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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第七章

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137話 サティの戦い

 痛い。

 とんでもなく痛い。体中。

 気が付くと舞台の石畳に顔を押し付け、うつ伏せで倒れていた。そして全身の激痛。

 意識が飛んでいたようだ。

 即座に【ヒール(小)】を詠唱――意識がもうろうとし激痛が走る中、無事に発動し、少し楽になった。

 【ヒール(小)】詠唱。探知で見るとフランチェスカは少し離れた位置にいて動いてない。剣は手にある。

 【ヒール(小)】――よし、いける。三度の回復魔法は最速で詠唱出来た。


 痛みを堪え素早く立ち上がり、剣を構える。回復は不十分だが、あまり寝ていては負けを宣告されかねない。

 だが立ち上がってみると、フランチェスカは構えもしてない。


「続きだ。構えろ」


 そう言いながら更に【ヒール(小)】を詠唱するが、やはり戦闘を開始しようとする気配がない。

 なんでそんなにやる気なさげなんだ?


「いや……」


 フランチェスカが何か言いかけた時、「マサル様!」とサティの声がかかった。

 あれ? サティが舞台の上に? その隣にいるのは治療担当の神官。

 

「もしかして……試合、もう終わってました?」


「うん。勝敗はすでについた」


 審判もその通りだと頷いた。

 なんてことだ。痛みを堪えてがんばって立ち上がったのに。いや、がんばりすぎた? もうちょっと寝てたらサティと神官がやってきて、こんな恥ずかしい行動を取ることもなかった。

 がくっと力が抜ける。ダメージはまだ残っていて体の節々が痛むし、今度は疲労が襲いかかってきた。

 神官の治療の申し出を断って、【リジェネーション】を詠唱。リジェネーションで体の痛みがすうっと消えていく。


「もう大丈夫」


 サティがほっとした表情になった。回復具合からするとダメージは昨日ほどじゃなかったはずだが、気絶してしまったんで心配したんだろう。


「それは良かった。少々やりすぎかと思ったが、そうでもなかったようだな」


「やりすぎですよ! それになんで蹴ったんですか!」


 フランチェスカの発言にサティが噛み付いた。俺、蹴られたの?


「ほんとに気絶したかどうか確認は必要だった。それに蹴ったんじゃない。軽くつついただけだ」


「全然軽くなんてなかったですよ!」


 フランチェスカが履いてるのは戦闘用のがっしりとした硬そうな革のブーツ。軽くでも蹴られたら痛そうだ。


「それに倒れるマサル様に追撃までして! 気絶したのなんてその時点でわかってたでしょう!?」


 気絶したんだし審判が止めろと思ったが、昨日の戦闘での復活を見て、止めるべきか迷ったんだろう。こういうのも自業自得というのだろうか?


「だがこうやって立ち上がったのを見ると、もう二、三発……」


「っ!?」


 フランチェスカの言葉にサティが顔を真っ赤にしている。しかし俺のために怒ってくれているのは構わないが、こんなところで喧嘩を始めないでほしい。


「落ち着け、サティ。ダメージも昨日に比べれば大したことなかったし、もういいじゃないか」


 蹴られたって言われても覚えてないし。


「……そうですよね。あれだけやってもこの程度です。全然大したことなかったみたいですね」


「ほう、負けた分際で言うじゃないか」


 俺が言ってんじゃないですよ?


「マサル様が本気を出せば、あなたなんてけちょんけちょんですよ!」


「サティ、もうそれくらいで。そろそろ次の試合を始めたいみたいだよ」


 次はサティの出番だ。


「あ、はい。すぐに終わらせます」


 それで舞台からフランチェスカと一緒に降りたんだが。


「今日は本気じゃなかったのか?」


 本調子でなかったのは言い訳にすぎないよな。


「まあ本気は本気でしたけど……」


 今日くらいの開始位置なら、間合いを詰められる前に初級魔法の詠唱は終わるだろう。


「けど、なんだ?」


 聞きとがめたフランチェスカの声がきつくなった。しまった、余計なことは言うべきじゃなかったか。


「攻撃魔法が使えれば」


 負ける気はしない、とは口には出さなかったが、フランチェスカの目がすうっと細められた。


「ああ、試合が始まりますよ」


 話を逸らそうと思ったのだが、サティが一瞬で終わらせてしまった。勝敗が告げられるとすぐに小走りで舞台を降りてくる。そして当然会話には聞き耳を立てていて、続きを始めた。


「本気を出せばマサル様はわたしより強いんです」


 そのサティの発言を、「口ではなんとでも言えるさ」と、フランチェスカは軽く鼻で笑った。


「だがそれを証明したいなら改めて手合わせしてやってもいい」


 してやってもいいと上から目線で言いながら、ずいぶんと戦ってみたそうな感じだ。

 しかし魔法込みではあんまりやりたくねーな。攻撃魔法は威力がありすぎて試合向きじゃない。エアハンマーですら、今の俺が本気でぶっ放せば岩が砕けるのだ。人間相手に使っていい魔法じゃない。


「私がフランチェスカ様に勝てばそれで証明は十分なはずです」


「ふーん。それでもし勝てなかったら?」


 フランチェスカが俺のほうを見て、サティも俺の方を申し訳なさそうな顔で見た。

 進んでやりたくもないが、ここで俺が逃げればサティが恥をかいてしまう。


「その時は俺が相手を」

 

 それで話が終わったと、満足そうにフランチェスカは舞台の反対側に行ってしまった。


「あの、ごめんなさい。わたしどうしても許せなくて……」


「サティが勝てばそれでいい」


「はい!」


 まあ勝っても負けても、たかが試合だ。結果がどうなるにせよ、いい経験になるだろう。

 しかしこうも剣が通用しない相手が多いと、そろそろ対人向けの魔法と剣を組み合わせた戦いを模索するべきかもしれない。

 帰ったらウィル相手に実験してみるか? 戦士寄りでスキル振りをすれば手頃な練習相手になりそうだ。

 


 

 次の試合が始まった。一回戦は残り二試合。

 今日は決勝だけあってエルフ席は人で満杯だったから、そのまま舞台脇でサティの応援をすることにした。サティが椅子をどこかから調達してきてくれた。


 試合を観戦しながら、俺の試合の最後に何があったのかを教えてもらった。

 俺が倒れこんだところに更なる追撃。完全に意識をなくしたところにまともに食らったものだから、まるで人形か何かのように舞台に叩きつけられ、かなり心臓に悪い光景だったようだ。


 第三試合が終わった。

 そして一回戦最後の試合。ラザードさんよりも更に頭一つ分でかい、巨人(ギガント)の通り名を持ち、人間離れした体躯を持つギガント・ボルゾーラ。れっきとした人族で優勝候補の一人だ。

 巨体の上に、技巧にも長け動きもなかなか素早かった。パワーも公式発表では今大会ナンバーワン。昨年、フランチェスカは勝つには勝ったが、倒すのに恐ろしく手間取ったという話だ。

 決勝は恐らくこいつだろう。


 一回戦の全四試合が終わった。長かった剣闘士大会も残すは準決勝と決勝を残すのみ。

 

 舞台脇の特等席でサティが軽く体を動かすのを見守る。

 気合は入っているが、無駄な気負いはない。落ち着いている。俺とは大違いだ。

 審判から声がかかった。フランチェスカが舞台に上がり、大きな歓声が上がる。


「行ってきます、マサル様」

 



 試合が始まった。

 サティが仕掛けた。最初から全力で様子見するつもりはないらしい。だがフランチェスカもサティの攻撃をしっかりと凌いで、舞台中央でめまぐるしい攻防が繰り広げられた。

 双方パッと飛び退って距離を取る。即座にまた飛び込んで、体を入れ替えつつ、何度も何度も剣が交わされる。

 戦闘スタイルが近いだけあって攻防がよく噛み合い、激しい打ち合いになっている。ここまではどちらが有利とも見えないが、パワーのあるサティに分があるはずだ。


 何度目か。離れて相対したとき、サティがふっと体から力を抜いた。

 何をやるかはすぐにわかった。無拍子打ちをやるにはいい距離とタイミングだ。

 何気ない一歩と、軽く振るわれる剣は……フランチェスカが大きく飛び退って距離を取り、寸でのところで躱された。


「お前の嫁さんもやるようだが、フランチェスカ様のほうが一手上手だな」


 不意に話しかけられた。ボルゾーラだ。間近で見るとほんとにでけーな。これでフットワークも軽いんだから反則だ。


「サティもまだまだこんなもんじゃないですよ」


 奥の手に回復魔法はあるし、サティのパワーを知ればきっと驚くだろう。

 サティは俺みたいに強さにブレはないが、特訓の成果が出たのか、怒りのせいか、今日は動きのキレがいい。


 俺の言葉通り、サティが徐々に押し出した。パワー差が表に出てきたのだろう。

 だが二人の攻撃が交錯し、どちらからともなく一旦距離を取った。

 相打ちのように見えたが、かすったかどうか微妙な程度、どちらにせよ双方目に見えるほどのダメージはないようだ。


「な?」と、ボルゾーラは俺にニヤリと笑いかけた。


 えらくフランチェスカを推すと思ったら、王国軍の所属だという。


「いずれ我らを率いるお方だ。そこいらの冒険者とはモノが違う」


 フランチェスカは指揮能力に関しても大器の片鱗を見せているらしい。剣があの腕で血筋も美貌も特級品。先日少し話した感じ、性格も良さそうだったし、その上頭までいいのか。まるで欠点がない。カリスマだな。

 それと比べればサティは俺と一緒でどこかの馬の骨だ。評価は実力で覆すしかないだろう。


「ほれみろ」


 こいつの話を聞いているうちにサティが劣勢になっていた。フェイントか何かか? 絶妙に攻撃のタイミングを外されている。えらく攻撃がしづらそうだ。


「なんだ?」


 スタミナ切れでももちろんないし、ダメージを食らった様子も皆無なのに、サティの動きが急に悪くなっている。


「お前もやっていただろう? 相手の動きを予測して潰す。それをもっと高度なレベルでやっているんだ」

 

 これが微妙な動き過ぎて、やられているほうはすぐにはわからない。俺もボルゾーラの解説がなかったら、気が付かなかっただろう。親切だな、こいつ。


「動きは素早いが、冒険者らしいまっすぐな剣は実に読み易い」


 読めたからってサティの相手をするのは恐ろしく難しいはずなのだが……

 魔物相手では技よりもスピードとパワーが重視される。サティは対人もこなしてきてはいるが、あのレベルの攻防となるとどうしても経験不足ということなのだろう。

 紙一重で躱せていたのが、回避しきれなくなってきていた。まだどれも革鎧をかすめる程度だが、ちょっとまずいかもしれん。


 均衡が崩れる時はすぐにやってきた。組み合った時、突然サティの膝ががくんと落ちた。

 その隙を逃さず、フランチェスカの一撃が叩き込まれる。追撃は躱せたが、かなりのダメージを食らってしまった。


「力が入った状態でタイミングよく引かれるとな、こう、ガクッとなるんだよ。あれもフランチェスカ様の持ち技だ」


 この説明ではよくわからないが、剣を使った合気のようなものだろうか。

 ボルゾーラは去年負けた時に色々食らったらしい。


「今ので戦意を失わんとは、なかなかの根性だな」


 だが誰の目にも劣勢は明らかだった。俺の時も手札はいくつも隠したまま戦ってたのか。俺がもうちょっと強ければサティにもっとフランチェスカの手の内を見せてやったのに。

 ああっ、また食らった。せめて回復魔法が使えればいいんだが、サティではかなりな時間の余裕が必要だ。


 サティはフランチェスカの変幻自在の剣に、完全に翻弄されている。

 サティでも勝てないのか……

 ほぼ互角。身体能力ではサティのほうが優っているはずなのに、剣聖の名を継ぐとまで言われているのは伊達ではないらしい。


 劣勢にも関わらず、何度も攻撃を貰っているにも関わらず、それでもなおサティの戦意は衰えず、よくフランチェスカに食らいついていた。打ち合いはかなり途切れず続いている。スタミナ勝負に持ち込む心算だろうか?

 だがフランチェスカに距離を取られてしまった。それに合わせてサティもトンットンッと、舞台の端ギリギリまで大きく飛び退った。

 二人の距離が大きく、大きく開いた。

 サティが魔力を集めている。フランチェスカは動かない。気がついていない。


 サティの回復魔法が発動した。もう一度……ゆっくりとか細い魔力が集まり……息を整えていたフランチェスカが驚愕の表情を浮かべた。ようやくサティが回復魔法を使っているのに気がついたようだ。距離を詰めてきた。

 だがもう遅い。二回目の【ヒール(小)】も無事発動した。


 フランチェスカの魔力感知能力が低いのか、闘技場に人や魔力が溢れていてサティの弱い魔力を見逃してしまったのか。いずれにせよ獣人が魔法を使うわけはないとの先入観で、警戒されてないところを上手くつけた。

 二回では完治は無理だろうが、これでずいぶんと楽にはなったはずだ。


 しかしそれでどうなるものでもと思ったが、なんだか形勢が良くなっている。サティがフランチェスカの動きに対応しつつあった。反撃するまでには至ってないが、防御しきっている。

 

「少し盛り返したようだが、守ってばかりでは勝てんぞ?」とボルゾーラ。


「俺にはフランチェスカ様がサティを仕留めようと焦っているように見えますね」


 完全に優位に立ったと思ったところに回復され、技も通じなくなってきている。

 サティの回復魔法に関してはさほど警戒する必要もないのだが、俺と戦った後なのが響いているのだろう。もし俺のような回復力を持っていたら……そう考えて早めの決着を付けたいのだろう。

 その小さな焦りがサティを利していた。

 決め手のないまま、時間が経てば経つほどサティに天秤が傾く。

 人間、全力で動ける時間は限られている。双方互角のまま、徐々にフランチェスカの足が鈍り、そして止まった。

 サティはまだまだ元気だ。


「ここからだぜ?」


 ボルゾーラがそんなことを言い出した。


「あれは足が動かないんじゃない。止めたんだ。体力を温存して反攻の機会を窺っている」


 その言葉通り、フランチェスカが亀のようにがっちりと防御を固めた。だがそれだとサティの思う壺じゃないか?

 サティが容赦なく仕掛ける。サティの力を込めた剣戟をまともに受けて、フランチェスカの剣が流れ、ついにサティの剣がフランチェスカの体を捉えた。


 しかし翻ったフランチェスカの剣もサティを捉えていた。双方の剣がまともに相手を打ち据え、どちらも動きが完全に止まった。

 綺麗な相打ち。かろうじて二人は立っていたが、剣ごと相手に体を預けて動かない。ダメージが大きいのか動けないでいる。


「フランチェスカ様は芯をずらしてわざと受けたんだ。ダメージはお前の嫁さんの方が大きいぞ」


 恐らくその通りなんだろうが、サティのパワーの分、フランチェスカのダメージも想定以上なはずだ。でなければここで止まらず追撃するはず。

 

 二人ともまだ動かない。ここで回復をしておきたいが、ダメージを受けた状態での魔力の集中にはかなりの熟練がいる。サティに出来るだろうか?

 サティが魔力を集め始めると当然のことながら、フランチェスカが妨害にかかった。近いのをいいことに、いきなりの頭突きを食らわせた。しかしヘルム同士がかち合っただけで、詠唱は妨害されたがダメージはない。が、そこに更にフランチェスカの拳が飛んできた。

 サティには格闘スキルもある。躱せる、そう思ったが、顔面にもろに拳が打ち込まれ、サティが倒れた。

 妙な倒れ方をしたと思ったら、足を踏みつけられていた。えぐい。


 それでもサティはすぐさま立ち上がった。剣をしっかりと構え直し、鼻血をぐいっと拭う。

 フランチェスカは剣を構えたまま、じっと呼吸を整えている。

 どっちが有利なのか、ダメージが大きいのか。見ているだけではまったくわからない。

 

 すぐにフランチェスカから仕掛けた。サティがまた魔力を集めにかかったのを即座に妨害にかかったのだ。しかしこれはサティの、フランチェスカを休ませないための誘いだろう。

 フランチェスカの剣の振りは、ほとんど衰えているようには見えなかった。しかし足がもう動いていない。対してサティはまだ体力に余力があった。体がよく動いてる。フランチェスカのダメージほうが大きいのか。 

 サティの剣はいまだ力強く、見るからにフランチェスカの疲労が、ダメージが濃かったが、それでもサティは押しきれなかった。フランチェスカがよく凌いでいる。


 経験の差だろうか。剣を握って半年と、一〇年の差。

 フランチェスカは三つの頃から剣を握ってきたという。幼少より天稟を示したというが、大会で優勝したのは去年が初めて。それまでは何度も何度も苦渋を飲んできたのだろう。土壇場でその差が出た。


 フランチェスカはサティの攻撃を凌ぎ切った。ムキになって攻撃を続けたサティの動きがついに鈍り始めた。

 フランチェスカの攻撃が、的確で効率のいい攻撃が、時折サティにダメージを与えだした。軍配はフランチェスカに上がりつつあった。

 サティは相変わらず下がろうとはしない。どのみち下がって休憩をしても、フランチェスカも同様に回復するだけのこと。情勢は変わらないか、更に悪化する。

 フランチェスカもダメージを受けていて、体力も底を尽きかけているはずだが隙が見えない。


 サティが怯えたような表情を浮かべた。

 積み重ねられる苦痛と通用しない攻撃に、勝てない、そう考えてしまったのだろう。心が折れかけている。

 それでもサティは踏みとどまっていたが、攻撃の手が止まって防戦一方になりつつあった。

 攻撃をいくつももらいすぎた。限界が近い。見ていて心臓に悪い。


「サティ」


 ちょっとした戦闘の合間、二人が僅かな間合いを取った時、思わず声が漏れた。ほんの小さなつぶやきで、普通なら届くはずもないのだが、サティが俺の方へとくるっと顔を横に向けた。目が合う。

 サティから気弱な表情は消え、決然とした顔つきになった。俺の方へと顔を向けたまま。


 戦いの最中、サティはフランチェスカから完全に目を離してしまった。

 そんな絶好の機会を逃す相手ではない。即座には動かなかったのは、きっと度肝を抜かれたのだろう。でも結局はチャンスと見たようだ。

 隙だらけのサティにフランチェスカの剣が襲いかかった。


 完全な死角からの攻撃は確実に当たる、誰しもそう思った。俺も終わったと思った。だがスルリとサティは躱してしまった。

 聴覚探知か。目線は外しても、聴覚探知で完全にフランチェスカの動きは把握していた。


 サティは隙を見せて誘うつもりは全くなかっただろう。しかし結果として全力を振り絞った攻撃を空振ったフランチェスカの体勢は完全に崩れて隙だらけで、サティの反撃を受けて舞台に倒れた。

 ぴくりとも動かないフランチェスカを確認して審判の勝敗が告げられた。


 サティが剣を掲げた。


「やりました、マサル様」


 うん、よくやったサティ。そう呟いた俺の声は大歓声の中でもちゃんと届いたことだろう。

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