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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第十章

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198話 ラクナの町の制圧

前回のお話

・エルフのオレンジ隊

・ラクナの町を軍の動きに合わせて再度雷撃、今度こそ制圧へ

「相当残ってるっすね」


 今は町の外に土魔法で一時的に作った攻撃用の塔の上。昨日気配察知を取り立てのウィルが言う。

 ラクナの町への雷撃最強呪文【霹靂】での攻撃は今回風魔法をレベル5に上げてみた俺も含めて、エリーとリリアの三人でやったのだが、ぱっと見昨日よりかなり生き残っているようだ。


「さすがに何度も撃ちすぎて対処を覚えられたかしらね?」


 霹靂は発動がとてもわかりやすいのが難点だな。小屋程度ならぶち抜くようだが、見てから丈夫な建物に逃げ込めばそうそう死ぬこともないようだ。まあ魔力探知が多少ともあれば、どの大規模魔法も回避は難しくない。俺のメテオとかだと地面もえぐるのでよっぽど地下深くじゃないと防御も無理だが、全力で範囲外に逃げれば位置が良ければ生き延びられるはずだ。


 ここで雷撃をもう一度は効果が薄そうだ。他の魔法だと町を破壊してしまう。まあ今でも広範囲雷撃で火の手はあがっているのだが、基本石造りの建物でそう火の手が広がることもない様子だ。

 燃えてるところにあまり突入もしたくないし、戦うには厳しい数だ。どうするべきか? 予行演習なんてしても状況とか敵の数が違えばあんまり役に立たねーな。


「外側の敵を先にやってしまおう」


 さっさと魔物の数を減らさないと平野部に一旦布陣をしていた軍が動き始めた。魔物の数が多くて慎重に動いたせいで思ったよりもスケジュールが押している。


「二手に分かれましょうか?」


 エリーが言う。俺かエリーならフライでの移動も問題ないし、高レベルの範囲魔法は時間がかかるからありといえばありなのだが……


「それはやめとこう。同士討ちが怖いし、オークキングの集団とかだと揃ってないと対応しきれない」


 ここは相談していた通り範囲魔法を撃っては移動して、周囲の敵を掃討していく。

 殲滅範囲を広めに設定して二人ずつで五回。効率はあまりよろしくないが、それで町の周囲に居た魔物を掃討して、俺が作った拠点の塔に再び戻った。

 たまに弓を撃ってきたり投石してきたりするのがいるが精霊のガードは突破できないし、そもそも距離もあるのでまともに命中することすら滅多にない。

 外に目を向ければまだまだ魔物は蠢いているが、これで町の周囲、近辺に限ればクリアになった。


 この後だ。城壁を押さえて中の敵を時間をかけて倒すか? しかしあまり時間をかけると外の敵が押し寄せてくる。軍も到着する。

 それとも内部に突入してまともにやり合うか? 危険だが無茶ってほどでもないだろうか?


「オレンジ隊を呼んでくれ。城壁のガードをしてもらおう」


 城壁をオレンジ隊に押さえてもらい、俺たちは内部に突入して魔物の殲滅をする。町の南側の正門付近は広場になっている。そこから始めよう。

 エリーが転移で移動したのを確認してから言う。


「よしリリア。俺たちはもう一度町を攻撃するぞ」


 待ってる間にもう一度町へと霹靂を浴びせた。数を減らすのと魔物を警戒させて足を止めるためだ。再び城壁に取り付こうとしていた魔物もいたがこれで完全に排除された。

 転移してきたオレンジ隊の隊長に、俺たちの降りる南側城壁の上から後方を守ってもらうことを指示。

 軍の進軍ルートである南側の魔物は念入りに掃討してある。軍も向かってきている。これが北側を抑えようとすると、内部と外部、両方の魔物に警戒しなければならない。探知持ちの俺たちなら危険は少ないが、エルフではリスクもある。南側のみ抑えて北に魔物が到達するまでに急いで殲滅する必要がある。


「慎重に行動すること。まだ戦いは序盤だ。こんなところで脱落者は出すなよ?」


「了解致しました」


「それと軍が到着したら一旦外に止めておいてくれ」


「少し待って外の連中にやらせてもいいんじゃない? なんだかやる気がありそうよ」


「そうじゃな。あやつらも功績が欲しかろう」


 エリーとリリアがそんなこと言う。どうやら軍は急いでこっちに向かっているようだ。進路にもう敵はいないし、こっちが戦闘しているとあって助勢でもするつもりなのだろう。しかし町の攻略は一度しっかりとやっておきたい。朝に攻略した町は小規模だったし、ここの町には比べ物にならないほど魔物も多く集まっている。


「ダメだ。俺たちでやる」


 それに生き残りは当然ながら魔力感知持ちがいるはずだ。そしてそういうのは大抵オークキングとかのボスクラス。野戦なら遠距離攻撃で倒すか数で押せるかもしれんが、市街戦だ。軍に任せれば確実に死人が出る。


「あと火の手がきついところは空から軽く水をかけておいてくれ」

 

 魔物も燻せていいかもしれないが、俺たちもこれから突入することになるのだ。自分でやろうと考えていたのだが、魔力感知持ちを警戒したいと思いなおした。なるべく魔法は使わない方向で行ってみよう。

 密かに、そして素早く倒して対処する時間を与えない。


 出るのは俺と前衛組のサティ、シラー、ウィル、ミリアム。そして基本は歩きだが念のための移動と防御役にリリア。

 シラーちゃんが剣で先頭に、俺とサティが弓で中衛でその後ろにリリアが。そしてミリアムとウィルが剣で殿(しんがり)だ。

 エリー、アン、ティリカ、ルチアーナが居残りで探知持ちが居なくなるが、城壁に陣取ってエルフの護衛一〇〇名付きだ。心配はないだろう。


 連れて行くメンバーに指示をしてる間に、門前の広場に出てきた魔物がエルフオレンジ隊の手によって一掃されていた。

 それを確認し俺たちは城壁を降り、魔物の死体がごろごろ転がっている中を町中に入っていく。危険はほぼないはずだ。

 簡単な方向の指示だけして移動経路などはシラーちゃんに任せる。今回のレベルアップで前衛全員探知を取ったから魔物の詳細な位置をいちいち教える必要もない。

 シラーちゃんは聴覚探知。ウィルは気配察知。ミリアムはともにレベル1までだが気配察知と聴覚探知の両方だ。

 町の路地は視界の遮られる森の狩りと同じだ。常にこちらの不意打ち、先制攻撃。しかも手練揃いの上に精霊魔法の自動防御付き。これで危険とか言っていては臆病すぎる。


「ねえ兄貴、気配察知って恐ろしく……」


 広場から近い位置の魔物を一掃したところでウィルが何か言いかけて珍しく口ごもった。


ずるい(チート)か?」


 魔物が路地に隠れていようが家の中に隠れていようが関係ない。家の中だと少しめんどくさいが、サティ、シラー、ミリアムの猫耳三人組で突入してあっと言う間に片付けてしまった。ずっと一緒に修行をしていたので息はぴったりだ。相手がオークキングの集団でもそうそう遅れは取るまい。


 それにレーダーに加えて召喚獣で擬似的に通信も出来るし、ゲートによる瞬間移動。アイテムボックスでの輸送。

 さらに他を圧倒する多彩な攻撃力。最初の頃は何度か死にかけたけど、本格的にチートと呼べるようになってきたな。


「まさしく神の力じゃ。当然じゃろう?」


 リリアには最初から強いところを見せてたからな。改めてすごいという感想もないのだろうが、ウィルは気配察知を一気に5まで上げた。さすがにポイントを費やして上げきると、探知範囲はこの町の全域を余裕で収める規模となり、戦場全域の状況が手に取るようにわかる。まさしく神の力神の目だ。

 

「雑談はあとだ。急ぐぞ」


「ういっす。次はそっちの右の路地のほうっすね」


 探知持ちを増やしたのは正解だったな。指示が最低限で済んで楽だわー。

 弓持ちもエルフには腕のいい射手が揃ってるし一人か二人連れてくれば良かったな。だいたいサティが片付けてくれるんだが、そうなれば俺は完全に働かなくて済んで全体に気を配る余裕が出る。

 まあ今は真面目に働こうか。あんまりサティに任せきりもよろしくない。スキル的には同等なんだ。出来るところは見せておかないと。


 討伐は順調すぎるほど順調だった。森と同じだと言ったが、地形が人工的な分森より移動がずっと楽で、森だと移動がリリア頼りになる部分も多いのだが、普通に走って魔物を急襲できる。

 駆け足で南から始めて東エリアを虱潰しに殲滅し、ほどなく北側の正門にたどり着いた。多少の叫び声を上げるオークもいたが、それで大きく状況が変わることはなかった。


 途中で俺たちの侵入がバレて組織的に動かれてはやっかいかと思ったのだが、冷静に考えてみれば突入直前の二度の範囲雷撃で半数以上が倒されたのだ。その上昨日の攻撃でもほとんど魔物が死んで、今いるのは今日新しく来たばかりの魔物だろう。

 どんな指揮系統があるにせよ、それではろくに動けるわけもないし、ほうぼうから火が出たのも混乱を助長しただろう。心配するほどのこともなかったようだ。


 そうして何事もなくたどり着いた北門は完全に崩壊していた。まるで大型種が通った後のようだ。


「町への襲撃には地竜も居たらしいの」


 リリアが言う。確かに北側は南に比べてずいぶんと破壊の跡がある。


「探知には大型種の反応はないな」


 出てきたところでどうということないが、警戒は必要だ。ここまで戦力らしきものはオークキングの集団のみ。まあここのオークにしたって普通なら十分な戦力なんだろうが、俺たちの相手をするには少々物足りない。


「ここは塞いでおこう」


 北側には魔物が多い。完全に塞いだほうがいいだろう。後で困るかもしれないが、門が必要なら軍に土魔法使いくらいいるだろう。手早く塞いておく。


 そして北から西へとぐるっと周り、最後は中央部、だったのだが。


「南門のほうで何か騒いでますよ?」


 サティの言葉で南門のほうに注意を向けるとすでに軍が到着していた。そして中に入れろと怒鳴っているのが聴覚探知に入ってきた。通せ。通せない。押し問答だな。しかし南側も城壁自体は無事だが門がぶっ壊れている。通ろうと思えば簡単だ。


「入ってくるようですね」


「まあエリーがいるんだ。上手いことやるだろう。行こう」


 討伐の邪魔さえさせなければそれでいい。残りの敵は五〇か六〇ってところだろうか。町の中心部の立派な建物、領主の館に籠もっているようだ。さほど動きがないのは、俺たちが殲滅して回っているのに気がついていないのだろうか? このまま時間を掛けずに一気に終わらせてしまおう。

 しかし領主の館はしっかりとした門構え、村ならそのまま外壁となりそうな重厚な防壁で守られていた。


 しかし最後はどうしたものか? こちらの姿は見せずに探知で中の様子を窺う。広いと言っても一つの館に魔物がぎっしりで、そこにボスクラスもいるならやっかいそうだ。


「わたしたちでやりますか?」


「面倒なら丸ごとぶっ壊してしまえばよかろう?」


 迷っている俺にサティとリリアが言う。軍はさすがにいきなり町中に突入はせず、まずは門前の広場に布陣しようとしているようだ。

 あまり時間をかけると軍が動きそうだ。考えていてもしゃーないな。 


「全員で突入するぞ」


 少し移動すると壊れた通用門があったので、そこから侵入してみたがさすがにすぐに見つかってしまった。警戒していたのだろう。オークの吠え声がいくつも響き渡る。

 だが恐らく仲間でも呼び集めているのだろうが、もはや生き残りは領主の館にいる魔物のみ。

 領主の館は崩壊こそしてないが、かなりぼろぼろにされてるな。庭の木々が燃え落ちようとしてるのは俺たちのせいなんだけど。

 とりあえず窓や扉から顔を出したやつは即座に弓の餌食となった。


「隊列はそのまま、全員抜刀!」


 俺は弓をアイテムボックスに仕舞い、サティはそのまま肩にひっかけて剣を抜いた。


「兄貴、俺も前に出ていいっすか?」


「んじゃ俺が後ろに回ろう」


 シラーちゃんがちらりとこちらを見たので、剣を前に振る。シラーちゃんが館の勝手口らしき入り口向けて駆け出し、ウィルもすぐに続いた。

 中に入るなりオークが数体崩れ落ちていた。力量差はもちろんだが、探知の存在がでかいな。視界の外からの踏み込みはこちらの接近が音でわかったとしても、一瞬の判断の遅れが俺たちのレベルになるととんでもなく大きな隙になる。

 駆け足で移動しながら魔物のいる各部屋に突入し、何が起こってるか魔物たちが把握する前にきわめてスムーズに殲滅していった。

 

「こいつで終わりっすね」


 一階を掃討し、二階に居たオークキングと取り巻きを倒して瞬く間にすべての魔物を倒し終えた。ボスであろう一体だけ居たオークキングですら、シラーちゃんとウィルのコンビに為す術なく倒されている。

 これで魔物の反応は町から完全に駆逐された。


「うむ。みんな今日はいい仕事をしたな。満点の出来だ」

 

 緊張を解いて言う。まずかったのは俺の判断だけだな。時間を見誤って余裕がなかったのが、それでも無事討伐が終わったのは、想定以上にパーティの総合力が上がっていたお陰だ。生き残りの多かった町の攻略は面倒になりそうだと思われたが、思いの外あっさりと終わった。


「じゃあ合流して帰るぞ」


 領主の館の二階のバルコニーからリリアのフライで飛び立つ。しかし館はひどい臭いだった。魔物に半年以上も住処にされていたのだ。窓や扉は壊されて風通しは良かったのだが、ボロいは臭いはで、もう住めたもんじゃないな。持ち主は可哀想に。

 浄化魔法できれいになるだろうか? それよりいっそぶっ壊して建て替えたほうが早いか。

 そう考えると建物ごと倒すのもアリだな。下手に汚い建物が残ってるより諦めがつくってものだ。それで時間の余裕があれば、俺が新しい建物を作ってやればいい。


 そんなことを考えながらすっかり終わった気分でオレンジ隊のいる南側城壁の上に降り立ったのだが、なにやら軍人さんが数人待ち構えていた。


「この方がたが我らの主でございます」


 降り立った俺たちを指し示して言うオレンジ隊のリーダー。


「貴方がこの部隊の責任者か?」


 年配の軍人が歩み寄って来て言った。


「そうじゃ」


 フードを目深に被り直したリリアが答える。俺が相手をして人間族だとバレてもややこしいので、オレンジ隊関連の受け答えはリリアがやることになっている。今はフルフェイスのヘルムなんで顔はわからないんだが、やはりエルフとは体型などで特徴が違ってくる。


「私は帝国第五方面軍将軍リゴベルド・バルデだ。この者たちは何も言わぬので困っておったのだ」


 エリーたちもそこらにいるはずだが、俺たちが戻るのを待っていたのだろう。オレンジ隊では対応できないし、対面して話すくらいになるとフード程度では顔は隠しきれるものでもない。

 エリーはちょくちょく砦に入り浸っていて顔を知られているだろうし、アンは言わずもがな。ティリカも真偽官として仕事をすることもあったという。俺たちのパーティが一緒なのはまだバレたくない。


「よろしくの、リゴベルド将軍。我らの名は故あって明かせぬ。適当に呼ぶが良い」


「ではエルフ殿……」


「それとこの町の魔物は完全に殲滅しておいた。オーク共の死体が少々乱雑に転がっておるから処分は好きにせよ」


 何か言いかけた軍人を遮ってリリアが一息に言った。


「完全に?」


「信じぬでも構わぬが、調べるなら手早くしたほうが良いぞ。なにせ北側から新たな魔物が侵入しようとしておる」


 まだ時間の余裕はあるはずだが、ぐずぐずしていては城壁に取り付かれるかも知れない。北側にはまだ結構な魔物が見えたんだよな。今日帰れるかなあ……


「早急に城壁をすべて抑えるのだ! 偵察部隊も出して、町中を隈なく調べさせよ!」


「それで良い。では我らはこれにて帰る」


「いやいや待たれよ、エルフ殿!」


 まあさすがにこれで帰すって選択肢はないだろうな。言いたいことや聞きたいことが山程あるだろう。


「まずはこの町の奪還について礼を言いたい」


 うむ、とリリアが鷹揚に頷いた。


「それでこの町の利用に関してなのだが……」


 この町の奪還に関して、軍は何一つ貢献していない。元の領主ならばともかく、この町を利用するにあたって俺たちに遠慮があるということなのだろうか?


「好きにせよ。我らは何も主張せぬ。要求もせぬ」


「しかしこれだけの功績に何もないでは済まされまい」


「些細なことじゃ」


「それも含めて今後の協力体制について話し合いを持ちたく思うのだが」


「必要ない。我らは誰の指図も受けぬ」


 こういう時リリアの強気はいいな。


「そもそも貴方がたは何者なのだ?」


「見ての通りのエルフであるが……そなたらと目的を同じくする者と言えば十分であろう」


「目的?」


「ヒラギスを奪還し、ヒラギスの民を安んじることじゃ。違うのか?」


「ならば尚の事!」


「十分に協力はしておるじゃろう? 峠のオークキングを討伐し、ラクナの町を我らの手だけで奪還した。それとも今以上に戦えとでも言うつもりかや?」


「それは……」


「むろん今後も戦う。それは約しよう」


 リゴベルド将軍は何やら考えているようだ。どうせろくでもないことだ。やはり時間配分の失敗は致命的だった。昨日はうまいこと軍の到着に合わせて離脱できたが、今日はさすがにここでじゃあ帰るねって訳にもいかないだろうなあ。

 今後の付き合いもある。軍とは出来るだけいい関係と距離感を保っておきたい。


「将軍。北方より魔物の大軍が向かってきております」


 しかしそこで会談に邪魔が入った。 


「伝令は?」


「すでに各所に」


「部隊の町への移動を急がせろ。これより町の防衛戦に入る」


 大軍か。かなりの数を倒したとはいえ、町とその周辺のみ。


「手伝おう」


 リリアにこそっと言う。ここで帰っても後のことが気になるだけだろう。


「そうじゃな。オレンジ隊はこのまま待機せよ。我らはもう一働きしてくる。リゴベルド将軍も一緒にどうじゃ? ではこちらに参られよ」


 将軍を一行に加えて再びフライで飛び立つと、あっという間に北側城壁である。兵士たちが慌ただしく配置につく中適当に降り立ったが、ざわっとしただけですぐにそれぞれの配置に向かっていったり、もうすでに接近しつつある魔物に弓を浴びせたりしている。将軍の部下の帝国軍兵士だろうか。よく訓練されているようだ。

 その将軍は急激なフライの移動でちょっとふらふらしていた。慣れないと加速や旋回がきついんだよな。


「おお、たくさんおるのう」


 リリアは将軍の不具合に斟酌する様子もなく新たな獲物にどこか嬉しそうだ。

 魔物の大部分、その本隊は町からかなりな距離を置いて布陣して動く様子がない。それで探知にかからなかったのか。また魔法をぶっ放して終わりにしようと思ったが、城壁からだと届かない距離だ。

 こっち方面、魔物がうじゃうじゃいるとは思っていたが、今は見渡す限りの平原に布陣する大量の魔物が居て、しかも続々と集まってきているようだ。

 どうやら今日は帰れそうにもなさそうだ。



9巻発売中、コミカライズは6話まで

ともどもよろしくお願いします

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