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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第三章

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57話 ティリカの望みは

 おれとサティは副ギルド長の執務室に通されてソファーに落ち着く。


「一体どうしたんです?」


 ティリカちゃんはさっきからサティにぎゅっと抱きついたままだ。


「それがな。ティリカに結婚話が持ち上がってるんだわ」


「結婚って。ティリカちゃん、サティより年下でしょう?」


「んー。それなんだがなあ」と、ティリカちゃんの方へ目をやる。ティリカちゃんはそれを見てこくりと頷いた。


「つまりだな。ティリカは今20歳なんだ」


「20歳!?」


「ええええー」と、これはサティだ。


「もうすぐ21」と、ティリカちゃんが言う。


 マジか……21だとアンジェラより一つ年上になるんだけど。


「ティリカちゃんのほうがおねーちゃん?」


「今まで通りサティがおねーちゃんでいい」


「歳相応に見えないのには理由がある。魔眼のせいだ」


 この真偽を判定する魔眼は人工的に埋め込んだもので、その際に何かしらの障害が発生する場合が多い。ティリカちゃんの場合は魔眼を埋め込んだ時点で体の成長がほとんどなくなってしまった。


「20なら結婚って話があってもおかしくはないですけど、どこの誰が?」


 砦に行く前にはそんな話は全く出ていなかった。あっちに行ってる間に何かあったのだろうか。


「真偽院だよ。前々から跡継ぎを作れって話は来てたんだけどな。いよいよ本腰をいれて相手を送り込んで来たんだよ」


 魔眼持ちになれる素質をもつものは極めて貴重だ。その性質は子供にも受け継がれる可能性も多いので、真偽官の義務の一つに子孫を作ることも入っている。


「相手はどんな?」


「魔法使いで貴族の三男坊でな。少々軟弱ではあるが、お相手としては悪くない。あっちもティリカを気に入ったみたいだ」


「ティリカちゃんのほうは?」


「絶対に嫌だと」


 結婚すればおそらくは王都に行くことになる。そしてここには別の真偽官が派遣されることになるだろう。ティリカちゃんはそれは嫌だと絶対拒否の構えだ。


「マサル」と、ティリカちゃん。


「うん?」


「結婚しよう」


「え?」


「マサルの家の子になれば全部解決する。おねーちゃんとも一緒に居られる。マサルも魔法使いだからマサルとの子を産めばいい」


「とまあこういうわけなんだわ」


 いくらそれがティリカちゃんの望みでも、そんなこと急に言われても困るんだが。


「あの。おれこのあと、サティとアンジェラとエリザベスと結婚する予定があるんですが……」


「おお!3人も娶るのか。そいつは豪儀だな!そのついでにティリカももらってやってくれよ。なに、3人が4人でも大して変わらんさ。ティリカは小さいから場所も取らんしな!」


「ついでって。動物の子じゃないんですから」


「マサルは私のこと嫌い?」


「いや、そりゃ好きだけど」


「私もマサルのことは結構好き」


 結構好きか。なんだか微妙な評価な気がしないでもない。


「あの。マサル様。私からもお願いします」


 サティは賛成か。


「ちょ、ちょっと考えさせて……」


「ああ。今すぐ決めろって話でもない。おまえの嫁さん達ともよく話し合って結論を出してくれ」




 そしていつものようにティリカちゃんはうちにお泊りに来る。


 家は2週間以上あけたことになるんだが、きちんと掃除が行き届いていた。シスターマチルダにお礼を言っておかないとな。家に入ると既にエリザベスが待っていた。アンジェラは司祭様と共に神殿の方に戻っている。


「あら。ティリカじゃない。今日も泊まりに来たの?」


「そう。これからずっと泊まる」


「ずっと?」


 こくりとうなずくティリカちゃん。


「そう」


 それでエリザベスは特に疑問に思わなかったようだ。よく考えれば今までも毎日泊まっていたし。


「それよりもお腹が空いたわ」


「ああ、そうだな。食事にしようか」


 もう日も暮れて外は真っ暗だ。食堂はエリザベスがつけたのかライトの明かりで照らされている。油を使ったランプやロウソクもあるんだがやはり魔法のライトが一番明るい。


 ラーメンのスープストックがあったのでまずはパスタを茹でる。水は魔法で出して、火魔法で一気に沸騰させた。その間に薪を燃やして野菜炒めを作る。スープも火魔法で温めておいて味付けをする。鳥ガラスープの塩ラーメンだ。


 茹であがったパスタをスープに投入。野菜炒めをたっぷり乗せて長崎チャンポン風にした。お箸はない。フォークで食べる。所要時間わずか10分。やっぱり魔法は便利だ。


 アイテムボックスに常時いっぱいいれてあるパンも出す。ラーメンにパンってどうなの?って最初は思ったがこっちの人は普通みたいだ。お代わりが欲しいサティなんかは替え玉を追加して、さらにパンもいくつか食べていた。相変わらずよく食べる。太らないか心配だ。これはあとできちんと調べておかないといけないな。




 食事が終わったらいつものように楽しいお風呂タイムだ。


 だったんだがエリザベスが出たあとに入るとサティとティリカちゃんの2人が待っていた。ちゃんとバスタオルを体に巻いていたのが救いだ。


「あの。ティリカちゃん?」


「洗ってあげる。大丈夫、おねーちゃんに色々聞いた。任せておくといい」


「エリザベス様も2人でやったんですよ!」


 それでエリザベスがちょっとふらふらしてたのか。てっきりもう眠いのかと思った。


「まだ結婚も決まってないのに、ちょっとこういうのは早いんじゃないかなー」


「マサルは私に洗ってもらいたくない?」


 嘘を言ってもどうせばれるんだよな……


「あ、洗ってもらいたいです」


 そりゃ洗ってもらいたいさ!でもね、ちょっと恥ずかしいんですよ。


「じゃあ問題ない。私が前をやるからおねーちゃんは後ろで」


 そうしてたっぷりと2人がかりで洗われてしまった。ティリカちゃんは20才。アンジェラと同い年。だから大丈夫だ。合意の上だし問題ない。最後の一線は越えてないし!


 湯船に3人でつかる。両側にサティとティリカちゃん。もちろん裸だが賢者たる俺は動じないのだ。


「あれは気持ちよかったらでると聞いた」


「あ、うん。そうだね。気持ちよかったよ」


「じゃあ結婚してくれる?」


 そういってぴっとりと体を寄せておれの顔をじっと見る。さっきのあれはえらく積極的だったけど、誘惑でもしようとしてたのか。


「おれとしては異存はないんだけど、エリザベスとアンジェラに聞かないと」


「お二人ならきっと賛成してくれますよ」


「そうだな。お風呂からあがったらまずはエリザベスに話してみるか」


 こちらからは手は出してないとは言え、あそこまでやってもらったし、きちんと責任とらないとな。




 居間の暖炉は赤々と燃えていて、部屋はぽかぽかと暖まっている。エリザベスは暖炉の正面でソファーに座ってぼーっとしていた。おれがエリザベスの右側に、左にティリカちゃんとサティが座った。ここにアンジェラが加わるとなると手狭だな。もう1個ソファーを買うか、大きいのを買うかしないといけないかな。それとも前後にぎこぎこ揺れる椅子とかが風情があっていいだろうか。今度家具屋さん見に行ってみよう。


 だがまずはエリザベスにあのことを話しておかないと。デリケートな問題だ。今回は慎重に行くぞ。


「エリザベスさん、少しお話が」


「どうしたの?」


「ティリカちゃんのことです」


「マサルと結婚したい」


 ちょっと待て!もっと順をおって言おうと思ったのに!


「どういうことなの、マサル」


 ちょっと声が怒ってますね。


「説明する。説明するから!」


「そうね。納得の行く説明をしたほうがいいわよ」


「実はティリカちゃんに結婚の話が来てましてね……」


 今日聞いた事情を説明する。


「魔眼持ちの義務ねえ。でもティリカくらいの年ならそんなに急ぐ必要ないじゃない。そりゃ早い子はもうこれくらいでも結婚するけど」


「それがですね……」と、エリザベス越しにティリカちゃんを見る。


「私は20歳。立派な成人」


「えええええ!?」


「魔眼の弊害で成長が止まったらしいんだ」


「本当なの?」


「本当」


「20……20歳ね。それなら真偽院がじれるのもわかるわね。相手はどんな男なの?」


 首をかしげるティリカちゃん。


「こっちに来てるんでしょ?見てないの?」


「見た。けど覚えてない」


 結婚相手候補なのに顔も覚えてもらえないのか。不憫な……


「どこかの貴族の三男坊なんでしょ?ティリカがマサルと結婚したいって言ってもこじれるかもしれないわね。明日にでも副ギルド長に詳しい話を聞きにいきましょう」


「ええっと。それは結婚に賛成ってことでいいのかな?」


「色々言いたいことはあるけど、ティリカならまあいいわ。マサルはもうそのつもりなんでしょ?」


「うん」


「それに相手がいるのに押し付けられる結婚なんて絶対にだめよ!」


「エリー、ありがとう」


「いいのよ。明日アンが戻ってきたらみんなで話をしましょう」


「アンジェラも賛成してくれるかな?」


「大丈夫じゃない?アンは優しいから。きっと全部うまく行くわよ、ティリカ。私達に任せておきなさい」


 頼もしい!頼もしいよ、エリザベス!


「ふふふん。当たり前じゃない!」





 翌朝、朝食前にアンジェラがやってきた。呼びに行こうと思ってたのでちょうどよかった。


「パーティーに入る件、問題ないよ。暇な時は治療院の手伝いくらいはしにいくけど、孤児院は私なしでなんとかしてもらえることになった」


「今日からこっちに住むの?」


「うん。私物は全部持ってきたし」


 引越しにしては少ないが何やら大きなバッグを2個持ってきている。荷物を置いて落ち着いたので話をすることにした。


「ええと、その。ティリカちゃんのことで話があるんだ」


 私達に任せろ!と大口を叩いたエリザベスは寝起きが悪いのでまだおねむだ。食堂のテーブルについてうつらうつらしている。ここはおれがやらないと。


「ティリカがどうかしたの?」


「ティリカちゃんに結婚の話が来てたんだよ」


 今回は途中で口を出さないように言ってある。


「誰と!?」


 真偽院から話が来た経緯を伝える。この話を聞いたり言ったりするのも、もう三度目だな。


「相手は貴族か。それでどうするの?ティリカは嫌だって言うんでしょ」


「マサルと結婚する」


 ああ、またこの子は先に言う。一番の当事者だからいいんだけどさ。


「でもティリカはまだ若いんだし婚約だけとかでもいいんじゃない」


「20歳」


 もうティリカちゃんも面倒くさくなったのだろうか。説明が雑だ。


「20歳?」


 案の定伝わってない。


「ええとですね。魔眼が……」


 3度目となる説明を行う。


「20歳……もうすぐ21で私より上か……」


「私は別にいいわよ。あとはアン次第ね」と、すっかり目を覚ましたエリザベスが言う。


「え、もうそこまで話が進んでるの?」


「うん。昨日のうちになんだけど……」


「即決じゃないか……あー、いいよ。私も賛成する」


「ありがとう、アン」


「はいはい。歓迎するわよ。それでこのあとどうするの?」


「副ギルド長に話をしにいくんだけど。その前にご飯食べようか」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




「そうかそうか!マサルならそう言ってくれると思ってたよ!よかったな、ティリカ」


「うん」


「それで、相手の男はどんなのなの?」と、エリザベス。


「ジョージ・バイロン。バイロン伯爵家の三男でな。土魔法を使う魔法剣士だ。そこそこできるぞ」


「武門の名門じゃない。それでそいつはあっさりと諦めてくれるのかしら?」


「だめだな。本人がティリカを気に入った上に面子ってもんがあるからな」


「そんなのギルドの力でどうにでもしなさいよ」


「最終的にはそうするつもりだが、その前にそちらで説得をして欲しい」


 説得か。ナーニアさんの時は説得するつもりで決闘になったけど……


「わかったわ。マサル、説得するわよ」




「決闘だ!」


 ですよねー。武門って聞いた時点でもうすでに予想はできた。そのジョージ・バイロンはイケメンで背も高い。こちらの基準からするとちょっと細い感じもするが、日本でならさぞかしもてただろうという風貌だ。いかにも貴族という感じの上等そうな服に身を包み、魔法使い風のローブ。腰に剣をさしている。従者も2人、側に控えている。


 そして決闘をするべく、ギルドの訓練場に来ているわけだ。


「貴様のようなどこの馬ともしれない平民にティリカ嬢はふさわしくない。大人しく引いたほうが身のためだぞ」


 まあ平民だし、どこの馬ともしれないのはその通りなんだけど、ここで引くわけにもいかないし。


「マサル!そんなのに負けるんじゃないわよ!」


「そうよ、ティリカのためにがんばんなさい!」


「マサル様ファイトー」


「……君の後ろから何やら声援を送っている女性方はどなたかね?」


「ええっと。3人ともおれの嫁ですが……」


 ジョージはブチッという音が聞こえそうなくらい憤怒の表情になった。


「き、貴様……3人もいてまだティリカ嬢を娶ろうというのかね」


 ジョージの声はちょっと震えている。


「本人達の希望なんで……すいません」


「ティリカ嬢!このような浮気性の男でいいのですか!?私なら生涯あなた一人を愛すると誓いましょう」


「おまえはいらない。マサルがいい」


 きっぱりと言うティリカちゃん。ちょっとジョージが哀れになってきたな。


「そうか。やはり貴様が諸悪の根源なのだな。どうやってティリカ嬢をたぶらかしたのか知らんが、ここで死んでもらおう!」


 たぶらかしたのは主にサティなんですよ。ぜひそう説明したいところだったが、ジョージは魔法の詠唱を始めていた。おれはとっさに後ろに飛び下がり警戒する。


「そう警戒する必要はない。まずは私の魔法を見せてやるだけだ。さあ、生まれいでよ、我がゴーレムよ!」


 そうジョージが言うと、訓練場の土からごりごりと音をさせつつ、巨大なゴーレムが3体生まれでた。一体一体が3mくらいはある。


「ふふふ。どうかね?私はこれを最大4体出せる。今のうちに土下座をすれば許してやらないでもないよ」


 3体しか出さないのは、4体出せば倒れるからですね。わかります。


「4体出さないのか?」


「き、貴様ごときは3体で十分だ!手加減してやってるんだよ!」


 やっぱりか。でも3体でも結構すごいな。ゴルバス砦に行く前のおれじゃ苦戦は必至だったろう。


「さあ、さっさと負けを認めたまえ。貴様の火魔法では我がゴーレムに傷ひとつつけられんぞ」


 そりゃ、あらかじめゴーレム出してればこっちの詠唱なんか妨害し放題だろうさ。低ランクのじゃ表面を焦がすくらいしかできそうにないし。


 だがおれのことを調べたんだろうけど、情報が古いな。火魔法を使ってもいいがここは同じ土魔法で相手をしてやろう。


「おれも土魔法が使えるんだ。どうせならゴーレム同士で勝負をつけないか?」


 そうすれば怪我をする心配はない。


「ほう。土魔法が使えるという情報はなかったが。まあいいだろう。貴様のゴーレムを見せてみたまえ」


「確認するが決闘はゴーレム同士の勝負で決着をつけるということでいいんだな?」


「いいだろう。バイロン家の名にかけて誓おう」


 さて。大ゴーレム作成は一度しか試してないがだいたいの使い方はつかんである。レベル2のゴーレム作成ではいじれなかったサイズが魔力次第で大きくできる。そのための魔力ならたっぷりとある。


 【大ゴーレム作成】発動――作成は1体。魔力は多めに込めておこう。


 ずっ。ずずずっ。なんだ?地面が……やばい。ゴーレムがでかすぎたのか!?


「みんな離れて!」


 みんなも異変に気がついたようだ。おれの声に合わせて大慌てで距離をとる。


 広範囲にわたって地面がボコッ、ボコッとうごめく。ジョージも青ざめた顔で自身のゴーレムと共におれから距離をとった。同じ土メイジだけあって、今何が起こってるのかわかっているのだろう。


 そして詠唱が完了し、巨大ゴーレムが地響きを立てつつゆっくりと地面から立ち上がる。10?いや20mくらいはあるぞ……


「な、なんだそれはっ!」


 ジョージの声で我に返る。決闘するんだったな。もう戦いになりそうもないけど。


「何ってゴーレムだろう。さあ始めようか」


「み、見掛け倒しだ!そうに違いないっ。行け!ゴーレム達!」


 3体のゴーレムがおれの巨大ゴーレムに襲いかかる。こいつらも3mはあってかなりでかいんだが、サイズが違いすぎる。巨大ゴーレムの足に殴りかかるんだが表面が削れる程度でまるで効果がでていない。


「はっはっは!どうだ!やっぱり見掛け倒しなんだろう!でかいだけで一歩も動けない木偶の坊だ!」


 いやいや。さっき普通に立ち上がったでしょうに。


「踏み潰せ」


 巨大ゴーレムに命令を下す。頭の中で考えればいいので、別に声をだす必要はないんだがなんとなく気分だ。


 巨大ゴーレムはゆっくりと足を上げ、ズシンッという音と共にゴーレムを一体踏み潰す。それを見て2体が後退する。更に一歩踏み出しもう一体も踏み潰す。最後の1匹はちょこまかと逃げまわったが、ゴーレムをしゃがませて、手のひらで押し潰し戦いは終わった。


「馬鹿な……こんな馬鹿な」


 おれもそう思う。巨大なゴーレムが小さなゴーレムを踏みつぶしてまわるのは、見ていても何か非現実な光景だった。


 しかし、困ったな。訓練場に大穴開けちまった。このゴーレムを土に戻したら元に戻るだろうか?軍曹どのにまた説教くらったら嫌だなあ。穴を見ながらそんなことを考えていると、アンジェラから声がかかった。


「マサル、危ない!」


「え?」


 ジョージか!?


 ジョージが剣を振りかぶって襲い掛かってくる。とっさに左腕を上げ盾で防御しようとするが、盾のない部分を打ち据えられる。ジョージはそれ以上追撃せずに下がったが、左腕がだらりと下がる。肘のあたりを打たれ痛みで動かすことができない。


「ククク。バイロン家のボクが平民などに負けるわけがないんだ」


「おまえっ!」


「さあ、剣を抜く時間をやろう。構えろ、平民!」


 左腕は使い物にならない。骨までいってるかもしれない。革鎧がなければすっぱり切り落とされていただろう。


 ジョージから距離を取り、背中の剣をゆっくりと抜く。相手は魔法使いだ。ヒールを詠唱すれば気がついて即攻撃を加えてくるだろう。くそ。左腕がいてえ。


 見物人から野次が飛ぶ。だがジョージは聞く気はないようだ。


「恥ずかしくないのか?ゴーレムで決着がついただろう」


「黙れ黙れっ!あんなもの!何か不正をしたに決まってる!貴様みたいなゴミクズにあんな、あんな!」


 片手で剣を構え、左腕の痛みをこらえ深呼吸する。こいつの剣の腕は大したことはない。でなかったら初撃で腕を落とされるか死ぬかしていただろう。


「マサル!今すぐ治療を!」


「来るな。すぐにケリをつける」


「いい心がけだ。それに免じて苦しまずに殺してやろう」


 そう言ってジョージは構えをとる。剣は刺突剣というのだろうか。細く、突きに特化したタイプだ。左腕が無事なのもそのせいもあったんだろう。


 だがどうしてこっちの人はすぐ死ねだの殺すだの言うのかね。もっと平和に生きたい……


「ゆくぞ!」


 おれの左腕を殺して既に勝ったつもりなんだろう。勝ち誇った顔をして、ジョージが剣を構え突っ込んでくる。そして突きを繰り出す。うん、遅いわ。全然遅い。余裕で避け、剣の柄でカウンターをジョージの顔に打ち込んだ。


 殴り飛ばされ倒れたジョージはぴくりとも動かない。ちょっとやりすぎたか?死んでないよな……?ジョージの2人の従者が駆け寄る。


「マサル、大丈夫?今治すからね」


「何よあいつ!貴族の風上にも置けないわね」


 アンジェラのヒールで腕の痛みがひいていく。


「よくやってくれた、マサル。今回の件は全部上のほうに報告しておこう。決闘の取り決めをやぶったんだ。もうこれ以上何か言ってくることはないだろう」


 ジョージは治療を受け気絶したまま運びだされていく。どうやら死んではいないようだ。


「マサル、ありがとう」


「うん」


「マサル様、すごかったです!格好よかったです」


「そうね、これだけの巨大なゴーレムなかなか見れないわよ」


「それと盛り上がってるところ済まないが……」と、副ギルド長が大穴のほうを指さす。


 あー、うん、直します。直しますよ。

「さあ、行くわよ」と、アンジェラ。

「え、もう?」

アンとエリーに両脇をつかまえられる。

「こ、心の準備を……」

「諦めなさい、マサル。もう始めるわよ」

「往生際が悪い」と、ティリカが言う。

「人間誰しも苦手なものというのが……」



次回、明日公開予定

58話 開放と


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >”即決”じゃないか……あー、いいよ。私も賛成する ここは「既決」あるいは、「反対の余地がない」なんてのもいいかも?
[気になる点] >その性質は子供にも受け継がれる”可能性も多い”ので、真偽官の義務の一つに子孫を作ることも入っている。 論理的に説明する事はできませんが、可能性には「多い」ではなく「高い」を使うと思…
[気になる点] 鶏がらスープの塩ラーメンに野菜炒め乗せたら、ちゃんぽんじゃなくてタン麺では・・・・・・ 唐揚げ洋食事件といい、マサルの家はちょっとおかしいw
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