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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第八章

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141話 シラー

「ほんとうに、ほんとうにありがとうございます!」


 エルフ屋敷での俺の部屋でみんなには遠慮してもらって、俺とサティ、それとタマラちゃん夫婦だけでのお別れの儀式である。

 在位期間わずか二ヶ月。しかも指一本触れることができなかったタマラちゃんの奴隷卒業だ。買った時はいっぱい尽くします!って言ってくれたのになあ。未練はなかったはずだが、こうしてお別れするとなるとすごくもったいないことをした気分になる。

 先ほど紋章師にエルフ屋敷まで来てもらい、すでに奴隷紋は消えている。タマラちゃんの横の旦那君も、ぺこぺこと頭を下げている。

 二人とも年齢的には高校生くらいで実に若い。俺が高校生の時は……うん、やめとこう。俺もいまでは立派なリア充だ。


「今回儲かったのは運がよかっただけだから、もう賭けなんか手は出さないで堅実に生きろよ?」


「はい、もちろんです!」


「それで今後のことなんだが」


「今後、ですか?」


「うん。もう俺の所有じゃなくなったし、どこに行くのも自由になっただろう? 生まれ育った村に戻ってもいいし、王都が気に入ったのならここに残ってもいい。もちろんうちで今まで通り働いてくれるのが一番いいんだが」


「わたしたち、マサル様にはほんとうに感謝しているんです! お許しいただけるなら、このまま生涯ヤマノス家にお仕えしたいと思ってます」


 生涯ヤマノス家にか。想像もできないが俺にも子供が出来て、もし世界が終わらなければ、あそこで二代、三代と家が続いていくんだろうか? それが望めるんだろうか?


「その言葉、覚えておこう。今後もしっかり仕事に励んで欲しい」


「は、はい!」


「休暇はあと三日間ある。ゆっくりと羽を伸ばしておくといい」


 これでタマラちゃんのことは終了。次はシラーちゃんである。サティを呼びにやる。

 俺へのシラーちゃんの好感度は加護は付かないにせよ、夜のお相手をしてもいいと申し出てくれるくらいには高くなっている。

 サティによると剣闘士大会での活躍で、シラーちゃんの俺への評価はさらに上がっていて、もうひと押しかも!と。

 でもシラーちゃんはサティのことも好きだし、サティは今回もっと活躍しちゃったしなあ。

 大会が始まってからシラーちゃんのことは全然構えてなかったから、今日はそのあたりの感触を確かめるのと、ほんとうに奴隷から解放される気はないのかの確認だ。


「お呼びか、主殿」


「シラーも今回の賭けでずいぶん儲けたそうだな?」


「うん。これで装備を買おうと思うんだ」


 よかった。サティの言った通りだった。シラーちゃん残留決定!


「じゃあいい店知ってるからあとで一緒に買いに行くか?」


 装備が欲しいと聞いていたので、シラーちゃんに合いそうな剣をエルフに貰った中から見繕ってあるんだけど、ぽんっとプレゼントしたくらいで忠誠は上がらないだろうなあ。


「主殿」


「うん?」


「私も……」


「シラーちゃん、がんばって」と、サティ。


「私も剣の修行に連れて行ってほしい」


 シラーちゃんは今のところ領地の屋敷の警備担当で、帝国へは連れて行く予定はなかった。どうせ出来る限り家に戻って寝るつもりだったし、いつでも会える。そう思っていた。

 だが王都に来てから剣の修行が決まったし、ヒラギスのこともある。長丁場になりそうだから、どうするか考えないといけないのだが、結局加護がどうなるかという問題になる。

 サティはもうひと押しだと言うが、どう押せばいいのか?

 とりあえずパーティに組み入れて連れて行ってもいいのだが、もし加護が発動しなければ、シラーちゃんにとってヒラギス行きは、相当に過酷なものになるだろう。


「ヒラギスが滅んだことは聞いているな?」


「うん」


「まだまだ先の話だが、俺たちはヒラギス奪還作戦に参加することになった。これは長く危険な戦いになるだろう」


「だから私のような足手まといは連れて行きたくないのか?」


「覚悟があるのか、ということだ」


 俺にそんな覚悟があるのかと聞かれたら疑問なんだけど、他のみんなの覚悟は本物だ。


「死ぬことなど恐れない!」


 まあシラーちゃんならそうなんだろうなとは思ってたが……

 

「覚悟があるのはわかったけど、死ねばそこで終わりだよ。俺は今日も負けて帰ってきたけど、生きていれば挽回のチャンスはある」


 下手したら二〇年、こんな状況が続くのだ。俺たちに同行するのなら、死に急いでほしくない。


「主殿はそれで悔しくはないのか?」


「ちょっとはね。でもサティが敵を取ってくれたし」


「マサル様はわたしよりもずっと強いんです。だからわたしが勝ったから、マサル様がほんとは一番強いんですよ」


「それは……」


 俺がサティより強いという話には納得しかねるようだ。まあ俺もガチでやりあったらどうかなとは思う。


「マサル様と一回だけ勝負をしたことがあるんです。魔法もありで。ですが道場でやりましたから、魔法の使用も最低限でした」


 転移剣を試した時の話か。サティとは散々練習はしてきたが、勝負と名がつくのはあれ一度きりだった。


「勝ったら何でも言うことを聞いてくれるっていうから、結構本気でやったんですけど、一瞬で負けました」


 シラーちゃんが目を見開いて驚いている。普段の練習だとサティのほうが断然強いしね。


「マサル様の魔法はあまり見たことがないでしょう?」


 シラーちゃんを購入してからこっち、領地作りの土木工事ばっかだったしなあ。


「エルフですら倒せなかった巨大な魔物も、大地を埋めるような大軍勢も、マサル様の魔法にかかれば一撃です。エルフがマサル様にあれほど敬意を払うのは、それだけマサル様の力を認めているからなのです」


 シラーちゃんはいまいち想像ができてなさそうだ。


「見なさい」と、サティが短剣を取り出して、シラーちゃんの前に立った。


「サティ様、なにを?」


 そして顔色一つ変えずに自分の手のひらをざっくりと傷つける。そして――


「ヒール」


 サティがヒール(小)を詠唱すると、シラーちゃんの目の前で傷がすぅっと消えていく。


「回復魔法!?」


「俺がやったんじゃないよ。いまのはサティが自分で治したんだ」


 どうも大会で回復魔法を使ったのは広まってはいないようだ。魔法使いなら当然気がついたはずだが……あれだけの人がいて距離があれば、感知も困難になるのだろうか?

 それとも決勝戦が衝撃的すぎて、ちょろっと使った程度の回復魔法は話題に上らなかったのかもしれない。

 俺たちのことが極秘扱いのエルフも当然ながら余計なことはしゃべらないし、シラーちゃんには知るすべもなかったようだ。


「これもマサル様がくださった力です」


「主殿がくれた……力?」


「そうです。わたしはマサル様に出会った瞬間、この人だってわかりました。だからその場で生涯の忠誠を誓ったのです」


 言葉で誓ったわけではないが、そういうことでだいたい間違いない。


「そしてマサル様はわたしに様々な力を授けてくださいました」


「魔法を?」


「それだけではありません。わたしの目が悪かったのは話したことがありますよね? だから奴隷として売られたんです」


 シラーちゃんは頷いた。


「マサル様はわたしの目を治し、戦う力と剣と弓を与えてくれました。それはわずか半年前のことです。わたしは半年前までは剣を握ったことすらなかったんです」


「はん……とし?」


「シラーちゃん。あなたもマサル様に心からの忠誠を誓いなさい。そうすればきっと……」


「強くなれる?」


「ああ。俺やサティと並び立てるくらいに」


 シラーはサティより体格がいい。加護を得られればいい戦士になるだろう。


「本当に?」


「神に誓って約束しよう」


 もし加護が付かなければ、責任を持って鍛え上げてやる。

 アイテムボックスからシラーちゃんにプレゼントしようと思っていた剣を取り出した。


「俺に忠誠を誓うならこの剣を取れ。そうすればシラーにも比類なき力を与えよう」


「すべてを圧倒し、世界を救えるほどの力です」


 世界を救う。サティのその言葉にぴくりとするが、ウィルの時のリリアもそんなことを言っていた。今やってるこれ自体がその真似だったし、セリフも真似たんだろう。

 魔力を込めると、部屋が徐々に光に満ちていく。これもウィルの時にやったのと同じ演出だ。

 剣を鞘からゆっくりと引き抜いて、光り輝く刀身をさらけ出す。

 シラーちゃんは剣に魅入られたように俺の前に跪き、恭しく剣を受け取った。


「私は……私も、主殿に生涯の忠誠を、この剣に懸けて誓おう」


 シラーちゃんのメニューが開いた。

 成功した。見事だ、サティ。


「ならば力を授けよう」


 跪いたシラーちゃんの頭に手を乗せ、スキルをチェックする。

 剣術はレベル2か。これを4に上げて、肉体強化も少し上げておこうか。


「さあ立って。新たに得た力を振るってみろ」


 怪訝な表情で、それでも俺の言うとおり立ち上がると、剣を一振りした。

 シラーちゃんは驚愕の表情を浮かべた。

 もう一振り。明らかに今までとは隔絶した鋭い剣筋。もう一振り。もう一振り。


「こんな……これは……?」


 ようやく動きを止めると、手に持った剣と、俺とサティを順番に見た。うん、まあびっくりするよね。


「言ったでしょう? マサル様が力をくださるって」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 ガキンガキン。剣戟音がエルフ屋敷の練習場に響き渡る。

 シラーちゃんが力を試したいというので、サティが相手をしてやっている。サティは一日寝てすっかり体力を回復したようだ。

 シラーちゃんは俺のことは放置で新しい力に夢中で、心は捧げて貰ったが、シラーちゃんの身まで捧げてもらうのは後ほどとなりそうだ。


「あれ、兄貴。昨日の今日でもう練習っすか?」


 みんなには遠慮するように言ってあったが、こいつには何も言ってなかったな。まあもう大事な儀式は終わったから大丈夫だけど。


「シラーに加護が付いたから、動きを確かめてるんだ」


「マジっすか!?」


 これでシラーちゃんはうちのパーティに入るのは確定したが、問題はこいつだな。


「お前、仲間とちゃんと仲直りしたのか?」


「きちんと謝ってきたっすよ。明日のパーティにも来るっす」


 こいつも王子であんまり危険なところには連れていけないし、元の仲間と一緒に行くのが一番だろうな。スキルはたまに会っていじってやればいいし。


「ウィル! 少し相手をしてくれ」と、シラーちゃんが声をかけてきた。


 スキルを上げる前はウィルのほうが腕は上だったが……

 木剣と盾を用意してやる。シラーちゃんのほうもウィルが鎧をつけてないので、刃引きの鉄剣から木剣に切り替えだ。


「ヌワーッ」


 ウィルがあっさりやられた。力のほどを実感できたのか、シラーちゃんはずいぶんとご満悦だ。


「うう……俺も剣術を上げるっすよ」


 ウィルを治療してやるとそう言い出した。


「こんなことで決めちゃっていいのか?」


「兄貴の試合を見て、俺も兄貴みたいに強くなりたいって思ったんすよ。魔法は魔力が少ないし、俺は剣に生きることにしたっす」


 そういうことならと、ウィルもシラーちゃんと同じだけスキルを上げてやる。


「二人に与えた加護は同程度にしておいた」


 お、互角になった……いや、ウィルのほうが少し上か?

 ステータスを見てわかったのだが、シラーちゃんは器用さがえらく低い。力と速さはあれど不器用。だから剣もいまひとつだったのだろう。

 シラーちゃんがやられて膝をついたので、治療してやる。ウィルが勝ち誇った顔をしている。

 

「ウィル、お前は筋がいいな」


 サティと動きを確かめていたシラーちゃんと違って、ぶっつけ本番にも関わらず、こいつはなかなかいい動きをしていた。才能があるのかもしれないな。


「そうっすか? 兄貴に褒められると照れるっすよ」


「ちょっと俺が試してやろう」


「え、兄貴病み上がりであんまり動いたらダメなんじゃ……」


 軽い運動くらいならもう問題はない。


「誰にモノを言っている。さあ、本気でかかってこい。でないと死ぬぞ?」


 俺もこいつも軍曹殿の弟子だ。こういうセリフが冗談ごとでないのは身にしみて理解している。

 絶望的な表情になったウィルが襲いかかってきた。


「ヌワーッ」


 ま、取り立てのレベル4だとこんなものか。


 今日はゆっくりできるし、ちょうどいいから二人のスキルをまとめて相談するか。


「言うまでもなくこれから話すことは誰にも言ってはならない」


 練習場の隅の地べたに、車座になって座る。

 加護とかの説明まですると長くなるので、ステータスやスキルに絞って簡単な説明をしながら、数値を見せていく。

 ウィルもなにげに見せるのは初めてだ。こいつに加護がついたのは大会直前で、特訓やら何やらでそんな暇がなかったから放置していたのだ。



●シラー 獣人 奴隷戦士

レベル8

HP 64 [32+32(肉体強化+100%)]

MP 5 


力 40  [20+20(肉体強化+100%)]

体力 38  [19+19(肉体強化+100%)]

敏捷 16

器用 4

魔力 3

忠誠心 59


スキルポイント 26ポイント

聴覚探知Lv1 肉体強化Lv2 

盾術Lv1 剣術Lv4 弓術Lv1 格闘術Lv1


 肉体強化と剣術を上げるのにすでに14ポイント消費。盾と弓はあっちにいる時に時々教えていた。格闘は教えた覚えがないから、元から持っていたのだろう。



●ウィルフレッド・ガレイ ヒューマン 戦士

レベル7

HP 56  [28+28(肉体強化+100%)]

MP 10


力 30  [15+15(肉体強化+100%)]

体力 28  [14+14(肉体強化+100%)]

敏捷 12

器用 21

魔力 7

忠誠心 55


スキルポイント 15ポイント

肉体強化Lv2 盾術Lv1 回避Lv1 剣術Lv4 弓術Lv1 槍術Lv1 

魔力感知Lv1 生活魔法



 すでに鍛えているというのもあるのだろうが、俺やサティの初期に比べて二人ともずいぶんとステータスがいい。


「そうか……私は不器用だったのか」


 シラーちゃんがショックを受けている。


「あの、この魔力7って」


「俺は最初から15くらいあった。アンが25だったかな。サティの今の魔力は9だ」


「俺、ほんとに魔法使いに向いてないんすね……」


 スキルを振るお楽しみタイムのはずなのに、なんでこいつらは暗くなってんだ。さっき調子に乗ってたのを、叩き潰したのもまずかったか?


「いいか。弱点はあるにせよ、お前らの能力は実に戦士向きだ。成長すればすぐに俺やサティくらいになれる」


「わたしは半年でここまで強くなれたんですよ」


 もしかすると一年後には、剣だけなら俺より強くなっているかもしれない。

 そう思うと少し悔しくはあるが、こいつらは俺に忠誠を誓っている。強くなればなるほど俺が楽になるのだ。

 

「二人の目指す方向はサティだな。弓と剣を上げて、遠近どこででも戦えるように――」



●シラー

スキルポイント 26ポイント -7p-10p-9p= 0p

聴覚探知Lv1 肉体強化Lv2→4 

盾術Lv1 剣術Lv4→5 弓術Lv1→4 格闘術Lv1


 シラーちゃんは肉体強化、剣術、弓を上げた。これで当面は十分に戦えるだろう。


●ウィル 

スキルポイント 15ポイント -10p-5p= 0p

肉体強化Lv2 盾術Lv1 回避Lv1 剣術Lv4→5 弓術Lv1 槍術Lv1 

魔力感知Lv1 生活魔法 回復魔法Lv0→1


 ウィルは剣術を上げて、回復魔法を新たに覚えた。

 弓と迷ったのだが、回復魔法が使えると使えないじゃ、生存確率がずいぶんと違ってくる。


 二人とも剣術レベル5に関しては譲れなかったようだ。


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