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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第八章

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161話 獣人のお礼

前回までのお話

・難民キャンプで困窮している獣人を助けることにした

・アンがやらかす

・ゴケライ団の結成

・ウィルがフランチェスカに王子様なのをばらしてしまう ←今ここ

「……ほんとに?」


 そう言ってひどく困惑した様子で周囲を見回したフランにみんなが頷いてやると、フランの顔がさーっと一気に青ざめた。きっと色々と思い起こすことがあるのだろう。


「え、いやだって、みんな普通に……」


「そりゃ身分は隠してたんだし、普通に接するよ」


「普通って、マサルの修行はちょっと普通じゃないし、ウィルの扱いがぞんざいにすぎると思うわよ?」


 即座にエリーの突っ込みが入った。俺以外のみんなは普通っていうか、不自然じゃない程度に丁重に扱ってたな。エリーなんか最初は捨ててこいって言ってたくせに、えらい手のひら返しである。


「俺のは普通じゃなくて平等だ。短期間で鍛えるのにはあれくらい厳しいのが一番いいんだよ」


 そう軍曹殿が言ってたし、きつい修行やエアハンマーでふっ飛ばしたりは、分け隔てなくやっているんだ。


「それに扱いも新入りで下っ端だし、雑用なんかをやらせるのは当然だろう」


 俺の言葉にウィルもそうっすねと頷いている。フランも当然のように雑用とか使いっ走りを言いつけてたな。

 

「まあ何をしたにせよ知らないでやったことだ。別に気に病む必要はないと思うぞ」


 ずいぶんと顔色を悪くしてるが、無理矢理やらせてるわけでもないし、ひどいことをやってるわけじゃないだろうに。

 だが俺の言葉にフランははっとした表情で素早く椅子から降り、汚れるのも構わず土間の床に片膝をつき、深く頭を下げた。


「し、知らぬこととはいえ、これまでの無礼な行為の数々。平にご容赦をくださいませ、ウィルフレッド王子。罰を与えるというなら、どのようなことでも受け入れましょう」


 そう頭を下げたまま一気に言った。思ったより過剰な反応のフランに、ウィルも困った顔をしている。


「フランチェスカ殿、そのような謝罪はまったく不要ですし、罪などどこにもありません」


 そう言って、ウィルもフランの横に膝をついた。


「今の私は一介の冒険者にすぎません。お願いだから頭を上げて、今まで通りに接してほしい」


 ウィルも元がいいからこうして言葉遣いも改めてちゃんとしてると、王子様に見えなくもないな。


「いや、しかし……」


「そうそう、気にすることなんて何もないんだ」


 フランでアウトなら俺なんかスリーアウトチェンジだよ。 

 とにかく大丈夫だと、ウィルやみんなで言い聞かせ再び椅子に座らせた。


「直系って言っても兄が七人もいて、王位継承権も尻尾のほうっすからね。家に戻っても領地を貰って子爵位あたりを継ぐことになるだろうし、ほんと大したことないんすよ?」


「仮に問題があるとしても、パーティ内で留めておけば俺たち以外知ることもないしな」


「だがウィルフレッド王子に万一のことでもあったら、それは通用しないぞ」


 万一か。回復魔法の修行も兼ねてきつい修行をしてるから、骨程度は何度かやっていた。それで死ななくとも、どこかが不具になったこいつを実家に送り届け、頭を下げる。

 確かに相当にやばそうだが……


「冒険者には過去の事は問わないのがルールだし、何があったとしても自己責任だ」


 うちが危険なこと巻き込まれるのは確定事項だし、ウィルもそれは重々承知しているはずだ。

 そもそもパーティメンバーの誰ひとりとしてそんな状況にしたくないから、進んできつい修行をしているんだし、狩りも事故がないように十分用心してやっている。

 このことは心配しても仕方ないな。何かあってから考えよう。じゃないとウィルをこれ以上連れ回せなくなる。

 ウィルが残ろうと残るまいと、俺としてはどちらでもいいんだが、冒険者を続けたいというのならなるべく希望は叶えてやりたいとは思っている。


「それにヒラギスに行くまでにしっかり修行はしておかないとな」


「ウィルフレッド王子もヒラギスに?」


「むろん行くっす。あ、フランさん、今まで通り、ウィルでお願いするっすよ」


「あと何日かは一緒だし、ビエルスでもたぶん一緒に修行するんだ。そんな調子じゃウィルが困るぞ? いままで通り、偉そうにしてろ」


 フランはふーっと息を吐いて、ようやく緊張を解いた。


「エリーの言うとおりだ。聞かないほうがよかった」


「まあまあ。プラスに考えようぜ。ウィルに貸しを作っておくと、将来役に立つかもしれないし」


「そうっすよ。フランさんにはお世話になってるし、何かあれば融通を利かせるっすよ!」


「ありがとうござ……あ、ありがとう、ウィル」


「ぎこちないぞ」


「う……貴様らはよく平気な顔で接しているな」


 そう俺のほうに向かって言う。まだウィルを正視する勇気はないようだ。フランも案外肝が小さい。


「慣れだよ、慣れ」


「兄貴は大物なんすよ」


 だがそれで納得するどころか俺をじっと見て、突然フランが言い出した。


「……マサル殿も、もしやどこかの貴族や王族の出ってことはないよな?」


 的外れではあるが、なかなか鋭いところをついているな。


「ないない。俺は正真正銘、平民の家の出だよ」


「それは間違いなく本当だな?」


 疑り深いな。使徒だとバレるようなことはしてなかったはずだが……


「ウィルに対して偉そうなのは、俺がこいつの命の恩人で、魔法や剣を教えた師匠だからだよ」


 加護のことがなくても金や装備に住むところまで色々面倒を見てやったし、俺より年下で冒険者としても後輩だ。


「マサルは私にも偉そうじゃないか」


「うちはリリアみたいな王族もいるし、フランのことも冒険者として扱うって最初に言っただろう。冒険者は実力がモノを言う世界だぞ? フランも強いんだから、ウィルのことは気にしないでどっしり構えてろ」


「そうか。そうだな。でも今日は無理だ……」


 そう言って立ち上がると、よろよろと力なく割当られた部屋に向かっていった。


「フランさん、あれで明日から大丈夫っすかね?」


「あの様子だと今まで通りは無理かもな」


「俺はフランさんに認めてほしかっただけなんすよ……どうにかなんないっすかね、兄貴?」


「なかなか腕がいいし、部下にほしいと言ってたじゃないか」


「そういうんじゃなくて、対等で、もっとこう、兄貴たちみたいに仲が良い感じに……」


 結局のところ、ウィルは俺のことが羨ましかったのか。隙あらばイチャイチャしてるのは、もしかすると目の毒だろうかとは思ってたが、やっぱり欲求不満をためてたんだな。


「だから外ではもうちょっと控えなさいって、普段から言ってるでしょう」と、アンが言う。


「これでも旅の間は少しは抑えてるんだけどな」


「どこがなのよ……」


 呆れたようにアンが言う。


「俺も人目があるところではさすがに遠慮してるよ。でも一緒に旅してるウィルとフランにまで気をつかってたら、何もできないじゃないか」


 それもあからさまにエロい行為はしてないし、多少のいちゃつきくらいは勘弁してほしい。


「女の子は人生で一番の楽しみで俺の生きがいなんだ。そのためなら命をかけてもいいと思ってる」


「そんなにっすか」


 エロい行為を禁止なんかされたら、戦うモチベーションが激減する。もう家に帰って寝るしかない。


「そんなにだ。ウィルよ、お前にその覚悟があるのか?」


「覚悟……」


 何がなんでも、何もかも捨ててもフランを得たいというのなら、たぶん可能だろう。家格や血筋は問題ないし、実力も申し分ない。正式に名乗って婿入りを希望すれば、王国は喜ぶんじゃないかね。


「はいはい、お馬鹿なことを言ってないで、話が終わったんなら私はもう寝るわよ?」


「あー、そうだな。先に寝てていいよ」


 ちょっと話が脱線したな。明日も朝早いし、できれば俺も休みたいところだが、用事はまだ残っている。


「マサルもいっぱい魔法を使って疲れてるでしょ? あまり遅くまで遊んでないで早く寝なさいよ」


 エリーがあくびをしながら言う。一日魔法を使っていたので相当疲れてる。頭が重く、体も気怠い。魔法のことがなければ病気を疑うレベルだ。


「お疲れ様、エリー。今日は手伝ってくれて本当に助かったわ」


「いいのよ、あれくらい。ずいぶんと面白いことになったしね」


 おやすみなさいと、部屋をでるエリーに、サティもエリザベス様のお世話をしてきますと付いていった。


「私は砦に戻るわ。孤児院の子供の面倒を見ないと」


 孤児院はアンが来るまであまり状態が良くなかったらしく、なるべく目を離したくないらしい。


「俺もゴケライ団のことがあるし、出るついでに送るよ」


「アンの送迎は妾がやろう。砦にいるティトスたちの成果を聞きに行きたい」


 ウィルが護衛に志願してくれたので、サティに一声かけて外に出て、すっかり日が落ちた中、残ったティリカとシラーちゃんと砦にすっ飛んでいくアンたちを見送った。

 カルルと数名の団員が待機していたので、団員を集めるように言いつけていると、獣人の女の子が話しかけてきて、少し時間が取れないかと言う。


「マサル様は大量の食料だけでなく、一〇〇万ゴルドもの資金も提供してくださったとか」

 

 実際はもっとなんだが、わざわざ言うこともあるまい。


「それでぜひともお礼をしなければと、話し合ったのです」


「あー、別に気にしなくてもいいのに」


 どうせ使いみちがなくて貯まりに貯まっていたお金だ。


「そうはまいりません。我々の心ばかりの、せめてものお礼をさせてください」


 まあでも、可愛らしい獣人の女の子にぜひともと言われては断れまい。

 エルフの時は断りまくってたし、俺は目立たないようにしていたから加護もリリアだけだった。時間はあまり取れないが、獣人たちとは出来るだけコミュニケーションを取っておいたほうがいい。


「その前に他に何か俺がやることは? 家はこれで足りてるかな?」


 正直もう眠くてだるいが、やるべきことがあれば今のうちに済ませておく必要がある。


「肉を処理するのに専用の燻製小屋がほしいと、誰か言ってましたね」


 話を聞いていた獣人の一人が言う。一応倉庫には氷を多めにぶち込んであるが、保存食にできるならしたほうがいいだろう。


「わかった。煙が出るなら建てるのは川辺りがいいかな。形はどんな風?」


 煙を充満させればいいだけなので、形は普通の家と同じ感じでいいようだ。

 川原に向かい、大小二つ建てた。小さい方は一メートル四方ほど。大きい方で六畳くらいだろうか。あまり大きいと火の維持も大変なので、この程度でいいらしい。


「燻製」


 俺の後ろでくいくいっと服をひっぱってティリカが言う。はいはい、燻製が食べたいのね。


「いいのが出来たら分けてね」


 ティリカが直接頼むと大抵の人が真偽官に驚いてしまうので、他の誰かが言ったほうが面倒がないのだ。


「腕によりをかけてお作りします!」


 とりあえず建物関係の依頼はこれ以上はなさそうだ。もし家とかで追加が必要なら、一週間後くらいに戻るエリーが受け持ってくれるから、何かあっても大丈夫だろう。


「じゃあ行こうか」


 寄り道したけどお礼とやらを見に行こうかね。

 お礼が何かは教えてくれなかったが、宴会で接待でもしてくれるのかな? 案内の娘は年齢的には女子大生くらいだろうか。スタイルのいい、綺麗系の清楚な雰囲気のあるネコミミさんで、お相手をしてくれるなら実に嬉しいんだが。

 それで案内されて行った先に居たのは、俺が作ったうちの一軒。そのランプで照らされた薄暗い室内には一〇名ほどのネコミミの女の子たち。

 女の子でいっぱいの部屋は、石鹸のいい香りがして、こちらを見上げる表情は潤んでいるように見える。


「好きな娘をお選びください。なんなら全員まとめてでも。あ、ちょっとトウが立ってますけど私もいいですよ!」


 トウが立ってるといいつつ、案内してくれたネコミミさんはアンと変わらないくらいだ。床に敷物や毛皮を敷いて座っている女の子たちはもっと若い感じの娘が多く、下着か、ほとんど下着と変わらない肌の露出の多い服装をしている。

 選べって、そういうことだよな?


「これ全員持ち帰ってもいいの?」


 思わずそう口に出る。


「はい。お持ち帰りでもいいですし、隣に用意があるのでそちらでも」


 ……いやだめだ。このあとゴケライ団のところに行くのに、遊んでる暇はない。すでに集まるように言ってあるのだ。

 それに夜のほうは先約もある。今日はアンとエリーがいないので、残りのみんなで遊ぶ約束をしてあるのに、ティリカとシラーちゃんのいる前で、反故にする訳にもいかない。


「あー、大変に嬉しいんだけど……」


「お好みの娘が居ませんか? だったらまだ希望者はたくさんいるんで、呼んできますよ!」


 ここにいるのはみんなかわいいが、二人……案内の娘を含めて三人ほど、うちの嫁たちと較べても負けないくらいの、かなりレベルの高い娘もいる。それが俺と視線が合うと、にっこり笑ってくれるのだ。


「全員希望者なんだ?」


「はい。あまりたくさんいても困るだろうし、こちらで選抜してみたんです」


 むう。機会があれば手を出してもいいと許可はある。だが加護を視野にいれるなら、一夜限りの関係ではあまり意味がない。

 でもここにいる全員か。望めばさらに……

 ハーレムだよ、ハーレム! 大ハーレム!

 だけど加護を考えるなら有望なゴケライ団が優先だし、許可があると言ってもさすがに一〇人二〇人は怒られそうだ。あくまで加護が前提で、好きに遊んでいいって話でもないし、手を出すならきっちり面倒を見なければならない。

 一人か二人。もしかして三人くらいまでなら……でも今日はやっぱりダメだな。アンもエリーもいないところであまり好き勝手もできない。

 この案件は一度持ち帰って報告しよう。報告連絡相談だ。


「悪いけどこのあとゴケライ団の相手があるんだ」


「あ、もしかして、もっと小さい娘がお好みでしたか? でしたら……」


「いやいやいや。俺は適齢期が好みだから! そういうんじゃなくて、ぜひとも全員とでも相手をしたいんだけど、本当に時間がないのと、今日一日働いていたんでかなり疲れてるんだよ」


 今日はほんとうに何連戦もする余力がない。王都からずっと休みなしだったし、明日も強行軍の予定だ。

 明日のルートは魔境からは離れるから比較的安全らしいが、魔物が出ないわけじゃない。


「出立したらしばらく戻って来れそうにないってお聞きして、急いで集めたんですけど。残念ですね」


 それでこんなに突然話を持ち込んできたのか。今回スケジュールがいっぱいいっぱいすぎた。


「ほんと残念だよ」


 ほんとに残念だよ! こんなイベントがあるなら、もっとゆったりした日程を組むんだった……


「ここには戻って来られるんですよね?」


 必ず、絶対だ。


「これから行くのはビエルスで、そこで剣の修行をすることになっている。ヒラギス奪還戦までに戻ってくる予定だが、いつになるかはわからない」


 でも機会を見つけてなるべく早く戻ってこよう。


「でも君たちの示してくれた好意は大変嬉しいし、しっかりと心に刻んでおこう。それでもし戻った時に、まだ俺の相手をしていいというのなら、その時は誠心誠意、お相手をさせてもらうよ」


 話しながら全員の顔を見回して、しっかりと覚えておく。


「それまで一同、お待ちしてます」















更新が開いて申し訳ない。書籍化作業が難航しておりました。

10月25日 7巻が発売されます。

http://mfbooks.jp/4313/

大筋のストーリー変更はありませんが2話の書き下ろし付きです。

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