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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第二章

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41話 平穏なる日常

 サティは裁縫に夢中である。さすがに覚えた日に、おれを放置して没頭してたようなことはなくなったが、暇になるとちくちくやっている。小さい巾着袋や手提げ袋、エプロンなんかも自作している。おれもシャツのようなものを献上してもらった。使う道具や布も時々買ってやる。


 サティの稼ぎは優秀だ。裁縫道具や食費、かなりお高いおれの本なんかを買っても少しずつお金が溜まっていく。経験値を稼がせるために獲物を譲ってるって面もあるんだけど。まじめにもう一人奴隷を買ってこようかとも思うが、いまの満ち足りた生活を崩したくもない。それはそのうち考えよう。


 ある日、サティの裁縫スキルがレベル2になっていた。もう一人前と言っていいレベルだ。




 ちなみにレベルであるが


レベル1 初心者を脱したくらいのレベル。基本的なことはできる。

レベル2 一般レベル。武道でいうと段位を持つくらい。家庭の主婦レベルの調理技術。

レベル3 ベテラン。武道だと2,3段以上で指導員ができる。調理なら店を持てるレベル。

レベル4 一流。全国大会なんかでもいいところを目指せる。調理なら☆がもらえるレベル。

レベル5 超がつく一流。




 こんな感じだろうか。3なら時間があればいけるが、4あたりは非常に厳しい。5など論外である。才能があって、努力したとしてもたどり着けるとは限らない、そんな境地である。




 ある日、サティの弓の腕をほめてやるとこんなことを言い出した。


「あの、変なことを言うようですけど、この弓の腕も剣の腕もマサル様がくれたように思うんです。目を治してもらったり、この不思議なよく見える目をくれたみたいに。弓の腕もそうじゃないかって……」


 うわ。するどいな。まあ確かにこれは神様からの贈り物(ギフト)だもんな。間違ってはいない。


 その時は特に否定もしなかった。ただ誰にも言ってはいけないよと釘だけ刺した。


「はい。誰にも言ってません。アンジェラ様にもティリカちゃんにも」


 そういってサティは真剣な顔でうなずいた。




 それはさておき。裁縫がレベル2になったことだし、サティにセーラー服のデザインを書いて見せてお願いしてみた。2人で相談しながら色や使う布、細かいデザインなんかを詰めていく。スカートはもっと短く!見えちゃうくらいで!上もおへそがちょっと見えちゃうくらいがいい!


 ちょっと難色を示されたが、家の中でだけ着るものと言ったら納得してくれた。ひゃっほーい。


 上手くできたら全員分作ってもらおう。そしたら次は何を作ってもらおうかな。夢がひろがりんぐ!!!もういっそ裁縫にポイントを使ってしまおうかと思ってしまうほどである。


 試作品を着たサティを見て、おれはサティを寝室に連れて行った。うん、もうしんぼうたまらんかったんだ。


 次の日はサティを休みにして改良をしてもらった。そしてついに理想のセーラー服が完成した。おれは涙を流したね。理想のセーラーを猫耳が着てるんだぞ。これほど嬉しいことはないじゃないか!そしておれはまたサティを寝室に連れて行って楽しんだ。うーん、次はこのかぼちゃパンツの改良だな……




 おれも別に何もしてなかったわけじゃない。そう、カレーとラーメン、ピザの再現だ。


 結論から言うとカレーは失敗でラーメンはうまくいった。ピザはそこそこってところだろうか。


 カレーはスパイスがよくわからなかったので、匂いの強そうなそれっぽいスパイスを混ぜあわせてみたのだが、なにやら得体の知れないものが出来上がった。そしてサティが逃げた。鼻のいいサティにはきつかったんだろう……謎の物質は土魔法で庭に深く穴を掘って永遠に封印された。


 ラーメンに関しては楽だった。TV番組などでよく作り方の紹介などを見ていたので、それを思い出しつつやってみたら中々本格的な鳥ガラスープのラーメンができあがった。


 よくわからない異世界の鳥をばらしてしっかりと洗って鍋に投入。野菜も何種類か。あとはアクを取りながらひたすら煮込む。3時間ほども煮込んだらちゃんとしたスープになっていた。あとは塩とスパイスを足せばラーメンスープだ。ただラーメンの麺がパスタになった。ラーメンの麺ってかん水を使うらしいんだけど、かん水ってなんだ?あの黄色っぽい麺はどうやって作っているのか謎だ。


 ラーメンは好評だった。野菜や肉、ゆで卵をトッピングして、麺がパスタで違和感を感じてるのはおれ一人。まあ美味しかったんだけどね。


 プリンも少し改良した。バニラエッセンスはさすがに入手できなかったが、ブランデーを入れることを思い出したのだ。副ギルド長にもらったお酒を少しいれると味がよくなった。


 そしてピザだ。ピザ生地は問題がなかった。この世界でも液状のパン酵母があったので分けてもらった。トマトソースも作った。ただチーズがなかったんだ。


 馬牧場でチーズも作ってないかと尋ねに行ったのだが出てきたのはヨーグルトだった。チーズって羊の胃から取れる何か?が必要なんだっけ。記憶が曖昧だ。そんな訳でピザはチーズなしになった。マヨネーズをかけてみたらかなり美味しかったからいいんだけどね。


 しかしヨーグルトは収穫だった。デザートが1種類増えた。おれは砂糖なしでも結構好きなんだが、みんなはちょっと苦手な感じで砂糖とマンゴーっぽい果物をいれてやったら喜んで食べていた。


 次は馬乳と砂糖でアイスっぽいものを作ってみようか。




 こうやって食生活も少しずつ改善している。だがあとは米が欲しい。米が。


 たぶんだが、米もどこかにあると思う。この世界、地球に似すぎている。地球にある動植物と大体同じ物があり、八百屋などに行ってもせいぜい異国風だなってくらいしか違和感がない。きっとそういう世界だからこそ伊藤神はおれを地球から送り込んだんだろう。


 月もあるし、太陽も地球で見るのと同じ。星の配置は見たこと無いものだが、南半球だったらわからないし。この惑星を宇宙から見て、地球そっくりでもおれは驚かない。そうだとしたらたぶんここは南米かアフリカ大陸だと思う。地図を何個か見つけたがこの国のある大陸ですら不完全でよくわからなかった。


 確かめている時間はない。世界の破滅が近いんだから。


 食事メニューを増やす余裕は無理やりでも作るんだけどね!




 

 ハーピーのとき怪我を治した冒険者達とも会った。


 一通りお礼を言われ、そのあとは朝っぱらからみんなで飲みにいった。死んだ冒険者のことを聞かされる。うん、うん。いいやつだったんだな。田舎から出てきてがんばって。そんなこと聞かされてどうしろっていうんだよ!くそっ。次はハーピーごとき瞬殺してくれるわ!そう泣きながら俺たちは酒場で気勢を上げた。酒場の人にしたらいい迷惑だったろうが、客が少なかったので見逃してくれたんだろう。




 訓練場ではサティが大人気になっていた。相変わらず教官は複数ついてるが、訓練に来ている冒険者達もサティの周りに多くなった。おれは対人は嫌いなので教官くらいとしかやらないが、サティは積極的にやっている。小さな子にやられたり、互角だったりして悔しいのだろう。対戦の順番待ちができていた。


 見てると大体7,8割くらいは勝っている。たまに負けて傷がついてもすぐに回復魔法をかけてもらっていた。


 だが恐ろしいのはこのあとだ。サティを迎えに行くと、もちろんサティはおれにうれしそうに駆け寄って来る。そしてみんながおれを一斉に見る。ただ普通に見てるだけの人もいるが、中の何人かは明らかに殺意がある。実際に対戦を申し込まれたこともある。もちろん断った。実剣でやろうとか物騒なことを言う奴もいるんだよ。やってられん。




 そうやって冒険者達からはなんとか逃げていたのだが、あるときクルックとシルバーがやってきた。


 少し警戒する。一人で大人の階段を登ったなどと知れたらこの前のリベンジが始まりそうだ。逃げようかと思ったが余計怪しいので、大人しく2人がやってくるのを待った。


「よ、よう」


「マサル!聞いたぞ」と、クルック。


 やばい。どっかからばれたのか!?


「な、なにをだね」


「ハーピーのとき活躍したそうじゃないか」


 ああ、そっちかよ。ホッとした。

 

「んー、まあな。ちょうどそん時いたんだよ。お前らは何してたんだよ」


「依頼で出てた」


「良かったな。結構やばかったんだぞ」


「聞いてる。死んだ人、ちょっと訓練場で話とかしたことあるんだよな……」


 ちょっとしんみりする。


「俺たちは死なないようにしないとな」


「まあうちはラザードさんがいるし、あの人がいればドラゴンでも倒しちゃうから」


「あれでなんでCランクなの?」


「仕事選ぶっていうか。仕事あんまりしなかったらしい」


「でも今見てると結構やってるみたいだけど」


「そう。リーズさんなんだよ。なんか結構前から付き合ってたみたいでさ」


 シルバーがちょっと動揺してる。まだ吹っ切れてないのか。


「それで頑張ってんのか……依頼内容はどうなんだ?報酬がいいからって危険なの選んでたらやばいだろ」


「リーズさんを危険に晒すわけないだろ。ドラゴンで報酬も結構あったし、護衛とか軽い任務ばっかりだよ」


「ほう。それであんまり見ないんだな」


「それだよ!」


「それ?」


「ラザードさん、マサルに会いたがってたぞ」


「おまえ!まさか……」


「いやいや。あれはさすがに冗談だ。でも俺たちが戦った話がな……」


「……今日は来てないよな?」


「……」


「……」


「おれは逃げるぞ!」


 そういって身を翻そうとしたとき、声がした。


「ほう。何から逃げるんだ?」


「えーと」


 あんただよ!ラザードさん……


「ずっと会いたいと思ってたんだが、中々タイミングが悪くてな」


 いや、おれは会いたくなかったです。まじで。


「用件はわかってるな?」


「一緒にお酒でも……」


「それもいいが男同士ならやっぱりこれだろ」と、背中の剣に手をかける。


「クルックとシルバーとはやったそうじゃないか。おれもぜひお相手願いたいな」


 思わずクルックとシルバーに視線を送るが2人して首を振られた。くそっ。それでも友達か!?


「いやー、おれなんかラザードさんの相手にならないですよ。ほんと」


 その背中のでかい剣なんかで斬られたら死んでしまいます!


「あ、あの。用事があるので」


「クルックとシルバーは1分ほどで叩きのめしたそうじゃないか。なに、時間は取らせんよ」


「いたたたた。お腹が」


「おまえ回復魔法使えるだろ?それともなんだ。おれとやりたくないとでもいうんじゃねーだろうな?」


 ラザードさんが剣呑な雰囲気を纏い始める。こえええええええ。なんでこの人こんなに殺気出してんの!?


「木剣……木剣で!」


「いいだろう」


「魔法は……?」


「いいぜ」


 よし!それなら勝ち目もあるぞ。エアハンマーを開幕でぶち込んでジ・エンドだ。




 準備をするふりをして木剣に硬化をかける。そして始まる前にゴーレム作成を詠唱する。開始と同時にゴーレムを四体だし足止めをし、エアハンマーだ。開幕サンダーも考えたんだが、さすがに怒りそうなのでやめておいた。


「いつでも来な」と、剣を構えるラザードさん。おれの木剣と同じのを持ち、盾すら持ってない。


 ちょっと舐めすぎじゃないか?魔法使いの怖さ、思い知らせてやろう!


「メイクゴーレム!」


 1mほどのサイズの四体のゴーレムが大地より生まれ、襲いかかる。おれも後から追いラザードさんに接近する。


 ゴーレムがラザードさんの足に取り付いた。ラザードさんは気にする風もなく、こっちを見てる。ちょっと嫌な予感がしたが、作戦通りエアハンマーを放つ。


 命中する、そう思った時、ラザードさんはひょいっと剣を振るいエアハンマーを切り裂いた。見えたわけじゃないが確かに切り裂いたんだ。


 続いてゴーレムが一体、二体と剣で薙ぎ払われる。ちょっと待て。木剣だぞ!ゴーレムって木の剣でどうにかできるほどやわらかくないぞ!?


 薙ぎ払われたゴーレムはぐずぐずと砂になった。ダメージくらったゴーレムはああなるのか。


「こんなもんか?せっかく先手をやったのに」


 はっ!?見てる場合じゃない。素早くサイドに回りこむ。まだゴーレムは二体足に取り付いている。


 エアハンマーを撃つと同時に斜め後ろから斬りかかる。


 ラザードさんはゴーレムの一匹を蹴り飛ばすと、またエアハンマーを切り裂く。だがそこがチャンスだ。


 一気に間合いをつめ剣を振るう。肩のあたりに当たるかと思ったその時、ラザードさんのほうから間合いをつめられ、肩の防具で受けられた。木剣は柄に近い部分があたり、ダメージは少ない。


 ラザードさんがニヤっと笑った。やばい!?左から木剣が飛んでくる。ぎりぎり盾でガードするが、あまりの威力に腕がもげそうになり、体勢も崩れる。なんて力だ。


 慌てて距離を取る。最後のゴーレムも倒され消えた。


 ラザードさんは追撃する様子もなく余裕の表情だ。くそ、エアハンマー防ぐとかあり得ない。どうする?まともにやったら勝てないぞ……


 こうなったら相手が余裕こいてるうちにでかい魔法をぶち込んでやる。


 【サンダー】詠唱開始――その時ラザードさんが動いた。


 くっ。一撃を木剣で受ける。かなり力を入れないと木剣が吹き飛ばされそうだ。速さは軍曹どのほどじゃないから見える。だが、一撃一撃の重さが段違いだ。まともに受けるたび衝撃が体中に響く。


 逃げようとしてもうまく距離をつめられ回避すらできない。


 気がつくと壁際まで追い詰められていた。


「いいぞいいぞ。魔法使いにしておくのはもったいない動きだ」


 じりじりと間合いをつめられる。


 魔法を詠唱――発動と同時に距離をつめ斬りかかる。狙いは足だ。土壁が足の下から盛り上がりラザードさんがバランスを崩す。これで決める!


 バランスを崩したかに見えたラザードさんはひょいっとジャンプをして剣をかわし、そしておれの体に衝撃が走り――




 気がついたら地面に倒れていた。気絶していたらしい。ぐっ。痛てえ。これ絶対折れてるよ!


「すまんすまん。最後のあれでちょっと慌てて、つい本気だしちまった」


【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】


 ふう。やっと落ち着いた。木剣でほんとよかった……実剣だったら真っ二つだよ。


「ひどいですよ、ラザードさん。死ぬかと思いました」


「悪い悪い。だがなかなか楽しかったぞ。またやろうな」


 いえ、もう結構です……


「しかしちょっと物足りんな。おい、クルック、シルバー相手してやる!」


「「ええ!?」」


 はっ。いい気味だ。おまえらも死んでこい。


「心配するな。死なない限りおれの回復魔法で治してやる」


「おお、よかったな!思う存分できるぞ。さあ、用意しろ!」




 情け容赦なく剣を振るうラザードさんに、ボロボロにされていく2人を見てちょっと心が痛んだ。いい気味だなんて思ってごめんなさい。


 だが2人を治療してもう終わりかと思ったその時。


「よし次は3人だ!」


 3人がかりでもぼろぼろに負けた。ラザードさん強すぎだろう。


 だけどシルバーはちょっと頼りになると思った。盾役がいるといいな。

 

非情なる異世界はついにその牙を見せ始める

世界の破滅とは一体なんなのか?

「使徒という存在を知ってますか?」

「使徒……昔話の勇者様が使徒なんですよね?」


次回、明後日公開予定

第三章 42話 神々の使徒


誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

ご意見ご感想なども大歓迎です。




一日お休みで活動報告のほうに短編の続きを1本投下します

目次の下部にもリンクを貼ってあります おまけ② です

本編のパラレルとなっております

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