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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第三章

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55話 暴露

 その日はエリザベスはナーニアさんと一緒にギルド宿舎に戻っていった。2人水入らずで過ごすのだろう。おれはというと、傷は治したものの、結構な血を流したので少しふらふらしていた。


「3日は安静ね」と、アンジェラの診断が下る。


 明日は第一城壁奪還で、順調にいって修復作業は明後日くらいの予定だ。さっき聞いた話によると敵はまだまだいるものの、全体的に引き気味で第二に対する攻撃もほとんどないんだそうだ。王国軍兵士を見て諦めたんだろうとのもっぱらの噂だ。


 


 おれが部屋でゆっくりしていると、サティとアンジェラがとても甲斐甲斐しくお世話をしてくれる。治療の仕事もお役御免だし、怪我の療養という名目で何もしなくていいのはとても楽だ。アンジェラは治療の仕事で時々出て行くが、サティの仕事も第一を取り戻したあとなので数日休養だ。


 サティのレベルは18になった。スキルもいい感じに上がってきている。ステータスも順調に伸びていた。魔力以外は。


スキル 4P


頑丈 鷹の目 心眼 肉体強化Lv4 敏捷増加Lv4

料理Lv2 家事Lv2 裁縫Lv2

隠密Lv3 忍び足Lv2 聴覚探知Lv4 嗅覚探知Lv3

剣術Lv5 弓術Lv5 回避Lv4 盾Lv2




「サティ、体の調子はどう?」


 アンジェラのいない時に聞いてみた。


「いきなり体の動くスピードが上がってすごくいいです」


 敏捷をいきなり4まであげたしな。


「そろそろ魔法を覚えてみる?攻撃魔法は無理でも浄化とか着火くらいなら使えるようになれるよ」


「本当ですか!覚えたいです!」


 生活魔法に1P割り振る。これで着火、水供給、浄化魔法、ライトが使える。


「いいか。サティの魔力量は少ない。魔力を限界まで使うとぶっ倒れるから注意しろ」


「はい」


「じゃあライトを頭の上に出してみろ。使い方は浮かぶはずだ」


「はい!」


 サティはちょっと考えると手を上にあげて、魔力を集めた。おれには魔力感知があるので魔力の流れがある程度わかる。そしてライトがともった。


「でました!できましたよ、マサル様!」


「よしよし、サティはすごいな」


 サティは頭の上のライトを見上げて顔を輝かせている。


「あんまり見ると目が痛くなるぞ」


「あ、はい。でもすごいです!うちの村じゃ誰も使える人がいなかったのに」


 きっと他の獣人もサティみたいな魔力量なんだろうな。


「あまり人には見せないようにね」


「はい、これもあの……マサル様のお力なんですよね?」


「うん、そんな感じ。まあ人から聞かれたらがんばって覚えたって言っておくといい」


 ティリカちゃんは……あとで考えるか。でもサティのことならきっと黙っててくれるだろう。


「はい」


「じゃあ他のも試してみるか」


 お風呂場に移動して、水と着火と浄化を試した。そしてやっぱりぶっ倒れた。みんな通る道なんだよ、きっと。




 倒れたサティをベッドに運んで寝かせているとアンジェラが戻ってきた。


「どうしたの?」


「サティに魔法を教えてたんだけど、魔力切れで倒れたんだ」


「獣人に魔法が使えるわけがないじゃない」


 おれもそう思ってたけどレベルが上がってきて多少は魔力値とMPが増えたんだ。


「そうなの?」


「あれ?でも魔力切れで倒れたってことは……」


「あー、うん。浄化くらいならいけたかな」


「でもいつの間に練習してたの?サティはそんなこと全然言ってなかったけど」


「いまさっきかなあ……」


 アンジェラ相手に嘘をつくのもためらわれた。


「……今さっき教えてもう覚えたの?」


「そうなるかなあ」


「私も。私も何かマサルに教えてもらえる?」


「あー、うん。できるんじゃないかな」


 もうどうにでもなーれ。


「どうやって教えるの?」


 アンジェラのスキルを確認する。


 

20P

家事Lv2 料理Lv3 棍棒術Lv1

魔力感知Lv1 回復魔法Lv3 水魔法Lv2



「前言ってたよね。どんな能力を伸ばしたいかって話」


「そうだね。魔力を増やして、回復魔法を覚えたいって言ったかな」


「今すぐできるとしたらやって欲しい?」


「できるの?」


「誰にも言わない?」


「言わない」


「できる」


「……本当に?」


「うん。できるんだ。サティにもそうやって魔法を教えた」


「それなら私も教えて欲しい」


 アンジェラのメニューを操作し、回復魔法をレベル4に上げる。


「上位の回復魔法を使えるようにしたよ。もう使い方がわかるはず」


「本当だ。でもこれ……」


「次は魔力と回復量を増やしてみよう」


「う、うん」


 魔力増強とMP回復力アップをレベル2にする。これで残り2Pになった。


2P

家事Lv2 料理Lv3 棍棒術Lv1

魔力増強Lv2 MP回復力アップLv2

魔力感知Lv1 回復魔法Lv4 水魔法Lv2


「これで魔力の量が倍になった。それに合わせて回復量も上げたからゼロから満タンになる時間は一緒だよ」


「何にも変わってないような……」


「それはそうだよ。そこら辺は使ってみないと」


「ねえ。これは一体どういうことなの?」


 どうしよう。なんとなく流れでやっちゃったけど。


「あ、別に責めたりしてるわけじゃないよ。魔法を覚えたことはすごく感謝してるし。ただ、どうしてこういうことができるのかって」


「本当に、本当に誰にも言わないでね」


 どこまで話していいものか。


「わかった。誰にも言わない」


 でもアンジェラなら信じられる。忠誠の数値はちょこちょこ上がってるし、ここまでやったんだし全部ぶっちゃけたほうが楽な気がする。黙っていてくれと頼んだしきっと誰にも言わないだろう。


「神様にもらったんだ。スキルをなんでも覚えられる力を」


 アンジェラが口をぽかんと開けてこちらを見ている。うん、まあそうだよな。神様とかねーわ。もうちょいなんか考えればよかったか……だがアンジェラが口を開いた。


「マサルは……マサルは勇者様なの?」


「違う!絶対に違うよ!おれが魔王と戦えると思う?」


「強いことは強いと思うけど、そこまでとは思わない。でも神様にもらった力って」


「神様がこの力をくれた時、別に何もしなくてもいい。好きにするといいって言ったんだ。だから別に勇者じゃないよ」


「使徒……使徒なんだね、マサルは」


「使徒って?」


「司祭様が言ってたよ。神様が時々この世界に自分の使徒を送り込むんだって。勇者様みたいに魔王と戦う役目を持った使徒もいれば、ただ見守るためだけに来る使徒もいるって」


「へー。勇者は知ってたけど他にも居たんだ」


「うん。この話はあんまり知られてないみたい。神殿のみで伝わっている話だよ。私も最近まで知らなかった」


「でも本当に誰にも言わないでね。貸した勇者の物語は読んだだろ?」


「うん。もしこのことがバレたらああいうことになるんだろうね」


「なりそうだろ」


「でもどうしよう……司祭様が」


「司祭様がどうしたの?」


「マサルが使徒かもしれないって」


「ええええええ!?」


「どうしよう。司祭様ってすごく勘がするどいの。それに使徒って疑ってるから、もし何か聞かれたら黙ってても絶対に勘付かれるよ」


 アンジェラの顔が目に見えて青ざめていく。


「それに司祭様にマサルが使徒かもしれないから様子を見ておくようにって頼まれてるんだよ。それを口実にマサルの家に入り浸っても全然怒られないから、都合がいいくらいに思ってたんだ。本当に使徒だなんて思わないよ……」


 アンジェラが泣きそうな顔をしている。


「もしばれたらすごくまずいよね……どうしよう。このまま一緒に逃げる?神殿に使徒なんてばれたら大変なことになるよ……」


 アンジェラの慌てようを見ておれはかえって落ち着いた。逃げたら余計に怪しいだろう。


「様子を見ておくようにって言われたのはいつ頃から?」


「マサルが司祭様に相談した何日かあとくらいだった」


 ということはアンジェラとお付き合いし始めたあとだな。あれか!司祭様に色々話を聞きに行った時の。魔王とか世界の破滅とか色々聞いたのがまずかったのか。やばいぞ、どうしよう。


「司祭様はなんて言ってた?」


「使徒かもしれないけど可能性は低いって。でも一応見ておけって。あとは使徒なのを隠してるなら何か理由があるはずだから見守るだけにしろって。だけど本当に使徒だったら、影となり日向となり全力で支援をしなければならないって」


「全力で……」


「マサルは勇者様みたいに異世界から来たの?」


「え?でも勇者が異世界の人ってどこにも書いてなかったよね?」


「うん。これは神殿に伝わっている話なんだ」


 そうか。勇者も異世界から召喚、いや連れて来られたのか。


「おれもこことは違う世界から来たんだよ」


「勇者じゃないんだよね?じゃあどうしてこの世界に来たの?」


「仕事を探してたんだ。そしたら給料の良さそうなのを見つけてね。契約書にサインをしたら、この世界に連れて来られて、おれの持ってるこの能力を神様に与えられてテストをしてくれって」


「マサルの能力って?人に能力を与える力?」


「それもあるけど、自分の能力も戦闘した分だけ上げられるんだ」


「それであの魔法の習得速度……」


「アンジェラも戦闘をして経験を積めばもっと色々覚えられるよ」


「本当に?今覚えたこの魔法だけでもすごいのに」


「サティもそうだよ」


「そうか。サティもそうなんだね。サティはこのことは?」


「能力を上げられるのは知ってるけど神様とか異世界のことは教えてない」


「そう。このことを知ってるのは私だけなんだね」


「やっぱり司祭様には黙っておけない?」


「だって司祭様なんだよ。司祭様に嘘なんてつけないし、他のことなら黙ってても無理に聞くような人じゃないけど、こんな大事な話隠し通せないし、黙っててもきっとばれる……」


 気持ちはわかる。あの人に嘘とかすごい心が痛む。


「ちゃんと話して黙っててもらえないかな?」


「わからない。黙っててくれそうな気もするけど、こんなこと上に報告せずに済ませられるかどうか……」


「じゃあアンジェラがなんとか誤魔化せない?」


「ほんとにごめんね。たぶん無理だよ。司祭様に隠し事とか誤魔化しきれたことがないんだよ。やっぱりどこかに逃げたほうが……」


「いや、逃げたら余計に怪しいだろ」


「そ、そうだよね」


 しかし困ったぞ。まさか使徒って疑われてるとは思わなかった。それさえなければ黙っていれば済む話だったのに。


「もし何か理由があって隠してるなら見守るだけでいいって言ってたんだよね」


「うん」


「おれは本当に勇者じゃないんだ。この能力を使って色々調べてくれって言われただけだから、騒ぎになるのはとても困る。そう言えば黙っててくれるんじゃないか?」


「そう。そうだね。いいかもしれない」


 ようやくアンジェラも落ち着きを取り戻してきたようだ。


「その方向で行こう。これは本当のことだし。逃避行とか無理だよ」


「うん、わかった。サティやエリザベスにこのことは?」


「サティはそのうち考えよう。ティリカちゃんがいるからあんまり話すとそっちにばれるかもしれない。エリザベスはどうしようか。こんなの隠してるってばれたらすごく怒らないかな?」


「怒るね。なんで私だけ話してくれなかったの!って」


 うっわー。いますごく想像できた。


「エリザベスには折を見ておれから話すってことで……」


「うん。そうしたほうがいい。それで?マサルにはどんな能力があるの?」


「そうだね。まずは――」


 スキルの取得方法からレベルアップによるポイントの取得、おれの今持ってるスキル、サティの持っているスキルまで順番に説明していく。


「呆れた。レベル5って。よくそんなのでばれなかったね」


「サティは天才ってことで大丈夫だったよ」


「うーん。まあ普通はそうなのかなあ」


「普通はそうなんだよ。司祭様、よく気がついたね」


「鋭いんだよ。昔から隠し事ができた試しがないよ」


 鋭すぎるよ。どこに使徒だって思う要素があったんだろう。


「そうだね。まずは魔法の習得速度。それに変わった料理の知識に、こちらの常識をあんまり知らないことかな」


「もっと注意しないとなあ。エリザベスも魔法の習得速度は突っ込んできたし」


「なんて誤魔化したの?」


「あの指輪だよ。あれ神様からもらったすごい指輪でね」


 指輪の説明をする。


「なるほど。それであんなにニヤニヤしてたんだね。いいなあ」


「アンジェラの上げた能力、指輪と同じじゃないか。しかももっと上げられるんだよ」


「それもそうだね。でもエリザベスの能力は上げないの?」


「まだ上げられないんだ。人の能力を上げるにはもっと仲良くならないといけないんだ」


「仲良くって……つまり……」


「うん。そういうことなのかな」


「じゃあしばらくは黙っていたほうがいいんだね。それとも明日あたりやっとく?」


「いやいやいや。しばらくは黙っておこうよ」


「そう?エリーと話したけどすごく興味津々だったよ」


「あの。女の子同士ってそういう話ってよくするんですかね……」


「普通はあんまり詳しくはしないよ。でもほら。私達はマサルを共有することになるから。ね?」


 よかった。外部でまで話が及んでるわけじゃないんだ。


「そんな恥ずかしいこと他の人に話せないよ。それよりも。ちょっと考えたんだけど」


「うん?」


「私もパーティーに入れないかな?エリザベスが入るって決めた時から考えてたんだけどね」


「神殿は大丈夫なの?」


「司祭様に話せば大丈夫だと思う。それに前にも言ったと思うけど、2人ほど見習いがいるんだよ。その子達にがんばってもらえれば私の抜けた穴は埋まると思う」


 戦力が増えるのは有難いな。でもなんかバランス悪いような。魔法戦士に魔法使い、弓術士に僧侶か。一応おれとサティは前衛だけど、盾役はできないしなあ。アンジェラも水魔法は使えるからレベルを上げて敵に近づかれる前に殲滅すればいいのか。遠距離オンリーの超火力パーティーか。いいかもしれない。


「わかった。歓迎するよ」


「ありがとう。じゃあこのことは町に帰ってからだね。あと本当にごめんね。がんばって誤魔化してみるけど、もしばれたら精一杯司祭様を説得するから」


「ああ、別にいいんだよ。きっとなんとかなるよ」


 それからしばらく日本からこっちに来てアンジェラに会うまでの話やパーティーのことや、これからの育成計画なんかについて色々と話した。




 でも世界の破滅に関しては言えなかった。この件はおれが使徒だったなんてことが吹き飛ぶくらいの情報だ。もしばれたら黙っていたことをアンジェラは怒るだろうか?エリザベスはきっと怒るだろうな。でも言えるわけがない。あなたの住む世界は20年以内に破滅しますよ、なんて。それとも話しておいたほうがよかったのだろうか。アンジェラもエリザベスもおれより頭がいい。何かおれが思いつかないようなことを考えてくれるかもしれない。でもこのことは保留にしよう。まだ20年。20年あるんだ……


 だがあとから思うと、この考えは少々甘いものだったと言わざるを得なかった。世界の破滅までは20年。だがしかし、その序章は既に始まっていたのだった。

「これは魔王の復活ね!」

エリザベス、すごく嬉しそうだな。

「魔王が復活するということはどこかに勇者も生まれてきてるはずよ。マサル、今回の件が終わったら探しに行きましょう!そして勇者とともに魔王を倒すのよ!」



次回、明日公開予定

56話 破滅への序章


誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

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[一言] マサルの事情を考えるとエリザベスの行動は大分厄物じゃないかな。
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