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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第三章

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56話 破滅への序章

 2日間の完全休暇を経ておれは仕事に復帰した。短時間の戦闘を経て第一城壁は取り戻されて、国軍は今は第一の外で布陣して警戒している。モンスターどもは国軍がひとあてするとさっさと逃げ散ったという。この分だと追撃任務も楽なものになりそうだという話だ。


 とりあえず第一は取り戻したものの、そのままではまだ修復作業はできない。積み上がったモンスターの死体をまずはどうにかしないと、すでに酷い臭いが漂ってきている。冬が近くて助かった。これが夏だったら……


 モンスターの死体は兵士の皆さんがせっせと運んで巨大なキャンプファイヤーに放り込んで焼却していっている。


 おれはというと、投下された大岩を浄化をかけながら回収していた。割れたのも多かったがそれでも半分ほどは取り戻せた。こいつらはまた次も活躍してくれることだろう。頼もしいやつらだ。


 大岩を回収して巨大なキャンプファイヤーにあたって暖まっているとモルテンさんが呼びにあらわれた。


「マサル殿。そろそろ作業を開始するとのことです」


 第一城壁に開けられた大穴のところに連れて行かれる。城壁は1mくらいの高さまで切り崩され、魔境の雄大な自然と陣を作る国軍の兵士達の姿がよく見える。あれが魔境か。初めて見たがこっちの景色とさほど変わらないね。


「マサル殿には堀の拡張と合わせてまずは穴を塞いでもらいたいのですよ」


 堀は今でもかなり深い。幅は十数m、深さも五メートルはあるだろうか。だが穴の開いた部分の堀は土で埋められ歩いて通れるくらいになっていた。魔物たちがやったのだろう。


 とりあえずは堀を埋めた土を使って土壁を形成する。形は大雑把でいい。他の土メイジも来ていて細かい部分はそちら任せである。今更だとは思うが、これ以上目立たないように土壁は1mX2mくらいのサイズに抑えてちまちまと城壁を塞いでいく。ある程度やると疲れた振りをして休憩を取る。


 第一の内側に大きな天幕が用意してあって、マギ茶を入れてもらいくつろぐ。サティを連れてきたらよかった。大変に暇だ。今日はサティは留守番してもらって、今頃はアンジェラと一緒に料理でも作っているはずだ。ついててもらってもサティには仕事はないし、女連れだときっとすごく目立っただろうから涙を飲んで置いてきた。


「さすがですな。作業が捗ります」


 王国軍に同行してきた土メイジもそこそこ仕事はできるらしいのだが、やはり魔力量の問題がある。これほどの大規模工事となると数日がかりのところを既に3分の1ほど済ませてしまった。こんな面倒くさいだけの作業は適当に終わらせたいものだ。


 モルテンさんの話によると、おれが大雑把に盛った土壁を基礎にして、表面に石や硬く焼いたレンガを配置していき城壁を完成させるそうである。今頃おれが修復した第二もそうやって仕上げがなされているはずだ。


 いつまでもイケメンの副隊長の顔を見ていても仕方がないので土木工事に戻る。先ほど補修した部分は他の土メイジの人たちがならして平らになっていた。そこにまた土壁を作ってはレヴィテーションで持ち上げ埋め込んでいく。


 土の部分が終わったのでモルテンさんの指示に従ってさらに堀を深く掘り進めていく。できれば倍の10mくらいにはしたいとのことだ。もしかしておれがやるの?とは聞けなかった。お願いしますと言われたら断り切れないかもしれない。


 城壁を半分と少し修復したあたりで魔力切れを宣言する。本当は全然余裕があるんだけど、あまり力のあるところを見せるともっと働かされそうだし程々でいい。どの道、表面の処理はそれほど進んでいないので基礎部分だけ先行しても意味はないんだ。もうモンスターの脅威はないはずだし。


 だが、戻ろうとしたところで騒ぎが起こった。国軍の指揮官のいる陣に伝令が駆け込み、慌ただしく人が出入りしはじめる。


「何かあったんですかね?」


 見る限り魔境は平和だ。砦のほうで何かあったんだろうか?


「聞いてきましょう」と、モルテンさんが陣幕の方に歩いて行く。


 程なくモルテンさんが戻ってきた。厳しい顔をしている。


「わかりました。ヒラギスの国境の砦がモンスターに落とされたと連絡が来たんです」


「ヒラギス?」


「ええ。王国の東南。帝国の東方にある小国の一つなんですが、魔境に接しています」


 ヒラギスの砦もここと遜色のない防御力を誇る立派な砦があるそうである。だがそこは既に落ちて、ヒラギスの国土はモンスターに蹂躙されている。ヒラギスの国も帝国とは対魔境では協定があり、有事には救援に向かうはずだった。


 だが今回の王国の危機に帝国は東方の防衛の多くを北方の王国側に回してしまった。10年ぶりの危機に帝国も判断を誤ったのだ。ヒラギスへの救援は後手にまわった。ヒラギスを救うべく帝国は軍の移動を急いでいるが、恐らくは間に合わないだろう……


 ちょっと嫌な想像をしてしまった。今回のここの襲撃は単なる陽動だったのではないだろうか。


「陽動ですか。思い当たるフシがないでもないですが。確かに国軍が来たからと言ってあっさりと引きすぎている。ですが今回のこの襲撃もかなり大規模なものでした。城壁が2つとも抜かれるなど、ここ十数年なかったことです。」


 2つの襲撃に特に関連などはないかもしれない。だけど20年でこちらの世界を侵略するほど遠大な計画があるとするなら、これほどの戦力を捨て駒に国一つを蹂躙するという戦略もあり得るかもしれない。


「そもそもこの攻撃を指揮しているのは何者なんです?」


「わかりません。敵の総大将らしきものを捕らえたという記録は一切ないのです。オークキングとも魔族が指揮しているのだとも色々と憶測はされていますが」


 魔族という単語に背筋に冷たいものが流れるのを感じる。もし魔王が人知れず復活していたとしたら……


「とにかく我々のやることには変わりはありません。王国からヒラギスは遠いですから多少の警戒をするぐらいしかすることはないでしょう」


 だが王国の危機は去ったとして帝国軍は動くだろう。上層部はそのあたりの情報を得るために大わらわである。帝国軍の動きに魔境側の動き。今まで以上に綿密な調査が必要だ。それにもしヒラギスが落ちるともなれば遠方とは言え、大陸有数の国家の一つである王国もなにがしかの対応や援助を求められる。上の人間はさぞかし頭が痛いことだろう。




 騎士団の護衛に付き添われ、神殿の部屋に帰ると久しぶりにエリザベスが戻ってきていた。部屋に全員勢揃いをする。


「ナーニアさんはもういいの?」


「もうたっぷり話はしたわ。そろそろオルバに返さないとね」


「それよりもヒラギスのことは聞いた?」


「ヒラギスがどうかしたの?」と、アンジェラ。


「魔境側の砦が落ちたってさっき連絡が来てたんだ」


「ヒラギスってどこですか?」と、サティ。


「王国の東南、帝国の東にある小国って言ってたな」


「それでヒラギスは大丈夫なの?」


「あまり大丈夫じゃないみたいだ」

 

 モルテンさんに聞いた帝国軍の動きを説明する。だがさすがに間に合わないかもとは言えなかった。


「司祭様と少し話をしてくる」


 ヒラギスにももちろん神殿はあるのだろう。アンジェラは仲間の神官が心配なのかな。


「お昼は?」


「準備はもう終わってる。間に合うように戻ってくるよ」


 そういうと部屋を出て行った。


「じゃあ私はお昼の準備を手伝ってきますね」と、サティも出て行った。


 エリザベスは相変わらず働かない。とりあえずエリザベスに陽動かもしれないって考えを披露してみた。


「これは魔王の復活ね!」


 やっぱりそっちに考えるか。


「そこまで考えるのはどうなんだ?もう何百年も魔王なんていなかったんだろ。それに今回のはたまたまタイミングが悪かっただけかもしれないし」


「こんなの魔族が裏にいるに決まってるわよ。いよいよ魔王がよみがえり再び世界は危機に陥るのよ」


 エリザベス、すごく嬉しそうだな。ちょっと不謹慎じゃなかろうか。


「魔王が復活するということはどこかに勇者も生まれてきてるはずよ。マサル、今回の件が終わったら探しに行きましょう!そして勇者とともに魔王を倒すのよ!」


 エリザベスさん。目の前のおれがたぶん勇者候補です……いや。もしかして他にも勇者が召喚とかされてたりするのかもしれないぞ。


「勇者ってどんなのだよ」


 勇者の物語の勇者は結構なイケメンだったようだ。魔法剣士だったが、おれと違いどっちかというと剣重視の戦闘スタイルだった。でも別に特に勇者っぽい印があったわけじゃない。神殿に神託が降りて勇者が捜索されみつかったという話だ。


「わかんない」


「はいはい、終了終了。魔王はいないし、勇者もいない。もっと現実を見ようぜ」


「わかってるわよ、それくらい。マサルは夢がないわね」


「だいたい、魔境に行って魔王を倒すとか俺みたいなのは序盤で死んじゃうよ。勇者に回想でいいやつだったって思われる役だよ」


 エリザベスはそれを聞くとくすっと笑った。


「そうね。勇者探しはやめておくわ。アンやサティもいることだし、あまり危険なことはできないわね」


 おれはいいのかよ。


「マサルは強いじゃない。ナーニアに勝ったんだから」




 話しているうちにサティが昼食を持ってきて、アンジェラも戻ってきた。みなで食卓を囲む。今日の料理はサティとアンジェラの手料理でプリンも久しぶりに付いている。


「から揚げもいいけど、アンの手料理も美味しいわね。久しぶりにまともな料理を食べた気分だわ」


「ありがとう。でもエリーもお嫁さんになるんだから料理の一つくらいできないとね」


「うっ。か、帰ったらやってみるわよ……」


「みっちり仕込んであげるよ」


「料理が自分でできるとから揚げとかプリンも好きなだけ自分で作れるよ」


「そうね。それはいいかもしれないわ。アン、帰ったらよろしくね」


 やはり食い意地の張った人間にはこれが一番効果がある。おれも最初は自分で食べてみたいって作り始めたから。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 それから3日間が過ぎた。暦は12月に入りずいぶんと寒くなってきた。スキルリセットはあと一週間くらいで使えるようになる予定だ。


 第一城壁の修復も無事終わり、おれは土魔法でひたすら第一城壁の前の堀を掘り返す作業をやっている。掘り返した土は運ばれて建設予定の第三城壁の基礎にするんだそうだ。


 討伐隊のほうは全くの空振り状態だった。あれほどいたモンスターがほとんどいなくなっているのだ。調査は続けられるが討伐は近日打ち切られる予定だ。サティやエリザベスのいる部隊も少数の雑魚ばかりでひたすら行軍ばかりだったそうだ。




 そして次の日。シオリイの町の冒険者達と共に俺たちは帰還の途についた。堀の拡張工事はまだ途中でずいぶんと慰留されたが断った。司教様からも再度、神殿入りの話をされた。治癒術士や土木作業員の仕事は安全でいいのだが、もっと経験値を稼がないといけない。今後そういう依頼はなるべく断ることになるだろう。


 


 行きはサティと2人だったが帰りはアンジェラとエリザベスも一緒で馬車の雰囲気は華やいでいる。他の冒険者の視線はとても痛いけど。


「ティリカちゃんは元気にしてるでしょうか」


「ちょっとは寂しがってるだろうけど元気にしてるさ。あそこは安全なんだし、何事もなく過ごしてるよ」


「そうですね。早く会いたいです」


「私達が戻って一緒に住むとしてティリカはどうするの?」


「別にいいんじゃないか。ティリカちゃん大人しいし、サティの妹にしたんだから家族ってことで」


「そうね。マサルがいいならそれでいいよ」


「でも5人だとちょっと手狭じゃないかしら。もっと大きいところに引っ越さない?」


「おれは十分だと思うけど」


「私もあれくらいでちょうどいいと思う」


「生活してみて具合が悪いようなら考えようよ」


「そうね。それでいいわ」




 帰りは何事もなく過ぎ、徒歩をまじえての隊列だったので3日後の日没近く、ようやくシオリイの町に到着した。


 しかし町に戻ってほっと一息ついた俺たちを待っていたのは、ヒラギスの首都が陥落したという知らせだった。


 


 帰還した冒険者達は町の人達に歓迎されたものの、それ以上にヒラギスの陥落は衝撃のニュースだった。長い歴史の中では魔境に侵食された国は珍しくない。とは言え、近年安定していた魔境との境界が侵されたのは、遠方の国とは言え人々の不安を煽った。


「もはやヒラギスの滅亡は回避できそうにない。帝国はヒラギスの放棄を決定し、国境線を固めた」


 帰還した冒険者達と混じっておれたちもギルドホールでその知らせを聞いていた。


 ただでさえここ10年何もなかったせいで削減された兵力の一部を北方の王国側に回しちゃったので、残った戦力では国境を防衛するくらいしかできなかった。大急ぎで兵力を集めた時には既にヒラギスの国土は蹂躙されており、一地方方面軍程度ではどうしようもなかったと。


「ゴルバス砦の情勢も落ち着いたとは言え、今後魔境方面の依頼は増えるだろう。各員協力のほどをお願いする」


 そう副ギルド長が締めて話は終わった。依頼の報酬やランクアップは明日以降になる。今日のところはティリカちゃんに会って家に帰ろう。


 冒険者の間をぬってサティと共にギルドの奥へと副ギルド長とティリカちゃんを追いかける。


「ティリカちゃん!」


 サティの呼びかけに振り向いて、ティリカちゃんがサティに駆け寄り抱きついた。


「おねーちゃん、助けて」

「あの。ティリカちゃん?」

「洗ってあげる。大丈夫、おねーちゃんに色々聞いた。任せておくといい」

「エリザベス様も2人でやったんですよ!」

それでエリザベスがちょっとふらふらしてたのか……



次回、明日公開予定

57話 ティリカの望みは


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[気になる点] 主人公が色々やらなきゃいけない理由と出来るだけの能力の獲得にそろそろ動くかな? ただの肉壁かずっと悩んでる考える人みたいな銅像に成り下がるのか、今後の展開は如何に!?
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