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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第三章

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48話 サティ育成計画その2

 ダニーロ殿がお昼の準備ができたと呼びに来たので金剛隊の面々と別れを告げる。お酒を飲んでいたことについては特に問題もなかったようだ。


「お酒は魔力の回復を助けるともいいますからね。過ぎなければ大丈夫ですよ」


 きっと飲兵衛(のんべえ)の言い訳だな。酒が飲める理由ならいくらでも考える。実際にお酒でリラックスできて魔力回復が早まるかもとか言われているがわかったもんじゃない。


 お昼は一人で自室で食べたいといい、準備してもらった。お酒とつまみでお腹は減ってなかったので、一応断ったんだがすでに作ってあると言われたので、部屋で一人になってから全部別の容器に移してアイテムに収納しておいた。あとでサティに食べさせてやろう。




 その後はすることもないので部屋でごろごろする。本を読む気分にもなれない。魔力増強とMP回復力アップは両方3レベルで合わせてあるから、MPが増えた分も回復量も増えて、結局のところゼロから完全回復には24時間近くかかるのは一緒だ。お茶での回復ブーストは微々たるもの。色々やっても2時間で1割程度が限度だ。次は消費MPが減るスキルを取ってみようか。いや、先に回復魔法だった。5にするのに20P取っておかないと。


 サティのほうが問題だな。やり直しは効かないし、どうしたものか。まず剣を上げるだろ。あとは肉体強化あげて、次は敏捷か器用さか?どんなスーパーソルジャーになるんだこれ……あとは回避とか心眼、暗視ってところか。隠密や忍び足、探知なんかもあげたいな。魔法は……無理か。レベルあがっても全然MPが伸びないんだよ。その分他が伸びてるから仕方ないのか。


 どれから上げていいものか悩む。いっそ本人に話して決めさせるか。うん、それもありだな。どうせ半分ばれてるし、サティなら絶対に喋らないだろう。サティに会いたい。でも用もないのに見に行ったら軍曹どの怒るだろうな。




 部屋でごろごろしていると来客があった。金剛隊のテシアン隊長だ。ひとしきり挨拶をかわし、ハーピーの時の礼を改めて言う。答えは騎士団の人たちと同じようなものだった。神の思し召し。仕事だから。プロって感じでいいな、この人達。


「いい部屋ですな」


「ええ、おれみたいなのはもったいないですよ」


「謙遜をなさるな。高ランクの魔法使いともなればこの程度の待遇は当たり前ですぞ。慣れることですな」


「そういうものですか」


「ところで」と、ちらっとベッドを見る。


「その神官服は?神殿に入る気になりましたかな?」


「ええと。ここで治療するのに神官服のほうがいいかと思って借りたんです」


「ほう。じゃあそこの仮面も?」


「あまり目立ちたくなかったもので顔を隠そうかと……」


 ああ、かーちゃんが服を脱いだらそのままにしてはいけないって言ってたの守っていれば……ごめんよ、かーちゃん。だめな息子で。


「そういえば。仮面を被った旅の神官の話を聞いたことがありますな。たしかそれもシオリイの町だったとか」


「……」


「ロベルト司祭は知らないとおっしゃってましたが、マサル殿は何かご存知で?」


 テシアン隊長、わかってて言ってるだろう……


「あの、このことは黙っててくださいね」と、前置きをして司教様にした話を繰り返す。


「なるほど、司教様が下にも置かない扱いをするはずですな」


「ええ、でも正直困ってるんですよ。おれ普通の冒険者なのに」


「まあ話というのは尾ひれがつくもので仕方がないものです。それにここでの仕事はそれに見合うものだと思いますよ、マサル殿」


「おれ元々は火メイジなんですけどね。防衛にまわしてくれって言ったら断られました。弓も扱えますから魔力切れの間だけでもって頼んだんですが」


「それは仕方がないことですよ。司教様より腕がいいとなると、失う危険を冒すわけにはいきませんからな。もし砦が危険となったら、司教様と並んで最優先で我々が保護しますのでそのおつもりで」


 これはなんかまずい流れじゃないか?このまま戦闘に出られなくなったりしたら経験値が一切稼げなくなるぞ。そう考えて気がついた。もしかして高レベルの治癒術士の不足ってそれが原因なんじゃないだろうか。


 ある程度治癒術士としての腕があがると保護されて戦いに出なくなり経験値を稼がなくなる。レベルも上がらず魔力もあがらないから、それ以上回復魔法のレベルがあがらない。修練によって回復魔法の腕があがっても司教様のように魔力不足で倒れてしまう。


 治癒術士として経験値を稼ぐのが難しいというのもある。戦闘に参加しないと回復だけでは全く経験値が入らないのだ。これはサティと一緒に試して確認してある。止めはさす必要はない。それはドラゴンの時でわかっている。だが純粋な治癒術士となるとただ攻撃を加えるだけでも難易度は高くなるだろう。


 でもだからと言ってどうしようもないのか。回復魔法の使い手に攻撃魔法も覚えさせ、戦闘に参加させる?貴重な治癒術士を危険に晒すわけにもいかない。だが経験値を稼がないと高レベルのヒーラーは生まれない。


「治癒術士で戦うのってやっぱり珍しいですか?」


「そうですな。神殿では神官には護身用の戦闘術は教えますが、実戦ともなるとね。治癒術士が半端な攻撃魔法を覚えた所で、攻撃を考えるなら前衛を五人か十人ばかり揃えたほうが早いし強い。それよりも傷ついた前衛を治す魔力を温存してもらうほうが効率がいいのですよ」


 なるほど。たしかにおれが一人いるよりサティみたいなのが二人いたほうがずっと役に立ちそうだ。しかしレベル4でも保護対象。もしレベル5の回復魔法が使えるとなるとどうなるだろう。


「ともかく。おれのことはご内密にお願いします」


「冒険者なのに名声を求めないとは珍しいですな」


「ええ、少しのお金と家。それに家族がいれば十分じゃないですか」


「マサル殿は冒険者というより神殿向きの考えをなさるようだ。これはますます神殿に入ることを考慮して欲しいところですな」


 神殿入りはなんだか危険なルートな気がする。距離を置いたほうがいいな。


「当分は冒険者のままでいようと思います。自由なのが好きなんですよ」

 



 テシアン隊長が出て行って、ごろごろしてるうちに寝ていたらしい。今日は早起きで寝不足だったからそのせいだろう。ダニーロ殿に起こされた。


「夕食の準備をそろそろしようと思いますがいかがしますかな?」


「あー、食材とかも持ってきてますし自分でやりますよ。こんないい待遇なんだか悪いですよ」


「だめですよ!司教様にはしっかりお世話をするように申しつかっております。それにマサル殿はここで一番の治癒術の使い手。余計なことに労力を使うことはありません」


 やっぱりだめか。サティと2人で自炊してるほうが気楽でいいんだけどな。


「えーと。じゃあ仲間がまだ城壁の防衛で出ているので帰ってきてからお願いできますか?」


 サティとエリザベスは大丈夫かな……ダニーロ殿は今のところ怪我人も少ないって言ってたけど。


「それと司教様がまたお食事を一緒にどうかとのことですが」


「ええと。夕食はサティと取りたいので。また朝食でどうですか?」


「わかりました。お伝えしましょう」




 しばらくするとサティが帰ってきた。エリザベスも連れて。軍曹どのとタークスさんは2人を神殿まで送ってギルドの宿舎に戻っていったらしい。


「あら。広くていい部屋じゃない。ここにサティと2人?じゃあ私も泊まっていってもいいかしら?」


 ナーニアさんとオルバさんを2人きりにしたいらしい。エリザベスなら泊まるのは大歓迎だし、おれもあの2人にはうまくいって欲しい。


「別にいいよ。ベッドも2個あるしね」


「じゃあ戻ってこっちに泊まるって言ってくるわ」


 そういって出て行った。


 おれも部屋をでてダニーロ殿を見つけ、話をする。


「マサル殿の師匠殿ですか。もちろん構いませんよ。よろしければもう一部屋ご用意しましょうか?」


「いえ、一緒の部屋でも。師匠は宿舎があるんですが、今日は久しぶり会ったのでゆっくり話をしようと」


「そうですか。ならベッドをもう1つ運び込みましょう」


「ありがとうございます。あと悪いんですが食事も3人分でお願いします」


「食事は大丈夫ですよ。なにせ肉だけなら腐るほどありますからな!」


 ああ。それもそうだ。まさに肉なら腐るほど向こうからやってくるものな。肉料理が多いのはそういうことだったのか。


 城壁に行った時、巨大なドラゴンの死体を見なかったのもすでに回収済みだったからだそうだ。凍らせて保存しておいて戦後に売り、砦の補修費などに当てる。転んでもただでは起きないな。


 すぐに部屋にベッドが運び込まれ、食事の準備がされた。




 料理が用意されて、サティと2人でエリザベスを少し待った。サティはちょっと食い意地が張っているが待てはちゃんとできる。きっと食事を前にしても、おれが待てと命令すれば餓死寸前まで我慢するんじゃないだろうか。頂きますを言うまで絶対に手をつけないし、料理の時も味見以外はつまみ食いもしない。実にいい子である。


 先に食べようかどうしようかと迷っているとエリザベスが戻ってきた。


「また肉料理なのね……」

 

 もちろんパンやスープは付いているがメインは肉、肉、肉。野菜は申し訳程度だ。魔境に行って以来、開拓村でも肉料理ばっかりだったらしい。まあ現地調達してたらそうなるよな。でもあんた、から揚げはぱくぱく食べてただろう。


「から揚げは別なのよ!」


 そうですか。


「それでナーニアさんはどうなの?」


 食事をしながら話をする。


「そうね。マサルが傷を治してくれたから、オルバも動き回れるようになってナーニアを慰めてね。だいぶ元気にはなったわ。でも……」


 プロポーズに関しては承諾してないと。


「なんで?相思相愛なんだろ?」


「わたしがいるからよ。ほんとに馬鹿よ。好きな男よりわたしを取ろうだなんて。昔のことにこだわるのはわたし一人でいいのに……」


 昔のことを聞いていいものかと思っていると、エリザベスのほうが話を打ち切った。


「しめっぽい話はもういいわ。食事を続けましょう。オルバが説得中だし、きっとそのうち折れるわよ。それよりも、サティ。あとで背中を流してちょうだい」


「はい、エリザベス様」


「ギルドの宿舎ってお風呂もないのよ!おかげでここ何日か体を拭くだけでとっても気持ち悪いわ。お風呂屋も逃げちゃって営業してないし」


 浄化の魔力すら節約しているらしい。中々に苦労してるんだな。ちょっとほろりとした。




 食後、お風呂の準備をする。神殿の人にはお風呂はいらないと言ってある。この部屋には火を起こす場所がない。もちろん給湯設備なんて便利なものはない。ではどうするかというと人海戦術でお湯を運んでくるんだ。それはさすがに悪いと断った。


 井戸へ行き、水瓶にいっぱいの水を汲む。それを昨日の浄化済みの残り湯に投入。火魔法で沸かし直す。少し魔力は使ってしまったが、明日の朝にはあふれる予定なので大丈夫だろう。


「エリザベスお風呂沸いたよ―」


 返事がないな。見るとベッドでぐーすか寝ていやがる。いや仕方ないのか。魔力を限界まで使っているからな。


「おい、エリザベス。お風呂は入らないのか?」と、揺すって聞いてやる。


「ん……はいる……サティ手伝って……」


 そういうとその場で脱ぎ始めた。黒ローブをもそもそ脱いでさらに脱ごうと。


「サティ、エリザベスを連れて行ってくれ!」


「はい、マサル様」


 このまま見学していたかったが、あとでばれたら恐ろしい。エリザベスのパンチはぽかぽかという効果音がぴったりというくらいな威力しかないが、エアハンマーの痛みはまだ覚えてる。


 5分ほどでエリザベスが出てきた。全裸で。


「エリザベス様、まだです!」


 こちらも裸で出てきたサティを振りきって、スタスタと歩いて布団に潜り込んだ。そんなに眠かったのか。サティと目が会う。


「ちゃんと洗えた?」


「はい。でも洗い終わったとたんに出て行かれて。なんとか拭くところまではできたんですが。眠いって言われてそのまま……」


「布団をめくってサティの服を着せてやってくれ」


「はい、マサル様」


 見てるわけにもいかないのでとりあえずお風呂に入る。脱衣所にはサティとエリザベスの服が脱ぎ散らかしてある。いつものサティならこんなことはしないんだが、エリザベスが手がかかったんだろうな。


 やっぱり胸はちっちゃかったな。サティよりはあったけど。あとはよく見れなかったのは残念だ。そのうち見せてくれるかな。ファーストキスをもらえたんだし期待してもいいんではなかろうか。




 湯船につかっているとサティが入ってきた。


「ご苦労サティ」


「はい」


 いつも通り洗いっこをして、その後サティを抱っこして湯船にまたつかる。するとサティがこんなことを言い出した。


「あの。昨日から急に力が強くなった気がするんですけど……」


 なりましたね。肉体強化を3にあげちゃいました。まあ気がつくよね。


 しかしどうなんだろう。人道的に。本人の同意もなく勝手に強化して戦わすとか、どっかの悪の秘密組織みたいだ。


「サティはおれが怖くない?その、勝手に力をあげたり弓を使えるようにしたりして」


「全然怖くないです!」


「よかった。ちょっと心配してたんだ。そのせいで軍曹どのに連れて行かれて防衛につくことになっただろ」


「戦うのは怖いですけど、そんなに怖くありません。軍曹どのやエリザベス様もついててくれますから。それよりも昔みたいに役立たずって言われてた時のほうがずっとずっと辛かったです。今は沢山の人にいっぱい褒めてもらえますし、それは全部マサル様のおかげなんです」


「そうか。じゃあもっと褒めてもらえるようにがんばろうな」


「はい」


 メニューを開く。また忠誠心あがってるな。85になってからは上がりは悪くなったけど、時々あがってる。この分だと100は近い。サティのレベルは3つあがっていた。さてどうしようか。



スキル 16P


頑丈 鷹の目 肉体強化Lv3

料理Lv2 家事Lv2 裁縫Lv2

隠密Lv3 忍び足Lv2 聴覚探知Lv4 嗅覚探知Lv3

剣術Lv4 弓術Lv5 回避Lv3 盾Lv2




「じゃあもっと力が貰えるとしたら、サティはどんな風に強くなりたい?」


「あの。マサル様やエリザベス様みたいに魔法を……」


 すまん。それだけは無理なんだ……魔力が低すぎるんだよ。


「他にない?剣術をもっと強くしたいとか、夜目が効くようにしたいとか。あとは回避力をあげたり、敏捷性をあげたり。それとも耳と鼻をもっとよくしてみる?」


 サティはちょっと考えると、軍曹どのみたいになりたいと言った。


 軍曹どのはラザードさんみたいな力押しタイプじゃなくて、スピード重視の華麗な剣術を使う。それだと剣術5に敏捷に器用に回避に心眼?サティは体重が軽くてパワーは不足気味だから速度や回避をあげることを考えたほうがいいのか。


「じゃあ剣術を上げてみようか。あとは心眼っていう回避があがるスキルがある」


 敏捷よりも先に回避系を上げたほうがたぶんいい。矢とかびゅんびゅん飛んできてたし。


「はい。でもそんなに簡単にできるんですか?」


「サティが敵を倒すだろ?その敵の強さと数に応じて強化できるんだ」


「じゃあ明日もいっぱい倒してきます!」


「うん。でも危ないことはなるべくしないようにな」


「はい」


 剣術を5にして、心眼を取る。



スキル 1P


頑丈 鷹の目 心眼 肉体強化Lv3

料理Lv2 家事Lv2 裁縫Lv2

隠密Lv3 忍び足Lv2 聴覚探知Lv4 嗅覚探知Lv3

剣術Lv5 弓術Lv5 回避Lv3 盾Lv2



 ついに剣術もスペックだけなら人類最高クラスになっちゃったな。おれもこっち方面を強化してたら今頃軍曹どのくらい強くなれたんだろうか?でも前衛で戦うとかゾッとしないもんなあ。やっぱり後ろに隠れてちくちく魔法撃ってるほうがいいわ。


「よし。あげたよ。剣術と敵の攻撃からの回避があがった」


「……よくわかりません」


 そう手を上げたりわきわきしながら言った。


「上げたからってすぐ使えるわけじゃないんだ。目も慣れるまでちょっとかかっただろ?」


「そうですね」


「前にも言ったけど、このことは絶対に内緒にね。バレたらおれ、神殿の人に連れて行かれちゃうかもしれん」


「はい、絶対に内緒にします」


「のぼせそうだ。そろそろ出ようか」


「はい。あの、マサル様。ありがとうございます。これからももっともっとがんばりますね」


「うん、頼りにしてるぞサティ」


「はい!」


 うん。この子はほんとに頼りになるようになった。もうサティを勇者にしてしまえばいいんじゃないか、そう思うくらいだ。そんなことはしないけどね。




 お風呂から上がった後はサティにその日のことを聞きながら眠りについた。


「それには代償が必要だったのです。その呪文は術者の命を削ったのですよ。くだんの神官はわずか一ヶ月で命を落としました。それ以来その呪文は禁呪に指定され、語ることすら禁じられたのです」


次回、明日公開予定

49話 禁呪


誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

ご意見ご感想なども大歓迎です。

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