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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第十六章

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315話 科学と魔法と

「マサル様、成功しました」


 翌日の朝食時、イオンからそう報告される。


「遠心分離機? 手回しでできたのか」


 きっとものすごく頑張って回したんだな。


「それがさすがに手では限界で、魔法を使うことを思いついたのです」


 そこは足漕ぎじゃないかと思ったが、自転車にすると機構が少し複雑になるか。

 回転数を出すにはギアを重くするか大きくするかだ。大きいギアを作るのは手間がかかりそうだし重くしたか。

 レビテーションは速度は出ないが、魔力の高い者が使えば出力はかなり出せる。そこでギア比をあげて、高速回転を実現したそうだ。

 

「一度、回転に耐えきれずに歯車(ギア)が割れてしまったのですが、夜通し作り直して明け方にやっとできたのです」


 やっとって早い。ものすごく早い。しかしそれでどこかいつもより眠たげだったのか。


「それで成分がきれいに分離しましたので、次は効果の実験ですね」


「そうだな。後は色んなポーションで試すのと、耐久性と回転数の改良だな。血液と尿も試すといい。病気の人と健康な人では成分が違うんだ」


 それを比べることで、たとえば病気になりかけ、毒にやられた場合の検出など応用方法は多いと話す。


「俺の元居た世界では具合が悪くて病院に行くと、わかりやすい風邪とか以外はたいてい血液と尿を検査された」


 もっと具体的な話? ちょっとわからないですね……

 しかしレビテーションでいいなら、使い手は多い。もし十分に小型化できるなら航空機のプロペラを回すのに使えるのでは?


「これはお手柄だぞ、イオン。他にも応用ができるかもしれない」


 プロペラ機では空気の薄い高高度は飛べないが、速度は出せる。三〇〇か四〇〇か。たとえ二〇〇キロ毎時くらいでも、これに追いつける生命体はいないだろう。

 しかし魔法か。この世界の人間は困った時の選択肢にまず魔法があるんだな。石油の精製も一日でやっちゃったし、魔法でかなりの工程を省くことができる。


「お手柄などと恐れ多いです。わたくしなどマサル様のアイデアを聞いて、それをそのまま皆に伝えてお願いするだけなのです」


 それに、とイオンが続けた。高回転にするにはイオンを筆頭にトップ層の魔法使いが必要で、持続時間の関係もあって交代交代で回す必要があるのだそうだ。

 そうだった。魔法の連続使用は魔力酔いを発生させるんだった。フライとかもそれで休み休み運用する必要があるのだ。出せるパワーのほうも、初級から中級クラスの魔法使いで自分の体重を持ち上げられる程度。たとえば八〇キロくらいなら力のある冒険者でも筋肉で出せるから、それを超えるなら上位の魔法使いが必須となる。


 でも試す価値はあるな。エルフは人間より遥かに魔力が高いし、無動力で風魔法で補助して飛んでいる現状と比べれば、一〇分間でもプロペラで推進できるのなら大きな進歩だ。


「あとで航空機部門に行って、成果を教えてやってくれないか? 高回転のプロペラができそうだって」


 忙しくて基本丸投げしているのもあるが、俺が行ってもやれることはさほどない。覚えている限りの情報を渡して勝手にやってもらうほうが結果が出てる気がする。俺が居ると俺に頼って独創性が減る感じなのだろうか。


 やはり蒸気タービンも電気モーターも作る必要がある。あとはロケットエンジンも。

 蒸気タービンも水魔法と火魔法で、航空機に載せられるくらいコンパクトになるんじゃないだろうか。でもそれもやっぱり魔法の持続時間が問題か。

 燃料を空間魔法で随時補充すればいいのか? ロケットエンジンもアイテムボックスを使えば、恐ろしく効率のいいロケットができそうだ。

 風精霊なら安定して長時間風を出せるな。それでタービンを回すとしてどの程度の出力が出せるだろうか? あまり強力でもそれはそれで技術革新が進まなくて困りそうだし、宇宙を目指すなら結局ロケットは必要だ。

 そんな思いついたことを食べながらみんなに話し、簡単にメモも取っていく。


 あとは石油の成分の分離ができたから石油製品の作成か。プラスチックや合成ゴム、ナイロンに合成繊維。ガソリンエンジンはどうするかなあ。作れそうなら作りたいが、どの程度の難易度になるか? まずエンジンの構造が複雑だし、点火プラグに電気を使うし、それを稼働させるバッテリーも必要だ。




 今日もやることが多い。昼からの会議で午後は暇がなくなりそうなので、朝食すぐに剣の修練である。体調はようやく通常時まで戻った感じがする。


 本日はサティたちを相手にひたすら打ち合う。軍曹殿の教えを実践するにも、まずは技と感覚の習熟が必要だ。俺もサティもゾーン状態の動きは十分に制御しきれていないし、ミリアムとシラーは目下ゾーンの習得を目指している。奥義を覚えてないと難しいとは思うんだが、ウィルはできたし、探知系の習熟と考えれば悪い修行ではない。


 打ち合いを眺めながら電気モーターとバッテリーのことを考える。電気モーターは俺が最初に作ったものを大型化してパワーアップを図っているが、もっと複雑な構造だったはずだ。バッテリーも色々試しているようだが、実用化には至っていない。

 とはいえ千年計画自体が始まってまだ二〇日ほど。大きな成果を求めるのには時期尚早すぎる。


「お願いします」


 サティの声で剣を持ち直し、前に出る。ゾーンに入っているな。俺のほうはそのまま相手をするが、サティの動きが慎重だ。

 やりづらい。踏み込んでも間合いを上手く外されるし、攻撃も鋭さを増していた。軍曹殿の動きの模倣。もちろんその域には届いてはいないが、しかししっかり自分の動きに組み込んでいる。

 そういえばサティは流水系の習得は早かった。このままだと押し切られそうだと、俺もゾーンに入ってお相手をする。この分だとすぐにまた互角にまで追いつかれそうだが、それは今じゃない。


「今日は集中できておらんな」


 サティに勝ちを収めて休憩に入ったところに師匠にそう注意された。俺もそう思ったから一旦下がったんですよ……


「昼に会議があるでしょう? 今日はちょっと勘弁してください」


 各方面からの意見を聞くための会議ではあるが、ある程度俺のほうで方針を固めておかないことには、話が進まない。

 燃料が安定して確保できそうだし蒸気タービンが作れれば色々と捗りそうなのだが、それにもいくつかハードルがある。電動ポンプと発電機、それとモーターだ。できれば蓄電池もだな。

 サティたちの戦いを眺めながら、考えていてふとひらめいた。


 電気分解。水に電気を流して水素と酸素に分解する。同じように中の溶液を反応させるんだ。電気を流す、つまり電子を加えることで電子が多くなった分子を溜め込む。放電はその溜めた電子を放出し、成分を元に戻す。

 その場に座り込んで、取り出した紙に思いついた、思い出したことを書き込んでいく。構造のイメージ図。化学式もそこにはあった。鉛のPb……SO? 水も使ってHもあった気がするぞ。ああ、ダメだ。これ以上は出てこんな。

 Sって硫黄か。それに酸素だと硫酸だ。硫黄の酸化物だし、硫黄と酸素で合成すればいいのか? 硫黄はあるし酸素は電気分解で作れる。


 電気モーターもなんか思い出したぞ。今は二カ所に電流を流して回転させているが、これを三つ、あるいはもっと増やせば回転は安定してパワーも出る。ミニ四駆に使うような小型の電池で動くモーターは三つだったが、大型のモーターは外縁部にかなりな数の銅線を巻いたコイルが仕込まれていた。外が磁石でコイルを中で回すタイプと、外がコイルで中で磁石を回すタイプ。必要に応じて使い分けていた? フレミングの左手の法則で電流の流れと力の流れがこうなって、それが次に移ると……いけそうだ。


「マサルは何をやっておるのじゃ?」


 リリアの言葉に我に返る。修練場に座り込んでメモを取っていた。土を払って立ち上がる。もう何か思い出せそうなことは……ないか。


 急に色々と思い出した。なぜか? ゾーン状態だった。デランダルさんは見たもの聞いたこと、すべてを思い出せるという。普通の人も思い出せないだけで、記憶というのは残っているはずなのだ。それがゾーンで脳を高速稼働したことで思い出せた? 理屈はわかるが……そんなに簡単でいいのか?

 できたことを喜ぼう。それに頭には明らかな疲労感がある。戦った時より疲れているかもしれない。


「すまん。修練はここまでだ。研究所へ行く」


 サティたちも修練を切り上げて俺と一緒にぞろぞろと移動する。研究所では部屋にみっちりと人が集まって、写本が進められていた。ウィル姉妹もちゃんと集中してやっているようだ。俺に気がついてやってきた主任のエルフに尋ねる。


「進行状況は?」


「昼までに八〇部は仕上げられそうです。製本は簡単になってしまいましたが、よろしかったでしょうか?」


「本の形になっているだけで十分だ。じゃあ八〇部完成したところで一旦切り上げてくれ。間に合わない分は明日以降でもいい」


 思ったよりも数が用意できそうだ。神国、帝国、王国、エルフで二〇部ずつ配布できる。間に合わなった分は後で届ければいいし、もっと欲しければ各国で勝手に増やして貰えばいい。


「そうだな。先に仕上がった四〇部は簡易製本で、残りはきちんとした本にしようか。あと写本するなら、製本しないのもあったほうがいいな?」


「では一部ずつ、そのままの形で残しておきましょう」


「リリア、済まないが完成品を一部、王国に届けてもらえないか? 国王陛下も予習くらいはしたいだろうし」


 ウィルから説明は受けただろうが、ちゃんとした本のほうが理解しやすいだろう。もちろん守秘義務は誓ってもらう。ある程度は情報が漏れるのは仕方がないが、いきなり教本が流出しても困るのだ。そもそもがエルフ以外の計画参加者は、真偽官に秘密を守ることを約束してから参加をしてもらっている。


「それと望遠レンズもお土産に持って行ってくれ」


顕微鏡(マイクロレンズ)はいらんのか?」


「使い方や使い道の説明に手間がかかる」


 なるほどと頷いて動き始めたリリアを見送って続きを話していく。

 

「それでここからが本題だ。まずは蒸気タービンを試作してほしい。石油の精製でできた重油が燃料に使えるはずだ」


 蒸気タービンで安定した電力、回転を作り出したいのだが、常時稼働は難しいから、まずはシンプルな蒸気とタービンだけの装置を作る。火力発電にはほど遠いが、それでも神国でやっている遠心分離機と、あとは旋盤くらいには使えるだろう。このあたりはすでに解説した資料を出していたので理解は早い。


「それから魔法の活用を考えたんだ」


 イオンからの今朝の話と、朝食時に考えたことをメモを見せながら説明していく。


「これには色々と実験が必要ですね」


「頼む。あとはバッテリーの構造を少し思い出した」


 もしバッテリーが作れれば、一気に物事が進む。


「鉛と……硫黄と酸素……」


「つまり化学式なんだ。水を電気分解で水素と酸素にできるって話したことはあったっけ?


「資料にありましたね」


「各分子や原子の手持ちの電子の数と、その移動によって起こる現象ってことなんだと思う」


 2H²Oが電気分解で、2H²とO²となる。水素と酸素を結んでいた腕が離れた後は、送り込まれた電子がはまり込む。バッテリーでも同じことが起こる。増えた電子が溶液に蓄えられ、必要がある時に放出することができる。

 

「それからモーターも――」


 思いついたことを話していく。


「最後に石油の加工だ」


 ゴムは俺がこちらへ来た時に履いていたサンダル。それにビニールやプラは神様から送られて来た支援物資に入っていた、お菓子や味噌の入ってたパックだ。合成繊維もあれば良かったのだが、残念なことに上着と下着は綿。ズボンはジーンズ。デニム素材でこれも綿である。

 いや待てよ? アイテムボックスから昔の衣服を取り出してもう一度確認する。

 やっぱりあった! 服についているタグは、これ絶対に合成繊維だ。それにボタンもプラスチックだな。


「これらが全部石油から作れるのですか?」


「そうだ。しかも石油は水みたいに湧いているから、大量に作ることもできる」


 加工も簡単。透明な容器も作れる。どうやって作るかは当然わからない。熱、圧力、反応させる他の物質。組み合わせを色々試して偶然に頼るしか今のところはない。

 料理と一緒だ。原材料だと食べられたものじゃなくても、必要な物を混ぜて熱を加えれば、立派な料理になる。


「プラ容器はまだあるから好きにしていいけど、この布とサンダルは他に無いから大事にしてくれ」


「少し削っても?」


「そうだな……この布は小さいから切り離してバラしてもいいぞ。ボタンも調べたいなら外してくれてもいい。服の本体はただの綿だから返してくれ。サンダルはかかとの部分なら削ってもいい」


 そこなら革で補填すればまた使えそうだ。使うことはまずないだろうが。


「む。それは?」


 リリアがもう戻ってきていた。


「早いな?」


「我らは王宮では顔パスじゃからの。それに面倒だから転移ポイントも作ってもらったのじゃ」


 それで昨日も簡単に国王陛下を拉致ってこれたのか。警備がガバガバで大丈夫かと思ったが、そもそもエルフは味方だ。俺もエルフに対する信頼は厚い。確かダークエルフもゴールドハウブズ家でかなり信用されていたようだった。

 なんかそう考えると怖いな。エルフはどこでも絶大な信頼を得ている。


「どうしたのじゃ?」


 しかしそれも当然だと思い直す。もし二〇年、あるいは五〇年も一緒にいれば? 場合によっては自分の生まれる前から居て、そして死後も生きていく。その間、普通に真面目に務めてくれるなら、後を託すならこれ以上の存在はない。そんなエルフを信じないで誰を信じられるんだって話だ。


「いやなんでもない。これは俺の昔の服だよ。こっちに来た時に着ていた服」


 アイテムボックスに大事に仕舞ってあったし、リリアは見る機会もなかったか。


「これはいい素材であるが、普通の素材じゃな……」


「まあそうだな」


「借りても良いか? うちで同じ物が作れそうじゃ」


 何のためとか、作ってどうするのだとかは問い質さない。たぶん同じものがなんかほしいってだけのことなのだろう。

 ジッパーだけは難しいかもしれないとだけ断ってから服を一式渡しておく。匂いを嗅いでも洗濯済みだし、他のエルフが見てるぞ?


 あとはなんだっけ。ロケットとガソリンエンジンか。これは後で資料を作ることにして、優先は蒸気タービンか? 何はともあれまずは動力だ。水車を作って簡易の水力発電を作っておいても良かったかもしれない。それも言っておこうか。弱くても確実に常時発電できる設備があれば便利だろう。


「優先は蒸気タービンだ。あとは水車で水力発電を試してくれ」


 それで話を終えて、俺のほうは蒸気タービンの完成形の資料を作ることにした。最終目標は火力発電所だ。石油を燃やして作った蒸気でタービンを回す。蒸気は冷却して水に戻して循環させる。

 冷却システムは空冷にせよ水冷にせよ金属が必須だな。それからポンプ。安定して電力が作れるようになったら次は電動ポンプがほしい。


 ああ、修練の時の装備のままだよ。今日は午前中はそれなりにのんびりできるかと思ったのに、なんでこんなにバタバタしてるのか。全部魔法だ。

 石油を発見する。魔法で採掘し、転移で持ち帰る。精製も必要な機材、構造物は魔法でかなりの部分を作れる。航空機もすぐに飛ばしたし、遠心分離機も魔法で作れる部分は作ったのだろう。鍛冶やガラス制作、レンズだって魔法の補助で驚くほど早くできた。

 人材や会議にしてもそうだ。転移ですぐ集めて開催できる。研究する場所が必要なら魔法で建物を簡単に建設できる。

 俺にしたところでかなり便利に使っている。簡単な設備なら土魔法でいいし、見本となる模型も土魔法で作る。プロペラなんかは説明するより作って見せたほうが一〇倍早い。


 着替えは後回しにして土魔法でタービン部分の見本。そして冷却システムを含めた火力発電所の模型を土魔法で作成してみる。

 石油燃焼後の排気もそのまま垂れ流しだと公害の原因になる。

 自動車の排気ガスの浄化に尿素を使ってるって見た覚えがあるな。それとフィルターだろうか。

 その前にまずは排気ガスの危険性を周知する必要がある。それから実験の危険性。使う物質によっては吸い込んで即死なんてことも有り得るだろうし、蒸気や火を扱うようになれば爆発の危険性がある。電気も扱いに注意がいる。このあたりも今日の議題に……


「第二研究室へ行く」


 そう言って立ち上がって走り出した。イオンも遠心分離機が壊れたとか言ってたし、着替えとか議題とか悠長なことを言ってる場合じゃないな!?

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― 新着の感想 ―
勇者というか、自重しない現代知識無双のマサルさんになってるなーw
プロペラ機でもターボチャージャー(排気タービン式過給機)付のエンジンを搭載した機体なら高高度(7,000m以上)でも飛べますよ。 太平洋戦争時に原爆を投下したB-29などがそうでしたし、日本は実用化…
いまさらだが、なんというかレビテーションって浮くためというよりはサイコキネシスみたいな不可視の力場で物を動かす魔法なんだな。
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