44話 終わる暁
砦の前にはかなりの数のオーク達がたむろしていた。だが城壁からは距離を置いてうろうろしているだけだ。おそらく矢の届かない距離から威嚇でもしているんだろう。
オークがこちらに気がついて叫び声を上げた。だが、砦の方でも既に気がついていたようだ。城門が開いて、部隊が出てきた。
挟撃の形になって矢や魔法を使うとあちらの部隊にも当たりそうだ。冒険者達が一斉に馬車から降りて突撃している。ここはもう彼らに任せておけば余裕だろう。おれはサティの様子を見に後ろの馬車に飛び移った。
「サティ、大丈夫だったか?」
「はい。沢山倒しました」
メニューを開いてみる。1つレベルが上がっていた。自分のも見てみると1つレベルが上がっている。
魔力増強をレベル3、MP回復力アップをレベル3に上げる。これで使えるポイントはなくなった。サティの分は迷ったけど肉体強化を3まで上げて5Pを消費した。
スキル 0P
スキルリセット ラズグラドワールド標準語 時計
体力回復強化 根性 肉体強化Lv2 料理Lv2
隠密Lv3 忍び足Lv2 気配察知Lv4
盾Lv3 回避Lv3 格闘術Lv1
弓術Lv3 投擲術Lv2 剣術Lv4
魔力感知Lv1 高速詠唱Lv5 魔力増強Lv3 MP回復力アップLv3
コモン魔法 生活魔法 回復魔法Lv4
火魔法Lv4 水魔法Lv3 風魔法Lv3 土魔法Lv3
スキル 1P
頑丈 鷹の目 肉体強化Lv3
料理Lv2 家事Lv2 裁縫Lv2
隠密Lv3 忍び足Lv2 聴覚探知Lv4 嗅覚探知Lv3
剣術Lv4 弓術Lv5 回避Lv3 盾Lv2
スキルを触っているうちに戦闘は終了したようだ。そして馬車の列はゆっくりとゴルバス砦に入っていった。
ゴルバス砦は砦とは名がついているが、実際のところ要塞都市とでも呼ぼうか。城壁こそものものしいものの、内部は普通の町並みだ。ただ、魔境への防衛と出撃の拠点となっているため冒険者や軍のための施設は非常に多い。俺たちはそういった軍の施設の庭か訓練場のようになっている開けた場所に案内された。
馬車から降りた冒険者達が集まる。軍曹どのは一人の兵士と何やら協議している。少しすると話が終わった。
「聞け!日没まで2時間ほどある。その時間を使って砦周辺の敵をできるだけ殲滅する!」
おーーーーっと声を上げる冒険者。
明日か明後日には第二陣も到着する。その安全を確保しておかなければならない。
簡易の部隊が組まれていく。おれもどこかにいれてもらおうと思ったら軍曹どのに呼ばれた。
「おまえはこっちだ。まずは物資を出してもらわないとな」
そうだった。物資を抱えたままだったな。軍曹どのとサティと共に、兵士に案内されて物資の集積場に行く。指示された場所にどんどん物資を吐き出していく。
「これを全部一人で……」
「ああ、うちの隠し玉でな。スカウトはしないでくれよ」
「分かってる、ヴォークト殿。それよりも空間魔法が得意なら転移は使えないか?」
「残念ですが」
「そうか……一人でも転移術士が増えれば連絡も楽になるんだがな。いや、すまない。物資を運んでくれてありがとう。これで少しは楽ができそうだ」
「あ、あの。聞きたいことが!開拓村はどうなりましたか?」
「壊滅した」
「!?」
足元がふらついて、サティに支えられた。
「開拓村にいた人たちは!?暁の戦斧というパーティーを知りませんか?」
「襲撃の時になんとか脱出してきたが半分近く死んだと聞く。生き残りは防衛に当たっているはずだ。暁というのは知らないな」
そうだ、神殿騎士団だ!神殿騎士団なら一緒に居たから知ってるはずだ!
「神殿騎士団はどこにいるか知りませんか!?」
「神殿騎士団なら神殿の屯所にいる。場所は……」
「神殿の場所ならわしがわかる。案内しよう」と、軍曹どの。
「神殿には元々行くつもりだった。貴様には治療を担当してもらおうと思っているのだ」
「はい」
答えながらも気もそぞろだ。エリザベス、エリザベス。無事でいてくれよ……
「だが、暁の戦斧の居場所ならギルドのほうでも把握してるかもしれんな。どうする?どちらから先に行ってもいいぞ」
う……確かにそうだ。どっちが確実だ?いや一緒に居た人のほうが把握してるかも。
「神殿に行きましょう。それでわからなければギルドへ」
「わかった」
軍曹どのを先頭にして駆け足で神殿に向かう。おれが焦っているのをわかっておられるのだ。
ほどなく神殿についた。神殿は魔境側の城門近くにあり、シオリイの町にあった神殿と作りは同じですぐにわかった。
神殿の内部は怪我人だらけだった。治療院の待合室になっているようだ。すまん。治してあげたいがまずはエリザベスだ……
神官らしき人が怪我人の世話をしていたので声をかける。
「あの。ここに金剛隊の方はいませんか?」
「金剛隊でしたら城壁の防衛に当たっておられますよ」
くそっ。はずれだったか。
「でも怪我をしておられる方達なら何人か残ってますが」
「あの、その人達に会えますか!?」
「失礼ですが、あなたは……」
「ああ、すいません。シオリイの町で冒険者をやっているマサルと言います。金剛隊の方には一度命を助けてもらって。今度の話を聞いて心配になって」
司祭様の名前を出そうかと思ったが、この人が知ってるとは限らないし勝手に名前を出すのもどうかと思ったのでそういうことにしておいた。
「そういうことでしたら。ご案内しましょう」
神殿を裏から出るとすぐに他の建物があった。
「ここが神殿騎士団の宿舎でして。少々お待ちを」
常駐してる騎士団とは別に金剛隊には専用の宿舎が割り当てられてるらしい。ちょっと入り口で待たされたが、すぐに誰かをともなって出てきた。
「おお、マサル殿のことは覚えてるよ。あの時は野うさぎの肉をありがとう」
隊員の人はおれのことを覚えていてくれたようだ。こっちは全然覚えてないんだけど。だって100人もいたし。
「はい。それで開拓村が壊滅したと聞いて……」
騎士団の人の顔が曇る。
「あれは酷い戦いだった。開拓村からはなんとか脱出できたんだが、砦に入る前に敵の大集団とかち合ってな……」
「あの!暁の戦斧を知りませんか?」
「そうか、確か師匠の人がいるんだったな。暁の戦斧もちゃんと一緒に脱出できたはずだ。ただその時は混乱してたからよくはわからん。隊長なら何か知っているかもしれないが」
「そうですか。金剛隊の方達は大丈夫だったんですか?」
「半分やられた」
「それは……」
言葉に詰まる。こんなときなんて言ったらいいんだ……
「いや、いいんだ。俺たちは殿を務めていたしな。犠牲も覚悟の上だ」
あのハーピーを楽々蹴散らした金剛隊が半数もやられる戦い。ちょっと想像できない……
「すいません。暁の戦斧メンバーが心配なので探しに行きます。また来ます」
「ああ、師匠の人が無事だといいな」
次はテシアンさんを探しに行くか?いや、ギルドが先だな。
「ギルドに行きましょう」
「わかった」
また軍曹どのに案内をしてもらう。ギルドも魔境側の城壁に程近い神殿のすぐ近くにあった。
ギルドに入ると職員らしき人がやってきた。
「おお、ヴォークト教官。よく来てくれました。先ほど連絡がありまして、冒険者達は周辺の掃討にあたっているとか?」
「うむ。ここも中々大変だったようだな。明日以降も増援が続々と来る予定だ」
「ありがたい!一時はもうだめかと……」
「それで今、暁の戦斧というパーティーを探しているのだが」
「ちょっとお待ちを」
そういうと職員の人は他の人と少し話、すぐに戻ってきた。
「暁の戦斧はここの隣にあるギルドの宿舎にいます。2階の4号室と5号室ですね。男性のほうが4号室です」
さすが、軍曹どの!ギルド幹部なだけはある。おれだったらそう簡単に情報が聞き出せなかっただろう。住んでるところなんか普通はこんなにあっさりと教えてはもらえない。
「聞いたな?マサル。わしはもう少しここで用がある。そっちの用が終わったらここに戻ってこい」
「はい、軍曹どの!」
ダッシュでギルドを出て、建物を回りこむ。あった!ここだ!
扉を開けて中を見る。ホールになっていて冒険者が何人か駄弁っている。階段は……あった!冒険者達はこっちを見てるが気にしない。エリザベス!!
階段を一段飛ばしで上がっていく。5号室、5号室。あった。
逸る心を抑えてノックをする。
ガチャリと扉を開けてナーニアさんが顔を出した。ナーニアさんは泣きはらした顔をしている。それを見て心臓の鼓動が跳ね上がる。まさかエリザベスに何か……
「マサル殿……」
「あ、あの……エリザベスは……」
扉を開いてすっと部屋へと通してくれる。ナーニアさんはぐすぐすと泣いている。
ベッドにはエリザベスが寝ていた。
いつもの黒いローブを着て。お腹の上で両手を組んで。青い顔をして。まるで死んだように――
おい。おい。
冗談だろ?
「エリーは……ずっとマサル殿に会いたがって……」
よろよろとエリザベスに近寄る。
「エリザベス……」
「エリザベス様?」
確かめるのが怖い。ナーニアさんを振り返ると椅子に座って泣いていた。
「わたしの……わたしのせいで……」
机に顔を伏せ、そう泣きながらつぶやいている。
遅かったのか?くそっ!話を聞いた時にすぐにフライでも使って飛んでくればよかったんだ!!
さっさと空間魔法でも覚えていつでも迎えにいけるようにすればよかったんだ!!!
「エリザベス……エリザベーーース!!」
「なによ、うるさいわね?あら、マサルじゃないの。やっぱり来たのね」
むくっと起き上がってエリザベスが言った。
呆然とする。え?死んで?え?どういうこと?
「ナーニア、また泣いてるの?大丈夫よ。オルバは許してくれるわ」
「あ、あ、いけませんエリー。魔法の使いすぎなんですから寝てないと」
魔法の使いすぎ?
「私の心配はいいのよ。マサル。マギ茶持ってる?あの濃いやつ」
「ああ、あるけど……」と、アイテムから出して渡す。
濃縮マギ茶をぐっと飲むエリザベス。
「効くわね。相変わらずまっずいけど」
エリザベスはなんだか元気そうだ。濃縮マギ茶を飲んだせいか顔色も心なし良くなっている。とりあえずほっとした。
「あの、ナーニアさんはなんで……」と、泣いてるナーニアさんを見ながら小声で聞く。
「撤退する時にね。オルバがナーニアをかばって足を……」
膝のあたりで足を切る仕草をする。オルバさんの足が切断?
「それでわたしのせいだってずっと泣いてるの」
それでわたしのせいって……エリザベスが会いたかったというのも言葉通りの意味か。なんと紛らわしい。だが怒るに怒れない。
「他の人は?」
「オルバ以外は無事よ。ルヴェンが結構酷い傷だったけどしばらく休養すれば治るわ」
「それでオルバさんの傷の具合は?」
首を振るエリザベス。
「怪我はもう平気だけど、冒険者は廃業ね」
「わたしの……わたしのおおお」と、ナーニアさんがまた泣きだした。
「ほら、ナーニア大丈夫よ。オルバは許してくれたでしょう?ナーニアの好きな男はそんなに心の狭い男じゃないわよ」
エリザベスはナーニアさんのところへ行って慰めている。
「でも……でも……」
どうしようと思っていると、エリザベスにしっしっと追い払われたので廊下に出た。
とりあえずエリザベスが無事で良かった。マジで良かった。ほんとうに良かったよ。あれは心臓に悪かった。ふと、おれを見ているサティに気がついて、ぎゅっと抱きしめる。
「エリザベスが無事でよかったな。ほんとに良かった」
「はい」
しばらくそうやっていると落ち着いたので隣の部屋を尋ねることにした。
ノックをすると、暁のメンバーの獣人タークスさんが出てきた。タークスさんは暁の戦斧の斥候的ポジションの人だ。あまり話す機会がなかったのでどんな人かはよくは知らない。
「マサルか。入ってくれ」
中ではベッドに並んでオルバさんとルヴェンさんが寝ていた。
「おお、マサルじゃないか!じゃあシオリイの町からの応援が着いたんだな」と、オルバさん。
「はい。第一陣で来たんです。他の人達は今頃砦周辺の掃討にあたっています」
「そうか。これで持ち直すな」
「あの、傷のほうは……」
「まだ動けないが寝てれば平気だ」
「来たばかりで魔力は十分ありますから治療しますよ」
「助かる。治療院は一杯でな。エリザベスは城壁の防衛に回ってそんな余裕はないし」
ルヴェンの方から頼むと言われたのでそちらの方にまわる。
「ああ、マサルすまんな……ゴホッゴホッ。この程度で倒れるとは俺もまだまだだ」と言って体を起こそうとする。
いやいやいや、無理しないで!寝ててください。あんた咳き込んでるじゃないですか。体中包帯だらけですよ!重傷です!重傷なんです!今!今すぐ治しますから!【エクストラヒール】!!
「おー、やはりいい腕だな。ありがとう、マサル」
ルヴェンさんが起き上がって礼を言う。
「いえ。じゃあ次はオルバさんを」
足を見せてもらう。傷はふさがっているが、右足の膝から下がない。アンジェラは欠損した部位は治らないと言っていた。だがエクストラヒールで治らないだろうか?
【エクストラヒール】詠唱開始――――――発動。
「ありがとう、傷が治った」
だが足は治らない。
「もう一度やってみましょう」
魔力をさっきの倍込める。【エクストラヒール】発動!だが足はそのままだ。
「もう一度……」
「もういいんだ、マサル。魔力を無駄に使うな。こうなったらもう、もとに戻すことは誰にもできないんだ」
「でも……」
「何。悪いことばかりじゃない。金は十分に稼いだし、引退して故郷で農場でもやろうと思ってるんだ。もしナーニアも来てくれるなら一緒にな。Aランクになれなかったのは残念だが、命があるだけマシだ。この足も義足でも作ってもらえれば、すぐに歩けるようになるだろうしな」
「暁の戦斧は?」
エリザベスはどうなる?
「そうだな……ルヴェンかタークス。リーダーをやってみるか?」
「いや。そうなったらおれはオルバと一緒に村に帰るよ」と、タークスさん。
「おまえにはいつも付きあわせてばかりだな」
「ふん。子供の時からの腐れ縁ってやつだ。だが、今までの冒険者の生活も悪くなかった。決しておまえに付き合うだけでやってきたんじゃないさ」
「ルヴェンは?」
「おれは。ほんとはおれは魔法使いになりたかったんだ。もし暁がこのまま解散するなら魔法を習いに行くよ」と、ルヴェンさん。
「へえ。初めて聞いたな」
「誰にも言ってない夢だから。子供の頃適性検査を受けたんだけど丸っきり才能がないって言われた。だけど、エリザベスに教えてもらって小ヒールだけは覚えられた。もう一度夢に挑戦したい」
「そうか。魔法使い、なれるといいな」
その後、少しだけ話をして部屋を出て、エリザベスに声をかけてギルドに戻った。エリザベスはまだナーニアさんを慰めていた。話をしていきたかったが、軍曹どのをもうずいぶんと待たせている。
暁は無事とは言えなかったけど、とにかく生きて再会はできたんだ。半数死んだという金剛隊に比べると運がいいのだろう、そう思った。
正体を隠し、見返りも求めず民衆を治療してまわる謎の旅の神官!
果たしてその正体とは!?
次回、明日公開予定
45話 謎の仮面神官
目もいい、耳もいいサティはすぐに気がついた。
エリザベスが呼吸をしているのを。
指摘する暇はなかったんだけどね
「あの時なんで布団もかぶらず寝てたの?」
「あのローブ、冬は暖かくて夏は涼しい優れものなのよ。他にもね……」
エリザベスによるローブの説明がひたすら続く
これにてエリザベスさんの死亡フラグの処理は終了です
やきもきした方、申し訳ありませんでした
本編2話にティリカちゃん画像を追加しました




