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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第三章

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47話 マサルの戦場

 見つからないように隠密を発動しながら裏口からこっそりと抜け出す。幸い、みな怪我人の対応にかかりきりなのか誰にも会わずに神殿を出た。


 神殿を出ると城壁はすぐ近くだ。城壁の門を通り一人怪我人が運ばれてきた。それを見送りつつ、門番らしき兵士がいたので声をかける。


「一体何があった?」


「大規模攻勢だ。だがなんとか押し返した。第二はまだ無事だ」


 それを聞いてちょっとほっとする。だがサティはどこだ?くそっ。軍曹どのに聞いておくんだった。


 門を抜けて城壁に向かおうとすると、また一人重傷者らしき人が担架で運ばれてきた。


「がんばれ。もう少しがんばれ。すぐに治療院に連れて行ってやるからな!」


「そこの担架待って!」


 担架で運んでいる人の方の肩を掴む。


「なんだおまえは!邪魔をするな!」


「治癒術士です。治します」


 怒鳴られてちょっとびびったがここは引かない。運ばれてる人がなんかすごい怪我してるんだ。


「おお、頼む。おい、いま治してもらうからな!気をしっかり持て!」


 急がないとやばそうだ。【エクストラヒール】詠唱開始―― MPが心もとない。これをうてば残りあと2発ってところか?


 ――詠唱完了。発動。


「すごい。治ってる!あんた助かったよ!」


「いえ、それよりも人を探してるのです。ギルドの教官をしているヴォークトどのと獣人で弓の上手い小さい子を見ませんでしたか?」


「すまないが知らないな」


 その時、ドーンという音が響いた。びくっとする。


「いまのは味方の魔法……?」


「わからん。モンスターにも魔法使いが混じっているんだ」


 魔法?弓を撃ってるのは見たことあるが魔法まで撃ってくるのか!?サティ!!


「急ぎます。じゃあ!」


 第二城壁を見ると一部が崩れている場所がある。城壁の上には木の橋が渡してあり即席の通路になっているようだ。だが、下からだと上の状況が見えない。時々城壁を越えて矢が飛んでくる。


 城壁に昇る階段を見つけ近寄ると、また怪我人が運び降ろされてきた。


「治癒術士です!」と、いい見に行く。なんかこの人焦げてるぞ!?さっきの爆発音か!【エクストラヒール】詠唱開始――


 体中が黒焦げでぴくりとも動かない。わずかにひゅーひゅー呼吸をしているのでかろうじて生きているのが分かる。なんだか呼吸が弱くなってる気が……やばい!?もうちょっとだ、がんばれ。まだ死ぬには早いぞ!!


 【エクストラヒール】発動!倒れた人の呼吸が楽になったのがわかった。ちょっと呻き声をあげている。エクストラヒールで完治しないとかどんだけやばかったんだ……


「よかった!もうだめかと」


「間に合ってよかったです。悪いんですが、魔力がもうほとんどありません。あとは治療院でお願いします」


 そう言いながらMPポーションを飲む。3本だけ買ってあったうちの1本だ。なにせMPポーションは高い。高い上におれのMP量からすると回復量が雀の涙という使えなさ。性能の高い高級品にはとても手が出ないし。


「ああ、ここまでやってくれれば十分だ。おい、急ごう」


「あ、ちょっと待って」


 サティと軍曹どののことを聞いてみる。


「それなら知っている。すごく弓の腕がよかったので覚えている。第二の右翼側、崩れたところからちょっと行ったところにいたはずだ」


 確定情報だ! 


「ありがとう!探しに行きます」


「ああ、気をつけてな!落ち着いたとは言え攻撃は続いている」


 おれを気遣う声を背に駆け出す。階段があった。駆け上る。城壁上は案外広い通路になっている。5,6人なら並んでゆったり歩けそうなくらいだ。


 左右を見渡す。何人もの兵士や騎士が時々弓を構えて撃っている。時々、下からも弓が飛んできてカンッと盾で防がれた音がする。第一城壁の上の方にはハーピーらしきものが飛び、こちらを窺っているようだ。


 まずは左の城壁が崩れた方を見に行く。いない。すぐに引き返す。上がってきた階段を過ぎ、少し歩くと、いた!


 軍曹どの、その側にはサティもいて、エリザベスとタークスさんもいた。よかった、全員無事だ。エリザベス以外は弓を手に持っている。エリザベスは壁を背に足を投げ出して座ってプリンを食べていた。戦闘中に何やってんだ……


 あとで聞いたら、エリザベスとタークスさんは、朝の早い段階で軍曹どのとサティを見つけて合流したんだそうだ。


「軍曹どの!」


「マサル。貴様治療院はどうした?」


「魔力切れです。心配なのでこちらの様子を見に」


「マサル様!」


「サティ、怪我はしなかったか?」


「はい。軍曹どのが守ってくれました。それにエリザベス様も」


 時々飛んでくる矢を避けるためにエリザベスの横に滑りこむ。


「戦闘中に何やってんだ」と、プリンを食べおわったエリザベスに聞いてみた。


「仕方ないじゃない。魔力が切れたんだから。じっと座ってるくらいしかすることがないのよ」


 それもそうか。治療院の人だって魔力切れたら、お茶でも飲んで休憩してたしな。


 そう言うとエリザベスは今度はから揚げを取り出してむしゃむしゃやりだした。一気に緊張感が……


「それよりも。あの濃いお茶もっとない?」


 そう食べながら聞いてきたので水筒ごと渡してやった。


「それごとあげるよ」


「あら。悪いわね。まずいけど効くのよねこれ」


「ナーニアさんは?」


「置いてきたわ。あんな状態じゃ戦えないもの。今頃オルバにプロポーズされてるかもね」


 そうか。オルバさん故郷に帰るのにナーニアさんを誘うんだな。エリザベスは魔力切れしてるから戻ってもいいんだけど、邪魔したら悪いからここに残っているんだそうだ。ちょっと待てば魔法の一発くらいは撃てるし、と。


 サティがエリザベスのから揚げをちらちら見ていたので、弁当を出して軍曹殿達にも配る。サティには2個渡した。


「ふむ。ちょうどいい。敵の攻撃も収まったし休んでおくか」


「怪我人はいませんか?あと何回かならヒールが使えます」


「重傷者はだいたい運び出されたはずだ。この辺りはもう大丈夫だ」


「何があったんです?」


「最初のうちは敵も大人しかったのだがな。先ほど急に来おった。空のモンスターと下からの波状攻撃だ。特に空からのに中型のワイバーンが混じっておってな。撃退に時間がかかった」


 それであの惨状か……


「軍曹どの、すごかったんですよ!飛んできたワイバーンをこう、一撃でばさーっと」


 サティが身振り手振りを交えて説明してくれる。むう。軍曹殿の実戦とか俺もぜひ見たかったな。


「エリザベス様も魔法で何匹も落としてすごかったです!」


「ふふん。あんなの余裕よ。わたしを倒したければドラゴンでも連れてくるのね!」


 魔力切れで座り込みながら言っても実に迫力がないな。でも良かった。やはり軍曹殿は頼りになる。それにエリザベスもいるし。


「あの。俺も弓は使えます。魔力が回復するまでの間ここで」


「ならん。治癒術士は全く足りておらんのだ。万一貴様が負傷でもすると、数十人の怪我人が復帰できなくなる。気持ちはわかるが、治療院が貴様の戦場だ。用が済んだら戻れ」


 少しでも経験値が欲しかったが、軍曹どのにそう言われれば引き下がるしかない。治療院もあまり抜けるわけにもいかない。みなの無事も確かめられたし。声をかけて戻ろうとするとサティに引き止められた。


「マサル様、矢をください」


「うむ。少々手持ちが心配だ」


 とりあえずアイテムに入ってた矢を全部出す。


「半分でいい。あとは持って帰ってくれ」


「はい。じゃあな、サティ。エリザベスも気をつけてな。軍曹殿とタークスさんもお気をつけて」




 神殿へ戻る途中、サティのメニューチェックを忘れていたのに気がついた。戻るか……?でも今後の育成方針も考えないとだし、戻ってからゆっくりやるほうがいいか。




 ばれないようにこっそり自室に戻り神官服に着替え、神殿ホールの様子を見に行く。ホールはだいぶ落ち着いたようだ。ダニーロ殿がいたので声をかける。


「お手伝いしましょうか」


「いえ。旅の神官殿はお休みを。今は我々で対応できますから」


 エリアヒール分の魔力を温存して欲しいらしい。司教様もエリアヒールは使えるのだが、おれのほうが効果が高く、しかも司教様は使うと魔力切れでぶっ倒れる。あまり使わせるわけにもいかない。おれのMPは午後くらいになればとりあえず最低限のエリアヒールは使えるくらいに増えるだろうか。




 ホールの隅で隠密を発動しながら目立たないように治療の様子を眺める。


 近くで治療を受けている人を見る。あの人は片手がない。ワイバーンにでも食われたんだろうか。オルバさんの足はどうしても治せないのか?20Pあれば回復魔法をレベル5にできるのに。もどかしい。こっそり城壁に行くか?だめだ。軍曹殿の言いつけを破るようなことはできない。いっそ事情を話すか……


 神により送り込まれて能力を授けられた。サティにもそれを分け与えた。そんなことを言えばどうなるだろうか。勇者の物語でも勇者が勇者の認定を受けたとたん、大騒ぎになり逃げることもできずにその後はひたすら戦いの日々だった。ゾッとする。絶対に無理だ。やはりこのことはバレちゃいけない。


 軍曹殿のことは尊敬している。だがこの状況で俺個人の感情をどれくらい斟酌してくれるだろうか。わからない。だがまだ20年の期限がある。こちらに来てからたった2ヶ月ほどしか経ってない。急ぐ必要はまだないはずだ。くそ。なんてクソッタレな世界に送り込んでくれたんだ、伊藤神のやつ……


 怪我をしている人たちを見てるとどんどんと気分が暗くなっていく。




 そうだ。金剛隊を見に行くか。エリザベスがちゃんと見つかったって報告しないとな。


 一旦部屋に戻って神官服を脱ぐ。神官服はローブで下には普段着なのですぐ着替えられて楽である。背中に剣を背負う。でもちょっと面倒臭いな。こうぱっと姿が変えられないものか。魔法があるんだから変身魔法くらいあってもいいものだと思うんだが。




 ダニーロ殿を捕まえて金剛隊を尋ねることを伝えて、神殿騎士団の宿舎を尋ねると前と同じ人が出てきてくれた。


「おお、マサル殿。師匠殿は見つかりましたかな?」


「おかげさまで。怪我は負ったようですがみな無事でした」


「それはよかった。それとテシアン隊長が会いたがってましたよ」


「いま治療院の手伝いをしてるんですよ。宿舎も神殿なのでいつでも来てもらえれば」


「それはいいですな。伝えておきましょう」


 アイテムからお酒を取り出し騎士団の人に渡す。怪我の療養中ではあるが、傷自体は既に完治しているので多少のお酒は問題ない。


「悪いですな。補給が途絶えてから酒の値段もあがって中々手に入らないんですよ」


 安いお酒で喜んでもらって何より。


「そうだ。一緒にどうですか?宿舎に篭っていると暇でして。運動はあまりしないように言われてますし」


 少しくらいならいいか?どの道おれもMPが回復するまで身動きが取れない。それにちょっと飲みたい気分だ。


 中に入ると他に4人の人がいて口々に紹介された。リビングのソファーに座りお酒をそそぎ軽く乾杯をする。さすがに乾杯とは言わないが、ここでは神殿らしく神への感謝の言葉を短く言い、杯を軽くぶつける。つまみもアイテムから出した。お弁当と野うさぎ肉の串焼きだ。このあたりは結構な量を常備してある。


 とりあえずはハーピーの時の礼を言う。今までちゃんと言う機会がなかった。彼らはそれが我々の仕事ですから礼など必要ないと言う。だが命拾いをしたのは確かだ。神殿騎士団が間に合わなかったらと思うとゾッとする。


「マサル殿が助かったのも、きっと神の思し召しですよ」


「我らが向かっている時の火柱、マサル殿が放ったとか。町からでもはっきり見えましたよ。治癒術に加えて火魔法まで使えるとはうらやましい。我々も魔法が使えればここですることもなくじっとしてなくてもよいのに」


「しかりしかり。騎士団は魔法の訓練にもっと本腰を入れるべきですな」


「いや、それよりも剣や弓の腕を磨いたほうが」


「睡眠時間を削ってでも両方やればいいのだよ」


「しかし通常業務に支障がでてはだな……」




 取り留めもない話をしているうちに開拓村の話になった。おれは騎士団の人たちが話すのを時々相槌をうちながら大人しく聞いていた。


「最初は退屈な任務だと思ったんだ。やることと言ったら砦の建設の手伝いくらいで、周囲の警戒は冒険者任せだったしな。冒険者が肉を持って帰ってくるから食べ放題なのはよかったし、みんな楽な任務でいいなって話してた」


「最初の一報は単にモンスターの集団がいたというだけだった。砦に近いところではあまり見ないが、魔境では珍しくもない。警戒態勢を取って偵察してみるとゴルバス砦の方に向かっているのがわかった。しかも軍団規模だ。この時点で撤退も検討されたが、まだ戻ってきていない冒険者もいるし、進路は開拓村からはそれていた。ゴルバス砦に急使を送ってしばらく様子を見ることにしたんだ」


「だがあの時すぐに逃げるべきだった。後知恵だがな」


「あれほどの規模だとは誰にもわからんよ。あの軍団もただの先発隊だったんだ」


「しばらくすると最後の冒険者も戻って報告もいくつも入った。予想よりもモンスターの集団が大規模なのがわかって撤退を決定したのはこの時だな」


「撤退準備中に襲撃が始まった。冒険者に先鋒を任せ我らは殿を受け持った。だがその時はまだ楽観ムードだったな。高ランクの冒険者も多数いたし、騎士団も国軍も精鋭ぞろいだった。オークの集団なら突破は難しくはないだろうと。実際開拓村への襲撃は簡単に蹴散らした」


「我々は敵主力を避けるようにして砦へ向かった。そのおかげで開拓村を出たあとの敵は数えるほどだった。だが砦近くで敵の主力とぶつかってしまった」


「そこからは大混乱だな」


「砦側からも出撃してもらって助けてもらい、ようやくたどり着けたのは半数程度だ」


「だが、それでも半数が生き残れたのは運がよかった。そのあとに地竜の襲撃だ。巻き込まれていたら全滅もあっただろう。地竜の攻撃で第一が落ち第二まで突破された。俺はその時は怪我で寝ていたからそのあたりは聞いた話だがな」


「生き残った冒険者や隊長たちは即座に防衛にあたり、さらに何人もが命を落とした。俺はその時に怪我をしたんで地竜の攻撃を見たが、あれは凄まじかった……」


 敵の矢と魔法で援護された地竜2頭を止めることはできずあっという間に第一は落とされた。第一と第二の間でなんとか1頭は仕留めたが第二も突破された。その後、最後の地竜も倒したが、既に多くのモンスターが砦周辺を囲んでおり、一体どうやってあそこから第二を取り戻したのかよくわからない。翌日には第二をある程度修復し、それ以上の敵の侵入を防いだ。


 俺たち冒険者が到着したのはその翌日だった。


「今回の開拓村の建設。これが引き金になったんじゃないのか?」


「いや、だがここ10年は大規模な侵攻はなかった。たまたまその時期だったんだ」


「そうだな。10年なかったといって少々油断をしすぎた。魔境への備えは常に怠るべきじゃない」


「だからこその開拓村の建設だろう?」


「だがそれだけの労力があればこの砦をさらに……」


「上層部にもなにか考えが……」


 話を聞きながら考えこむ。魔境からの大規模な侵攻。これは昔から数年ごとに何度も何度もあるらしい。王国も時には国境を突破され大きな被害を受けたという。かつてはそれで滅んだ国も。


「あと数日。国軍が到着するまでの辛抱だ。それに帝国軍も今頃国境に戦力を集めているはずだ」


 帝国とは同盟関係にある。もし国軍の手に負えないような事態になれば即座に国境を超え、王国の支援にあたるだろう。


「手に負えない事態って……」


 騎士団の人は少し考えてこう言った。


「――この砦が落ちた時、だな」

「あの。昨日から急に力が強くなった気がするんですけど……」

なりましたね。肉体強化を3にあげちゃいました。まあ普通気づくよね。


次回、明日公開予定

48話 サティ育成計画その2


誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

ご意見ご感想なども大歓迎です。

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