296話 ブランザ伯爵家の復興
「なにゆえ我らをすぐに呼ばん!」
レセプションでの挨拶を終えたリリアたちが戻ってきたところで、帝都でダークエルフが見つかったようだという話をするとこの反応である。
「挨拶が優先だし、こっちは俺が見てた」
「場所はどこじゃ。本国からも増援を呼び寄せるぞ!」
そうやって大騒ぎするからだ。
「まあ待て。ここは帝都だぞ。土地勘もないし、祭りも始まっている今、エルフの大部隊を動かして騒ぎを大きくするつもりか? そうなったら潜伏しているかもしれない他のダークエルフにも勘付かれるぞ? すでに陛下が騎士団を差し向けているんだ」
そう言ってまずは落ち着けと、座らせる。
「じゃがのう。やつらの捕縛は簡単ではないぞ?」
「騎士団も精鋭だぞ」
そう言って擁護しておく。それに帝王陛下が絶対に捕まえろと厳命したのだ。
「我らはな、ダークエルフ一人のために部隊が全滅する覚悟で挑むのじゃ。それくらいでなければ彼奴らは倒せぬし、ましてや捕縛など絶対に無理じゃ。せめて我らに相談すればよかったものを……」
「帝国騎士では頼りにならんか?」
「そうではない、帝王殿。ダークエルフの能力とやり口をしっておるかどうかの違いじゃ」
「能力?」
「我らエルフは魔法には秀でるが肉体的には弱い」
そう言ってリリアが自らの腕を掲げて見せる。冒険者生活だし、剣の訓練も続けているのだが、いまだにほっそりとしてキレイな腕だ。
「鍛えても中々筋肉が付かん。しかしダークエルフにはその欠点はないのじゃ。魔法を使いこなし、肉体的には獣人にも匹敵する」
その上一〇〇年二〇〇年と、研鑽する時間をたっぷりと持つのだ。
「言ってみれば少々弱くしたマサルを相手にするようなものじゃな」
それは大変そうだし、帝王陛下もそう思ったらしい。
「まあ今更言っても仕方がない。今回は帝国の問題なんだし任せよう。それで式典は上手くいったのか?」
アンがなんだか疲れた様子だが。
「アンの話は大盛況じゃった。しばらく帝国貴族どもに囲まれて大変じゃったぞ」
俺も見てみたかったな。
「それで精霊の泉を設置する話じゃが、かなり好意的に受け止められたようじゃ。それで王家の森への設置は予定通りするが、エルフが領地として貰う話は当分一般にはせんことになった」
当面は帝国上層部のみの話として、王家の森のエルフへの移譲は伏せておくのだという。そして千年計画の成果と魔力開発法の功績として王家の森をエルフに譲り渡すという形にするそうな。
「水精霊の設置はお祭り期間にする予定じゃが、水路を作らんと意味がないし何日か後になりそうじゃ」
で、これから場所の選定やら、工事を誰が請け負うのやら色々決めるのだという。
「それで帝王殿かウィルに相談をと思ってな」
ウィルパパは都市計画は専門外らしい。
「それなら、クライアンス殿?」
「クライアンスとお呼びください、マサル殿」
「じゃあクライアンス。エルフに協力して水路の選定を頼めるか? あと俺には敬語はいらない」
せっかくだ。さっそく仕事を振ってみよう。
「わかった。任せてくれ」
「リリア、ウィルの兄貴のクライアンス王子だ。俺たちに協力してくれることになった」
クライアンス王子は俺と同年代か少し上くらいだろうか。ウィルの兄だけあって、顔立ちはよく似ていて、その物腰は柔らかい。いかにも武人然として厳しい感じのウィルパパと違って文官タイプなのだろうか。
「私のことはマサル殿の部下と思って使ってくれればいい」
「帝都方面の仕事があれば、今後はクライアンスに頼むことになりそうだ」
ウィルは帝都ではあまり使えないし、ウィルパパは千年計画がメインの上、気軽に物を頼むには少々重たい人材だしで、ちょうどいい手駒が手に入ったかもしれない。
「東方国家に近い地域の担当なんだっけ?」
「あと兄上は交易関連に強いっすね」
「ほう。ではうちの兄上と気が合いそうじゃな。それで、どこにダークエルフは出たんじゃ?」
「ゴールドハウブズ伯爵ってのが居てな。こいつがエリーの父親を罠に嵌めたんだが――」
ここまでの経緯をリリアにすっかり説明した。
「我らが帝国に寄り付かぬのを逆手に取られたのう。しかしそうなると、グリンダというダークエルフはやはり捕まらんかもしれぬな」
「なんでだ?」
「我らが帝都に来たことはすでに知られておろう。ならば最大限警戒しておるはずじゃ。怪しい動きがあれば即座に逃げるであろうよ」
やるならバレないように二重三重に包囲した上で突入。生死問わずの捕縛をする。それくらいじゃないと捕らえるのは無理だと。
「だがまあこれでやつらのやり口の一つを潰せる。今後、このようなことはできなくなるであろうよ」
「他に潜伏しているかもしれんダークエルフはどうする?」
「グリンダを捕まえればよし。逃がせばそやつらももはや捕捉もできまい」
「検問とかも無駄か……」
「まるっきり無駄ということもあるまい。動きにくくなるであろうし、警戒されるとわかっていれば帝都へ入るのも躊躇うであろう」
「どっちにしろ他の貴族家に入り込んでないかの調査も必要だな」
「それも私がやったほうが良さそうだ」
そうクライアンス王子が申し出てくれる。
「水路のほうはどうするんだ?」
「それは部下に任せる。どのみち私では町の構造などの詳細はわからん。だが貴族家の調査は王家の者がやる必要があるし、祭りの今なら相当数の当主格の者が呼び出せる。お祖父様、親衛騎士を使っても?」
「良いぞ」と帝王陛下が承認をする。
「お祖父様の名前で一人ずつ呼び出して、極秘の聞き取り調査をする。それで怪しい者が家中に居れば……」
「我らが捕縛に協力しよう」
「男性のダークエルフはいないのか?」
「おらんな。元からエルフに男性は少ない。危険のある任務になど絶対に出てこんと断言できる」
「女の魔法使い。エルフ耳。色が黒い。豊満。美形。エルフの顔には特徴がある。それと年齢もか。肌の色と耳以外に整形している可能性は? 少ないか。ではかなり絞れそうだ」
おお、見てるだけでなんかテキパキと決まっていく。ほんとに優秀なんだな。
「エルフからダークエルフに詳しい者を一人か二人寄越してもらって……よし。グリンダの捕縛の結果が出次第、取り掛かることとしよう」
「そういえばクライアンスは俺たちの事情はどこまで知ってるんだ?」
それにはウィルが答える。
「ほとんど知らないはずっすね。計画に関しては王族でも部外者には話さないようにしてますから」
何か大規模なことをやっているのは知っていても、帝王陛下と次期帝王が関わっていて、知る必要がないとでも言えば誰も尋ねたりはしないものだ。
「じゃあ千年計画に関しては教えておいてくれ。他はまあ、おいおいだな」
そうして話しながら待っていたのだが、グリンダの捕縛には失敗したとの報告が入った。踏み込む直前に、使用人に出掛けると告げてどこかへ行ってしまったそうで、周辺を探索したものの、その足取りは完全に消え失せてしまったと。
「絶対に逃がすなと言ったはずだが?」
帝王陛下がその報告に青筋を立ている。
「まあ致し方あるまいよ。我らが居たとて捕縛できるか、五分五分といったところであったであろうしな」
一度取り逃がしてしまえば、人の多い帝都だ。探し出すのは不可能に近い。
「グリンダの捕縛はもう諦めたほうが良いな。それより我らの手の者で帝都内を調べて回りたいのじゃが……」
帝都の警戒度を上げるとともに、地理の詳しい把握をしたいらしい。今後は王家の森にエルフが住むようになるのだ。今いるエルフの部隊は俺やリリアの護衛としてだ。それが勝手に帝都内を動き回るのはあまりよろしくない。
「適当に見て回っているうちに、偶然ダークエルフと鉢合わせるなんてこともあるからのう」
もちろんそんなことはそうそうある事ではないのだが、一〇年に一度、二〇年に一度でもエルフにとっては十分な頻度なのだ。
「では騎士団と共に巡回できるよう手配しておこう。それと今後のことも考えると帝都の警備隊とエルフの連携を正式に決めておくべきだな」
そうクライアンスが言う。エルフが帝都での警察活動のようなことするつもりならどこまでの権限を認めるか。どうやって協力体制を作っていくか。好き勝手に動いてはトラブルの元だ。
「他国での活動に関しては王国での経験がある。担当していた者を連れてくることとしよう」
「詳細が決まるまでは、エルフが騎士団に協力するという体裁でお願いしたい」
「勝手に動かぬよう、厳命しておく」
当面の指揮権は騎士団が持つが、ダークエルフに関してはエルフの助言を尊重する。エルフは帝都警備専門の部隊を作って、騎士団と協力体制を敷いていく。そんな取り決めがリリアとクライアンスとの間で決められていく。俺はそれをうんうんと頷きながら見ているだけで、実に楽でいい。
「そういえば移住はいつからにするんだ?」
「建物が出来次第じゃな。マサル、後で何個かでかい箱を王家の森に頼む」
まずはダークエルフへの対策部隊や建築隊のための居住スペースを確保したいようだ。今あるエルフ屋敷は帝都でも郊外のほうだし、今以上の人数になるなら手狭になる。
「建築資材が必要なら言ってくれ。手配しよう」
「それはエルフの里から持ち出すゆえ、必要あるまい。それから我らも帝都で店を出したいのじゃが……」
話し合っているうちに、ゴールドハウブズが洗いざらい吐いたとの知らせが入った。最初は口が重かったが、助命や減刑を匂わせたらペラペラとしゃべったそうである。しかし帝王陛下の宣言通り、本人の処刑は確定。家門は断絶も覆ることは恐らくない。鉱山の調査結果は確定しているからだ。尋問はダークエルフに関してが主になる。それで罪が重くなることはあっても、軽くなることはまずあるまい。
騎士が聞き取った内容を報告していく。
ダークエルフのグリンダに関してだが、ゴールドハウブズ家での情報収集や裏工作を担っていたらしい。それと鉱山運営などもだな。
グリンダの活動は多岐にわたる。帝国全土の情報収集。他家の情報。敵対派閥の家の弱みを探ったり、時には暗殺や破壊工作なんかもやっていたようだ。グリンダ配下の実行部隊がいるはずだが、それは連絡員が姿を見せるのみで、ゴールドハウブズ家とは別口で独自に雇っていたようで、ゴールドハウブズ自身もグリンダから教えられた以上のことは何も知らないようだ。
グリンダは自分のことを、エルフの政争で破れて逃げてきた貴族だと説明していた。他のエルフに見つかると命が危ないから姿を隠しているのだと。
そしてエリーの父が嵌められた件も証言が得られた。ただやはり魔物の動きは偶然か、魔物の動きをグリンダが上手く察知したかしたのであろうとゴールドハウブズも考えていて、グリンダが魔物を操っていたとまでは想像が及ばなかったようだ。
グリンダは俺たちのことは当然知っていたはずだが、ゴールドハウブズは勇者のことは噂レベルでしか知らなかった。ちゃんと情報を上げていたら、今回みたいな事態にはならなかっただろうに。
「我らと関わり合いになるのを恐れたのかもしれぬな。知れば伯爵も興味を持つであろう?」
教えておいて、なるべく関わるなとは言えるほどの力関係ではまだなかったのだろう。 それでエリーと伯爵が偶然出くわし、しかもエリーに気が付くなんて想定外だった。
「何年も経ってるのによくエリーってわかったな?」
正確には取り巻きの一人が気がついたんだが、それさえなかったら何事もなく式典が終わっていたはずだ。エリーもわざわざ伯爵に突っかかったりはしなかっただろうし。
「私昔からこの髪型だったのよ。お父様が好きな髪型でね」
婚約とか結婚の話が出るくらいの年齢になると、貴族家同士で釣り書き、絵姿が出回り、それでウィルもカマラリート様に顔を知られていたりもした。エリーの縁談を斡旋した伯爵も当然それを見たことくらいはあったのだろうし、ブランザ家とは領地が隣り合っていて交流は多かったから、エリー自身も伯爵と遭遇する機会くらいはあったらしい。
エリーに関してはブランザ家はもう辺境に飛ばされて完全に引き籠もっていたし、エリー自身も王国での活動を主にしていて、帝国では完全に無名。ヒラギスでは活躍はしたものの、噂のメインは俺と聖女様、それとエルフが全部持っていってしまって完全にノーマークだったのだろうと思われる。
もしグリンダがエリーがブランザ家の者だと知っていれば、伯爵を止めていただろうか。帝王とも関係を深めた勇者の妻の一人だ。それが伯爵に恨みをもっているかもしれないというのはとても危うい話だ。
「取り逃がした以上、もはやグリンダの考えはわからんがのう」
「神国とか他の国は大丈夫なのか?」
「神国にはエルフが多少残っておるはずじゃぞ。じゃがイオンに頼んで調べてもらうこととしよう。その他の国に関しては……さすがに手が回らんの」
そりゃそうか。今でさえエルフは人手不足がひどい状態だ。
ゴールドハウブズの尋問はまだ続いているようだが、知りたいことはおおむね知ることができた。リリアはグリンダに関する情報をできるだけほしいから、まだ残るそうである。
王家の森の建物はまだ建てる場所も決まってないそうで、明日の朝やることとなった。
「じゃあ俺たちは引き上げるよ。この後はエリーのお義兄さんのところへと行くから」
「え、もう行っちゃうの?」
エリーが驚いたように言う。
「今日はこのあとは暇になるし、知らせるなら早いほうがいいだろ」
「そう。そうね」
「お土産を持っていこうか。クライアンス、式典の料理を分けてもらっていってもいいか?」
「すぐに用意させよう」
「ひと家族、五、六人分で頼む」
それでまた俺たちだけになってブランザ男爵領に向かうこととなった。お土産を受け取り、師匠とミリアムを拾って転移した。
「おや。今日はどうしたんだい?」
屋敷にいたお義兄さんが驚いたようにそう言って出迎えてくれた。式典から直行だし、衣装もそのままだしな。
「帝都のレセプションの帰りなのよ、お兄様。そこの料理を分けてもらってね。お土産に持ってきたの」
屋敷に招き入れられ、まずはお土産を披露する。奥さんと子どもたちが大喜びをしているのを尻目にエリーがお義兄さんに言う。
「それでいくつか知らせがあってね?」
その言葉にお義兄さんの表情が固まる。
「今日はいい知らせばっかりなのよ!」
そうかな? たぶんそうだ。前回はエリーが訪問してイオンが仲間になったあたりまでの話をしたそうだ。それからまだ数日。またかという思いなのだろう。
「今回は俺もあんまり関わってない話ですし、ブランザ家に関する話なんですよ」
「聞こうか……」
諦めたように言って、場所を変えて俺たちだけになる。
「まず、Sランクに昇格が決まったわ」
「おお、それはおめでとう!」
そういえばそんな話もあったな。お義兄さんは素直に喜んで祝福してくれている。
「それでもう一つの話なんだけど……」
さすがにエリーもどう言っていいか考えているようだ。
「今更何を聞いても驚かないよ、エリー。それにいい話なんだろう?」
達観したかのようにお義兄さんが言う。いい話、のはずだ。
「そう? じゃあ言ってしまうわね。ゴールドハウブズ伯爵が家門ごと断絶されることになって、うちの元の領地ごとゴールドハウブズ領もまとめてブランザ家で貰えそうなのと、爵位も戻してもらえることになったわ」
「は?」
「ゴールドハウブズが鉱山の運営で鉱毒を垂れ流してるのがわかってね。ついでに調べたらお父様を嵌めたこともわかったの。お父様の名誉、ブランザ家の汚名はそそがれたのよ」
しばらく無言の時間が続き、ようやくお義兄さんが口を開いた。
「無理だ。父上の名誉が回復されたのは喜ばしいが、いまさらブランザ領を戻されたところで、統治など到底出来ないよ。しかもゴールドハウブズ領も併せてとは……」
「それは詫びも兼ねているからかしらね」
それと俺たちへと取り込み工作だな。ブランザ男爵家では到底治めきれないのはわかっていて、当然俺たちが協力することになる。順当にいけばエリーが担うことになりそうなのは考えなくともわかる。
「断ることはできないのか?」
「陛下直々だし、領民のことも考えないと」
ゴールドハウブズはかなり重税を課していたらしいし、旧ブランザ領がどれほど荒れているか。
「断っても大丈夫だとは思いますが、本当にそれでいいんですか? 先祖伝来の土地なんでしょう?」
「ゴールドハウブズ領はともかくとして、せっかく領地を返してくれるというんだもの。他に渡したくないわ。統治に関しては私が最大限協力するから」
「クライアンス王子にも手伝わせよう」
「クライアンス王子というのはゴールドハウブズ伯爵の派閥の……」
「ゴールドハウブズがやらかした件でさすがにお咎めなしってわけにもいかないから、俺の仕事に協力してくれることになったんですよ。部下でいいって話なんで、結構自由に使えそうです」
「クライアンス殿下が部下……」
「以前話したと思いますが、俺は使徒なんです。神託によっていまは世界を救うべく働いていて、ガレイ陛下や神国皇帝にも協力をしてもらっているんです」
少し前にこの辺りの話もエリーがしたはずだ。世界を救おうって話は初耳のようだが、まあ薄々察しているだろう。
「ブランザ家が力を付けて、帝国内での俺の後ろ盾になってくれると色々と助かるんですよ」
ゴールドハウブズが侯爵にあがるって話もあったな。領地が倍になって俺と親戚ともなれば、ブランザ家がその位置になるということなのだろうか。
後ろ盾として以外にも、教育制度の実験とか、千年計画の成果物の生産とか、自由に使える広い領地があればできることは多い。ゴールドハウブズが鉱山をいくつも持っているのも嬉しい点だ。
エルフはいまは手一杯だし、ヤマノス村は小さい。ヒラギスのビースト領は建設途中で余裕はまったくない。
「エリー、ブランザ伯爵家はエリーが継ぐんだ。僕はブランザ男爵、分家としてこのままこの地に根付こう」
「お兄様の子供のどちらかに継がせても……」
「僕たちはこのままでいい。辺境で静かに生きていくとそう決めたんだ」
「でもお兄様を差し置いてなんて」
「それだけの力と功績がエリーにもマサル君にもあるんだ。むしろエリーを差し置いて僕が継ぐほうが問題となる。そう思わないか?」
「それは……」
問題となるとしたら、お義兄さんが大きな領地を得るだけの功績が何もないことか。ブランザ領だけなら返還ということでいいが、ゴールドハウブズ領も併せてだと何かとうるさく言う輩がいそうだ。
「エリーは領地を取り戻したかったんだろう?」
「もう完全に諦めてたのに、それこそ今更よ……」
「そうだな。マサル君にも困ったものだ」
今回は俺のせいじゃたぶんないのに。
「やっぱり断りますか? まだこの件は帝王陛下の口約束の段階ですし」
エリーもお義兄さんも乗り気じゃないとなればどうしようもない。俺の言葉にエリーとお義兄さんが顔を見合わせる。
「エリーは昔から優秀だったね。うちの借金も返してくれたし、開拓も手伝ってくれた。マサル君と結婚して色んな場所に行って経験も豊富で、人脈だってたくさんある。男爵領の運営だけで四苦八苦している僕の出る幕じゃもうないんだよ」
「お兄様……」
「領地はエリーとマサル君が受け取るんだ。僕にできることは協力しよう。二人で今度こそ、二度とブランザ領を失わないように守ってほしい」
「わかったわ、任せておいてちょうだい!」
そしてそのためには世界を救わなければならない。ものすごく大変なことを頼んだのだと、お義兄さんは気がついているのだろうか?
「ところでさっき世界を救うとかなんとか……」
「ああ、それですか? これは絶対に誰にも漏らさないでほしいんですけど」
いいや、教えちゃえ。エリーの兄なら仲間も同然。俺と世界の重さを分かち合おう。
「いや待った。やっぱり聞きたくない。言わないでくれ」
「かなりどこにでも関わってくる話なんで、これはどうしても聞いておいてもらわないと」
「ぜ、絶対にかい?」
「知っておいて備えてもらう必要があるのよ、お兄様」
エリーの言う通り、ブランザ男爵領は辺境だし、いざって時は自力で戦うなり避難するなりの備えは絶対に必要だ。もちろん必要ならば救援はするし見捨てたりもしないが、それでも知ってると知ってないとでは対応の早さが違ってくるだろう。
「じゃあ話しますね!」
「待って」
「一年前くらいの話です。とある神託がありまして――」




