと異常ね。やっぱりマサルのことはどうしたって隠しておかないと」


「おれの力が怖い?」


 ちょっと心配になって聞いてみる。


「マサルの力は怖くないよ。神様の加護だもの。怖いのは私がこんな魔法を使えるってことかな」


「大丈夫よ。すぐに慣れるわ。大魔法をぶっ放すのは気持ちいいのよ」


「そうね。ちょっと楽しかったのは否定しないわ」


「エリーみたいに何度も限界まで魔力使って倒れるとか、アンはやらないでね?」


「失礼ね!マサルの前ではそんなの2回くらいじゃない!」


 おれの前ではってことは、他でやってたのか……ナーニアさんの苦労がしのばれる。


「そういうのはエリーに任せておくよ」


「私だってもうやらないわよ。たぶん」


 断言できないあたり自分でも自覚があるんだろう。


「はいはい。じゃあ街に戻ろうか。おれは野うさぎ狩りながら行くから先に戻っててくれる?」


「わかった。私はちょっと神殿に寄ってから帰るよ。お昼はマサルが作るの?」


「熊鍋は夜にしよう。昼はお願い」


「私はマサル様に付いていきますね」


「私も」と、サティとティリカが付いてくることになった。


「じゃあエリーは私と一緒に戻ってお昼を作ろうか」


「が、がんばるわ」


 アンによると、エリーの料理スキル習得にはまだ当分かかるそうだ。




 2人と別れ、草原を前にする。ここに来るまでも野うさぎの気配を時々感知してそわそわしていたのだ。


「じゃあいつもみたいに左右に別れてやるか。ティリカは少し離れてついてきてね」


「はい」


「わかった」


 その後サティと2人で10匹ほど狩り、満足して街へと戻った。




 家に戻ると、アンとエリーもちょうど戻ったところだったようだ。


「治療院が忙しくてね。手伝ってきたんだよ」


「私もちょっと手伝ったのよ」


「用事は大丈夫だったのか?」


「ちょっと挨拶しておこうって思っただけだったしね。じゃあ料理始めようか。行くよ、エリー」


「もうすぐ料理スキルがレベル1になりそうな気がするわ。終わったらチェックしてね、マサル」


 そうか。それは気のせいだと思うが、言わないでおこう。そしてアンの監督のもと、普通に食べられる料理が出てきたことだけはエリーの名誉のために言っておく。今日のところは料理レベル1はまだついてなかったが、その日は思ったより近そうだ。エリーはやれば出来る子だ。


 午後はエリー先生の空間魔法講座になった。アイテムボックスは使えると便利だろうと、ポイントを使わずに習得しようということになったのだ。生徒はアンとティリカとサティ。おれは遠慮した。魔法の習得でろくな目にあったことがない。今回もきっとひどい目にあう。そんな気がしたのだ。


「おれは熊をギルドに売ってくるよ。みんながんばってな」


「任せておきなさい。バリバリ教えるわよ!」


 辞退して正解だとその瞬間思ったよ。


 熊を売り払ってちょっと買い物をして戻ると、アンがぐったりしてサティが寝込んでいた。ティリカはケロッとした様子でソファーで寝ているサティを見ていた。魔力切れだろうな。


 おれはそれを見て、黙って魔力を補充してやった。何があったのかはあえて聞くまい。


 その日の夜の熊鍋は結構好評だった。そういえば今日クリスマスイブだったな。ケーキでも作ろうかとちょっと思ったけど、美少女4人と鍋を囲む、そんなクリスマスも素晴らしいものだった。

次回投稿 5/2の予定です

前話にも書きましたがサティの絵も頂きました

21話に載せてあります


ティリカはレベル4召喚を試しみる

あらわれる強大なモンスター

「汝が召喚主か?我が主足るや証明をしてみせよ!」

果たして無事倒して従えることはできるのか



誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

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》じゃあ野うさぎは魔物か?と聞くと、ああ、うん。そうかも。と曖昧な返事だった。 そっと見をそらされるような空気感好き
なんか、結婚したあたりというか、エリーがメインキャラとして毎回出てくるようになってから急に面白くなくなった。 この後はまた面白くなるのでしょうか?
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