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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第十章

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189話 三度目の挑戦

 

 生き延びるために強くなる。剣聖にはそう話したが、じゃあ何のために生き延びるのか?

 昨日アンと二人きりで過ごした時間は大変に楽しかった。周りに何人も女の子を侍らせて、手を伸ばせばいつでもセクハラし放題な環境なのに毎日毎日ひたすら修行。

 もっと休暇が欲しい。修行するのは仕方ないにしてももっとゆっくりできる時間が必要だ。それでこそ生き延びる意義があるというものじゃないか?


 周囲に流されるまま、ノリと勢いで修行をこなしてはみたものの、剣の修行はとても辛い。サティに励まされながらなんとかやってきたが、今のペースをずっととか少々無理がある。

 そもそもが集中して修行をしようという話自体が、ヒラギスに行くまでの短期間で成果を上げようとしたからで、剣聖が我が家に入り浸っている現状を見るに、ヒラギス戦を機に修行が終わるかというと、まずそんなことはなさそうだ。


 サティは相当強くなった。ウィルとシラーちゃんも順調に強くなっている。俺は……体力はだいぶついたな。

 剣のほうがよくわからない。元の大剣に戻してもほとんど変わらないくらい動けるようにはなった。サティも強化をリセットする前くらいの強さに戻ったようだと言うのだが、じゃあ強化とはなんだったのかという話になるのだが……

 

 今日はその辺を手頃な相手で確かめる。それでサティの言うとおり元くらいの強さになったのなら、リュックスに対戦を申し込む。また前みたいにボロボロに負けるのを衆目に晒されるのは絶対に御免だから、やるのは上で観客が居ないところがいい。


 それでオーガ闘技場前までリリアのフライで飛んできたのだが、降り立つとさすがに目立つ目立つ。我が家全員とメイド部隊勢揃いで俺以外女性ばかり。それも妙齢の綺麗どころばかりである。それを新しいソードマスターが引き連れているのだ。

 昨日サティ・リュックス戦と順位戦が行われ今日は何もないはずだが、選手も客もそこそこいる感じだ。

 

「今日は軽くだから、みんなで見に来てもすぐ終わると思うんだけどな」


「まあまあ。せっかくマサルが久しぶりに戦うんだし。終わったらついでに外で何か食べて帰りましょうよ」

 

 エリーがそんなことを言う。まあたまにはいいか。メイドちゃんたちも修行にかまけて全然相手が出来なかったし、そろそろどうするか考えたほうがいいよなあ。

 しかし総勢一〇人である。ちょっと多すぎやしないだろうか? いやまあ最終的に決めたのは俺なんだが、元々ちょっとした家事要員に獣人から二、三人連れてくるだけのつもりだったのだ。

 でも後々加護がつく可能性を考えると最初から少し増やしておいたほうがいいんじゃないかということで、じゃあ五、六人にするかという話になって、そこにエルフが加わって一気に倍である。

 エルフ側は人件費とかも一切いらないし、必要がなくなったらいつでも戻してくれて構わない。それでいてお手つき自由という優遇っぷりである。思わずイエスと答えた俺を誰も責められまい。


 しかしほんと、どうしようかね? エルフはもちろん使徒や加護のことは知ってて来たし、獣人も例のハーレムに集められた面子から選抜され、こっちに来た時に同程度の情報は与えた。

 それで当初からみんないつお呼びが掛かるのかと俺の前では常にそわそわしてる有様だったのだが、こっちは修行でそんな余裕がない。

 それにみんな顔で選んだのかというくらい可愛い娘揃いである。疲れきった状態で相手をするのももったいなさすぎる気がしたのだ。


 到着していきなりの加護はなかった。じゃあ手を出すのかというと適当に一人か二人と言っても誰を選ぶかという問題もあるし、全員手出しするにはそんな余力もないし、欲望のままにつまみ食いというのもちょっと感じが悪い。


 仕方のない話なんだが、家事手伝い要員として増員を頼んでついでに加護の候補にもなればいいなって程度だったはずが、彼女らにしてみれば加護候補という側面が極めて重要なのだ。

 選抜するにあたってはリリアたちが色々話したようだ。命の危険。人生そのものを賭ける覚悟がいる。俺への忠誠。

 加護という餌があるにせよ、それでも来て身も心も捧げようというのを無碍にも出来ない。

 休暇を増やすというのもこの件に繋がる話である。もし加護持ちを増やせれば、俺がひーこらモノになるかどうかもわからない修行をするよりも戦力になる。

 むろん当初は修行を優先して、加護持ちを増やすのはヒラギス後と考えていたのだが、来てしまったのものは仕方がない。やれることはやっておいたほうがいいだろう。

 つまり修行のペースを落としお休みを増やすというのはメリットも多い、とてもいいお話なのである。


「おお。来たな、マサル!」


 そんなことを考えつつ、一旦みんなと別れ、サティを連れてオーガ闘技場に入ろうとすると、リュックスに出迎えられた。


「ちょうどいいタイミングだ。もうすぐ出番だが準備はいいか?」


「準備? 何の出番だ?」


 なんだかとても嫌な予感がするぞ。


「聞いてないのか?」


「何も聞いてない」


 サティも知らないと首を振った。そういえば朝、剣聖が来ていて、今日はいつ頃オーガに行くのかを聞かれたな。単にこっそり観戦したいのだろうと思っていたのだが……


「あー、では今教えよう」


 気の毒そうにリュックスが言う。リュックスは加護だ使徒だは知らないが、俺が剣聖に可愛がられてるのはよく知っている。一応隠しているし、毎日のようにうちに入り浸っているにも関わらず世間にはバレてないようなのだが、上にいる人間には周知の事実だ。


「この後、一〇人と対戦してもらう。全員倒すことが出来れば俺とだ」


 師匠である剣聖のお達しだ。剣聖が配下な設定を知らないリュックスは俺が拒否など絶対すまいと思っているのだろう。告知もして賭けも受け始めている。

 だがイベント事はもう嫌なんだが。

 ちらっとサティを見ると俺が戦うと聞いて嬉しそうだ。サティは俺が真面目に戦うのを見るの好きだもんな。

 それに見学のみんなも今頃このことを知ったことだろう。リリアはさっそく賭けに動いているかもしれないし、告知したあげく逃げるだなんて無様な真似は見せられない。どのみち戦うつもりで来たのだ。


「今度からは俺に聞いてからにしてくれ」


 ため息をつきつつ言う。十一連戦もか。せめて事前に知らせてくれれば交渉の余地もあったのに。それとも今からでも遅くないか? 賭けは払い戻しで対応させればいいし、せめて人数を半分くらいに……


「すまんな。それとだ」


「まだ何かあるのか?」 

 

「お前に勝てば褒美に上に昇格できることになっている」


「ちょっと待て」


 逃げるどころか交渉の余地すらなかった。上に上がれるチャンスだ。対戦相手は俺との対戦がなくなるのは許さないだろう。

 それにこれ、みんな相当ガチで来るんじゃないか……


「賭けの倍率はどうなってる?」


「俺に勝てば四倍か五倍ってとこだな」


 悪くないな。リュックスには一度は勝ってるのだが、思ったより高い。やはり前回の魔法なしでの負けっぷりで票が割れたか。昨日のサティ・リュックス戦はタイマンだけあって、サティが勝っても二倍台で、あまりいい儲けじゃなかった。儲けるチャンスではあるな。まあリュックスにはさすがに勝てないだろうが。

 他の対戦相手は上位でサンザ、アレスハンドロ、セルガル。あとは俺の現順位の39位を考慮してそのあたりの順位から選ばれているようだ。


「がんばりましょう!」


「リュックスはさすがに無理だぞ?」


 リュックスに勝つ以外だと賭けてもそんなに旨味がないな。ファイトマネーのがたぶんいい稼ぎになる。


「わかりませんよ」


 サティが言い、リュックスも頷いた。


「昨日の試合は評判が良かったし、今日も客の入りはかなりいい。期待してるぞ」


 そう言い残すとリュックスが去っていった。リュックスは勝った負けたより客の入りのほうが気になるのか。


「ぜんぜん軽くじゃなくなっちゃいましたね」


 暗い顔の俺にサティが言う。でもそうだろうか? 久々のオフ気分で軽くだけのはずが本気の試合になってしまったが、しかしたかが一〇人だ。十一人目のリュックスは厄介だが、勝てそうにないならさっさと負ければいい。頑張れば三〇分もかからないだろう。

 

「いや、軽く終わらせてさっさと帰ろう」


 そうだ。見世物に長々と付き合う必要はまったくない。リュックスには悪いが今日の試合、あまり見応えは期待しないでもらおう。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



「ソードマスターサティの旦那でもあり、不死者の二つ名を持つ魔法剣士、マサル・ヤマノスが三度目の挑戦に戻ってきた!」


 突発イベントのはずがリュックスの言うとおり客の入りはかなりのものだった。剣聖の御前試合があった昨日の続きだからだろうか。


「今回は特別な褒美もある。マサルに勝てば、特別に上への昇格が許されることとなった!」


 場が一斉にざわめいた。軽い腕試しのつもりが上に上がるまたとないチャンスだと、俺の相手はいつも以上に目の色を変えている。

 初戦は前回負けた相手だった。


「お前を倒すだけで上に上がれるとは運がいい」


「倒せればな」


 一度は負けたのだ。油断はまったく出来ないが……

 始めの合図で不用意にかかってきたそいつの剣を躱し様、一閃。


「馬鹿な……」


 がくりと相手は膝をつき、あっけなく勝負はついた。やはりこのレベルだとまったく問題はなさそうだ。

 力もほぼ戻ったし体調もいい。それにここ三週間ほど、俺の相手はずっとサティだったのだ。回避と防御だけは相当上達している。

 攻撃面がサティにはかすりもしないので心配だったが、サティより遅い相手だ。思ったよりも簡単に捉えることが出来た。


「次だ」


 二人目も不用意に動いたところを一撃……いやこれは違うな。単に相手の動きが悪い。

 三人目は警戒したようだが、軽く踏み込むと簡単に釣られ、動いたところを一撃。

 四人。

 五人。

 六人。

 七人。

 七人が七人。一合すら合わせることもなく倒れていった。あっけにとられた様子で静まり返った闘技場がわっと沸いた。


 サティは上での修行で数段速度と力が増していた。それに比べればどいつもこいつも遅い。やはり前回のコンディションが悪すぎただけなのもあるが、そもそも最初に戦った時でさえ、上位以外はまともに俺の相手は出来なかったし、その上病み上がりで絶好調という訳でもなかったのだ。


「……ここに来ないでこっそり修行か?」


 八人目に相対したセルガルが言った。


「型だよ。ずっと型の稽古だった」


 型の稽古は役に立った。魔法もそうだが、理屈が分かれば応用が効く。剣術スキル5だろうが、基礎としている動きは基本の型に集約されていた。

 何故ここでこう動くのか? 相手の動きに対してどう返せばいいのか? どう動けば効率がいいのか?

 型とはつまるところ先人達の技と経験の集大成だ。それらをすべて理解できたとはとても言い難いが、剣術の基礎を、理を、術を、この三週間でたっぷりと体に刻み込んだ。今までスキルに任せていた動きが、きちんと理に適っていたことが理解できた。

 それがどれほど実戦で効果があるかわからなかったが、どうやらサティとの稽古と同等か、それ以上に効果があったようだ。

 相手の動きがより深く理解できるようになった。だから対応も余裕を持って出来る。


「お前は俺に足りない物を教えてくれた。礼を言おう」


「ちっ。そういうことは俺に勝ってから言え」


「そうだな」


 サティとシラーちゃんに負けたとはいえ、このレベルまで来ると簡単に勝てる相手ではないのは確かだ。

 だが……セルガルは素直な相手だった。実に綺麗な理に適った動きをし、もし俺と同等の力と速度が備わっていれば、正確で隙のない剣術は相当に厄介だっただろう。

 数合、打ち合ったところでセルガルが大きく下がった。


「何故だ。その強さはソードマスターのお陰か?」


 セコンドよろしく特等席で観戦しているサティを見てセルガルが言う。どうやらこいつの目から見ても、俺は以前よりはっきりと強くなって見えているようだ。

 これはやはり加護のお陰だろうな。

 しかし半年以上に及ぶ修練と、ここで剣の基礎と真髄に触れたことで、ようやく加護の力をまともに扱えるようになった。それはきっと俺の成果でもある。


「そうだな。サティのお陰だ」


 だがそれもこれもサティが強硬にビエルスでの修行を主張して、それ以前にずっとサティという共に修業をする相手がいてこそ俺はここまで強くなることができた。

 

「クソッタレが!」


 セルガルの仕掛けたフェイントも、見えてしまえばフェイント足り得ない。そして惜しむらくはスピードとパワーが違いすぎた。

 セルガルの剣を受け流し、返す刀で一撃。それで戦いは終わった。


 次はアレスハンドロ。シラーちゃんとウィルが立て続けにやられた長い手を持つ面倒な相手である。前はエアハンマーで吹き飛ばしたが、その時同様今回も間合いが遠いのだが、今回はエアハンマーが使えない。

 こいつだけはちょっと特殊な水流剣の使い手だ。


 加護でどうにかなる不動や雷光と違い、修練と経験が物を言う技で、むろん型はいくつか教えてもらったが、使いこなすには非常に微妙な技術を要した。この短期間では習得の糸口すら掴めていない。

 サティが少しだけ出来るようになった、王都で教えてもらった無拍子打ち系統の剣術である。


 目線や筋肉の動き、呼吸などで相手の動きを知るのが基本であるが、その根本的な理とは、人の体は大半が水で出来ているということで、だから人の動きにほんの一拍ぶれが生じる。そこを感じ取り、隙とするのが極意らしい。

 うん、そんなんさっぱり分からんわ。


「お前ほどのレベルで剣を習得していれば多少なりと分かるもんだが、たった一年じゃあな」


 そう剣聖は言っていた。ひたすらの修練と経験、そして何よりも天稟が物を言うらしい。サティは才能があるようだが俺では経験不足で、適性があるのかどうかすらまだどうとも言えないようだ。


「だが極むればすべての生物、つまり魔物の動きとて手に取るようにわかるようになろうぞ」


 それこそが水の理、水流剣の極意だと言う。


 まあそれは今はどうしようもないとして、とりあえず目の前の相手だ。どんな技があろうと、剣はたった一本。そしてそれは俺の振るう剣より軽く遅い。先手を打つ。何かさせてしまえば紛れがある。

 ここは一気に踏み込み、力と速度で技を打ち砕く。


 開始の合図とともに一気に踏み込み距離を詰める。最初の一撃はさすがに受け流して見せたアレスハンドロだったが、剣の返しが遅い。俺の二撃目には対応できず、あっさりと倒れた。


 よし。ここまではいい感じだ。だが次はいよいよ中ボス。烈火剣のサンザである。こいつも前はエアハンマーで吹き飛ばしているから剣を交えるのは初だ。

 現2位。実質オーガのトップである。結局姿を見せなかった元2位は長期離脱で除名されたようだ。まあこいつより強いのだ。居なくなって助かったというものである。


「強いとは分かっていたが、ここまでとはな!」


 こいつは嬉しそうだな。俺は全然嬉しくない。

 烈火剣は単純なだけあって対処法も限られてくる。そしてどれもこれもリスキーだ。失敗すると攻撃をもろに食らって死ぬ危険すらある。

 強化があればパワー勝負に持ち込んで押し切れるはずだが、今まともに打ち合えばまず打ち負けるだろう。

 正面からまっすぐ正中を、最短最速で狙う剣は躱すのも簡単ではない。

 受け流そうにも流しきれなければそのまま剣を食らう。

 間合いはサンザのほうが遠い。


 突破口があるとすればサンザの振るう烈火剣は迎撃の技であって、間合いにこちらから飛び込まなければ負けることはない。まあ勝てもしないんだが。

 奥義であるから一撃一撃に相当な負担がかかるから、無駄打ちさせればそのうち動けなくなるだろうが、たぶんその前に俺が食らって死ぬ。

 最適解は件の水流剣であり無拍子打ちである。サンザが動いたところで出来た隙をつく。まあこれも出来ない。

 いやほんとどうするの? 弓とか使っちゃダメかな……


「どうした? 来ないならこちらから行くぞ」


 サンザがすり足で少しずつ間合いを詰めてきた。仕方ない。一番勝率の高そうな戦法だ。

 サンザと同じ烈火の型。


「ほう。なかなか様になってるじゃないか」


 練習したからな。恐らく打ち負けるだろうが体勢が崩れなければ二の太刀はない。ただしタイミングが重要だ。俺の威力の劣った烈火剣では早くても遅くても、そのまま打ち砕かれて終わるか、崩れたところを叩かれて終わりだ。

 だがそこで耐えれば回復魔法がある。


「ところでサンザ、回復魔法は?」


「使える」


 使えるのかー。まあ仕方ない。知ったところで今更どうしようもない。やるしかない。


 じりじりとサンザが間合いを詰め……間合いに入った。


「ふっ」


 完璧なタイミングで放たれた烈火剣は双方の中央で激突し、耳をつんざく金属音とともに大きく弾かれた。

 だがサンザの剣も同様だった。


 思ったよりも打ち負けなかった! 手は愚か腕の骨や肩まで痺れて動けないが、それはサンザもだ。

 間合いを取り構え直す。思ったより弱い? というか練習相手になっていたサティが強いのか? サティには一度も打ち勝てなかったし、体重も烈火剣の習熟度も違うサンザにも当然負けるだろうと思ったが、やはり試してみないとわからんものだな。


「覚えたてのお前とほぼ互角とは……修行が足りん」


 それに烈火剣も奥義だ。不動のパワーと雷光のスピード双方を使いこなす必要があるだけあって、習得難易度は非常に高いし、だからこそ烈火の型からの一撃でしか、サンザは放つことが出来ない。

 対して俺は素のステータスに頼って放っているから奥義の発動は気にしなくていいし、常に最高の威力を発揮できる。これは相当なアドバンテージなのだろう。


 再び間合いを詰める。打ち負けないならやりようがある。

 サンザの顔にもはや余裕はない。だがこちらとてそれは同じこと。付け焼き刃の烈火剣で、今の一撃は出来すぎだった。もう一度同じことが出来るかどうか。

 いややれる。一度習得した魔法はまず失敗しない。剣もそうだと信じよう。それこそチートというものじゃないか?

 

 サンザが動き、同時に俺も烈火剣を放っていた。双方の剣はまたも弾かれ――ここだ――【極小ヒール】詠唱――

 サンザが俺の回復魔法の詠唱に気がついたところで、手は衝撃で痺れ咄嗟に剣は振るえない。

 一拍遅れてサンザも回復魔法を詠唱しようとするが、遅い。遅すぎる。俺の回復魔法は発動し、手の痺れは残るもののしっかりと構えを取り――


「ぐっ……見事、だ」


 俺の持つ最速の技、雷光剣により、どうっとサンザが倒れた。

 烈火剣といい雷光剣といい、最高のタイミングだった。やはり剣の習得にも加護の補正があるのだろうか? 運ばれるサンザを見ながら考える。だが当てには出来んな。発動がわかりやすい魔法に対して剣技は相手あってのものだ。


「いや本当に見事だ、マサル。お前の戦いには華がある。前にも聞いたが、ここに残る気はないか? 冒険者より楽に儲かるし、ソードマスターともなれば領地でも名誉でも思いのままだぞ」


 楽して儲けて何になる。


「くだらない。ここで戦うのもこれで最後にする」


 何もしなければ20年後に滅ぶ世界だ。お金儲けなど実に馬鹿馬鹿しい。

 俺も常々楽をしたいとは思っているが、何も知らない奴に言われるとこんなに腹立たしいものか。


「ほう。では俺を倒すと? 言ってくれるじゃないか!」


 そこまでは言ってない。


「今の俺では無理かもしれない。だが……」


 だがこいつを倒すのは、世界を救うよりきっと簡単なことだろう。

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[良い点] 主人公のキモがすわってきた 展開が良いね。
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