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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第九章

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181話 最強にして究極の魔法

 気がつくとティリカが顔を覗き込んでいた。仰向けで頭が柔らかいものの上に乗っている。


「……大丈夫?」


 頭はぼーっとするが体の痛みはもうないな。柔らかい感触はティリカの膝枕か。


「大丈夫みたいだ」


「そう」


 ティリカが優しく頭を撫でてくれるので、目を閉じて思考を巡らせた。

 鉄棍を食らって負けたか。最初に剣がなくなった時点で魔法攻撃に移るべきだった。容赦ない魔法攻撃で殲滅すべきだった。そうすれば勝っていたはずだ。

 それとも塔でも作って上から好き放題攻撃するとか、落とし穴で落とすとかでもいいな。だけどこれは力を見るための立ち会いで単純に勝てばいいってものでもないし、でもそうするとさっきの戦法はかなり卑怯でどうしようもない気がしてきた。


 でもそれも後知恵というものだな。エアハンマーを食らって立ち上がり、ゴーレムの一撃は防がれ、あの切羽詰まった状況下で戦法を吟味してる余裕などあるはずもなし。

 それにそもそもシラーちゃんのノリで敵っぽい雰囲気になったブルーブルーであるが、別に敵ってわけじゃないし、勝っても負けても何があるというわけでもない。 

 だったら剣で戦えばよかったのだが、普通に正面からやるのも怖すぎた。

 今回は色々中途半端な戦いだったな……


 ガギンッ。戦闘音で一気に意識が覚醒した。急いで体を起こすとなぜかフランチェスカが戦っている。

 近くにはサティもいてシラーちゃんが介抱しているようだ。


「全然ダメでした……」


「まあ仕方ない」


 ブルーブルーは化物すぎる。今もフランチェスカは良く戦っているが、手も足も出ないどころかブルーブルーが攻勢に転じると必死に逃げ回るだけで精一杯という有様だ。

 それでいて防御も固く、動きも俊敏。やっぱ真正面からやらなくて正解だったわ。


「なんであれで狂戦士なんだろうな? 鉄壁か不沈って感じで前衛にいたらすごく頼りになりそうだけど」


「あの装甲でもって単騎で敵に突っ込んでいって大暴れするからよ。言うことは聞かねえわ、興奮すると敵味方の区別も曖昧になるわで付いた通り名が青の狂戦士だ」


 そう剣聖が横から説明してくれた。びっくりした。相変わらず気配がない。

 だがそう聞くと確かに狂戦士だ。


「アレ、どうやって倒せばいいんですかね?」


 腹に剣をぶっ刺しても平気で反撃してきたしなあ。


「……お前、倒したじゃねーか」


 まあそうだな。でもあれは魔法を正面から受けてもらってのことだし、それで倒したって言うのもな?


「剣でなら?」


「ブルー以上の力と技を身につけるんだな。もしあいつを倒せるなら即ハイソードマスターの称号をやるぜ」


 免許皆伝ともちょっとニュアンスが違うな。無理矢理訳すと大剣豪ってところだろうか。


「うん、無理ですね」


 俺の魔法でさえ耐えきるしダメージは回復する。刃引きとはいえ、俺の力で剣を叩き込んでも倒れない。


「ブルーの腹に剣を突き立てたお前が何を言う? あれはどうやった?」


 どう……ということもないんだけどな。


「こっそり接近してぶっ刺しただけですよ」


 広場では荒れ狂うブルーブルーに、フランチェスカが間合いに入ることすら出来ないでいる。


「あの視界じゃ何一つ見通せなかったはずだ」


 少しでも視界があればブルーブルーが反撃できた。


「気配を……」


「気配とは何だ?」


「貴方だって俺の転移剣を見もせずに防いだでしょう?」


「気配と一口に言うが、つまるところそれは魔力や風の動きや音や臭い、それと経験による予測だ。だがお前は何故ブルーブルーに攻撃ができ、そしてワシが見えた?」


 何故と言われると答えに困る。俺の理解によれば気配察知のスキルというのは生命力と言えるものを探知しているらしい。だから死ねば消えるし、地面の下のミミズだって探知しようと思えばできる。


「ただわかる。そういう能力としか」


「ヴォークトほどの男が特別だと書いて寄越すわけだ……」


 軍曹殿も付き合いが長いし、はっきり俺たちが異常だってバレてるからなあ。


「ああ、心配するな。知られたくないのだろう? ヴォークトも詮索無用と書いてきておる。だがワシも歳だ。秘密は墓に持っていってやる。だからすべて話せ」


 すべて。すべてか……

 剣聖は軍曹殿の師匠ではあるが、会ったばかりでそこまで信用できるだろうか?

 

「ああっ」


 ウィルが声を上げる。気がつくとフランチェスカは俺が残したゴーレムの残骸に追い込まれていた。すまん。片付けるの忘れてたわ。

 そこにブルーブルーの攻撃が叩き込まれ……


「躱したっすよ!」


 フランチェスカは奇跡的な動きでブルーブルーの鉄棍を掻い潜ったかに見えた。

 だがフランチェスカはそのままころんと転び、倒れてしまった。頭にかすってたか。

 気絶こそしなかったようだが、立ち上がれないようだ。


「終わりだ、ブルー!」


 剣聖が叫び、ブルーブルーが動きを止めた。剣聖はそのままフランチェスカのところに行くと詠唱を始めた。俺やサティを誰が治療したのかと思ったら剣聖か。

 きっとステータスを見れればレベルが高くて魔力も相応にあるのだろう。なかなか強力そうな治癒魔法で、すぐに立ち上がったフランチェスカ共々こちらに戻ってくる。


「あとはウィルね」、とエリー。


「止めておけ。ウィルじゃ無理だ。それに……」


 フランチェスカが言う。王子様に何かあったら困るということなのだろう。


「俺は……」


 ウィルの声がわずかに震えている。


「そうだな。別に無理してやる必要もないぞ」


 ウィルの表情は面に覆われ見えない。こんな危険をあえて冒す理由もない。


「だけどお前もいつか、どうしても勝てない相手と実戦で相まみえることがあるはずだ。逃げられるなら逃げればいいだろう。だがそれすら出来ない時はどうする?」


「俺は……」


 迷った声でまた呟く。オーガに襲われて荷物を捨てて逃げたのはそう遠い過去ではない。


「どうしようもないなら戦うしかない。諦めずに足掻けば奇跡が起こるかもしれんぞ?」


「やるっす」


 震えも止まったようだ。声にも力が戻っている。

 だがしかし。気合や気持ちだけでどうしようもない相手や場面があるのがリアルである。

 必死の覚悟で戦いを挑んだものの、ウィルは空高く飛んだ。


「し、死ぬかと思ったっすよ!?」


 治療してやるとすぐに目を覚まして言った。声が震えている。派手に吹っ飛んだわりに案外ダメージが浅かったのは、エルフに作ってもらった新しい鎧のおかげだろうか。


「良かったな。死ななくて」


 青い顔のフランチェスカも頷いていた。まあいい経験にはなっただろう。





「次は私よ!」


 ウィルを治療して慰めていると、なぜかエリーがブルーブルーと相対していた。


「なんでだ!?」


 だがすでに詠唱を始めてしまって、止めるには手遅れな感じだ。

 無茶だとは思うが、新しく開発したスタンボルトがある。生物である以上、頑丈だとかは全く関係なく、電撃を食らえばもれなく倒れるはずだ。


「スタンボルト!」


 十分に距離を取ったエリーから放たれたサンダーは、ブルーブルーの鉄棍に命中した。いや弾かれた?


「ソレダケカ、魔法使い?」


 効いた様子はない。

 パシッ、パシッとスタンボルトが連続で放たれるが、鉄棍か盾に阻まれ、ブルーブルーには届いてないようだ。


「ブルーの装備は耐火耐電仕様の特別製だ」


 剣聖が説明してくれる。火もダメだったのか。たぶん俺の火力なら焼き尽くせるだろうけど、さすがにそれはやり過ぎだろう。


「それに頑丈さも特別で、ちょっとやそっとじゃ剣も通さんのだが……」


 なるほどな。刃引きとはいえ重量のある鉄剣を、俺の力でぶっ叩いて倒れないのはタフネスだけじゃないのか。


「スタンボルトォ、マキシマム!」


 ちょっとよそ見をした隙に戦いは佳境に入っていたようだ。

 エリーの杖がまとう雷が膨れ上がり、絡み合う蛇のように一斉に放たれ、ブルーブルーの全身に襲いかかる!


「少しダケ、しびれタ」


 平然と言ってブルーブルーがずいっと前に出た。ダメだったか。


「ま、待って。待ちなさい! まだ私の攻撃は終わってないわよ!」


 ここまで一方的に攻撃しておいて、エリーはさらに自分のターンを主張するようだ。やりたい放題だな、エリー。


「ツマラヌ」


 そう言って俺のほうを見る。いやいや。俺はもうやらないぞ!


「つまらなくなんて全然ないわよ! 今から見せる魔法は最強にして究極」


 どっかで聞いたセリフだな。


「マサルの魔法には耐えることはできたようだけど、私のは絶対に耐えきれない、防げないと断言するわ!」


 今のスタンボルトはばっちり防がれたけどな。

 そう言うと恐れ気もなくブルーブルーに自ら近づき、その眼前に立った。ブルーブルーの鉄棍はまだ届かないだろうが、槍なら届きそうな距離だ。この間合いは空間魔法を使うつもりか。


「さあ、ブルーブルーに私の魔法を受ける勇気があるかしら?」


 空間魔法。あらゆるものを切り裂くがその射程は短いし、詠唱に時間もかかる。

 こんなことをしていたら、まともな敵が相手ならエリーの命は確実にないな。


「ブルーブルーに魔法は効かヌ」


 たしかにメテオや普通のフレアくらいでも耐えてしまいそうだが……

 エリーの詠唱が始まった。

 尋常でないその強い魔力にブルーブルーが盾を正面に、がっちりとした防御体勢を取った。


「いい? 死にたくなければそのまま動いちゃダメよ?」


 詠唱を続けつつエリーが告げる。心配するまでもなく、さすがに殺す気まではないようだ。


「ソード・オブ・ディメンション」


 静かにそう言うと、エリーが軽く杖を振り下ろした。

 しんと辺りが静まり返る。強大な魔力の放出も消え、森の木々を風が揺らす音がわずかにするばかり。

 エリーがあれ? と首をかしげる。まさか不発か? 発動したようには見えたが。


「やはりツマラ……」


 ブルーブルーがそう言いかけて身じろぎした刹那、手にしたアダマンタイト製の盾が縦にずるっとずれ、ごとりと地面に落ちた。


「……もちろんわざと外したのよ? これは間違いなく私の勝ちね!」


 それを見てエリーが嬉しそうに勝利を宣言した。ブルーブルーはよく理解できないという顔で固まっている。

 

「なんだ、今のは? なんだ!?」


 さすがの剣聖も空間魔法レベル5は見たことがないようだ。空間魔法は完全に見えないし、魔力感知があっても何があったかはまずわからない。ただ発動した結果だけがそこある、最強にして究極の恐ろしい魔法だ。


「内緒です」


「ふっふーん。どうよ! みんなの仇は討ったわよ!」


 エリーが戻ってきてご機嫌に言った。まあ一方的に攻撃させてもらっただけで、普通にやったらスタンボルトがダメだった時点で勝てなかったのは間違いない。


「すごい。すごいです、エリー様!」


 だがブルーブルーを倒すにはやはり魔法か。


「でしょう!」


「だけどやっぱり実戦では使えんな。射程は短いわ、詠唱は長いわ」


 ブルーブルーが気を変えて、こつんと一突きするだけで、エリーはお陀仏である。


「まあそうねえ」


「オ、オオオオオオオォ」


 呆然と動かなかったブルーブルーが腹の底から絞り出すような慟哭を上げると、がっくりと膝をついた。


「ブルーよ。何十年連れ添おうとも武器は武器。モノはいつか壊れる定めよ。そう嘆くな」


 鉄棍、アダマンタイト棍も曲げちゃったし、盾は真っ二つ。ブルーブルーも災難だったな。


「ええっと、その、ごめんなさいね? 良ければ弁償しましょうか?」


「純アダマンタイトの装備は高いぞ? しかもブルーのには特別な処理もしてある」


「おいくらくらいかしら……?」


「ちょっとした短剣でも一〇〇万ゴルドはくだらんし、それに金があってもあれだけの量のアダマンタイト鉱石が集まるかどうか」


「ひゃく……」


 最低でも一〇〇万ゴルド、つまり一億円。盾のサイズを考えると、その二〇倍か三〇倍くらい? それに鉄棍も加えるとなると……


「ウウウウウゥ」


 ブルーブルーが何やら唸り声を上げている。鉄棍を持った手には力が込められ、鎧がミシミシと盛り上がろうとしていた。ヤバい。ショックを過ぎて怒りが込み上げてきたのか。

 そこへエリーがのこのこと近づいていた。おい、今は!?


「ほんとにごめんなさいね? とりあえずプリンでも食べる?」


 のほほんとしたエリーの言葉に、ブルーブルーは割れた盾とプリンを見比べ、そっとエリーから差し出されたプリンを受け取った。

 居住まいを正し、地面に座って朝食の時のように味わい味わい、ゆっくりと口に運び始めた。

 良かった。怒りは収まったようだ。


「ど、どうしよう、マサル!?」


 戻ってきたエリーが言う。弁償はきついな。


「なんなら妾が……」


「いや、要は直せばいいんだろ?」


 リリアがお金を出すのは最後の手段だし、鉱石の入手にも手間がかかるという。そんなことに時間をかけている余裕は俺たちにはない。


「どうやって?」


「ちょっと見せてもらいますね、ブルーブルーさん」


 そう言って許可を貰って鉄棍を手にする。重っ。見た目の三……五倍くらいの重さがある。この前作ったサティの一番重い剣よりさらに重い。

 さて、こいつをだな。


「レヴィテーション」


 魔法攻撃で曲がったんなら、魔法でまっすぐにもできるはずだ。

 中ほどで曲がった鉄棍に、徐々に力をかけていく。

 数トンの岩をも持ち上げるレヴィテーションだ。硬い金属を曲げることくらい、なんてことはあるまい。


 徐々に魔力を込め、鉄棍にかかる力を増して行く……徐々に……少しずつ……少しずつ……

 ………………おかしいな? すでにかなりの魔力を込めているはずだが、ぴくりともせんぞ。


「折れず曲がらず。この世で最強クラスの硬度を誇るアダマンタイトだ。一度成型した以上、生半可なことでは無理だ」


 剣聖はそう言うが、さっき俺の魔法で曲がったじゃん。しかし一旦魔力を止める。

 アプローチを変えよう。


「エリー、ちょっと」


 エリーを引っ張って、広場の隅っこへ。ティリカも一緒に付いてきた。


「空間魔法で空間自体を曲げて、鉄棍の曲がりを直せないか?」


「……ダメね。一時的に空間を曲げても、戻ったらたぶん何の変化もないわよ?」


 ふうむ。いけそうに思えたのだが。


「でも二カ所に力を加えれば曲がるかも? 空間をずらす要領で、でも切断はしないように工夫すれば……」


 おお。さすがはエリーさん!

 でも手に持って試すのは怖いので鉄棍は地面に置いて、三人で囲むように座り込んだ。


「あ、待て。まずは他ので試してみよう」


 間違えて切断なんかした日には目も当てられない。アイテムボックスからまた武器箱を取り出し、数打ちの剣を出す。


「これで試してみてくれ」


 エリーが空間魔法を試すと、その安物の剣はまるで粘土細工のように、くにっと簡単に折れ曲がった。


「いけそうね」


「大丈夫そうだな。やってみよう」


 再び地面に置いた鉄棍に向かいエリーが空間魔法を発動させると、安物の剣となんら変わらず、あっさりとまっすぐに直った。


「上手くいったわね」


「待て、ちょっと角度がおかしいぞ」


 綺麗にまっすぐになってない。


「あら、ほんとうね」


 再びの詠唱。


「今度は曲げすぎだ」 詠唱――


「またちょっとずれてないか?」


 変な位置で曲がってしまっている。さらに何度か微調整を繰り返し――


「こ、これでだいたいまっすぐになったか、な?」


「え、ええ。そうね……たぶん」


「歪」


 ティリカがばっさり切り捨てた。ですよねー。

 度重なる修正で、とりあえずまっすぐと言える程度にはなったももの、沢山の折り目がついた鉄棍はもはや元の状態とは遠くかけ離れていた。


「とりあえず武器としては使えるし。うん、きっと大丈夫だ……」


 ちょっと曲がったくらいの時は平気で使ってたし。もしかすると元のより少し短くなってしまったかもしれないが……


「そうね。誠心誠意謝れば許してくれるかも」


 素人が思いつきで鍛冶仕事なんてするもんじゃなかったな……

 恐る恐る俺たちが差し出した鉄棍を、ブルーブルーはためすがめす見て、なぜか納得したようだ。


「形あるモノはいつか……」とか「味がアル」とかブツブツ呟いている。


 お次は盾である。

 もうやる前から嫌な予感がひしひしとするが、どの道このままでは使えないし、失敗しても失うものは何もない。曲がっただけの鉄棍と違い、盾は真っ二つ。もはやまったく使い物にならない。


「また私が空間魔法でやってみる?」


 空間魔法で切れ目を合成……は核融合が起きそうだな。

 空間魔法でエクスプロージョン? あー、ダメだな。射程がないから術者ごと死ぬ。

 しかしエリーが考えていたのは接合部分を変形させ、プラモデルか何かのように噛み合わせてくっつけることだったようだ。

 理論上は良さそうではあるが、曲がった棒をまっすぐにすら出来ないのに、正確に噛み合うように変形など、到底エリーに出来るとは思えない。


「空間魔法で曲げるのは最後の手段にしておこう」


 俺の意見にエリーも神妙に頷いた。

 預かった盾も恐ろしく重かった。そうするとブルーブルーの着ている鎧も相応の重量があるのだろう。それを装備してのあの動き。

 ウィルは空を飛ぶし、シラーちゃんが一撃でやられるわけである。いやほんと、まともに打ち合わなくて正解だったと改めて思った。

 そういえば鎧にも穴を開けたはずだが、まあそれは言われなければ忘れておこう。いや後回しだな、うん。物事はこつこつと一つ一つ処理していかなければ。

 

 さて。盾は金属である以上、高温で溶ける。そこをくっつけてやればいい。理屈はあってるはずだ。


 盾を地面に差し、切断部分を上にして立てる。直接魔力を通すと金属の劣化が起こるから、盾の上に熱源を作って盾の切断面を溶かし、もう半分の盾を乗せる。

 それで冷えればぴったりとくっついているはずだ。

 エリーもティリカも上手くいきそうだとは言ってくれた。自信なげに。

 俺も自信ないわ。


 相談してるうちにみんなと剣聖と弟子たちも見学にやってきた。

 今回は普通の火魔法だけだし、別に見られても構わないだろう。


「はい、離れて離れて」


 詠唱を開始する。盾の切断面に沿うように収束した炎が発生する。位置は良し。

 魔力を加えていく。

 すぐに熱くなってきた。少しずつ後退するが……


「どうしたの?」


 中断した俺にエリーが尋ねる。


「熱い」


 尋常じゃない。溶ける前に俺が焼け死ぬわ。

 盾の周囲を土壁で囲む。少しだけ隙間を開けて、出来るだけ距離を取って再び魔力を……


「リリア、ちょっと風を送ってくれ」


 風で暑さが少しましになる。見学者もあまりの熱にじりじりと後ずさり始めた。


「師匠。アダマンタイトって熱で溶けるんでしたっけ?」


 ここまで静かだったデランダル・カプランがぼそりと言う。


「熱にも強い」


 耐火レンガだろうが宇宙船のタイルだろうが、限界超えたら溶けるし、むしろ溶けない、液状化しない物質なんてないだろうに。

 だがまったくもって俺がそう思った通り、耐火レンガですら溶けるような熱量でもって、真っ先に地面が溶け出した。

 地面に刺した盾がゆっくりとかしぎながら沈み込もうとしている。

 ヤバい。中断……

 だが沈んだ盾がふっとまっすぐ持ち直った。


「続けて」


 エリーがレヴィテーションで持ち上げてくれている。

 土壁の耐久性を考えるとあまり時間はかけられんな。一気にやる。魔力を一気に集中――

 存分に注がれた俺の強力な魔力によって、盾の上の熱源はもはや地上の太陽のように光り輝き正視できないほどで、熱はぎりぎりまで離れ、強力な風を吹かせても耐えきれないほどだ。


 だが一気に魔力を込めたことにより、ようやく盾に溶解が見られた。


「溶け始めてるぞ!」


「任せて」


 手隙だったティリカが盾の半分をレヴィテーションで持ち上げ、溶け始めた盾に近づける。

 完全に溶けている。そう見て熱源への魔力供給を止めると、そこへティリカがぽんと盾を置いた。

 すーっと周囲が涼しくなる。


「成功」


 エリーが見やすいように持ち上げて見ると、ティリカの言う通りちゃんとくっついているように見える。

 あとは冷えるのを待って確認するだけだが……これ失敗したら、まさかもう一回切るわけにもいかないし、たぶん取り返しつかないな。

 ちゃんとくっついてますように。


 盾に風を送りつつ確認してみると、接合部分には溶けて固まったバリが多少は見られるものの、ほぼ正確にくっついてた。

 だがしかしである。

 盾の半分には溶けた土がガラス状にびっしりと固まって、酷い見た目になっていた。


「つ、ついてる土は削ればなんとかなるんじゃないかしら……」


「そうだな。元は土だし削ればたぶん綺麗に……」


 素人が思いつき鍛冶仕事なんて、ほんとするもんじゃないな。


「構わヌ」


 だが盾を見てブルーブルーが言った。


「コレはブルーブルーの敗北の証。ダカラこのままでヨイ、二人の大魔法使いヨ」


「大魔法使い……そうね。私たちにはそう名乗る権利くらいあるはずよね!」


 エリーが嬉しそうに言う。大魔法使い?


「大魔法使い。それは賢者と並ぶ、魔法使いに与えられる最高の称号」


 ティリカが説明してくれる。


「二人って俺もか?」


「マサルがそうでなくて、誰を大魔法使いと呼べるのじゃ?」


「ワシも認めよう。精霊使い(エルフ)と剣聖が認めるのだ。二人ともこれからは大魔法使いを名乗るが良い」


 そうリリアと剣聖が言い、メニューを開くと称号にはしっかりと大魔法使いが追加されていた。

 剣士の修行をしにきて魔法使い系の称号が増えた。解せぬ……

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