336話 友人
本日は休暇も兼ねてこの世界での数少ない友人であるクルックとシルバーに会いに来た。シオリイの町もずいぶんと久しぶりだ。かつての俺の家、最初に借りてサティと住んで、その後購入した家は、養育院の子供たちが時々清掃に入っていてくれて、いつでも住めるような状態でずっと維持されていた。
二人へは昨日連絡を取ってもらったところ運良く捕まえることができて、今日はさほど待たずに護衛のエルフに案内されてきて会うことができた。
「お久しぶりです、マサルさん。お噂はかねがね!」
居間で待つ俺とサティの前に現れたクルックが開口一番そう言って威儀を正し、勢いよく頭を下げた。シルバーのほうは久しぶりだなと、手を上げて普通に挨拶をしてくる。
「二人ともよく来てくれた。まあ座り給え」
真面目くさった感じで俺も応じ、机の対面を指し示す。座ったところで無言で顔を見合わせる。
そうしてどちらからともなく吹き出した。
「いや、二人ともなんか喋れよ」
「座り給えってなんだよ」
何がおかしいのかクルックが笑いながら言う。いや、俺もなんか吹き出してるけどさ。にらめっこか? 笑ってても始まらないので、切り替えて話し出す。
「ん、んっ。まあ俺もそろそろ貴族だからな」
久しぶりだったが、クルックはぜんぜん変わってないな。シルバーも笑いながらおめでとうと言ってくれる。
「それで二日後に王都で国王陛下に会って、正式に子爵に叙任される予定なんだ」
落ち着いたところでそう話し出す。
「おおぅ。いきなり子爵か。さすがは勇者だな……」
その程度の話は王国にも伝わってるか。ヴォークト殿が王国冒険者を率いてヒラギスには参戦していて、すでに多くの者が帰還済みだから、そこからだろう。
「勇者とか色々話は聞いたが、ほんとうなのか?」
そうシルバーが冷静に尋ねてくる。
「だいたい本当だろうな。そのあたりもゆっくり話すよ。今日は一日空いてるんだろ?」
「うん。ヴォークト教官は剣聖の後を継いだんだろ? ギルドが大騒ぎだったぞ」
そうクルックが答える。ヴォークト殿は冒険者ギルドの教官を辞めるのでその挨拶やらで、一度王国には帰還していた。今はビエルスに戻ってミズホ攻略の準備中だろうか。
「良いものがあるぞ。ほら」
そう言ってアイテムボックスから剣聖継承の儀の時の写真を取り出す。一〇枚ほどのモノクロ写真は、各場面がなかなかよく撮れていた。
「これは……絵か? マサルにサティちゃん。教官殿もいるな」
「絵じゃない。こいつは見たままを紙に写し取る道具でな。シャル!」
そう言って隣室で控えていたシャルレンシア三姉妹に声をかけるとすぐにやってきた。
「はい、お呼びでしょうか」
そう代表して長女のマルグリットが答える。
「カメラ持ってたよな。見せてやってくれ」
「ではせっかくなので一枚、皆さまをお撮りしましょう」
マルグリットが言うとシャルがアイテムボックスからごついカメラを取り出した。シャルたちは護衛として今日はついていてくれている。カメラも一台預けられて、俺になにかあれば記録するのだと言っていた。
次女のキアラリアが手慣れた様子でガラスフィルムをカメラにセットし、よくわかってないクルックとシルバー、それから俺とサティをさっと撮影し、ガラスフィルムを専用の容器に収めた。
撮影が終わったカメラを受け取って見せながら二人に説明をしてやる。
レンズを覗いてそこからの光景をそのままフィルムに固定するのだと、実際に見せてやれば直感的にわかりやすい。そして撮影したフィルムから特殊な薬品を塗った紙へと露光することで何枚でもコピーができる。
二人は俺の説明に、原理までよくわかっていない様子だが、何ができるかは理解できたようだ。
「なあ。これってなんでも撮れるのか?」
クルックがなにやら考えている様子でそう言う。なんでもか。そりゃなんでもだな。そう、たとえばエッチな感じのやつとか。
「もちろんなんでもだな。さっきのは五枚ほど現像を頼む」
そうカメラを返してシャルに頼んでおく。現像のほうは手間はそれなりにかかるがガラスフィルムよりコストは安く数を作れる。頭を下げて三姉妹が退出していく。
「聞きたいことはわかる。だがこういった写真ならいいが、あまり肌の露出が多いモノは当然本人の許可が必要だな。こうやってずっと残るんだ」
そう言って机に置かれた写真を指し示す。
「そしていつでも見たい時に見れる」
俺や俺たちの写真もすでにかなり撮られて、エルフたちの間で流通しているようだ。アイドルのブロマイドか?
「これは……すごいモノじゃないか?」
うちの家族写真を見ながらクルックが重々しく言い、シルバーも言い出した。
「あのカメラというのは手に入らないのか?」
「まだ数が作れなくて販売はしてないんだ。そのうち金貨一枚とか二枚で買えるようになると思うが、まだまだ先だな」
カメラからフィルムからすべて職人の手作りだからな。せめてフィルムを量産できればカメラを売り出すのも有りだとは思うが、あまりカメラ作りに人員を割くわけにもいかない。
それでもカメラは軍事的にも重要な技術だ。研究開発はしっかり続けているし、何よりエルフもカメラの面白さに嵌っているから、一年もすればもっといいカメラやフィルムができていそうだ。
しかしエロ分野か。紙の量産や印刷技術が進めば新聞社でも作ろうかと思っていたが……
この町にも娼館くらいはある。しかしカメラを持っていって撮影までできても、現像までは俺ではこっそりできないし、そういうことをエルフたちに頼むのもな。
「お前らの言いたいことはわかる。どうにかできないか考えてみよう」
話のわかる人員を確保して俺個人の撮影現像部門を作る? 金ならあるが、もう少し量産できてコストが下がらないと商売にもならないか。いっそこいつらに担当させて……いや、それはダメか。今日はこいつらを別件でスカウトしにきたのだ。
「いま撮ったやつは明日には渡せるはずだ。それで最近はこういう新しい物をいくつも作っていてな」
「ビエルスで修行してたんじゃないのか?」
「やってたぞ。ただそればっかりってわけにもいかなくてな。修行は春くらいにまた再開する予定なんだけど、お前らも一緒にどうだ?」
「でもものすごく厳しいんだろ?」
そう当然のことをクルックが聞いてくる。
「ラザードさんのシゴキが可愛く思えるくらいだな。ああ、初心者講習があっただろ? あれをそのまま倍……いや三倍きつくした感じだ」
「三倍!?」と、シルバーがおののき、クルックも首を振って言った。
「お、俺はいいわ。マサルほど才能があるわけじゃないし」
「才能よりもやる気の問題なんだけどな……まあ本当にきついから、無理にとは言わないが」
初心者講習のときはこいつらのほうがしっかりしてたし、伸びしろはあると思うのだ。むろん今の剣術の差や才能の問題があるから、俺と同じ修行は無理があるが、それでも一緒にやるだけで大幅に強くなれることは間違いない。
「それよりアンジェラさんやエリザベスさんは? 一緒に行動してたんだろ?」
「アンとティリカはここの神殿に行ってる。エリーは帝国の実家に里帰り中。そうそう。ティリカに子供ができるんだ」
「お、おめでとう。マサルももう父親かあ」
なんとも言えない表情でクルックがそう祝福してくれ、シルバーもおめでとうと言ってくれた。
「お前らはそういう話はまだないのか?」
「冒険者なんかやってると出会いなんかねーよ」
「ラザードさんは結婚できてるじゃないか」
「あの人は強いし稼げるからな」
結局甲斐性なんだよな。そのラザードさんは帰省中らしい。シオリイからそう遠くない村だから、こちらも会いたいと知らせを出してもらったから今日か明日には会えるはずだ。ラザードさんもスカウトしたいし、無理でも仕事の依頼をしたい。
「今でももてたい、世帯を持ちたいか?」
「そりゃいい人がいればなー。それともマサルが紹介してくれるのか?」
「いいぞ」
こいつらと居ると女の話ばっかだな。サティも居るのに。
「マジで!?」
「今日はお前らをスカウトしに来たんだ」
「子爵になるから部下探しか」
そうシルバーが言い、クルックは乗り気でない言葉を出す。
「でもマサルの領地、遠いしな……」
「でも貴族の側近。勇者の友人だ。もてるぞー。詳しい話を聞きたいか?」
それでも二人は聞く気にはなったようで、頷いた。
「じゃあ順を追って話そう。ゴルバス砦のことは覚えてるな?」
二人がまた頷く。こいつらは防衛戦には参加してなかったが、場所的にもここから一日か二日で移動できる距離で、この町の冒険者の多くが参戦していた。
エリーが参加した開拓団が壊滅して、そのままの勢いで砦にまで魔物が襲来した。まだ俺もそんなにレベルが高くない頃で、火力は足りないわ魔力は尽きるわで大変だった。
「あそこにもう一度開拓団を送る。俺がリーダーで、成功すればまるごと俺の領地となる。そして戦後、子爵から伯爵になる予定だ」
領土の広さから子爵では格が足りない。侯爵でもいいくらいだが、それも今後の予定の一つだ。領地運営が軌道に乗って、本当に王国の食料生産の三割を担えるくらいになれば、そのときはまた昇格の話になるのだろう。
「お前それは……」
しかし二人は眉をひそめる。確かにこれだけ聞くと美味い話に裏がある典型だ。危険な仕事に空手形。美味すぎる話に俺が乗せられているとしか思えない。
「今回は勝算がもちろんある。俺もエリーもゴルバス砦に居たんだぞ? ヒラギスでも戦った。魔物の力を過小評価はしない。偵察も十分にして魔物の戦力や動きも把握して、戦力もしっかり用意した。確実に勝てるんだ」
そう聞いても二人は疑わしそうだ。
「そうだとしても俺たちなんか大した役にも立たないぞ?」
そうシルバーが言い、クルックも頷いている。
「魔物の殲滅に関しては問題はない。ゴルバスやヒラギス以上の魔物が居ても、今度は確実に先手を取れるからな。戦力はエルフが全面的に協力してくれるし、王国はもちろん、帝国からも兵士を借りることになっている。お前らにそれを手伝えなんて言わないさ。冒険者の出番はもっと後だ」
ふむふむと二人は聞いている。少なくとも無謀だとは思わなくなったようだ。
「問題は占領後の話なんだ。領地の運営にはそれなりの人員が必要だが、俺はよそ者で知り合いも少ない。国王陛下も支援は約束してくれているが、とにかく人が足りないんだ」
支援も期間限定で借りるだけだ。エルフはダメだ。エルフは王国からの独立を考えている。手伝いはもちろん頼めるが、領地運営の主体は王国人でなければならない。まあダメなら頼るが、その前にできることはやっておくべきだな。
「なるほど。しかしそれこそ俺たちにできることなんてないんじゃないか?」
そうもっともなことシルバーが言う。
「なんでもいいんだ。どこかの村長になってもいいし、領民軍の指揮官に収まってもいい。ヤマノス家の家人や騎士になってもいい。今なら選び放題だぞ」
二人はそれでも不安そうだ。田舎村の農夫出身で冒険者をやりに町にでてきたのだ。教育はないし、能力も特筆すべきところはない。ただ無能でもない。クルックは人当たりはいいし、シルバーは真面目だ。冒険者としてもラザードさんによく鍛えられている。
「俺も伯爵で領地を収めるなんてやったことない。でもすぐにできる必要はないんだ。教えてくれる人はいっぱいいるしな。そうだ、農業指導なんて仕事もあるぞ。開拓民には農業未経験者も多い」
「それならできるかもしれない」
そうシルバーが言うが、クルックは自信がないらしい。シルバーは家の手伝いも真面目にやっていたが、クルックは末っ子らしく手を抜いて遊び回っていたようだ。そうしてクルックの誘いで二人は冒険者になった。シルバーにしてもそのまま村に居ても農地を継ぐ将来はなかったのだ。
そしてクルックから当然の質問が出る。
「危険はどうなんだ?」
「当然ある。魔物は念入りに排除するつもりだが、あいつら、どこからともなく侵入してくるからな」
二人はそうだなと頷く。シオリイの町ですらハーピーの集団の襲撃があったし、ゴルバス砦が落ちていれば、この町と周辺は魔物に蹂躙されていただろう。
冒険者をしている二人なら真の安全などどこにもないと理解している。壁の中ならともかく、野外で安全な場所などない。それが人跡未踏の開拓地なら尚更だ。
問題となるのはそれが許容できる範囲のリスクかどうかだ。
もっと具体的な話をするかと地図を取り出して見せた。ゴルバス砦を抜けると大きな平野部があって西側に海がある。そして平野部を囲うように山脈が走っており、北と西に抜けるルートがあって、また魔境の奥深くに続いている。
「見ての通り、領地はかなり広い。それでここと、ここに砦を築いて魔物の流入を防ぐが、他からの侵入はどうしても防げない。だから最初はゴルバス砦寄りに開拓地を作る」
以前の計画でも砦を築く予定だった場所に町を作り、そこを防波堤とし、当面はその後背地に入植していくことになる。最初に使うのは全領地の四分の一くらいの領域だけだ。そこからどう広げるかは、確保できる開拓民の数や防衛体制次第になるだろう。
資金はあるから兵士を多めに確保してもいいか? 魔物を狩るなら食料もついでに得られるし、維持コストは案外抑えられる。それとも万里の長城みたいな防壁をみんなで作ってもいいな。土魔法を使える人員が増えたから、今ならかなり無茶なこともできる。とにかく食料生産を安定させるため、開拓民への被害は極力減らしたいのだ。
「ラザードさんにも頼む予定で、今頃連絡がいっているはずだ」
「ラザードさんは腰を落ち着けたがっていたし、食いつきそうだな」
そうクルックが教えてくれた。軍の指揮官か、無理でも冒険者を率いてくれると助かる。しかしそうなるとパーティメンバーのこいつらは、どっちにしろ同行するか、それとも二人で独立するかみたいな選択をすることになる。
「もし新領地で偉くなりたいなら、最初から参加したほうがいい。開拓の最初からの参加と安全になってからの参加じゃ立場が違ってくる」
有能であればいい。だが二人は言ってしまえば平凡な冒険者だ。俺の友人というだけで引き立てるのも限度がある。ちょっとした役職ならコネでもいいが、できれば二人はミズホ運営の幹部候補になってもらいたい。
「危険は当然ある。しかし勝算は高いし見返りは大きい」
そう締めくくった俺の言葉に二人は顔を見合わせる。
「なんで俺たちを誘う?」
シルバーが真剣な顔でそう尋ねてきた。
「友だちだからな」
二人は相談するでもなくまたも顔を見合わせる。危険ではあるが、そもそもこいつらも冒険者なのだ。普通に冒険者稼業をやるより、俺の側で何かの仕事をしているほうが、普通のリスクははるかに少ないはずだ。
「知ってるか? 国王陛下の側近は子どもの頃からの友だちなんだそうだ。俺は故郷ならともかく、こっちにいる友だちってお前らくらいなんだ」
知り合いレベルは多いし、ビエルスで修行した中には友だちといえそうな者も何人かいる。しかし仲の良い友だちといえばこいつらくらいしか思い浮かばない。
「伯爵の手伝いなんて無理だと思うのはわかる。だけどそれは学べばいい。すぐにやってみせろって話じゃないんだ」
二人は成人したてで、日本なら高校生くらいの年齢だ。何かを学ぶのに遅くはない。
「信頼できる仲間が必要なんだ」
そう真剣に言う。確かにこいつらは頼りない。背中を預けるのも実力的に不安がある。だが信頼は……できるのか? うん、まあできる。
「どうしても俺たちが必要か?」
やっとクルックがそう口に出した。
「そうだよ。これから俺は偉くなる。そうなったら友だちなんか、馬鹿話ができる相手なんかもう作れないだろうな」
「俺たちはマサルの話相手かよ」
そう言いながらもクルックは満更でもなさそうだ。
「不満か?」
「いいや。お前の話相手をするだけでモテモテなんだろ?」
「間違いなくな。ああそうだ。魔法を覚えたいって以前言ってたよな? 今ならすぐにできるぞ」
「それってエルフの魔力開発法の話か? あれは今は帝国だけで、しかも金持ち以外お断りって聞いたが……」
シルバーがそう言う。王国にもそんな感じで伝わっているのか。
「希望者が多すぎてな。しばらくは一般にまで順番は回ってこないだろうな」
なにせ九割の人間が魔法を使えないのだ。希望者がどれほどいるか、想像もつかない。できれば一般にまで枠を増やしたいが……増やすか? いっそ抽選とかで一般向けに少し枠を作ってもいいかもしれない。
「しかしなんとだ。この俺は先日、帝都の魔力開発施術院の院長に就任してな。そうだ。魔力開発院のトップだよ」
「ええ!? なんでまたそんなことに」
クルックもさすがに驚いたようだ。
「もともと魔力開発法がエルフの秘術なのは聞いているか? それを俺が公開するように頼んで、帝都の神殿に施術を担当してもらったんだけど、思ったより希望者が殺到してな」
「そりゃそうだ。誰だってなれるものなら魔法使いになりたい」と、シルバー。
「神殿だけでやるのはきついってんで、魔力開発を独立させることになって、神殿にもエルフにも顔が利く俺がトップになったってわけだ。だから二人をねじ込むくらい訳がない」
「あの、お金は……」
「もちろん無料でいいぞ」
「うおおおおおおおおおお。お、お願いします、マサル。いやマサル様! シルバーもそれでいいよな?」
「うん。マサルの話、受けるよ」
「ずいぶんと食いつきがいいじゃないか?」
マサルの頼みなら仕方ねーなって感じだったのが、いきなりの手のひら返しである。
「だって魔法使いだぞ。一生食いっぱぐれはないし、冒険者を続けるにしたって後方で守ってもらえるんだ」
「でも魔法使いが増えるならこれからは違って来るのか?」
そう考えて言うシルバーは冷静だな。
「そうでもないかな。早ければ一日で覚えるんだけど、それでも一人一人時間をかけてやるし、施術する人員もまだ少ないから、そう一気に増えないはずだ」
いずれ誰でも魔法使いになれるようにはしたいが、一〇年やそこら、あるいは二〇年かかるかもしれない。当面は金持ちや貴族中心だし、一般で魔法使いが貴重な今の状況は当分変化はないだろうと、そう話す。
「いつ? いつ魔力開発は受けられる?」
「今日でもいいが、もう少し話そうぜ。積もる話も……」
「いやいや。俺たちもゴルバス攻略に参加するんだろ? 早いほうがいい。な、シルバー?」
いやまあいいけどさ。
「じゃあ移動するか」
帝都か。それともエルフの里か。
「おお、転移魔法だな! 俺たちも使えるようになるかな?」
「空間魔法は難しいぞ。アンもかなり手こずってたし。まあそこら辺の魔法の基礎も一緒に教えて貰えるようになってるから」
まず帝都に行って魔力開発院の引っ越しの様子を見てみるか。そっちが忙しいようならエルフの里へ行こう。エルフの里には大元の魔力開発の施術者が残っている。
「小一時間ほど出かけてくる。また戻って来るから、誰か来たら待たせておいてくれ」
そうシャルたちを呼んで告げて伝令役に一人残ってもらうことにする。
「魔法を覚えてそのままゴルバスってことになりそうだけど、大丈夫か?」
「そうだな。宿も引き払ったほうがいいか?」
クルックの言葉に頷く。当分シオリイには戻らないだろうな。
「よし、今日からお前らは俺の直属の部下だ。給料も出すし、宿から飯から全部面倒を見てやる」
「勇者で伯爵様の側近だな!」
「最初は雑用係だぞ?」
浮かれているところを悪いが、いきなり側近は無理がある。
「おい。いきなり話が違うぞ!?」
そうクルックが文句を言う。
「じゃあ町の運営とか領民軍の指揮官でもしてみるか? 俺から王様に頼めば男爵とかもいけると思うけど、そっちはさすがに色々勉強しなきゃだぞ。そういえばお前ら読み書きはできたっけ?」
「俺はできる」
「読めるけど、書くほうは名前くらいしか……」
そうシルバーとクルック。そんなレベルか。俺もよくこいつらを幹部候補にしようとか思いついたな。まあ勉強させればいいか。要はやる気の問題だ。
「で、クルックは俺の側近で何をするんだ?」
「雑用係でいいです……」
「それでいい。まあ俺のコネがあるんだ。仕事は覚えればいいし、最低でも村の一個くらいはやるから心配するな」
「そうだな! 魔法使いにはなれるし、マサルの話し相手に飽きたら冒険者に戻ってもいいし!」
頷く。それでいい。来るものは拒まず、去る者は追わずだ。どうしても合わなければリリースするしかない。じゃあ、と動き出そうとしたところで家の外で動きがあった。
「おーい、マサルー! 来たぞー!」
この大声はラザードさんか。
「ラザードさんにも一から説明しなきゃいかんな」
「ラザードさんには何を頼むつもりなんだ?」
「もちろん武官だ。領民軍の指揮か、俺直属の騎士団ってところか」
腕は立つし、面倒見もいい。軍の指揮は専門外だろうが、領民軍と言っても基本魔物の相手だ。自信がないなら、少人数の指揮からやってもらってもいいし。
「それが無理でも冒険者を集めて、戦後の魔物の討伐を手伝ってほしいんだ」
二人とは待遇がずいぶんと違うが、二人も妥当だと思ったようで、特に不満な様子もない。
人材はフランチェスカやウィル、エリーの伝手で探してもいいんだけど、まったく知らない人よりまずは知り合いからだ。
統治の両輪たる文官と武官のトップだけでもどうにかする必要があるんだが、いやほんと、マジで人材がいないんだ。武官はラザードさんに断られてもまだ候補はいるが、文官がほんとに居ない。直接自分でやる領主もいるが、それでも補佐役はどうしても必要だし、俺は領地運営はできれば投げてしまいたい。信用できる人材が必要なのだ。
この二人、スパルタで鍛えてどうにかならないか? 五年の余裕があるのだ。
「お久しぶりです、ラザードさん。まあ座ってください。連絡した時に聞いたと思いますが、仕事を頼みたいんですよ。ええ。報酬はがっつりです」
そういえば二人魔法使いになって安全な後方がいいと言っていた。すなわち文官希望ということでなかろうか。
多少の能力不足があっても俺も手伝えばいいし、優秀な補佐官を探してもいい。それで二人のどちらかが使い物になればいい。伯爵家の文官のトップ候補にしようと言うのだ。文句はあるまい。そうラザードさんにも同じ説明をしながら考えていると、俺の頼みはあっさり承諾された。
「いいだろう。騎士団でも領民軍でも率いてやる」
おお! 頼もしい。しかし……
「できますか?」
「できるかできないかじゃなくて、やるんだよ」
さすがだ。二人とは覚悟が違うな。
「こんな機会はもう二度とないだろ? まあやってできなきゃ……」
「冒険者ギルドの教官とか幹部とか、ラザードさんの腕なら仕事に困ることはないですよ」
うむとラザードさんは頷く。そうだ。二人の教育もラザードさんに監督してもらおう。こいつらはラザードさんには完全に頭が上がらない。確実に厳しくしつけてもらえる。できるかできないかじゃない。やる。いい言葉じゃないか。
「いやー、ラザードさんが快諾してくれて良かったですよ。これからは俺たちで立派な領地を作って行きましょう!」
良かった良かった。懸念事項が一個減ったわー。
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