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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第三章

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49話 禁呪

 翌日。また早朝にサティが連れて行かれる。朝食はどうするのかと思ったらギルドのほうから炊き出しが朝昼晩と用意されてるらしい。もちろん肉料理である。


 エリザベスもサティと一緒に起きて出て行った。ナーニアさんを見に行ってからサティと軍曹どのに合流するんだそうだ。おれも行きたい。


 治療院を見に行くと、待合室は人がいっぱいでホールのほうまで人が溢れていた。神官の人に手伝いを申し出る。


「昨日一日休ませてもらったおかげで、魔力はほぼ回復してますから」


 今は普段着で仮面もしてないが普通の治療だしまあいいだろう。昨日の攻勢以来、敵の攻撃は散発的で怪我人も少ないんだそうだ。このまま何事も無ければいいんだが。


 待合室の患者を半分くらいに減らしたところで、ダニーロ殿がやってきて朝食へと向かう。


「魔力はエリアヒール2回分くらい溜まってますよ。さっきの治療も軽傷者ばかりだったのでほとんど減ってません」


 本当は3回くらいはいけそうだが少なめに言っておく。


「さすがはマサル殿ですな。夜番のものがずいぶん助かったと申しておりましたよ」


「朝食後も治療に回りましょう」


「そうですね。それもいいかもしれません」




 またおっさん2人と朝食だ。だけどこの司教様、結構お話が面白い。神殿の話をいくつかしてもらって朝食中は退屈しなかった。そして食後気になっていたことを尋ねる。


「さらに上位の魔法ですか。そうですね。それは奇跡の光と呼ばれております。神殿全体でも使えるのは数人でしてな。周囲の人のあらゆる傷を癒し、また自分の魔力を相手に分け与える魔法です」


 エリアヒールの全回復プラス魔力の譲渡か。結構使えそうだな。


「あの。その魔法で例えば足を失った人を治したりは……」


 司教様が急に厳しい顔つきになる。


「いけません。いけませんぞ、マサル殿。それは禁呪です」


 禁呪?足を治すのが?


「ダニーロも聞いておきなさい。そして今から言うことは他言は無用に。マサル殿もいいですね?」


「はい」


「失った手足を癒す。通常の回復魔法では治らない怪我や病気を癒すこと。それには代償が必要なのです」


「代償ですか」


「かつてとても優秀な神官がおりました。彼もそういった手足を失った人たちを癒せないかと考え、新しい回復魔法を考案したのです」


「それが禁呪だと?」


「そうです。ですがそれには代償が必要だったのです。その呪文は術者の命を削ったのですよ。件の神官はわずか一ヶ月で命を落としました。それ以来その呪文は禁呪に指定され、語ることすら禁じられたのです」


 オルバさんの足を治すことはできる。ただし、命を削って。


「いけませんぞ、マサル殿。絶対にダメです。この話は普通の治癒術士にはしません。単にできないと言えば済む話なのです。ですがマサル殿ほどの術士ならその呪文を再発見するかもしれません。だからこそこうやってきちんとお話をしているのです。その呪文は禁呪なのです。神殿の名においてそのことは試そうとしてはいけません。考えてもいけません」


 これは聞かなかったことにしておこう。禁呪に指定されたわけがわかる。自分の命か、治療か。これは重い問題だ。とてもじゃないがおれの手にはおえない。


 治療をできると知ってナーニアさんやオルバさんがそれを我慢出来るだろうか。たとえ命を削るのだとしても。一人だけなら死ぬこともないだろう。きっと削る命もほんの少しだ。だが、他の人は?オルバさんだけ治すのか?きっと要求はとどまらないだろう。使える以上必ず使ってしまう。使わされてしまう。これはまさに禁呪と呼ぶにふさわしい呪文だ……


「聞かなかったことにしておきます」


「それがいいでしょう。マサル殿はとても優秀だ。ですが神ならぬ人の身ではどこかに限界があるのです。それを踏み越えてはなりません。一時の感情に流されて命を失えば、マサル殿が将来救うはずの命まで危うくすることになるのです」


「わかりました」


 頭ではわかっていても心が納得していない。いま食べた朝食を吐き戻しそうだ。オルバさんの足を治せるのに知らないふりをするのか?いや、そんな呪文は知らないんだ。だがそれはやろうとしないだけじゃないのか?それは禁呪だ。司教様もだめだと言った。だがおまえは日本人だろう?そんなルールは無視してしまえばいい。だが命を削ってまでやるのか?泣いているナーニアさんを見ただろう?少しの命を削るくらいなんでもないではないか。だが、だが、だが……


「あまり思い悩んではいけません。いいですね?今の話は忘れるのです。考えてもいけません。これは神殿の公式見解なのです。全ての神官、治癒術士が守るべき掟なのです。マサル殿も例外ではありません」


「はい、司教様」


「例えお身内に不幸があったとしても、決してこの話は思い出してはいけません。もしこの話が広まればどうなりますか?命を削ると分かっていても治癒術士に治療を要求する人が沢山でてくるでしょう。これはマサル殿一人の問題ではないのです」


「はい、司教様」


 ほんとうにここは、なんてクソッタレな世界なんだろう。




 食後は仮面をかぶり治療にあたった。こうやって働いているほうが気が紛れる。ダニーロ殿と2人で交代で治療するので魔力の消費はそれほどでもない。


 しばらくするとばたばたと怪我人が運び込まれてきた。また大規模攻勢だ。サティやエリザベスが混じってるんじゃないかと気が気じゃない。ホールに患者を集めてエリアヒールをかける。


 敵の攻勢は昨日に比べればまだましだったらしい。モンスター側も消耗しているんだろう。だがこちらもそれ以上だ。怪我から復帰して安静が必要な人も駆り出されていると聞く。次の攻勢は耐えられるかもしれない。だが、その次は?またその次は?王国軍主力部隊の到着は4日後。それまで毎日こんな光景を目にしなければならないんだろうか。




 昼前くらいにシオリイの町からの増援第二陣が到着した。周辺領主からの援軍も徐々に集まってきている。だがそれほど多くはない。どうやら他の魔境との国境でもモンスターの動きが活発化しているらしい。そちらの防衛もおろそかにはできない。


 エリアヒールを終えて部屋で休んでいるとアンジェラがやってきた。司祭様はすぐに治療のほうに回った。アンジェラは道中に少し魔力を消耗したので先におれのところに来たのだそうだ。


「ずいぶんいい部屋をもらってるんだね」


「それがその……」


 シオリイの町での仮面をつけた治療のことがばれた経緯を話す。ちなみにエリザベスの無事は一番最初に伝えてある。


「ごめんね。噂になってるって教えとくべきだったかも。でもそこまで話が広がってるなんて思わなくて」


「うん、別にいいんだ。こっちの人たちも秘密にしてくれるって約束してくれたし」


 でももうなんだか、そんなことはどうでもいい気分だ。


「ちょっと大丈夫?顔色悪いけど」


「うん。治しても治しても怪我人が来るものだから。気が滅入っちゃって」


 禁呪のこと、アンジェラは知らないんだろうな。


 それを聞くとアンジェラはおれをぎゅっと抱きしめてくれた。うん。やっぱりアンジェラの抱き心地はすごくいい。この胸に包まれている感じが。さっきまで悩んでいたのが嘘のように気分が落ち着いてきた。


「そうだね。でもみんな多かれ少なかれそう感じてるんだ。マサルももうちょっと強くならないとね」


「うん。アンジェラが側にいてくれたら元気がでるよ。ここで治療してるとサティもエリザベスもいないから余計に寂しくなるんだよ」


 日本で引き篭もっていた頃はぼっちでも全然平気だったのにな。でもあの時は暇になるとネットしてたからなあ。


「そうだ。泊まるとこは決まってるの?」


「まだ」


「この部屋広いからここに滞在しなよ。ベッドも余ってるし、エリザベスも泊まりに来てるし」


「またあの子は……」


「ほら、オルバさんとナーニアさん。あの2人の邪魔しないようにだって。それにここはお風呂があるから」


「お風呂はいいわね。ここに来るまで浄化も使ってないから汗臭くなっちゃったよ」


「そう?別にいい匂いだけど」


 アンジェラに顔を近づけてくんかくんかする。うん、確かにちょっと汗の匂いがするけど、これはこれでいい匂いだ。そして頭をはたかれた。


「お風呂使わせてね。残り湯でいいよ。体を拭ければいいから」




 アンジェラが体を拭いて出てくるとちょうどエリザベスが戻ってきた。


「エリザベス!」


 アンジェラが駆け寄りエリザベスを抱きしめる。


「ちょ、な、なによ!」


「心配したのよ」


「そ、そう……」


「マサルに話は聞いてたけど、ちゃんと無事な顔を見れてよかったわ」


 そう言ってエリザベスを解放する。


「当たり前よ!オークの集団ごときじゃわたしを倒すには力不足よ!」


 それに、と続ける。


「あそこで死んだりしたらプリンとから揚げがアイテムボックスから一気に放出されて、プリンとから揚げまみれの死に様なんて末代までの恥よ、恥」


「あはははは。そりゃ確かに笑えない死に様だわ」


 確かに酷い有様だろう。エリザベスが倒れた瞬間放出される大量のプリンとから揚げ。シュールだ。


「まあ私が死ぬはずなんて万に一つもないんだけどね」


「そうね。エリザベスは結構しぶとそうだ」


「しぶといってなんか嫌な言い方ね」


「あら。褒めてるのよ」


「そう?まあいいわ」


「それで?今日は戻るの早かったね」


「ええ。今日はナーニアが出てきててね。魔力が切れたから戻って休めって」


「へえ。ナーニアさん復活したんだ?」


「昨日一日オルバが慰めてたから」


「それで話は進展したの?」


「保留よ、保留。暁の解散も含めてね。とりあえずここを乗り切ってから改めて話をしようってことになったのよ」


「オルバさんあの怪我なのに避難とかしないの?」


「いざって時は戦うって、ルヴェンと2人で木の義足を作ってるわ」


「怪我人駆り出すほど危ないの?」


 そこからエリザベスと2人でここ数日の状況を話す。


「……思ってたより危ないのね」




 ダニーロ殿がやってきたので3人分の昼食の準備を頼んだ。アンジェラを回復魔法の師匠と紹介をするとダニーロ殿は感銘を受けたようだ。おれの師匠だからさぞかしすごいんだろうとか、そんなことを考えているんだろうな。


 そのあとは3人で昼を食べた。アンジェラは肉たっぷりの料理に喜んでたけど、これがこれから毎食続くんだよ。おれはまだそんなに気にならないけど。




 午後からはアンジェラと司祭様と一緒に普通の格好で治療にかかった。エリザベスはお昼寝だ。だけど仕事はちょっと暇だった。司教様がエリアヒールで一気に患者を治したのだ。そしてやっぱりぶっ倒れた。あまり限界まで魔力を使うと寿命が縮むって言うけど大丈夫なんだろうか。

 

 そして今日は運ばれてくる怪我人が昨日よりは少ない。ここ2日ほどと同じく、朝の攻勢で終わりなんだろうか。そうだといいんだが。


 午後半ば。司祭様とアンジェラの魔力が切れたので部屋に引き上げた。司祭様は騎士団の宿舎に泊まるそうだ。部屋に戻るとエリザベスはまだ寝ていたのでアンジェラに道中の話を聞いた。アンジェラは馬車だったそうだが、大半は徒歩でかなりな強行軍ではあったが、それでも3日近くかかった。それに加えてモンスターの襲撃もあったそうである。おそらく砦周辺の掃討をしたので散り散りになったモンスター達だろう。


 そして多少の怪我人が出たのだが、その冒険者どもはアンジェラにばかり治療を依頼したそうである。うん、死ねばよかったのに、そいつら。




「エリアヒールって。もうそんなに回復魔法上達したの?すごいじゃない」


 どうやったらそんなに早く上達できるのか。それはスキルをポイントで取得するからですよ。でもここは一つさっき立てた仮説を話してみるか。


「思うに、戦闘経験じゃないだろうか」


「戦闘経験?」


「戦うことにより経験を積み、魔法の習得が加速されるんだ。治癒術士が一定のレベルで頭打ちになってしまうのは、そういった経験を積まないからだと仮説を立ててみたんだ」


「うーん。確かに司祭様も最初はほとんど使えなかったけど、引退する頃には中級クラスの治癒術士になったって言ってた」


 でも、とアンジェラは続ける。


「それが本当だとしても、治癒術士は貴重なんだ。私が冒険者になりたいと言っても、許してもらえるかどうか」


 冒険者は死亡率が高い。例え仮説が立証されたとしても、命をかける治癒術士はどれだけいるだろうか?他の人にはステータスが見えないから証明しようもないし。


「アンジェラも冒険者にはなりたくない?」


「そうだね。考えたこともなかったけど、マサルの話を聞いているとちょっと楽しそうだ」


「でも危ないよ」


「ここに居たって危ないだろう?それにマサルに務まるんだし何とかなるよ」


「じゃあ経験を積んで能力が伸びるとしたらどんなのがいい?今ある魔法を伸ばす?何か新しいのを覚える?」


「そうだね。やっぱり回復魔法をもっと使えるようになりたいね。あとは魔力がもっと欲しい」


 話をしながらアンジェラのメニューを開く。




20P


家事Lv2 料理Lv3 棍棒術Lv1

魔力感知Lv1 回復魔法Lv3 水魔法Lv2




 上げるとすれば回復魔法に4P、魔力増強かMP回復力アップ、MP消費量減少あたりか。MP消費量減少を4まで取ると14Pで残り2Pか。魔力増強とMP回復力アップはセットで取らないと効率が悪いからこっちのほうがいいかもな。ふと疑問に思って尋ねてみる。


「浄化魔法は使えるよね?レヴィテーションとか火をつけたり明かりを出したりは?」


「浄化と火は出せるよ。でも他は使えない。あまり必要ないからね」


 ふーむ。ここらへんどういう扱いになってるんだろうな。思えば家事とか剣術とかもすごくざっくりした分類だし、ちょっとスキルシステムに穴がありすぎじゃないだろうか。これは日誌に書いておかねば。


「それがどうしたの?」


「うん。レヴィテーションくらい覚えておけば何かあったとき逃げたりするの便利だよ」


「でもなかなか練習する余裕がなくてね。普段は治療して余った魔力で氷作って。でもいま仕込んでる子が2人いてね。その子達が使えるようになれば楽になるんだけどね」


 回復魔法の方を上げるのはだめだな。いまの魔力でエリアヒールなんかすれば確実にぶっ倒れる。それに魔法のレベルを上げたら、そのレベルで使える魔法の知識も一緒に覚えるんだ。


 MP消費量減少くらいならばれないだろうか?いや、だめか。いきなり使える魔力の量が倍近くになったら不審に思うだろうな。それをおれとは結びつけたりはしないだろうけど。いや、するか?さっきあんな質問しちゃったものな。せっかくポイントあるのにもったいない。どうにかばれずにスキルに振る方法がないものか。


 さっきの話はしなきゃよかった。何も言わずにポイント振っておけば、不審に思っても何かの拍子にコツでも覚えたとでもなんとでも誤魔化せたんじゃないか。


「そういえば。サティも弓の腕とかすごいんだってね?買った時は目が悪くて戦闘なんかしたこともなかったんだろう?」


「獣人だしね。教官は100年に一人の天才だってベタ褒めだよ」


「ふーん」


 それでアンジェラは納得してくれたみたいだ。でもなんだ、今の質問。思わずばれたのかと思ったじゃないか……

「マサル、エリザベス!起きなさい。敵襲だよ!」

砦内部に敵が侵入!?

「まさか城壁が落ちたのか?」


次回、明日公開予定

50話 夜襲


誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

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