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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第三章

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46話 諸神の神殿

 魔力も尽き、今日の治療を終了した。だるい。早く寝たい。この魔力切れのときの倦怠感はなんとも言えず嫌なものだ。


 神殿の奥にある部屋に案内されると既にサティが待っていた。おれの家の寝室より更に大きく、立派な装飾品や家具が並ぶ豪華な部屋だった。


「あの、こんなにいい部屋じゃなくても、寝れさえすれば。テントも持ってきてますし、庭とかでも……」


「そんな!マサル殿のために一番いい部屋を用意したのです。ご遠慮なくお使いください。お湯も既に用意しておりますし、食事もまもなく運ばれますから」


 ではごゆっくり、とダニーロ殿は部屋を出て行った。


 日本に居た時でもこんなところには泊まったことがないな。しかもルームサービス付き。


 ぼふっとベッドに倒れ込む。うん、ふかふかで気持ちいい。


「お疲れ様です。マサル様」


 サティが側にやってきて言う。


「サティは疲れてないか?」


「はい、平気です。マサル様に声をかけようと思ったんですけど、治療でお忙しそうだったので」


 そうかと言い、サティを抱きしめる。サティの頭を撫でて耳をもふもふしたが鎧越しで気持ちよさ半減だ。


 億劫だが立ち上がりサティに神官服と鎧を脱がせてもらう。甲斐甲斐しく世話をしてくれるサティを見ながら幸福感に浸る。疲れたときにムラムラすることがあるけど、魔力切れでもなるんだな。馬車での移動中は何にもできなかったし、ここは一つ……


 いいタイミングで扉がノックされた。大いそぎで服を着替えてからサティに出てもらう。食事を持ってきてくれたみたいだ。


 ダニーロ殿と女性の神官が配膳をしてくれる。なんか女神官のほうがこっちをすごくちらちら見てるんだけど。そして配膳が終わると「あの、ファンなんです!応援してますからがんばってください」と言って部屋を出て行った。ファンって?何だいまのは。


 残ったダニーロ殿に尋ねる。


「あの。いまのファンとかは一体……」


「そのですね。冒険者だとか兵士と違って治癒術士って裏方で地味でしょう?仮面をした旅の神官の話題は我々治癒術士業界で久しぶりの、なんていうんですか?ヒーロー。そう、ヒーローの登場だったのです。正体がわからないものですから方々に問い合わせがいっていたようで、かなり有名になっているようですよ」


 マジか……


「あの、有名ってどれくらい……」


「たぶん王国の神殿関係者ならほぼ知っているかと」


 それに話を聞いてみると、尾ひれもついてるようだ。どんな瀕死の患者でも治せるとか、ホールいっぱいの患者を半日もかからず全部治したとか。その後、名前も名乗らず、お礼も一切受け取らずさっそうと去っていっただとか。


 実際のところ、瀕死の患者は治せなかったし、ホールの患者は半分くらいは帰ってもらったはずだ。確かにお礼も報酬も受け取らなかったが、そのあとは魔力切れでふらふらになりながら家に歩いて帰っただけだ。


 名前とかがバレてないのは本当に幸いだった。司祭様達がちゃんと秘密にしてくれてたんだな。


「あの!あの!絶対におれのことは黙っててくださいよ!ほんとに!まじで!」


「わかってます。わかってますとも。正体は誰にも秘密です」


 そう言ってダニーロ殿も出て行った。




「とりあえず食うか……」


「はい」


 食事はちゃんと2人分用意されており、なかなか美味しかった。




 お風呂は家のよりは狭かったが豪華な作りで浴槽もサティと2人でならゆったりと入れた。いつもと気分が変わってちょっと燃えた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 早朝、夜も明ける前に、軍曹どのがやってきてサティを持っていかれてしまった。


 寝ぼけてぼーっと見送った。寝不足で疲れていたんだろう。それにこんないい部屋にいると戦争中だって実感がわかない。目が覚めてきてようやくサティがいないことに不安がいっぱいになった。ついて行きたい。どこかで抜けだして見に行けるかな。うん、MP切れのときでも狙って行ってみよう。




 夜明けを待って、治療院をのぞくとすでに治療が始まっていた。夜のうちにも負傷者が出たのだろう。ダニーロ殿がいたので声をかける。


「わたしも神官服に着替えてきて手伝いましょう」


 今の格好は普段着だ。念のため剣は背負っている。おれを見て治癒術士とは誰も思わないだろう。


「いえ、マサル殿は昨日は夜まで治療していて魔力がまだ回復していないでしょう?」


 MPはもうちょっとで半分ってとこか。


「それに司教様がお話をしたいとのことですので、朝食をご一緒にどうでしょうか」


 司教って司祭よりも偉い人だっけ?そんな気がする。


「わかりました」


 まあ魔力がまだ戻りきってないし焦っても仕方ない。


「では後ほどご案内しますのでゆっくりしていてください」


 サティを探しに行ったりとかはだめだろうなあ。部屋に戻って本でも読んでるか。


「部屋に戻ってもう少し休んでおきます」




 部屋で本を読んでいるとダニーロ殿が年配の人を伴ってやってきた。さらに後ろから食事のワゴンが運ばれてきた。


「マサル殿、こちらがフランコ司教様です」


「よろしく、マサル殿。お話は聞いておりますよ。昨日は挨拶ができなくて申し訳ない。魔力の使いすぎで倒れておりましてな。いや、この歳で魔力切れはきついきつい」


 わかる。わかるよ。フランコ司教様。


「よろしくお願いします。司教様」


「ささ。まずは食べましょう。お腹が膨れないと元気も出ませんからな」



 3人でテーブルを囲む。おっさん2人と食べる食事は実に味気ない。最近はずっとサティと一緒だったからなあ。サティ大丈夫かな……


「それでどういう経緯で旅の神官などと言うことに?」


 やっぱりこの人もそれか。なんてめんどくさいことになったんだ。


「ええとですね。おれは元々火系統の魔法使いでして。回復魔法を覚えようと神殿を訪ねたのですよ」


「ほうほう。治癒術士かと思ったら火メイジですか。多才ですな」


「それで回復魔法を覚えることはできたんですが、練習しようってことで無料で治療するって近所で宣伝をしたんですよ。魔力が多かったんで普段治療院に来るくらいの人数じゃ魔力を使い切れなくて」


「なるほどなるほど」


「そしたら来るわ来るわ。神殿のホールがいっぱいになるくらい人が来ましてね。おれ目立つの嫌いなんで変装の用意をしてもらいまして、それが神官服と仮面だったんです」


 それから治療の時の話も詳しく再現する。尾ひれがついたままの話を信じていられるのは嫌だからね。


「それで旅の神官ってことで誤魔化してくれることになったんですが、すいません。勝手に神官ってことにしちゃって」


「いやいや、いいのですよ。あの事は神殿の名を高めてくれましたから。むしろこちらが礼を言うべきことですよ」


「礼なんて。言ったとおり治癒術の訓練の一環でやったことですし」


「いっそ本当に神官になってみるというのはどうですかな。わたしの権限で助祭にならすぐにでもして差し上げられますよ」


 またスカウトか。神官なんて柄じゃないな。まだ神殿騎士団のがましだ。


「お誘いは嬉しいですが冒険者が性にあってまして」


「冒険者は続けられてもよいのですよ。神官の中にも冒険者として活動しているものもおりましてな。神官になったからと言って神殿に縛られることは全然ないのですよ」


 冒険者を続けられるのはいいとしても利点がないな。神殿に出入りするだけならこうやってできるんだし。


「我が諸神の神殿の役割はご存知ですかな?」


「神への信仰をするため?」


「それはほんの一部でしかありません。もちろん、この箱庭世界ラズグラドワールドを作られた神への信仰は大事なことですが、もっと大事なことはこの世界を存続、発展させることなのです」


 箱庭世界ラズグラドワールド。久しぶりに聞く言葉だ。そもそもあの求人を見てこんなことになったんだよなあ。あの時ハロワに行ったのがもう何年も前の話だった感じがする。実際には2ヶ月も経ってないんだけど。日本のことを思い出すと、ただのニートだったのになんでこんなことになっちゃってんだろうと思う。


「神々が世界を作られた時、神は神殿にこの世界を見守り、影から支える役割を命じられました」


「影からですか?」


「そうです。あくまでも影からそっとです。ですから世俗的な権力や政治にはかかわらないようにして、騎士団や治療院、孤児院といった形で世界を裏から支えているのです。いや、支えてるというのはおこがましいですな。ほんの少しの手助けといったところですか。ですからね。神殿に属し、神に仕えるというのは色々な形があるのです。マサル殿のされたことも立派に神の御心にそうことなんですよ」


 神の御心か。伊藤神は何を考えておれを送り込んだんだろうな。テストプレイと言いながら破滅が近い世界に放り込み、しかも別に好きにしていいという。世界を救いたいのかそうじゃないのかいまいちよくわからない。そういう質問には一切答えてくれないし。


 しかしこの神殿、地球の宗教とは随分と違うな。本物の神様がいるからだろうか。日本にいた頃は宗教と言えば冠婚葬祭とかクリスマスの他にはあまり関わりもなかったが、こういう神殿だったら信者になるのも悪くない。


「それに」と、続ける。


「神殿は大陸中どこにでもありましてな。神官になっておけばメリットは多いですよ」


 テシアンさんに騎士団にスカウトされたのと同じようなことが繰り返される。うん、その話なら前にも聞いたわー。1ヶ月くらい前にも聞いたわー。


 おれがちょっと退屈そうにしてるのがわかったんだろう。


「いや、長々とすいませんでしたな。神官になる話はまた今度しましょう」


 神殿の話は面白かったけど、勧誘の話はもういいです……この世界はどこも人手不足なんだろうか。それとも魔法使いの需要が高いだけなのかな。


「しかしロベルトめ。こんな面白い話を黙っているとは。今度会ったらきっちり話をしませんとな」


 確か司祭様の名前がロベルトだった気がする。


「司祭様をご存知なのですか?」


「シオリイの町はここと同じ教区ですからな。ロベルトは部下にあたります」


 司祭様の上司か。おれのせいで怒られるとか司祭様に悪すぎるぞ。


「あの。司祭様には世話になってますし、口止めを頼んだのはおれなんで、あまりそういうことは」 


「そうですな。あれは義理堅い男です。約束したというなら死んでも口を割らないでしょう。詰問するのはやめておきましょう」


「そういえば司祭様も第二陣で来ると言ってました。今日か明日には来るんじゃないですかね」

 

「ほう。ご存知ですかな?ロベルトは昔はですな……」


 興味深い、司祭様の昔の話を聞いていると扉が乱暴に開けられた。


「なんですか、騒がしい」


 なんだろう。話がいいところだったのに。


「司教様!負傷者がたくさん来ました!総出で対応してるんですが、手が足りません!」


 サティ!?心臓が飛び出しそうになる。すぐに手元のマギ茶を飲み干し、ベッドに置いてあった神官服を頭から被り、仮面と帽子をつける。


「行きましょう!負傷者が多いようでしたらまたエリアヒールを使います」


 くそっ。サティは大丈夫なのか?軍曹どの。軍曹どのが付いてるんだ。そうそう遅れは取らない。取らないはずだ。


 神殿ホールは阿鼻叫喚といった表現がぴったりという有様だった。呻く人、痛い痛いと泣く人、神官に掴みかかり治療を要求する人。しかもどんどん追加の怪我人が運ばれてくる。おい。あそこの人とか、既に……それを見てしばし呆然とする。


「神官殿」


「え?あ、ああ……」


 ダニーロ殿に声をかけられてはっとする。治療しないと。ここにはサティはいない。無事なはずだ。大丈夫だ。軍曹どのがついている。まず目の前のこれをなんとかしないと。


「エリアヒールをやります。なるべくホールに怪我人を集めてください」


「わかりました」


 MPを確認する。さっきからあまり回復していない。エリアヒールを使えばほぼ空になりそうだ。


 アイテムから濃縮マギ茶を出して飲む。相変わらずまずい。でも確かに効く感じがする。


 ダニーロ殿がやってきた。


「神官殿、お願いします」


 【エリアヒール】詠唱開始――――目の前で呻いている人を見て心が乱される。だめだ。集中しろ。集中だ。


 ――詠唱完了。発動!ホールが一瞬光に包まれ、ざわめきも止まる。魔力が一気に抜けちょっとふらつく。


「大丈夫ですか?」


 ダニーロ殿が心配そうに支えてくれる。他の神官の人たちも周りに集まってきている。


「ええ。まだもう少し魔力はありますから。ですがあとはお任せしてもいいですか?少し休憩を取らないと……」


 MPは残り1割もない。


「もちろんですとも!さあ旅の神官殿がここまでやってくれたのです。あとは我々でなんとかしましょう!」


 エリアヒールで全て治ったわけじゃない。軽傷くらいなら完治するが、重傷者ならとりあえずは動けるくらいになるだろうか。感覚的には普通のヒールとエクストラヒールの中間くらいの威力だろう。もっともこめる魔力を増やせばエリアにエクストラヒールをかけられるだろうけど、満タン状態でもMPが持たないかもしれない。


「いやあ、さすがですな。旅の神官殿。さっ、あとは我々に任せて休憩を」


「ありがとうございます。司教様」


 自室に戻り、神官服を脱ぐ。防具を身につけ、剣を背負う。


 よし、サティ。今行くから待ってろよ!

「軍曹どの、すごかったんですよ!飛んできたワイバーンをこう、一撃でばさーっと」

サティが身振り手振りをまじえて説明してくれる。軍曹どのの実戦とかおれもぜひ見たかったな。


次回、明日公開予定

47話 マサルの戦場


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[良い点] 軍曹殿が頼もしすぎる
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