124話 剣闘士大会申し込み
「よし。気を取り直して軍曹殿を探しに行くか」
「はい、マサル様」
「とんだ無駄足じゃったの」
無駄ってこともなかったが、壊したミスリル銀の短剣のお金がなあ。原価でいいって言ってくれたがそれでも痛い。なんであんなに高いんだろう。
金属の再利用も魔力であそこまで砕けてしまうと変質してしまって無理なんだそうだ。厳しい。
「希少金属は掘るのは大変じゃからのう」
「掘るの?」
「そりゃ掘るじゃろう」
「人力で? 魔法で?」
「どっちもじゃな。マサルなら魔法で簡単に掘れるかの?」
「アースソナーで鉱石も探せるかな?」
ミスリル銀が掘れれば大儲けができるんじゃないだろうか? んー、でも俺が簡単に出来るなら他の土メイジも当然出来るよなあ。それに鉱山開発とか村作り並に手間暇がかかりそうだが、魔法でどの程度楽が出来るんだろうか?
リリアはこの件に関しては詳しくはわからないようだ。土魔法関連ならあの親方エルフが詳しいだろうかね。こんどエルフの里に戻ったら聞いてみようか。
「鉱山は……危ないですよ」
黙って話を聞いていたサティがボソッと呟いた。奴隷商に売れない奴隷は鉱山送りになってすぐに死ぬって脅されたのをまだ引きずってるのか。
「そうだな。危ないことはしないほうがいい。そういうのは専門家に任せて、ほしいものがあれば買えばいいんだものな」
「はい。わたし、がんばって稼ぎますね!」
サティは素敵だな。世界の破滅とかがなかったらヒモ生活もよかったかもしれん。
次の用事は王都の冒険者ギルドである。そこはシオリイの町より多少大きい程度だろうか。併設されている商業ギルドも似たり寄ったり。ミヤガと同じく、大きい町は軍の力が強く、冒険者の出番が少ないということなのだろう。
だが集まっている冒険者は、祭り期間中ということもあるのかさすがに多く、人混みをかき分けて受付で聞いてみると、軍曹殿はすぐに見つかった。ギルドの訓練場で指導中だという。
「軍曹殿!」
「おお、マサルではないか。王都に来てるということは、剣闘士大会に参加する気になったのか?」
指導中だったようだが、俺が呼びかけると中断してこっちに来てくださった。
「え、ああ。前にも言いましたがそういうのはちょっと。サティはどうだ? 出てみるか?」
「いいんですか?」
「試しに出てみろ。俺たちのパーティの代表だ」
「はい!」
「もったいないな。貴様も出ればいいところまでいけるはずだが」
「まあ剣だけだとサティにはどうやっても勝てませんし。軍曹殿は王都へはどうして?」
「毎年、大会出場者への指導をしておるのだ」
なるほど。他のギルドでも軍曹殿ほどの手練はいないしな。というか優勝したいなら軍曹殿が出れば手っ取り早そうな気がするが、そういうことじゃないんだろうな。
「俺は帝国方面に行くんで、ついでにお祭も楽しもうと思いまして。祭りの間はこっちにいる予定です。泊まっているのは――」
人に聞かれないように訓練場の隅で。リリアを紹介して、簡単に状況を説明しておく。もちろん内緒でだ。
「貴様はすぐに大きな活躍をするだろうと思っておったが……」
Aランクになったのは伝わっていたが、さすがにあっちに行っていくらも経たずに領主になって、エルフの王女を娶っていたのは予想以上だろう。
軍曹殿もお忙しいだろうし宿泊場所を聞いて、また来ることを約束し、次は剣闘士大会の受付に行くことにした。剣闘士大会は闘技場で行われ、祭りの三日目から予選が二日間。休息日を一日挟んで、本戦が二日間で開催される。
闘技場は地球でも見るような石造りで円形の巨大なスタジアムだった。
「Aランクは予選免除みたいですよ、マサル様」
闘技場の看板に貼りだされている剣闘士大会のルールや募集要項を一生懸命読んで、サティが報告してくれた。
でもメイジのAランクは想定してないだろうし、俺はどっちかっていうとメイジ寄りだから当てはまらんな。出ない。無理。
剣闘士大会はもちろん魔法は禁止。ただし治癒術、自己回復だけは認められている。
武器は刃引きしてあれば槍でも弓でも盾でも何を使ってもいい。防具は革まで。頭防具は金属製も可。支給品が基本だが、自分のを持ち込んでもいい。
気絶やギブアップ、審判によるダメージ判定により勝敗が決められる。
細かいレギュレーションは他にもあったが、だいたいこんな感じだ。
かなり血生臭い大会のようだが、腕のいい治癒術師が控えているので事故は滅多にない、とそう書いてある。滅多にって怖ええな!
「サティ、ほんとにでるの? 危なそうだぞ」
「出たいです」
「ならいいけど」
「参加資格はないのかや? ならば妾も」
「リリアはダメ。せめてシラーとまともにやれるくらいにはならないと。だいたい魔法は禁止だぞ?」
ピンチになったら精霊防御が自動発動して反則負けだな。訓練しててたまにあるんだ。
リリアの戦闘スキルは今のところ盾術レベル1のみ。剣術もレベル1を自力ゲットすべく修行中だ。なかなか修行は捗らないが、エルフたちは気が長く、二ヶ月くらいほんの短期間だと思っているようだ。
「むう。面白そうじゃのに」
元からか、近接戦闘が楽しいのか。ちょっと脳筋化してきたかもしれない。
「ま、俺たちはサティを応援しようぜ」
サティが受付で参加者名簿に必要事項を書き込む。自分の名前くらいならもう楽々かける。成長した。
「シオリイの町の冒険者ギルド所属Bランクですね。あとは経歴やアピールポイントがあれば」
「けいれき……あぴーる……?」
「ええっと、サティは大会出場は初です。アピールポイントは剣と弓が得意なオールラウンダーってところですかね」
「……初出場、剣と弓が得意なオールラウンダー、と。ありがとうございます。予選の組み合わせはここと闘技場入場ゲート付近に当日朝に貼りだされますので、ご自分でご確認ください。あとですね、優勝者や試合ごとの勝者を予想する投票券もありますので、よければ買っていくといいですよ」
「それは自分のを買っても?」
「もちろんです。自信のある方はそうしてますよ」
ほう。サティに賭ければ大儲けできるかもしれんな。
投票券は予選の突破者の予想。本戦では試合ごとの勝者。優勝者予想と何種類かあるようだ。まあ全部サティに賭けておけばいいだろう。
「サティ、目指すは優勝だぞ」
「はい、お任せください!」
お小遣いくらいは確実に取り戻せるな!
剣闘士大会はこれでよし。あとはクルックとシルバーを探さないと。
泊まっている宿の名前と大雑把な位置しか聞いてなかったので、屋台で買い食いしながらお店の人に聞いていると、身なりのあまりよろしくない子供に声をかけられた。
「兄ちゃんたち宿をさがしてるのか?」
「ああ。雨燕のツバサ亭って知ってるか?」
「知ってるぞ! こっちだ」
変なところに連れて行かれてヤバイことにならないかとちょっと思ったが、今の俺にケンカを売って勝てるやつなんているはずもなかった。
子供の案内に従ってしばらく歩くと、すぐに宿屋は見つかった。
はい、と手を出す子供。案内賃か。とりあえず銅貨を一枚渡してやると「ありがとう!」と去っていった。もっと要求されるかと思ったが、銅貨1枚でいいのか。相変わらず子供の手間賃は安いなー。
宿で聞いみるとクルックとシルバーは部屋にいた。部屋を教えてもらい、扉を叩く。
「おーい、俺だ、マサルだ」
「マサル! ずいぶんと久しぶりだな!」
すぐにクルックが出てきた。
ほんと久しぶりにこいつらの顔を見た気がする。
「サティちゃんも。ええと、そっちの娘は」
「ゆっくり紹介してやるよ」
ニヤリとする。
ベッドが二つあるだけの狭い部屋に入り、各自ベッドに座る。
「マサルのことだ。もう何があっても驚かねーよ」
うんうんうなずくシルバー。
「その娘はきっと新しい嫁とかなんだろ?」
「ほう、さすがはマサルの友人だけあるの」
リリアがパサリとフードを外す。
「エルフ!?」
「妾はエルフ王家が第一王女、リリアーネ・ドーラ・ベティコート・ヤマノスじゃ」
「王女!?」
「クルックの言うとおり、俺の新しい嫁だ」
「マジか!?」
「あとAランクになった」
「嘘だろ!?」
「それと村の領主になった。数年後には貴族だな」
「貴族!?」
クルックは驚きのあまりあんぐりと口を開けている。
「結婚おめでとう」
シルバーがぼそっと言葉を発した。
「ありがとう、シルバー」
「どういう……あれなんだ?」
「簡単にいうと俺があっちに行った時、エルフの里が魔物に攻められてて、それを助けたんだ」
また同じ話の繰り返し。だけどいちいち驚いてくれるから、こいつらに話すのが一番楽しいな。
「さすがにもうマサルって呼び捨てにもできねーな……」
「おいおい、やめろよ。たとえ俺がAランクになっても、領主で貴族になっても、五人の嫁にメイド付きの豪邸を持っていたとしても、俺たちの友情は永遠だろ?」
「くっそう! やはりあの時どうにかして始末しておくべきだった!」
「はっはっは、いつでも相手になるぞ。もっとも俺はあの時の三倍は強くなってるけどな」
「三倍って……あ、もしかして剣闘士大会に出るのか?」
「いや、俺は出ない。サティは出るけど」
「サティちゃんも強いもんな」
「サティに賭けたら大儲けできるぞ」
「おお!?」
食いついてきた。
「サティちゃん、優勝できると思うか?」
どうだろう。今のところ軍曹殿以外でサティより強い剣士ってみたことはないが、大きな大会となると……
「俺はできると思ってるけど、心配なら軍曹殿もこっちに来てるし、大会のレベルとか他の参加者のこととか聞いてみるか」
「ラザードさんも出るんだぜ」
「ほほう」
だが残念だがラザードさんではもはやサティには勝てないだろう。ん……いや……どうだろう? サティとは直接やったことはなかったな。俺が以前戦った時もさほど本気じゃなかったはずだし、実力は測りきれん。Cランクとはいえ、ドラゴン討伐経験もあり、もうすこし功績があれば確実にBランクになれる実力がある。
「この大会、賞金がいいから本気で勝ちに行くって」
リーズさんとの引退後の生活のためか。
怖ええな。俺もかなり強くなったはずだが、全然勝てる気がしない。
「お前らは出ないのか?」
「ムリムリ。予選の初戦で負けちまうよ。予選に通るだけで結構な賞金が出るからな。出場者のレベルが高いんだよ」
むう。サティが優勝できるか心配になってきたな。
俺のお小遣いはサティにかかってるというのに。
「よし、サティ。大会が始まるまで特訓しよう」
大会まで今日をいれて三日。みっちりと訓練をする。特訓の疲れは予選中に取ってもらう。特訓の疲労程度で予選を勝ち抜けないなら、本戦もどのみち無理だ。
三日間でサティをできうる限り鍛えあげる。お祭りを楽しむのは大会が終わってからでいい。
「はい、がんばります!」
「そういうことでもう帰るわ。祭りの期間中は貴族街にあるエルフ邸に泊まってるから、いつでも遊びに来てくれ」
貴族街への入場も、来客の名前だけ入り口に知らせておけば、ギルドカードみたいな身分証があればすぐに通してくれるそうだ。
「うむ。マサルの友人であれば歓迎してやろう」
「貴族街にエルフの屋敷か! 楽しみだな!」
帰りにもう一度ギルドに立ち寄って軍曹殿にも頼んでみよう。ずっとは無理だろうが、1,2時間お相手をしてもらえるだけでも、サティの経験値に確実になる。あとはうちの武闘派総出だな。
エルフにも頼むか。エルフの里にはまだ見ぬ使い手がいるかもしれんし、ティトスクラスの剣士が数人でもいればずいぶんと助かる。
ゴーレムも使ってみるか。装備を付けたゴーレムファイター。防御力はあるし、ぶっ壊しても構わないし。
ギルドに寄って、軍曹殿にサティの訓練をお願いすると二つ返事で引き受けてくれた。
「サティは優勝候補と言えるだけの実力はあるが、対人戦の経験が不足しておるな。明日は対人で役立つ技をいくつか教えてやろう」
ラザードさんの実力に関しては技術的には俺なら五分。サティなら少し上だろうとの予測だが、これも対人戦の経験不足を考えると勝つのは容易ではないだろうということだった。
まあ俺は出ないし関係のない話だ。サティにがんばってもらおう。
エルフ邸の部屋に戻るとみんな既に戻っていたので、まずは剣闘士大会に出ることを報告する。
「それで予選が始まるまで特訓しようと思ってるんだ」
「優勝を目指します!」
「この大会は結構レベルが高いけど、サティなら優勝できるかもしれないわね」
「オルバさんは出たことないのかな?」
「私と会うだいぶ前に出て、本戦の一回戦で負けたって聞いたことがあるわ。その後は魔物狩り専門でAランクを目指してたから、そっちは興味がなくなったみたい」
結構若い頃だったらしいとはいえ、オルバさんで一回戦負けか。
「そうそう。ルヴェンに会ったわよ。特訓するならルヴェンにも頼みましょうか」
元エリーのパーティ暁の戦斧の盾役。今は王都の魔法学校に入って魔法使いになるべく学んでいるはずだ。
「魔法学校はそろそろ始まってるんだろ?」
「私はルヴェンの魔法の師匠よ? それくらいの頼みは聞いてくれるわ。たぶん休みくらい取れるでしょう」
よしよし。いいかんじだ。軍曹殿は明日の午前、稽古をつけにここに来てくれることになっている。午後からはどうしようか。
ここの庭にも訓練スペースはあるが少々小さい。うちの屋敷のほうが広いし、エルフが来てくれるならあっちのほうが良さそうだ。
ウィルはお小遣いでもやって追っ払っとくかね。
「ウィル、今日の護衛、ちゃんとやってたみたいだし少しだが報酬を出そう。聞いたとおり、俺たちこれから特訓で忙しくなるから、お前は仲間に会ってきたらどうだ? なんなら仲間のところで宿を取るならそのお金を出してやろう。ケンカしたんなら仲直りが必要だろ」
「俺も特訓手伝うっすよ、兄貴!」
「あー、それは……」
「そりゃ俺じゃ手伝えることはほとんどないかもしれないっすけど、見るだけでも修行になるって教官殿が」
今日はこっちでやるか? それとももう面倒くさいし、こいつにもゲートは教えとくか? 何度も往復するつもりなら、こいつに秘密にしたままでは追い出しでもしない限りやり辛い。
ゲートくらいならこいつが帝国の王子なのに比べたら、大した秘密じゃないだろう。
「ウィル、密談があるからちょっとだけ外しててくれ」
「あ、はい」
ウィルが廊下へ出たのを確認して相談を始める。
「あいつにもゲートのことを教えようと思うんだが」
「そうね。何度も使うなら秘密にしておくのは大変だろうし」
アンはすぐに同意した。
「マサルがいいならそれでいいわよ。今はエルフがバックについてるし、バレたところでそう大事にならないんじゃないかしら」
元々Aランクになったら公表はするつもりだったし、要は個人がゲートを使えるというのが問題なのであって、国家が転移術師を雇用しているということなら、よそは簡単には口出しは出来ない。帝国やギルドがゲートのことを知って何かを言ってきても、エルフのために働いていると言えばそれ以上はないはずだ。
「ウィルは大丈夫じゃろう。マサルにはしっかり懐いておるからの」
「正直だし信用できる」
リリアとティリカも異論はないようなのでウィルを呼び戻す。
「今から話すことは絶対外に漏らすなよ?」
「もちろん兄貴が漏らすなっていうなら絶対に漏らしませんけど、なんすか?」
「今から村に戻ることにした」
「え? 兄貴の村ってすごく遠いっすよね? いくらリリア姐さんのフライが速いっていっても」
「戻るのは一瞬だ。俺はゲートが使えるからな」
「マジっすか」
「漏れたらまずいのはわかるな?」
「そりゃすっごいマズイっすよ」
「そんなにまずいか?」
「兄貴はフリーの冒険者だけど……エルフとは?」
「雇われてるわけじゃないが、協力はしている」
「それでも黙っていたほうがいいっすね。トラブルのもとになるっすよ」
「エリーはAランクなら別に平気だろうって言ってたが」
「冒険者ギルドは保護してくれるでしょうね。ギルドはこのことを?」
「知らん」
「知れば保護もするでしょうけど、絶対に利用もされるっすよ」
やっぱそうだよな。
「昔はね、転移術師を奴隷紋で縛ったり、敵に利用されないように暗殺したりってあったみたいなんすよ」
「マジか」
「まあ今は国際情勢も安定してるんで、そこまではないでしょうが……」
思ったよりあぶねーな!
「でもほら、帝国の王子様よりかは珍しくもないだろ?」
「俺の命でゲート使いが交換できるなら、うちの祖父は喜んでやるっすよ」
「マジか」
「それくらいじゃないとでかい帝国なんて運営できないっすからね」
「私もゲートを使えるの。誰にも言っちゃダメよ?」
「二人も!?」
「我らは才能ある集団なんじゃよ。みな運命に導かれて集まったのじゃ」
「はあ、運命っすか?」
反応が悪い。やっぱりこっちでも運命だなんだって、女の子のほうが好きなんだな。
「妾はそなたもそうではないかと思っておる」
「俺も!?」
「マサルのような特別な力の持ち主に、エルフの王女が、帝国の王子がたまたま出会う。とても偶然とは思えぬ」
「それはまあ」
「妾は生まれた時、精霊の祝福を得て、将来何か事を成すとの予言を賜った。我らの力があれば、世界とて救うことが可能なのじゃ」
ギクリとしたが、二〇年後のことをリリアが知るはずもない。ハッタリで言ってるだけだ。というかこの話の流れは……
「俺も……?」
「そうじゃ。我らはマサルに見出された。そなたもじゃ」
リリアめ。一気に忠誠をあげようって腹か。だが悪くないタイミングかもしれん。
リリアと目が合ったのでこのままいけとうなずく。
「わかるじゃろう、ウィル?」
「俺、兄貴に救われた時、兄貴が神様みたいに見えたっすよ。兄貴についていけば何か変わるんじゃないかと。そのとおり、初心者講習会で俺は変われました」
「その程度は序の口じゃ。マサルを信じよ」
「信じてるっす。軍曹殿もよく言っておられました。兄貴やサティさんは特別だって」
「わたしは普通の、何の取り柄もない獣人でした。でもマサル様に見出されて、才能を得たんです」
「魔法も?」
「魔法も剣も、すべてマサル様から頂いた力です」
「俺も……俺も、魔法が?」
「マサルを心から信じよ。さすれば望みは叶うじゃろう」
しかしなんだこれ。新興宗教の集会みたいになってきたぞ。
「信じるっす! でも俺が魔法なんて……」
「ウィル」
「はい、兄貴」
立ち上がり、ウィルの前に立つ。
「力が、魔力がほしいか?」
「ほしいっす……」
大事なのは演出だ。
「俺は、俺を心から信じたものに、力を与えることができる。獣人であるサティに魔法を授けたように」
【奇跡の光】詠唱開始――
部屋が魔力の淡い光に包まれる。初めて見るものにはすこぶる神秘的だろう。
「これは……」
「俺を心から信じれば、信じることが出来れば力を与えよう」
「妾は信じた。そして力を得た」
「わたしもマサル様を信じて力を、魔法を貰いました」
「わたしもよ。ゲートを、望んでいた空間魔法を」
「私も大きな力、世界を変えるほどの力を得た」
そこまではどうなんだ、ティリカよ。
「私もマサルから、大神官に匹敵するほどの力を授かった。これは神の加護。マサルを通した神の恩寵なの」
「神の……恩寵?」
「ウィルよ、そなたはどうするのじゃ? どうしたいのじゃ?」
光に照らされた美しいエルフの静かな、優しい問いかけ。
「お、俺は、俺も兄貴を信じるっす!」
「マサルのためなら命を賭けてもいいほどにか? 我らは皆、その覚悟があるぞ?」
「俺も! 兄貴のためなら命を捨てます!」
「よくぞ申したぞ、ウィルよ!」
魔力を更に高める。部屋が俺を中心に眩い光に包まれる。
メニューが開いた。マジかよ。
「ならば力を授けよう」
【奇跡の光】が発動し、弾ける光。
メニューを操作し生活魔法と魔力感知を取る。
「あ……あ、ああああああああ!? 感じる、感じるっすよ!」
「そうだ。それが魔力だ。お前に魔法を操る力が、いま備わったんだ」
「あ、ああ……兄貴ぃ……」
「使ってみろ。ライトの魔法が今なら使えるはずだ」
「は、はい」
ウィルの【ライト】が発動した。
「ほ、ほんとに……俺が魔法を……うっ……」
「うん。よかったな、ウィル」
感極まって泣きだしたウィルの肩をぽんぽんと叩いてやる。
「後もうひと押しじゃと思っておったよ」
リリアがウィルに聞こえない小さな声で呟いた。
もしかしてウィルとちょこちょこ話してたのは、それを確認してたのか……




