21話 サティ 【画像サティ】
久しぶりに朝寝坊をした。いつもは夜明け頃に宿の娘さんが、朝食のために起こしにくる。一人目を覚まし、食堂兼台所で朝食をとる。朝食は以前に買ってあったお弁当だ。ここのところずっと宿の食堂で食べていたから、一人飯はすごく寂しい。
商店街をみて回ると、寝具は家具店で扱っていた。高級なのを見せてもらったら目が飛び出るほど高い。大鷲の羽毛を使った最高級の羽毛布団。ブルラムという大型の野生羊の毛を使った敷き布団。毛布やシーツもあわせると、大猪の報酬が全部飛ぶくらいする。諦めてほどほどの値段のを購入。それでもセットで1000ゴルドくらいはして、寝心地のよさそうなのが買えた。
さて、本日のメインイベントである。クルックに聞いたとおり、町のはずれのほうにある一軒の店にやってきた。不動産屋と同じでブローアル商会と看板が出ているだけの普通の建物である。
入り口を前にして、緊張してきた。このまま入っていいんだろうか。もっとクルックに詳しく聞いておけばよかった。それともあいつに頼んでついてきてもらおうか?扉の前でうろうろする。挙動不審である。営業妨害でもある。幸い他の客は来てなかったが。
扉が急に開いて、中年の禿げたおじさんが顔をのぞかせた。
「どうぞ、こちらへ」と、にこにこ顔で中に案内された。
「あ、あのここは奴隷を……」
「そうですとも。うちは奴隷商でして。お兄さんが購入を?家事やらせたい?はいはい。もちろん女性ですよね。うちはかわいい子が揃ってますよ。何か特別なご希望はおありで?ない?わかりました。ささ、こちらで少しお待ちください」
手馴れたものである。入り口でためらうような根性なしは多いのだろう。言うだけ言うと、禿のおじさんはお茶を出してから出て行った。ソファーに座り、お茶を飲みながら気持ちを落ち着ける。よし、潜入は成功した。ミッションはこれからだ。そわそわしながら待っていると、禿の人が戻ってきた。
「ではこちらへ」と、部屋の外へと案内される。
「いやー、お兄さん運がいいですよ。いまちょうど綺麗どころばかり揃ってましてね。きっと気に入るのがいると思いますよ。ご予算はいかほどで?ほうほう。4,5万ですか。ご心配なく。うちは極めて正直な商売を心がけておりましてね。適正価格で手に入れられますよ」
廊下を抜け一番奥の部屋へと入る。部屋に入るとそこには女性がずらりと並んでいた。数えてみると8人。女性たちはこっちをじっと見ている。女性はみな貫頭衣というのだろうか。病院で患者が着るような、白く薄い服を着ている。ぴらぴらである。体型がすごくよく分かる。服は膝上あたりまでしかない。素足に裸足である。ちょっと透けてませんか?しかもサイドにはスリットがあり、おっぱいがこぼれているのが見えた。あ、やばい。
「ささ、こちらにお座りください」と、椅子を勧められる。もう立てない。男の子ならわかるよね?椅子の前にはちゃんと机が置いてあり、おれの下半身はしっかり隠れている。禿の人、分かってるな……。女性達を前にして面接官のような状況である。
「右から年齢順に並べてあります。どうです?気に入ったのはいますかな?じっくり見ていってください」
少し距離があり、女性たちには会話は聞こえないはずだが、何故か小声でこそこそと話す2人。ざっと目を通す。猫耳が2人いる。幼女は1人だけで、あとは妙齢の女性達である。8人ともかなりレベルが高い。どの子を選んでも満足できることは間違いないだろう。この世界、すごく美形率高い気がする。
「あの、この子たちは全員……」
「一番右の子だけは経験がありますが、他の子はみな初物ですよ。保障します」
ナニを致すことが前提ということなのだろう。一番右はむっちりとした色気のあるおねーさんである。確かに少し年齢はいってそうだが、十分にありである。だが一番左の幼女はどうなんだろう。どうみても無理な年齢である。
「ナニをするのはさすがに無理ですが、特殊な趣味の方もおりますからね。そうじゃなくても、小さい頃から色々教育して育てたり、養子や弟子にほしいという方もおりますので」
なるほど、光源氏計画か。とりあえず一番左の幼女だけはやめておこう。問題がありすぎる。禿の人は一人一人説明していく。一番右のおねーさんは経験豊富で床上手。家事もばっちりこなす。その次の子は背が高く、筋肉もがっしりしている。戦闘経験があり、護衛もこなせる。3番目の子は猫耳である。獣人は身体能力が高い。これも仕込めば戦えるし、力仕事もこなせるおススメ商品である。
4番目の子に目を奪われる。さっきからすごく気になっていた子である。8人全員、それなりにかわいい子ばかりだったが、この子は飛びぬけてかわいい。さらさらの長い黒髪に、清楚な顔立ち。肌が透き通るように白く、スタイルも抜群にいい。
「この子はですね。家事はもちろん、読み書きに教養、礼儀作法までばっちり仕込まれてましてね。どこに出しても恥ずかしくない、当店の一押しですよ。その分お高くなってますが」
値段を聞くと完全に予算オーバーどころか、全額使っても半分にもならなかった。4、5万って言ったのに何故わざわざ見せるのか。
「借金してでも買いたいという方もいるんで、一応は全員見せることになってまして。どうです?近くでじっくりご覧になりますか?」
やめておこう。じっくり見たらきっと我慢できなくなる……。5番目の子、6番目の子は極めて普通で4番目の子をみたあとじゃ色あせて見える。ちょっと地味だったけど、かわいかったし値段も手頃だったんだが。やはり戦えるという2番目の子か3番目の子がいいだろうか。3番の猫耳の子はドラゴンのお金が入ればたぶん買えそう。2番目の子なら十分買える。最後の7番目の子も猫耳獣人だった。顔立ちはかわいい。手足がすらりと伸びている。細いな。少し小さい気もするが、ぎりぎりセーフだ。たぶん。
値段を聞いて驚いた。一番安い。猫耳は普通よりお高いはずなのに。
「この子は少々問題がありましてね。目が悪いのですよ。うっすらとは見えてるんですけど、歩けばこける。仕事をさせれば失敗する。家の中ではものにぶつかる。力はそこそこ強いんですが、それ以外が全くでしてね」
回復魔法とかで治らないんだろうか。あとは眼鏡とか?
「治癒術師にも見せたんですがね。そこいらの術師では手に負えなくて。高位の術師様ならもしかして治せるかもしれませんが、治るかどうかもわからないのに大金は出せないですし」
眼鏡は知らないらしい。異世界にはないんだろうか。
「ほら、見た目はいいですし、きっと尽くしますよ?わたしもね、できればお兄さんみたいなやさしい人に買ってもらいたいんでさあ。このまま売れ残ったりしたらどうなると思います?」
どうなるんだろう?
「娼館で慰みものになるか、鉱山送りですね。鉱山って知ってますか?そりゃあもうひどいところでして、光りもささない狭い穴に入り込んで、人力で穴を掘って鉱石を採ってくるんですよ。毒ガスや水、時には鉱山が崩れたり。あそこに送られたらもう……」
もちろんただのセールストークである。力仕事ができるなら農家などでもやっていけるし、鉱山にしても言うほどひどいものでもない。すぐに鉱山送りになんかにもしない。娼館行きはありうるが、マサルのようなのが買っていく可能性は十分ある。不良在庫であるのは確かではあるし、マサルに買って欲しいという部分は本当だろうが。
「こっちにおいで」と、猫耳少女を呼び寄せる。
「この子は可哀想な子でしてね。目が悪くて役に立たないってんで、実の親に売られちゃって。ほら、この方にご挨拶して」
「あの、がんばりますから、どうか私をお買い上げください。ご主人さま」
猫耳少女にうるうるした目で訴えかけられる。こんな子が鉱山送りに?
「あの、回復魔法を試してみても?」
「へ?お兄さん治癒術士で?そりゃ全然構いませんが、お金は払えませんよ?」
「いいですよ。その代わり治っても値上げとかしないでくださいね。こっちにおいで。君、名前は?」
「サティ、です」
「じゃあサティ、今から回復魔法をかけてあげるから、じっとしててね」
「はい」
目のあたりに手をあてて、魔力を集中する。【ヒール】【ヒール】【ヒール】さらに、【病気治癒】に【解毒】もかけてみる。
「はい、目をあけてみて?どう?」
ふるふると首を振る猫耳少女。だめか。アンジェラたちに相談してみるか。それかガラスがあるんだからレンズも作れるはず。回復魔法のレベルをあげてみてもいい。回復魔法はレベル3。スキルポイントは29Pもあるから4にあげて4P。レベル5はたぶん20Pだが、十分足りる。まあヒールで治るかは賭けなんだけども。
考え込んでいると声をかけられた。
「お気に入りになりましたか?この子、お買い上げいただけます?」
はっと、気がつく。完全に連れて帰る気分になってるわ……。もう買うしかない。
「買います……」
ついに人身売買に手を染めてしまった。禿の人がサティを置いて、他の子たちを部屋から連れ出していく。あの4番目の子は惜しかったな。直球どストライクで、お金さえあれば。
振り返ると猫耳少女が同じ位置でじっとこっちを見ていた。いや、うん。君もかわいいよ。黒髪のショートヘアーはさらさらで、頭についた猫耳が時折ぴくぴく動いており、尻尾を左右にふりふりしている。近くでよく見ると顔もなかなかの美少女だ。まだ少し幼い感じがするが、数年経てば立派な美女に成長しそうだ。今ならゴスロリ服なんか着せたら似合うだろうか。
「サティ、うちに来ることになったけど、大丈夫?」
「はい、よろしくお願いします。ご主人さま。なんでもしますのでお申し付けください」
ペコリと頭を下げる。ご主人さまか。ご主人さま……。マスター、主さま。お兄ちゃん?ないな。ない。普通に名前でいいか。
「おれは山野マサル。マサルって呼ぶといいよ」
「はい、マサル様」
「少しは見えるんだよね?」
「はい。遠くはぼんやりしか見えないんですが、近くなら見えます」
そういいつつ、ぐーっと顔を近づけてくる。近いよ、近い。鼻がぶつかりそうな距離まで顔を近づけてくる。当たりそうになる前にぱっと離れてくれた。
「あ、すいません。あのくらい近いとなんとか見えるんです」
ごくりと喉をならす。それにしてもこの服。薄いし、きわどい。サティが動くたびに色々ちらちら見えて目の毒だ。そして気がつく。ちょっと細いとは思ったががりがりじゃないか?あまり食べさせてもらえてないのか。不憫な。
禿の人が戻ってきた。
「ええと、ではお名前を。あと身分証はお持ちですか?」
「山野マサル。ギルドカードでいい?」
ギルドカードを渡すとちらっと見るとすぐに返してくれた。お金は今お持ちで?と聞かれ、はいと答える。
「では35000ゴルド、お願いします」
アイテムから金貨を取り出し渡す。禿の人は一枚一枚丁寧に数えていく。
「はい、これで結構です。では奴隷紋の認証をいたしましょう。少し血を出してくれますか。主人の血を紋章につけることで持ち主の認定をします」
サティが手を出す。手の甲の側、手首の上あたりに模様が刺青のように書いてある。禿の人から針を受け取り指に刺す。出てきた血をいわれたようにサティの手首にたらす。一瞬奴隷紋が光った。
そしてメニューが突然開いた。おれのじゃない。サティのだ……
「はい、これでこの子はマサル様のものです」
「あ、ああ。そうだ、サティに何か服はないですか?靴もないし、このまま連れて帰るのはちょっと」
これを、とすでに用意してあった服とサンダルをもらう。サティに渡すと服をごそごそとして頭からかぶり、体をすっぽり覆った。ローブか。白いし、てるてる坊主みたいだな。サンダルも履いてこれで外でも一応は問題ない。
そのあとは奴隷について教えてもらった。奴隷紋がある限り、逃げることはできないし、主人に攻撃することは絶対にできない。そして命令をすることはできるが、本当に嫌がるような命令は聞かないことがある。あまり強く縛ると命令を聞くだけのゴーレムのようになって、無感情になるので支配は緩めである。夜のお仕事は基本的な仕事の範囲。断られることはない。存分にどうぞ。奴隷の持ち主は主人ではあるが、国家の財産でもある。むやみに傷つけることは禁止されている。2,3発殴るくらいは大丈夫。あまりひどいと奴隷自身が訴え出ることもできる。奴隷の口は縛られていない。自由に話すことができる。訴えられると、奴隷を取り上げられたり、罰金を取られたりすることもある。殺しても同様。もし飽きたら捨てないで、奴隷商に持ってきてね。買い取ります。
説明を聞きながら、おれはちらちらとサティのほうを見ていた。禿の人は何か誤解しただろうが、かまうものか。サティの前にはメニューが開いた状態、つまり、HPやMP、ステータス、スキルなんかが表示されていたのだ。
サティ 獣人 奴隷
レベル3
HP 18/18
MP 5/5
力 12
体力 5
敏捷 2
器用 1
魔力 3
忠誠心 50
スキル 15P
視力低下 聴覚探知Lv3 嗅覚探知Lv2 頑丈
ついにハーレム計画始動!はたしてマサルはハーレムを築けるのか?
次回、明日更新予定
22話 パンツはいてない
知り合いの絵師さんからのいただきものです
誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。
ご意見ご感想なども大歓迎です。
4番目ちゃんは再度見に来たときには既にマサルの手の届かないところに……
もし借金してでも買おうとなったら
持ってそうな人で誰が貸してくれるだろうか
一番金持ってそうなのは暁の戦斧。加入を条件に借りる
しかし、忙しい冒険の生活が始まり、4番ちゃんとはゆっくりすることができなくなったのだ……
それにあまりレベルの高い奴隷を買っても扱いきれないのじゃないだろうか。
「ご主人様、掃除をするのでそこどいてください」
「ほら、ごろごろしてないで稼いできてくださいよ」
「あ、外にでるときゴミを持っていって下さいね」
こんな感じ。これはこれでありなんだろうけどw




