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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第九章

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183話 魔境に潜むモノ

「勇者をこの目で見、剣を交えられるとはな。長生きはしてみるものだ」


 剣聖はとても楽しそうに言う。


「魔王を倒せって神託により命じられたのが勇者でしょう? それ以外の使徒も過去に結構居たらしいですし、俺は神託とかがたまに来るだけのごくごく普通の一般人ですから」


 そう念を押しておく。俺も最近はやってることが勇者っぽいなとは思わないでもないのだが、ここを譲ってしまうとたぶんひどいことになる。もし魔王でも現れようものなら、勇者となれば確実に討伐に行かされるだろう。

 むろんそうなったら出来るだけのことはしたいとは思うが、強制されるのは御免こうむる。


「普通……? まあいい、ヴォークトはこのことは知らんのか?」


「あの人はギルドの人で、必要があれば報告せざるを得ないって言うから話せなくて。まあ薄々何かは察してるようでしたけど」


「これほどの力……いや待て。他の仲間もか?」


 そう言ってティリカを見、ティリカがこくりと頷いた。さすが剣聖、いいところに気がつく。


「私は平凡な三級真偽官にすぎなかった。これはマサルから貰った力」


 そう言ってたいがを呼び出した。


「おお……そ、それはワシにも!?」


「無理ですね。俺に対する忠誠が高くないとダメっていう条件があって」


「忠誠を誓おう!」


 即断だなおい。だがその程度ではもちろんメニューは開かない。


「必要なのは高い(・・)忠誠心です。形だけでない、心の底からの忠誠じゃないと加護は与えられません」


「ちっ、そううまい話はないか」


「ないですね。仲間を増やすのもなかなか大変で」


「それで全員嫁か。あの一人だけいる男は?」


「あいつは魔物に襲われてるところを助けてやったら懐いてきまして」


 面倒なやつと最初は思ったが、なかなかいい拾い物だったな。ウィルのことは言うべきか迷ったが、あとで本人に判断させればいいだろう。


「ふうむ。忠誠、忠誠か」


 剣聖がじっと俺を見る。まだ諦めきれないらしい。司祭様といい、爺さん連中はアグレッシブだな。


「まあもし条件をクリアできるなら喜んで加護は差し上げますけどね」


 伝説の人物、剣聖に忠誠を誓わせるってのもとんでもない話だ。今誓っちゃったけどそれはノーカウントでいいだろう。


「こんな話が広まれば、有象無象が寄ってくるのは想像に難くないわけでして」


 剣聖ほどの人物にしてこれだ。


「では何のための使徒だ? 神託がたまにあると言っていたな?」


「じゃあ最初から話しましょうか」


 もう何度目やったかわからないほどした説明。いつもの話である。

 立ち話も辛いので、その場に簡易に椅子とテーブルを作り、そもそものこちらへ来た経緯から話し始めた。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



「しかしそれで希望するのが命と平穏な生活か? あたら力を無駄にしてるんじゃないのか?」


 一通り話を聞き終わって剣聖が言う。言ったじゃん! いま何度も言ったじゃん! 普通の仕事を探しただけだって! 俺は普通の家庭で育った一般人だって! なんでそういう感想になる!?


「やることはやってます。こうして修行はしてますし、最新の神託はヒラギス奪還です」


「そう言えばヒラギスに行くと言っていたな。お前らのパーティの力でヒラギス奪還か」


「そこはまあ協力する程度で、神託も参加だけを要請してます」


 一国の奪還なんて一つのパーティでできるものでもなし。


「参加だけ?」


「ええ。全力は尽くしますけど、成否に関しては軍の働き次第じゃないですか?」


 だが勝てば成功報酬でお米だ。面倒を見ている獣人たちのこともある。


「よかろう。神託とあらばワシも最大限協力せねばなるまい」


 まあこうなるよな。神託は隠しておくべきだったか? でもあとでバレても気を悪くするだろうし、ヒラギスの人のことを考えれば、得られる助力は出来るだけ確保すべきだ。


「ワシはこれまでたくさんの弟子を育成してきた。弟子の弟子、またその弟子たちまで含めれば数え切れんほどで、それが世界各地に散らばっておる。ワシが一声招集をかければ数万。貴族家の当主や軍で出世したのもいるから限界まで兵を出させればもっと……」


「いや待って!?」


 思ったより規模がでかかった! もしガチで集まってしまえば、とんでもない事態になるぞ!?


「神託とか使徒のことはもちろん、能力もあまり見せたくないんで派手にやるのは俺が困りますよ」


「今のところ帝国や周辺諸国もやることはやっている。あまり大規模に動いては軍の招集に支障をきたすかもしれない」


 そうティリカが擁護してくれる。


「ならばビエルスにいる者だけにしておくか」


 それくらいなら許容範囲だろうか。号令は万一必要なら頼むとして、とりあえずエリーたちと対応を相談だな。


「そうそう。少数精鋭にしておきましょう。少数精鋭で」


「マサルに忠誠を誓ったことだし、臣下としていいところをと思ったのだがな」


「あれは加護欲しさで口にしただけでしょう?」


「真偽官の前で発した言葉が偽りであろうものか。ワシも最近は伸び悩んでいてな。もし強くなる可能性があるならどのようなことでもしてみせよう」


 伸び悩むってあんた一〇〇近くでもう寿命も近いんでしょうに……

 いやそういうことじゃないな。忠誠なんて誓われても困る。


「言葉だけでは軽いと言うのなら、今ここで剣に賭けて誓おう」


 そう言って剣聖が俺の前に跪いた。


「いや、待って。待ってください」


 今はまずい。人が……


「余命いくばくもない老齢のこの身であるが、我が身我が剣。そのすべてを捧げ――」


 エリーと弟子たちが揃って建物の角から現れる。


「――貴殿を唯一の主君と仰がん」


 跪いて剣を掲げ朗々と宣された剣聖の言葉は、エリーや弟子たちにもはっきり聞こえたのだろう。みな足を止め驚愕の表情を浮かべている。

 人の気配がわからぬ剣聖ではあるまい。わざとか、人に見られる程度では揺らがぬという決意の現れか。


「……マサル、どうしたのこれ?」


 ようやくエリーが側まで来て聞いてきた。


「ワシはマサル殿を主君と定め、剣を捧げた」


「ええー?」

 

 さすがのエリーも困惑しているが、剣聖の弟子たちはもっとだった。


「なんでだよ、師匠!」


 事情を知らないで見たらさぞかし不思議だろう。


「剣士がその剣を捧げうる主君をついに得たのだ。素晴らしいことなのだぞ、ザックよ」


 お前はただ加護が欲しいだだけだろう!?


「どうするの?」


 エリーが聞いてくるが、どうするったって、受けたところで加護が付くってものでもないしなあ。


「お断りします。俺は剣聖に剣を習いに、弟子になりにきたんですよ。頭を下げるのは俺の方です」


 そして剣聖の前に同じように跪き、小さく言う。


「それに形は重要じゃないんです」


 剣を捧げるだのなんだのは決して重要なことではない。大事なのは心だ。


「そう、か。なかなか上手くいかんものだな」


 そう言って剣聖がようやく立ち上がった。


「散れ、お前ら。ワシはマサルとまだ話がある」


 剣聖の言葉で弟子たちはエリーとリリアを残し、しぶしぶと戻っていく。良かった。剣を捧げるのは諦めてくれたか。


「それで忠誠が高いかどうかはどうやってわかるのだ?」


 諦めてなかった。


「一定以上になるとメニューが開くんですが、それまでは知るすべはありません」


「むう」


「まったく知るすべがないというものでもないぞ?」


 そうリリアが言い出した。


「心の中であろうとある程度は問答で測れるものじゃ。うちはティリカもいるしの」


 なるほど。


「じゃがすぐには無理じゃな。こうも会って間もないのでは(えにし)が足りぬ」


「縁か」


「運命とも言う。出会うべくして出会う。苦難を共にする。そういった積み重ねが強い絆、忠誠心となるのじゃ」


 リリアも大概短時間だったけど、少なくとも戦場で丸一日一緒に戦ってたしな。それにしばらく放置してた間、ずっと俺のことを考えていたらしいし。


「それより魔境の話は?」


 静かに話を見守っていたティリカが口を出した。


「おお、そうだったな。ヤツのことはぜひとも話しておかねばな」


 その頃ワシは近場にまともに力を振るえる相手がいなくてな。ちょくちょく魔境へと遠征していたのよ。

 隠行の術はその時に磨き完成させた。さすがに魔境だ。魔物だらけで隠行がなければたとえワシでも数に押しつぶされたことだろう。

 命懸けで習得した技だ。マサルはスキルとやらで簡単に……いや脱線したな。


 ある時、魔境の奥深くでそいつはふらりとワシの前に現れた。

 むろん即座に斬りかかり、あっさりと倒した。多少いい動きはしていたが、ワシの剣速からすれば全く足りぬ。手応えのない相手だと思ったところで、そいつがむくりと起き上がった。見る間に傷が塞がっていく。

 深々と体を切り裂き、致命傷だったはずだ。

  

 今思えば最初に倒れた時に念入りに切り刻むべきだったが、そいつは明らかにワシよりはるかに弱かった。再び向かっては来たがワシの剣に対して守りを固めるのに精一杯で、回復すら追いつかぬ始末。致命傷はよく避けていたが、倒れるのも時間の問題だろうと思っておった。


 徐々にワシの剣を防がれることが多くなってきた。そいつはワシの技を学んでおったのだ。そのことに気がついてワシはむしろ嬉しかった。久方振りに互角に戦える相手に出会って楽しんでおったのだ。


 ――戦いは数刻にも及んだ。それともほんの四半刻だったのかもしれぬ。そいつには散々手傷を負わせたが、回復して無傷。対してワシは魔力も体力もつきかけていた。


 ようやく敗北の二文字が頭をよぎった。もはやそいつは最初に出会った時から数等倍強くなっておった。ワシを上回るくらいにな。もはや防戦に回っていたのはワシのほうであった。

 ここでワシが倒れればどうなるか? そいつを止められる剣士は人族にはおらぬ。なんとしてもここで仕留めねばならぬ、そう考え、最後の力を集め放った奥義はそいつの心の臓を見事貫いた。

 そこが急所だと確信はあった。異形の者だが人型であったし、そいつは何度かそこを守る動きをしたからな。だが同時にそいつの爪もワシの腹に突き刺さっていた。


 双方かなりのダメージであったが、ワシはまだ剣を振るうことができた。止めを、そう思ったところに邪魔が入った。それまで遠巻きに見ておっただけの魔物どもが一斉に襲いかかってきたのだ。

 ワシは手持ちのポーションでなんとか回復し、雲霞の如く襲いかかる雑魚どもを蹴散らしながら、必死に逃げるしかなかった。

 執拗に追い回され、逃げ切れたのが奇跡だと思ったほどだ。


 後日何度かそこを訪れたが、そいつの姿は再び見ることはなかったし、そいつの正体は未だ一向にわからぬ。


「それがおよそ四十年ほど前の話だ。それからは更なる剣技を磨き、弟子の育成にも力を入れ始めた。いつかそいつに再び見える時のため、ワシが果てた後でもそいつに勝てる剣士を育てるためにな」


 その時にはすでに剣聖も六〇ほどか。もし再戦を果たせず死んだ時のことも考えたのか。


「それまではただ強くあればいい。そう思っておった。だが人族に仇なす者を解き放ったかもしれんことに反省してな? それからはきちんと弟子の人格も見るようにしたのだ」


 それが執拗に俺に聞いてきた、俺が何者か? 動機は何かって話か。


「それでそいつが魔王だと?」


「さてな? 人型であったが見たことのない魔物であった。羊のような角と、背には黒い飛竜のような羽根」


「それは伝え聞く魔王の姿」


 そうティリカが言う。


「うむ。少なくとも同じ種族ではある。場所か? 後で教えよう」


「私たちなら倒せるわよね?」


 さすがにエリーも自信がないようだ。良かったな、いきなり魔王を探しになんか行かなくて。戦力が整う前にこんなやつに当たってたら全滅してたわ。


「倒せぬでもないだろうが、昨日の体たらくであれば怪しいぞ」


「もう四十年も前だろ? きっと死んでるよ」


 そう願いたい。


「だが魔物といえど、血族や仲間はいよう。そいつの強さを受け継ぐモノがいると考えておいたほうがよかろう」


 もしそんなのが、例えばゴルバス砦の防衛戦かエルフの里の防衛戦に居たらどうなっていただろうか。剣聖と同等かそれ以上の力を持つ魔物だ。誰にも止めることはできなかっただろう。


「このことは真偽院は?」


「むろん知っておる。帝国と神殿もな」


 ふうむ。だが知っていたところで何が出来るというものでもなさそうだ。調査しようにも場所は魔境の奥深く。しかも相手は剣聖に匹敵する強さの魔物だ。


「四十年も前のことはひとまず置いといて、まずは修行ですね」


 いずれ調査が必要になるにせよ、まずはそいつに負けないだけの強さが必要だ。もし必要なら神様が何か言ってくるだろうし、それまでは頭の隅にでも置いておくくらいでいい。


「修行はデランダルに任せておくつもりであったが、ヴォークトもマサルには特にしっかりと稽古を付けてくれと書いてきておる。こうなればワシが手ずからみっちりとやらねばなるまい」


 藪蛇だった。しかしサティはほっといても真面目にやるからだろうが、俺も結構真面目に修行はしてるはずなのに、なぜに名指し。


「我が剣、我が力。すべて余さず叩き込んでくれようぞ!」


「あの、二、三日は休ませてくださいよ?」


 話の途中で過労や魔法酔いで数日前に倒れた話はしてある。いくら剣聖が気合を入れたところで俺の体が動かない。


「わかっておる。主君が無理をせぬよう注意を払うのも、老臣の勤めであろう」


 ニッと剣聖が笑う。


「老臣ってそれは断ったはずでしょう?」


「大事なのは形式ではないのだろう? たとえ断られたとて、心の中で臣下として忠義を尽くせば良いのだ」


 そうきたか。


「良い心がけじゃの、剣聖殿。これならば加護も期待できるのではないか?」


「そうね。それにバルナバーシュ殿が仲間になるのはとても心強いわね!」


 そうだけど。そうなんだけど!


「しかしこの歳にして初めて主君を得たが、なかなか気分が良いものだな。二〇か三〇ほど若返った気分だわい!」


 もはやどうあっても諦めるつもりはないらしい。剣を捧げたのがすっかり既成事実になっているようだ。


「長年多くの者がワシの剣をと望んだがどれも違う、帝王からの直接の要請ですら物足りぬと感じておった……それはこの時この出会いのためだったのかもしれぬな」


「おお。きっとそうじゃ、剣聖殿!」


 それはきっと気のせいだよリリアよ。剣聖も神妙な顔で何やら言っているが、さっきは強くなるためになんでもするとか言ってたじゃないですか。


「とりあえずここでの話は全部内密の方向でお願いします。ほんとお願いします……」


 色んな意味でひどく疲れていた俺は、そうお願いするので精一杯だった。


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