23話 サティ、冒険者見習いになる
「買い物にいくよ。ついてきて」
サティを連れて家をでる。目がよくなったんだから大丈夫かと思ったが、そうでもなかった。転ぶことはなかったが、きょろきょろして、あっちにふらふらこっちにふらふら。危なっかしいことこの上ない。仕方ないのでまた手をつなぐ。奴隷ってこんなに手がかかるもんなんだっけ?
「面白い?」
「はい、面白いです。それになんだか不思議な感じがします。匂いや音は一緒なのに、違うところに来たみたいです」
商店街につく。まずはサティ用の買い物籠でも手に入れるか。雑貨屋にあるかな。籠を売ってる店はすぐに見つかった。ついでに桶や鍋、水がめなんかも置いてある。買い物籠に、台所用の桶。お風呂用のもいるな。水がめは1個は生活用、もう1個が飲み水用にして、鍋とフライパンも何個か買っとくか。お、石鹸もある。何種類かあるな。店の人に聞いてみると、生活用とお風呂用の2種類あったので両方揃える。おたまに菜ばし?これは?麺棒かな。まな板、何かよくわからないもので出来たスポンジっぽいもの?鍋敷き。食器もあるな。陶器や金属製、木製のもある。スプーンやフォーク、ナイフ。コップ。箒やブラシもある。目につくはしから手にとってサティに渡し、店主のところへ持っていかせる。商品は山積みになっていたが、店主に包むように言って、買い忘れがないようにもう一周店内を見て回った。だいたいのものは揃うもんなんだな。異世界も侮れん。もっと不便かと思ったが、一部をのぞいてそんなに変わらない気がする。まあ魔法とかで代用してる面もあるんだけど。
会計をして、サティに買い物籠だけ持たせてあとはアイテムにぽいぽいと入れていく。ええと、あとは包丁にタオル、雑巾とかか。薪も忘れちゃいかんな。包丁のあった店で鍬もあったので家庭菜園用に購入しておく。種ってどこで売ってるんだろう?花屋みたいな店はなかったし、八百屋でもないよな。農協みたいなのがどっかにあるんだろうか?薪も購入。割る前のでかい木のもあったので買う。さっきの店にもどって斧も購入する。薪割りとかちょっとやってみたかったんだ。
サティに何か欲しいものはないかと聞くと首を振る。まあ家事したことないなら、わからんか。あとは食材を買っていこう。
野ウサギの肉が結構残ってるから、野菜だな。野菜は日本でも見たことがあるようなのが揃ってた。小麦粉にパン、パスタ。油。これはラードかな。油高いな。それで揚げ物とかないのかね。少々値段はするが、から揚げを食いたいので多めに買う。調味料やソース、お酢に砂糖。砂糖も高価だったが1kgほど買っておく。味噌や醤油はないし、米もないのが残念だ。豆はあったし、納豆くらいなら作れるだろうか?卵も高い。小さいのからダチョウの卵みたいなのまで何種類かあったので全種類買っておく。お酒もちょっと買っておくか。ドラゴン倒したあとに全部飲んじゃったしな。サティに持てるだけ持たせて、あとはアイテムボックスにいれておく。全部アイテムにいれてもよかったんだけど、空の買い物籠が寂しそうだったので、色々持たせる。サティもさすがに買い物中はきょろきょろしないで真剣についてきている。
氷を売っているところに、冷蔵庫も売っていた。冷蔵庫の上部に氷をセットするだけの簡単仕様だ。大きめの氷をいれておけば3,4日はもつらしい。購入。これで肉とかいれておけるだろう。
「疲れただろ。荷物もとうか?」
アイテムボックスにいれるだけだけど。
大丈夫ですと、首をふる。明らかに荷物が重そうだ。ちょっと休憩するか。竜の息吹亭が近いし。
食堂は昼頃で結構な込み具合だった。顔見知りの店員に果物のジュースを2人分注文する。少しすると、女将さんがジュースを運んできてくれた。
「新居はどう、マサルちゃん」
「ええ、ぼちぼちですよ」と適当に答えておく。入居したの昨日だし、答えようもない。
「それで、その子は?」
忙しい中、わざわざ女将さん自ら持ってきたのは、それか。
「ええと、家事とかをやってもらおうと」
「あら、奴隷ね。買っちゃったの?かわいいじゃない」と、にやりと笑う。
女将さんは大事にしてあげるのよー、と言って仕事に戻っていった。なんだか恥ずかしい。でも特に非難するようなこともなかったし、奴隷を買うとか普通なんだろうか。にやにやしてたのもそういうことなんだろうな。しかし、腕の紋章を見れば奴隷ってすぐわかるのは問題か?サティには長袖の服を着てもらおうか。
ふとサティを見ると、ジュースも飲まずにこちらを見ている。待ってたのか。
「ん。飲んでいいよ」
そういうとコクコクと飲みだした。おれも飲む。桃かマンゴーに近い果物だろうか。果肉がごろごろと入ってて、氷もいれてあり、甘くて冷えてて美味しい。サティもおいしいですと言いながら、味わうように飲んでいる。
「ここはおれが前に世話になってたところでね。二階が宿屋になってるんだよ。ここの料理がおいしくてね。今度は食事に来てみよう」
「はい」と、サティ。もう全部飲んだようだ。氷を口のなかで転がしている。
「ジュース気に入った?これも飲む?」と、半分ほど残ったジュースを差し出すと、ぱああと笑顔になりすごく喜んでいる。うん、いっぱい食って、早く成長してもらわないとな。
家に帰り、買った品物をサティと協力して配置していく。水がめには魔法で水をいれておいた。何往復もするの面倒だったし。冷蔵庫や買って来たものをすべて配置すると、サティに宣言する。
「今日からこの家はサティが管理すること。任せたからね」
「はい。任せてください!がんばります!」
すごく不安だが、やる気だけはあるみたいだし、まあなんとかなるだろう。なるよね?
昼を過ぎたばかりで夕食の仕込みをするにも早いし、することがない。働きたくはないし、こういうとき日本でならPCを立ち上げるんだが。ネットが恋しいな。サティは真剣な顔をして買ってきた品物を一個ずつ確認しているようだ。あ、包丁を手に取った。慎重な手つきだったが、指で刃を触っている。怖い。止めたかったがぐっとこらえる。包丁使うなら指を切るくらいは絶対するものだし、ヒールですぐに治る。どうやら無事、包丁の確認作業が終わったようだ。次にかかっている。
魔法の試射をしに町の外へでも行ってみるか。せっかく覚えた火魔法レベル4も、不発が一発のみであれ以来一回も使ってない。ちゃんと練習はしておかないとな。
「サティ。町の外に魔法の練習に行くんだけど、留守番するか、一緒にくるかどっちがいい?」
「行きます」
「ちょっと危ないかもしれないよ?」
町のすぐ外なら野ウサギくらいしか出ないけど。
「大丈夫です。行きます」
一人で留守番させるのもちょっと心配だし、いいかと思い準備をする。鎧を着て、剣を背中にかつぐ。サティも着替えさせた。野外でさすがにスカートはないかと思ったので長袖長ズボン。ちゃんと別室で着替えるようにといいつけたよ!
門でひっかかった。サティをつれて出ようとしたんだが、身分証がない。
「おお、ドラゴンスレイヤーじゃないか。今日も野ウサギ狩りか?」
野ウサギからドラゴンスレイヤーに昇格である。昇格したのはいいが、やっぱり恥ずかしい。いい加減名前で呼んでくれませんかね……
「いやいや、ほんのちょっと手伝っただけなんで、ドラゴンスレイヤーなんて。それで今日は町の外で魔法の練習をしようと思いまして。この子はパーティーメンバー予定の冒険者見習いです」
エッチな気持ちで買った奴隷、なんて言えないので、そういうことにしておいた。本人も冒険者という響きにご満悦だ。きっとやりたいことリストにあるんだろう。
「ほう、獣人か。成長すればいい戦力になるぞ」
で、身分証がないのが発覚。出るときはいいが、入るときにお金を取られる。それで一旦冒険者ギルドに向かうことになった。
受付のおっちゃんに、サティをギルドに入れたいと伝えると、以前と同じように副ギルド長とティリカちゃんのところへ案内された。
「おお、マサルじゃないか!今日はどうしたんだ。なに?その子をギルドに入れるのか。ほほう、奴隷か。昨日報酬をもらったばかりなのに、素早いじゃないか!」
がははははと肩をばんばん叩かれた。こんな反応ばっかだ。審査はすぐに済んだ。型どおりの質問に、やりたいこと。
「冒険者にもなりたかったんです!あと料理とか他にもやりたいことはいっぱいあって。あとあとマサル様にいっぱいご奉仕して喜んでいただきたいです!」
「わはははは。マサル、愛されてるな!大事にするんだぞ!」
その後はギルドの説明、100ゴルド払ってカードの発行。小さい子が冒険者になるのは珍しくないのかと聞くと、10才くらいから冒険者になるような子もいるそうだ。奴隷の報酬はすべて主人が受け取る。カードには奴隷、持ち主としておれの名前が書いてある。ランクはもちろんF。ちなみにおれのランクはEのままだ。ドラゴン討伐を手伝ったくらいじゃランクはあがらないらしい。最後にティリカちゃんに宣誓。
「これでわたしも冒険者なんですね!」と、首に紐でぶら下げたギルドカードを見ている。
「そうだな。でもしばらくは訓練をして、もっと強くなってからだ。当分は冒険者見習いだな」
「はい、がんばります!」
せっかく冒険者になったんだし、と装備を揃えることにした。いつもの店で店員さんに見繕ってもらう。皮の防具に小さい盾、ショートソードに皮のブーツとおれの最初の装備と同じものだ。うん、かわいいかわいい。お尻には尻尾の穴を、皮のヘルムには切れ目をその場で入れてもらって、耳がぴこぴこと飛び出ている。戦う冒険者には全く見えないが、似合ってはいる。店員さんも装備を着てはしゃぐサティを微笑ましそうにみている。
再び、門である。
「装備買ってもらったのかお嬢ちゃん。もう立派な冒険者だな」と、サティのギルドカードを見ていう。あ、カードに奴隷って書いてあるぞ?そしておれのほうをみながら、
「さすがドラゴンスレイヤーともなると、儲けてるんだなあ。おれも冒険者になろうかね」
「やめとけやめとけ。冒険者なんていくら命があっても足らんぞ」
「それもそうか」
やっぱりそういう認識なんだな。おれはそれ以上冷かされる前に、サティを連れてさっさと門を抜けた。
門を出て、街道を離れ、町の壁が見えなくなるくらいまで進む。ここらでいいか。
まずは【火嵐】を試してみる。詠唱開始。高速詠唱で半分になってるはずなんだが長いな。実戦で使うのはなかなかに厳しそうだ。ようやく詠唱完了して発動する。
ゴウ!という音ともに火柱がいくつも上がり、草原を暴れまわっていく。あまりの威力におれは呆然としていた。火が収まったときには、25mプール分くらいの草原が焼け野原になっていた。幸いにも延焼はしていないようだ。これは過剰すぎる。森で使ったら森林火災が起こるぞ。
「すごい!すごいです、マサル様!」
サティは無邪気に喜んでいる。そうだな。おれもすげえと思ったわ。こんな魔法どこで使うんだろうか。オークの集団に使ったらまとめて消し炭になるな。
気を取り直して、今度は【大爆破】を詠唱する。やはり長い。詠唱が完了し、発動する。できるだけ遠くを狙って撃った。
ドーンという音とともに衝撃波と吹き飛ばされた砂や小石がこちらまで飛んでくる。サティを心配してみてみると、目をぐしぐししていた。耳がぺったり倒れ、しっぽが逆立ってふくらんでいる。音もすごかったものな。
「大丈夫か!?」
「はい、目に砂が入っただけです」
爆心地を見に行くと、サティがすっぽり埋まるくらいの大穴が開いていた。穴をのぞきこみながら、サティはすごいすごいと喜んでいる。やはり火力が過剰すぎる。対ドラゴン戦くらいじゃないと使い道がなさそうだ。レベル4でこんなのなら、5ってどれだけすごいんだろうか。使い勝手を考えると単純にレベルを上げればいいってものじゃないな。
さて、次である。弓を取り出す。大きい岩があったので的に見立てる。矢を番え構える。矢に魔力をこめ、火魔法を発動させる。
あちぃ。矢を放つ。矢はへろへろと岩と違う方向に飛んで落ちた。指をやけどした。弓もすこしこげている。矢は木の部分が燃えて折れていた。火の魔法矢ができるはずだったんだが。矢を鉄にして、弓が焼けないように補強すればいけそうだが、指はやけどする。篭手をつけたら弓の扱いができなくなるし、魔法の発動にも支障がでる。うん、この魔法は失敗だ。
もう一つだけ試したいことがあった。的にしていた大岩を収納する。入らない。地面から一度ひっぱりあげないと。レヴィテーションを大岩にかける。でかいだけあってなかなか持ち上がらない。魔力をつぎ込みようやくぼこっという音とともに持ち上がった。収納する。今度はちゃんと入った。
ドラゴン戦のあと考え付いたんだが、最後のブレスをくらったとき、熊とかトロールをアイテムから取り出して、盾にすればよかったんじゃないか。
アイテムから出す。収納する。またアイテムから出して収納する。サティは何をやっているのかよくわからないようだ。きょとんとした顔で見ている。
メニューを開いて、アイテム欄からアイテムを選択し、取り出す。少し手間がかかるな。緊急時には無理そうだ。ドラゴンのブレスもこれだと間に合わなかっただろう。だが、盾にはよさそうだ。敵との射線上にごつい大岩を出せば、敵の攻撃はばっちり防げるだろう。大岩ガードと名付けよう。
次にレヴィテーションで5mくらいの高さまで上がる。メニューから大岩を選び、取り出す。大岩は重力に従って落下する。ドスン。もしここに敵がいたら?レヴィテーション中は魔法が使えない欠点を補うすごい技じゃないだろうか。それに今は1個だが、大岩を99個取り出したらどうなるだろうか。うむ。これはメテオ(物理)と名付けるか。
おれはすごい技を手に入れた!と、ご機嫌で町に戻ると、門番の兵士に怒られた。
「ここまで爆発音が響いてきたぞ。もっと遠くでやれ」
ごめんなさい。
「じゃあ夕飯の支度をしようか。お湯を沸かしてくれる?」
「はい!」
サティは張り切って準備をしていたが、さすがにちょっと疲れている感じだ。今日は目を治したり、色々連れまわしたりしたしな。
お湯を火にかけたら今度は具材を準備する。包丁の使い方を少し実演してからサティにやらせる。野ウサギの肉と、切るだけでいい野菜。皮むきはまだ難易度が高い。ピーラーとかはなかったし。危なっかしい手つきで切っていくサティ。
具材を鍋に投入し、塩で味付け。2人で味見をしながら塩を少しずつ足していく。これであとは煮えたら完成。もう1品、野ウサギの肉をフライパンで焼く。野菜をちぎってサラダを作り、パンを出す。
パンにサラダ、スープ、野ウサギ肉のステーキ。簡単だったが立派な夕食メニューの完成だ。サラダにドレッシングかマヨネーズが欲しいところだが。次はマヨネーズを試作してみよう。
サティは案外器用に料理をこなした。言ったことはすぐに覚えるし、頭がいいのかな。この調子ならすぐに料理も任せられそうだ。
「よくやった。すごいぞ、サティ」
「は、はい!」
頭をなでて褒めてやる。サティは感無量のようだ。こんな美味しそうな食事を自分で作れた!しかもこれを今から食べるのである。
「じゃあ食べるか。食べる前はこうやって手を合わせて。そう。そしていただきますだ」
食事が終るとサティは完全におねむな状態だった。やるというので食事の片づけを任せたがふらふらだ。お風呂にも入りたかったが今日はもういいか。家に戻ったときに浄化はかけてあるし。
サティを二階の部屋につれていってはたと気がついた。布団が一組しかない。サティはブーツだけ脱がせて、布団に放り込むとすぐに寝てしまった。ベッドはかなり広い。一緒に寝るか?しばし悩んだあと、おれは寝袋を出して床で寝た。
寝る前に確認すると料理Lv1がついていた。おれのほうに。サティに料理スキルがつくのはいつになるんだろうか。
サティ 獣人 奴隷
レベル3
HP 18/18
MP 5/5
力 12
体力 6
敏捷 11
器用 7
魔力 3
忠誠心 85
スキル 10P
視力低下 聴覚探知Lv3 嗅覚探知Lv2 頑丈 鷹の目
体力が+1、敏捷と器用が上昇(もとの数値に戻った) 忠誠心が50から85に。
山野マサル ヒューマン 魔法剣士
【称号】ドラゴンスレイヤー
野ウサギハンター
野ウサギと死闘を繰り広げた男
ギルドランクE
レベル9
HP 482/241+241
MP 736/368+368
力 43+43
体力 45+45
敏捷 29
器用 35
魔力 69
スキル 29P
剣術Lv4 肉体強化Lv2 スキルリセット ラズグラドワールド標準語
生活魔法 時計 火魔法Lv4
盾Lv2 回避Lv1 槍術Lv1 格闘術Lv1 体力回復強化 根性
弓術Lv1 投擲術Lv2 隠密Lv3 忍び足Lv2 気配察知Lv2
魔力感知Lv1 コモン魔法 回復魔法Lv3 高速詠唱Lv5
料理Lv1
マサルはついにその本能を解き放つのか?
次回、明日更新予定
24話 おまわりさん、こっちです!
誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。
ご意見ご感想なども大歓迎です。
「サティ、にゃあって言ってみて」
「にゃ、にゃあ?」
おうふ、すごい破壊力だ!鼻血がでてきた……
「語尾ににゃーをつけて」
「はいにゃー、マサル様。これでいいですかにゃー」
なんて遊んでいたらエリザベスがいて蔑んだ目で見られた。
orz
なんかサティって猫より犬だなって思ったり
待てはするし、よく懐くし、命令にも忠実
うん。犬だわ。犬耳っ娘




