122話 シオリイの町への帰還
村での仕事は山積みであったが、大きなトラブルもなく住民は暮らし始め、農地には種が蒔かれた。あとはオルバさんが村長として受け持ってくれるし、エルフの支援もある。
エルフはエルフで多少問題となったが、メリットも大きかった。
村への移住が始まり、利便性を考えて街道からの道を整備したところ、見物人が押し寄せた。たまにしかエルフを見ることができない砦と違って、警備担当のエルフは生で確実に見られるし、エルフの作った変わった建物(俺の城)や、精霊の泉から流れだすエルフの美味しい水がタダで飲める清流もある。
どこの町でもある入場料は小さな村で取ることなどまずないのだが、さすがに人が多すぎると入場制限のためにお金を徴収することにした。
冒険者ギルドは俺の村には用はないはずだから有料。商売に来る商業ギルド員からはお金を取らないことにした。
ちょっと高めに設定したので、もったいないからと数日滞在する泊まりの客も多くなり、宿や食堂が足りなくなり急遽増設した。
そして商人も増えた。めっちゃ増えた。ギルド員本人と二人までの助手を認めたところ、商売をするという名目で入村料を浮かそうというのだろう。観光目当ての普段行商などしないような商人も何かしら商品は持ってきて、ついでとはいえそこは商人、きちんと商売をしていく。商業ギルド員であるのが条件だから、人数も一般客に比べて少ないし入村料の取りっぱぐれも気にするほどでもない。
商売をしてくれるならと場所を用意したところ、数日でちょっとした規模の青空市が出来上がり、それがさらに客寄せになる。普通に商売希望の商人も増える。移住希望も増える。
村を大きめに作っておいてよかったとこの時はマジで思った。
とにかくエルフのお陰で村の収支は出発時点でも、入村料だけで大幅なプラスになった。開設したばかりの村ではあり得ない話である。
「色々心配だけど毎日戻れるし、まあ大丈夫だろう」
基本的にゲートで戻って家で寝る予定である。公式にはいないことになっているので姿は見せられないし、居残り組にもそのあたりは徹底して秘匿してもらう。ゲートは当分極秘だ。
なるべく目立つようなことは避けるべきだとエリーも同意した。俺が伝えたダークエルフの暗躍らしき話は衝撃的だったのだ。
特にどらご召喚あたりは絶対バレちゃいけない。
「ではみんな、留守は頼んだ」
玄関ホールには家人やエルフ部隊、オルバナーニアさんらが勢揃いしているが、一緒に行くのはもちろんパーティメンバーのみ。他はお留守番である。
「はい、お気をつけて」
ティトスパトスは留守番に抵抗したのだが、これは修行の旅だとリリアが突っ張った。ただし王都に着いたらみんなも王都へ連れて行く予定である。王都ではお祭りが始まるからね。
「「いってらっしゃいませ」」
「よし、出発!」
【ゲート】が発動し、シオリイの町の我が家の地下室に到着。この間実にゼロ秒。リリアの最初の旅はこれにて終了である。
シオリイには二日間滞在して、三日目に王都へと出発する。王都へはリリアのフライでひとっ飛び。おそらく二日あれば王都に着き、そうするとちょうどお祭りの前日に到着することになる。お祭りは一〇日間もあるんだそうだ。
「さすがに埃っぽい。まずは掃除だね」
アンの指揮のもと、まずは全員で掃除だ。とはいえ基本的には浄化をかけて終わりだ。長居するならきちんとした掃除も必要だが、今回は二日間だし寝るのも村の屋敷だ。簡単に済ませる。
俺も担当の風呂とトイレを浄化して、二日分の食品や生活雑貨、みんなの荷物を適当に出して五分もかからずお仕事は終わりだ。
庭を探ると反応がある。こんな時間にいるとはウィルは今日は休みか。
ウィルに声をかけてくると言って庭に出た。
「兄貴! 戻ってきたんすか!」
「二日間だけな。すぐに王都のお祭りに行くんだよ」
「はー、いいっすねえ」
「お前は今日は休みか?」
「それがね、メンバーの一人が怪我しちゃって。ちょうどいいからしばらく休暇にしようってことになったんすよ。それであいつら俺を置いて王都に行ったんす」
「お前も一緒に行きゃいいじゃん」
「お金が……」
そりゃ馬車だ宿だと何かと金はかかるだろうな。俺がやった金はさすがにもう残ってないだろう。
聞いてみると装備を揃えつつ生活費くらいは稼げているが、なかなか貯金まではできないという。前回の討伐依頼はベテランパーティと合同で危険も少なめで報酬もよかったのだが、怪我人が出て治療費のために儲けが目減り。うまくいかないものである。
まあ真面目にやってるようで結構なことだ。
「お祭りなんかどうでもいいんすよ。俺は帝国ででかい祭りをいつも見てましたしね。いまさら王都の祭りなんか見ても」
「お前、今のこと仲間に言ったのか?」
「はい」
人の国の最大のお祭を馬鹿にするとか。でもその程度で置いて行かれるとか、あまり仲間と上手くやれてないのか、本当に金がなくて節約したのか。
「ちょっとその、ケンカを……」
怪我をした件で何やら言い合いになったようだ。
「ま、留守番してる間、修行にでも励め」
時間が経てば頭も冷えるだろう。
「俺も王都につれてってくださいよー」
リリアのフライは六人乗り。お前の席はない。
「ダメ。家族旅行なの」
「そんなー」
「それよりもいつまでもうちの庭で暮らしてないで、ちゃんと稼いで自立しろよ?」
「うう……がんばるっす」
「ん、お前ちょっと汚いな。風呂……いや、そもそもトイレとかどうしてるんだ?」
庭には井戸があるのみ。風呂はもちろんトイレもない。
「お風呂は濡れタオルで体を拭いて、トイレは大きいほうはお隣さんとこで」
お隣さんに迷惑を……いや、いまなんて言った? 大きい方は? じゃあ小さい方はそこら辺で……
「ウィル、今日から家の風呂とトイレを使っていい。王都に行った後は台所もな。ただし必要な時だけ使うようにして、あと綺麗に使えよ? 二階には絶対行くな。寝るのは今まで通りここだ」
ゲートはこいつがいない時を狙えばいい。普段は冒険やってるだろうし、夜は庭だし。
加護の可能性もある人材だ。みんなも反対はしないだろう。
「マジっすか! ありがとうっす、兄貴!」
「ちゃんと稼いで普通の宿は探すんだぞ」
「もちろんっすよ! あれ? でもそれじゃ、兄貴は当分戻ってこないんすか?」
当分どころじゃないな。
「今からする話はしばらく内密にな」
話すのは知り合いのみにして一応口止めをしておくことにしている。調べれば簡単にわかるようなことだ。下手に隠し立てしてもそれはそれで怪しい。情報が拡散して余計な注目を集めなければそれでいい。
「もちろんっすよ」
「あっちで村をひとつ作ってな。領主をすることになった」
「え、村を作った? あっちに行ってまだ3ヶ月くらいっすよね?」
移動時間も考えると2ヶ月くらいかね。
「土魔法で家とか農地作るの手伝ってたら、そのままそこに村を作ることになってな。まあこじんまりとした村だよ」
「やっぱり兄貴はすごいっすね!」
「それでだ。ここの家賃は先払いしてあるが、それが終われば契約の打ち切りも考えないといけない」
本当はゲート用に当分の間は維持するつもりであるが、あまり甘やかしてはいけない。
「じゃあ王都に行ったあとは、兄貴はその村に戻るんすか?」
「次は帝国だな。一度エリーの実家に挨拶に行かないと」
「エリー姐さんの実家ってどのあたりなんすか?」
「確かビスコス地方とか言ってた」
「うっわ。帝国のあっちの端じゃないですか。とんでもなく遠いっすよ」
まあ距離はさほど問題じゃない。片道だし飛んでいくし。
「へー? 俺帝国の地理とかあんまり知らないんだよ」
帝国どころかこっちの地理は王国の一部のみだな。地図をそろそろ手に入れるべきだろうかね。以前見つけた地図は本より高い上にえらく大雑把だったんで必要ないと買わなかったのだ。
「えっとですね、王国がこうで、帝国が……」
言いながらウィルは地面に大きな地図を書いてくれる。貴族のぼんぼんだけあって教養はあるんだな。
「あら、なかなか正確な地図じゃない」
エリーも掃除を終わらせたのか適当に逃げてきたのか。庭に出てきた。
「ちーす、エリー姐さん。いまエリー姐さんの実家の位置を説明してたんす」
エリーも参加して地図の残りの部分も完成させていく。主要な町や街道も網羅したかなり立派な地図だ。
「なかなかいい出来ね。みんなにも見せましょう」
エリーがみんなを呼んで戻ってきて、実家の場所や、行くためのルートなどの説明をしていく。
「そういえばウィルの実家ってどこなのかしら?」
「帝都の辺りっす」
「確か古い家って言ってたわね。法衣貴族?」
法衣貴族というのはざっくり言うと領地を持たず、官僚とかをやっている貴族階級だ。
「いや、あの、領地も……」
「帝都近くの領地持ちって……あんた、家名は?」
「それはちょっと」
「なんだ、言えないようなとこなのか?」
「ええまあ」
王子様か大貴族ってところだろうか? ありがちだな。それとも大穴でマフィアとかのヤバイ家とか。
「お前が何者でも変わりはないさ。だから言ってみろ」
面白そうだ。口を割らせてみよう。
「言っても黙っててくれるっすか?」
「もちろん、俺もここにいるみんなも誰にも言ったりはしないさ。な、ティリカ」
ティリカがうなずく。
「……ガレイっす」
「ふーん?」
もちろん聞いたところで俺にはさっぱりだ。なんか魚の名前みたいだな。
「え、それだけっすか? 反応薄いっすね。もっとこう……」
「そのガレイというのは、大きい家なのか?」
「ええ!? まさか知らないってんじゃ」
そんなこと言われてもなあ。
「エリー、知ってる?」
「ええ、知らないわけがないわ。ガレイってただのガレイかしら?」
エリーは心当たりがあるようだ。
「ただのガレイっす」
「結局どういうことなんだ?」
「マサル、帝国の名前は?」
「うーん?」
「ガレイ帝国よ」
「おお!」
ウィル、王子様だったのか。すげーな。
「帝国でガレイを名乗っていいのは直系の王族のみなのよ。勝手に名乗ったりしたらそれはもう大変なことに」
「へー」
「マジっすか、兄貴」
「いやだって、みんな帝国帝国言うじゃん。ガレイ帝国とか普段聞かないよ?」
「それにしたって……」
あ、なんか馬鹿だと思われてる。よりにもよってウィルに!
「俺は遠方の国の生まれなの。こっちにきたのは最近なんだよ。お前だって日本の首都が東京って言われてもわかんないだろ?」
「ニホンとかトウキョーってとこは確かに知らないっすけど」
「はいはい、いいから。私たちはマサルがたまたま知らなかっただけだってわかってるから」
「いやいや、そこは大事なところだろう? いいかウィル。これでも俺は――」
「話が進まないからマサルは黙ってなさい!」
「アッハイ」
エリーに怒られた。ウィルが王子だとかのありがちすぎる展開よりも、俺の尊厳のほうがはるかに重要なのに。
「それにしても、よく許して貰えたわね」
家出だが、一応お兄さんには話をして出てきたようだ。その後も連れ戻す動きとかもないようだし、黙認されているということだろうか。捜索中とかだったらちょっと嫌だな。
「あんまり継承権も高くなかったんすよ」
「どのくらいなの?」
「第八王子で、えーっと、確か二〇番目くらいかと」
「王位とかほぼ関係ないじゃないか。本人も冒険者志望だし」
そこまで下だとそこら辺の貴族とそう変わらないくらいだろう。リリアなんか継承権は第二位だ。
「そうなんすよ!」
「今のこいつはただの貧乏な駆け出し冒険者。実家のことは気にしてやるな」
身分を隠す苦労はよくわかる。それが俺たちを信頼して打ち明けたんだ。いきなり手のひら返しは可哀想だろう。
「兄貴ぃ……」
それにこいつが王子だとわかって態度を変えるのも癪に障る。ちやほやなんて絶対したくない。
「ウィルはウィル。今までどおりそれでいい」
ウィルは現王の孫で父は継承権第一位の皇太子なのだそうだ。そりゃバレたらまずそうだ。ウィルのことを知れば良からぬことを企むやつはいくらでもいるだろう。
だからこのことはもちろん秘密にして、普通に接することに決めた。いままで通りのぞんざいな扱いでいい。それでも本人は十分喜んでるし。
「マサル、マサル。ウィルを手懐けておきなさい。使えるわ」
エリーに離れたところに引っ張られ、小声で言われる。
「何に使うんだよ」
「王家へのパイプよ」
「うーん。本人嫌がるんじゃないか?」
「それは後で考えましょう。今のところ特に何かにってわけでもないし、とりあえずマサルのことが好きみたいだし、加護も付くかもしれないんでしょう? やさしくしておきなさい」
利用する気満々だな。
「実家のこと、どうこうさせる気か?」
「まさか。そっちは今更よ。まあちょっとは考えないでもないけど、それよりも私たちのことよ。何かあった時に保険は多いほうがいいと思うの」
確かに帝国で何かトラブルでもあった時、ウィルがいれば色々捗りそうだが。
「私だって家出してきたのよ? 無理強いして何かやらせようなんて考えてないわよ」
「まあ使えるうんぬんは置いといて、やさしくしてやるくらいならいいけど」
どのみちウィルとは、今日明日過ぎれば当分会うこともないだろうし、加護のこともある。
「この人は新しい……うわ、エルフ!?」
ウィルはリリアのことに、俺がエリーと密談してる間にようやく気がついたらしい。
「あ、その娘はリリア。俺の新しい嫁ね」
「妾はエルフ王家が第一王女、継承権第二位。リリアーネ・ドーラ・ベティコート・ヤマノスじゃ!」
「エルフの王女!? 兄貴はやっぱりぱねえっす!」
ほんとに王子か、こいつ?
あとリリアは本名をほいほい名乗るのはやめるよう注意しておこう。たぶん今回は王子のウィルに対抗したかったんだろうけど。
とりあえず優しくする一環でウィルは風呂にぶちこんで、俺たちはお出かけだ。色々挨拶回りをしないといけない。
道々、エリーに帝国のことを教えてもらう。歴史は一度本で読んだが、流し読みだったし現在の情勢はよく知らなかった。
人族国家で二番目に古い、今現在で最強の国家。国力は王国の数十倍。兵力も相応。魔法大学に高等大学院に帝国劇場。学問や文化も発展している世界の中心。
ガレイ王家は真偽官の乱と、勇者が撃退した魔族の侵攻以外では大きな危機もなく国を安定して治めてきた、強力で優秀で由緒正しき家系だ。
領土的野心もなく、周辺の国家との関係も良好だ。
いくら第八王子で継承権が低いと言っても、この世界最大の国家の王子には変わりなく、そこら辺の領主など吹き飛ばせるくらいの権力を持とうと思えば持てるのである。
ガレイ帝国は版図も力も巨大なようだ。地球で言うとアメリカかロシアみたいな位置付けだろうか。
「ほほう。森で魔物に襲われてるのを間一髪助けたのが、帝国の王子だったとは。それは全くの偶然かのう?」
そんな言い方だと俺とウィルの出会いがまるで運命だったみたいじゃないか。
「運命じゃな!」
「そうよ、運命ね。たぶん縁を切ろうとしても切れないわよ?」
「マジかよ……」
「落ち着いたら希望通り、魔法を教えてもいいわね。マサルが」
「えー?」
「加護のこともあるし、マサルがやるべきでしょう?」
「あいつに加護とか別にいいんじゃないかなー」
加護が付いたとしても、スキルなんか与えて強くしたらすごく調子に乗りそうだ。
「ウィルの実家の話は別としても、加護持ちは増やしたほうがいいでしょうに」
奴隷作戦が失敗した以上、俺に好感をもってくれる人材は貴重なのは間違いない。それが男だとしても。
「まあそれはゆっくり考えよう。今は忙しい」
困ったときは保留でいい。すぐに解決する必要のない問題は先送りする。後で考える。
まずは神殿に挨拶だ。
着いたとたん、アンが孤児たちにもみくちゃにされている。
リリアも目ざとくみつかり、囲まれてしまった。リリアはこんなことには慣れているのか「これこれ、触ってはならぬ。見るだけじゃ!」などと適当に相手をしている。
俺も負けじとお土産を積み上げる。もちろん食料、魔物の肉である。食い気の子供はこっちに来た。
「シスターアンジェラ! シスターアンジェラー!」
「エルフだ! エルフがいる!」
「すげー! 肉! 肉がいっぱい!」
大歓迎すぎてカオスである。
とりあえず落ち着かせて俺の独演会を開催することになった。大人の話はあとで、まずは興奮状態の子供に俺への尊敬心を植え付ける作戦だ。
話はまあ、創作半分ホントの事半分だ。
旅では商隊に襲いかかる盗賊や魔物をばったばったとなぎ倒し、着いた先ではドラゴンに襲われているエルフを助けたり。
「その功績で俺はAランクに昇格した」
そう言ってギルドカードを見せてやる。
「「うおおおお、すげー!」」
子供とはいえ現地人。Aランクのすごさは俺なんかよりもよくわかるようだ。
そして、と庭に誘導する。
「はい、すごいのが出てくるから、小さい子たちは離れててねー」
子供を退避させてからドラゴンの首だけ出す。俺とサティが倒した、首が千切れかけてたやつだ。
「「わあああああああああああ!?」」
注意しても何人か腰を抜かしたり泣きだしたのがいたのはまあ仕方ないだろう。この地竜、首だけでも小さい家くらいあるもんな。
「これ本当に兄ちゃんがやったの!?」
「おお、前に見せた黒い剣でばっさりな。いやー、こいつは実に手ごわかった。あの剣も折られたし、さすがの俺も死を覚悟したね。でもエルフを救うため、勇気を振り絞って立ち向かったんだ」
「すんげー! すんげー!」
そのうちこの誰かに加護が付くのだろうか? できれば可愛い娘がいいが、当たり前の話であるが、どうも男の子の方に受けがいいようである。
その後は大人の真面目な話だ。アンが拠点を移し、この町へはそうそう来れなくなることを説明する。
「どこにいようとも私たちは神殿で繋がった仲間、家族です。シスターアンジェラ、神官として家族の一員として、新たな地でも変わらずがんばってください」
「はい、シスターマチルダ」
冒険者ギルドにも顔を出したが軍曹殿は不在。王都へ行ったという。クルックとシルバーも王都だそうだ。二人からは俺宛に王都での取る宿の伝言があった。それならあっちで会えるだろう。
副ギルド長にも会って詳しい話をする。Aランク審査の問い合わせは当然こっちにも来てて、昇格を祝ってもらった。
あとは結婚式にも来てもらったサティの奴隷仲間のところにも、俺とサティで行った。場所は聞いていたが初めて行くので、あんまり大人数でもと思ったのだ。
そこはかなり大きい商店だった。食料品から雑貨まで、手広くやってるらしい。
領主になってあっちに腰を落ち着けるという話をすると、サティに色々教えてくれたお姉さん、セルマさんは素直に喜んでくれて、四番の娘、アデリアは驚き、村のことを色々と訊いてきた。
「なるほど、エルフの森の近くね。もしかしてエルフの作った品って手に入らない?」
「手に入らないこともないと思いますが……」
エルフ産の品々の貿易は伯爵が独占してるし、それでなくても今のエルフは大変な時期だから輸出は滞っている。
「領主って言っても出来たばかりじゃ伝手もないか。村には何か特産品とかはないの?」
「美味しい水くらいですかね」
「……聞いて悪かったわ。もし必要な物資があればうちに来なさい。ツケとかは無理だけど、値段は勉強してあげる」
「ありがとうござます」
リリアを置いてきて正解だった。エルフの現物がいると知ったら思いっきり食いついてきそうだ。
夜はウィルにも飯を食わせてやって、ウィルの最近の話を聞いて、こっちも話をして。誰にも言うなと言っておけばウィルは漏らさないだろうし、エルフの里の話は大幅に省いたが、他はわりと詳しいところまで話してやった。
「やっぱり兄貴はすげーなあ」
昼間に帝国の名前知らなかった事件で落とした株も、これでまた上がっただろう。
「俺のこともちっとも驚かないし、兄貴はほんと大物っすよね」
まあ話としてはありきたりだからな。もっとこいつが王子っぽかったら対応も変わったのだろうが。
「俺の生まれは遠方の国でな。そこでは王政は廃止されて、市民選出の議会で国が運営されてたんだ。だから王族だなんだって言われてもピンとこないんだよ」
お姫様は素晴らしいと思うが、王子様なんてわりとどうでもいいし。
「確か東方国家群にそんな制度の国が……」
「もちろん元王族、元貴族みたいな名家は残ってるけど、大事なのは本人の能力、実力なんだよ」
「良さそうな国っすね」
「うん。いい国だよ」
そう言えば最近は、あまり日本のことを思い出さなくなってきたな。忙しいからか、それともこっちに慣れてきたのか。まあ嫁も増えたし家も建てた。しかもメイド付きだ。日本に戻ってもこれ以上の幸せは望めないだろうしな。
「まあここでの生活も悪くないよ」
世界の破滅という特大の地雷を考慮にいれなければ。
「そうっすね。辛いこともあるけど、今は家に居た頃よりずっと生きてるって感じがするっすよ」
こいつも死にかけたり、死にそうな特訓したりしたからな。あれで生きてる実感わかないやつなんかいないだろう。
「でも装備を揃えるだけでひーひー言ってる俺なんかと違って、兄貴は自分の腕でのしあがって村まで作って……」
本当に俺の腕だけならよかったんだけどな。みんなは加護があってもそれは俺の働きだと言うけれど、事情を知らない人間に改めて言われると少し心苦しい。
こいつも加護があれば俺みたいに、俺以上に上手くやれるのかもしれない。身分はあるし基礎スペックも俺より高そうだし、まだまだ若いし。
ちょっと考えただけでも、俺ってすげーなんてとてもじゃないが調子に乗れない。
「ん。それはまあ、みんなにはいつも助けられてるし、自分の腕だとはなかなかね」
「そんなもんすかね?」
「そうだぞ。ウィルも仲間は大事にしろよ? 信頼できる仲間こそ、この厳しい世界で一番大事な宝物なんだ」
「はい、兄貴」
お酒が入ったうえでの、上から目線の説教はなかなか楽しいものだ。
その日はウィルを庭に追い出して、ちゃんと村の屋敷に戻ってから寝た。
邪魔される心配のない広い部屋に広いベッド。愛する嫁たち。
ここが俺の家。新しい故郷だ。
翌日は早めにシオリイの町に戻って、朝食もこっちでとった。その後はウィルの剣の腕を見てやったり、リリアを連れて町を回ったり。
午後には久しぶりに野ウサギ狩りもした。村のある辺りは森が多く、野ウサギの豊富な草原ってないんだよなー。
そして何故かというか、やっぱりというか。いつの間にかウィルも王都へとついて来ることになっていた。
リリアとちょいちょい話をしてたし、エリーの差金もあるのだろう。
しかしこいつとの運命ね。
もし本当に運命なんてものがあるとすれば、俺がこいつを助けただけで話が終わるはずもない。
エリーは利用することを考えているようだが、俺たちがあいつの事情に巻き込まれることもありうるのだ。
帝国は今のところ平和だって話だが……
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