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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第六章

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111話 エルフ王との会食

これまでのあらすじ

・開拓の許可を現地領主に貰いに行く

・リリ様が乱入してエルフの里へ

・エルフに大歓迎される

・リリ様との結婚を即決する




 双方とも少々混乱状態である。状況を一度整理する必要がある。

 それで食事をしながらお話を、ということになった。

 準備を待つ時間は気を利かせて、王様たちは別室に移動してくれたのだが、リリ様は当然のようにこっちに残っている。

 王様がリリも来いと、それとなく言ってくれたのだが、俺たちと話があるからと、あえなく追い払われた。


「今日から、と言いたいところじゃが、多少の準備もある。明日から世話になろうと思う」


「それは構わないんだけど、そんなにすぐ出てこれるの?」


 たぶん王様たちもそのあたりを相談したかったんだと思うんだ。


「大丈夫じゃ。修行だからの」


 修行に出るのは前々から決まっておりある程度の準備は出来ているし、修行で里を出る場合、派手な壮行会などはしないのが通例だ。

 この異世界、庶民は俺がやったみたいな結婚式はそうそうやらないし、エルフもやるかどうかは個人の好みと経済状態に左右される感じで、そのあたりは日本とさほど変わりないのだが、さすがに王女ともなると大々的にイベントを取り行う必要がある。しかし修行目的で里を出るということにしておけばそれも回避できる。

 もちろんリリ様が望めば別であるが、冒険者になるのが優先で、そのようなイベントには興味がないようだ。

 ティトスさん曰く、結婚式をちゃんとするとなると最低でも一週間。できれば一ヶ月くらい準備期間がいるとのことである。

 いくら冬の休暇中だからって、そんなに足止めされるのは絶対に御免被りたい。


「ところで姫様の滞在されるお屋敷の広さはどの程度なのでしょうか?」


 リリ様との話が一段落ついたあたりでティトスさんがそう尋ねてきた。

 今から出立の準備をするのに、荷物がそれなりに多いので部屋のサイズを確認しておきたいようだ。


「この部屋の四分の一くらい?」


 塔の個室は一〇畳くらいのスペースを取ってある。シオリイの町の賃貸暮らしよりはずいぶんと余裕を見て作ったつもりだったが、エルフの城の各部屋に比べると当然ながらひどく狭い。


「……姫様、持っていくものはかなり減らさねばなりません」


「よきに計らえ。冒険者になるのじゃ。本来なら身一つでも構わんところじゃ」


 冒険者と言いながら準備を付き人にお任せはどうなんだろう?

 というか、この子、戦闘力は問題ないのだろうが、冒険者としてやっていけるのか? まさかティトスさんを連れ歩くつもりじゃあるまいな?


「とりあえず壁を取っ払って二部屋分確保しましょうか。それで足りなければ考えればいいわ」


 そうアンが提案してくれる。

 現在の塔の部屋割りは、一階が空きスペース。二階が居間と食堂、そしてお風呂。三階が俺とサティとティリカの個室。四階がアンとエリーで、空き室が二部屋。あとは屋上の茶室である。 

 一階は後日玄関を作成して、応接間と客室的なものを作ろうと思っていたのだが、こうなってくると先に二軒目を作ったほうがいいかもしれない。

 今の塔は領主の館というより、要塞や城にあるような防御力重視の建造物である。客を招くのにはあまり相応しくない気がするし、部屋数も少なすぎる。

 旅の間に泊まった村長宅でも、集会所を兼ねていたりしてもうちょっと広かった。


「それよりもこのあとの話はどうするのよ?」


 家のことを俺が考えているうちに、ティトスさんは準備のため退席し、エリーがそう聞いてきた。

 エルフさんたちにどこまで話すか? ってことだろう。

 会食までもういくらも時間がないから、早急に態度を決めねばならない。

 相談しようにもまだリリ様が側にいる。密談したいから席を外せとも言いがたいし、どうせリリ様にはすぐに話す予定でもある。

 

「全部かな」


 詳細は不明にせよ、加護があるのは知れ渡っているし、リリ様にも加護はついた。

 ここで黙っていてもいずれわかることだ。

 変に隠してバレて気まずくなるくらいなら、全部ぶち撒けて秘密にしてもらったほうがいい。


「それならそれでいいけど、この後の会食は失礼のないようにね、マサル。これから長い付き合いになるんだから」


 薄々わかってはいたけれど、リリ様もらってハイサヨナラってわけにもいかないんだろうなー。

 日本の常識で考えればすごい玉の輿なんだろうけど、こっちでは親戚関係ってどういう扱いなんだろう?

 エリーやアンに聞いた感じではそう違わないとは思ったが、エルフで王族となるとまた違うのかもしれないし。


「全部とはなんの話じゃ?」


 案の定、リリ様がよくわからないという顔で話しかけてきた。


「あー、クエストの話です」


「ほほう。やっと教えてもらえるのじゃな!」


「ただ、ちょっと漏れたらヤバイ話もあるんで、教えるのは最低限の人だけで、秘密厳守もお願いしたいんだけど」


「エルフは信義を重んずる。秘密と約束すれば絶対に漏れないじゃろう。きちんと言い含めておこう」


「それはいいとしてエルフって――」


 リリ様から色々聞き出してみた結果、玉の輿は玉の輿だし、親子や婚姻に関してもそう違いはなく、日本での常識を適用しても問題なさそうな感じだった。

 だが婚約者の父親への正しい挨拶なんて、自慢じゃないが俺が知るはずもない。

 ドラマで見たそういうシチュエーションはたいてい父親がゴネてたな。

 というかさっきも王様が真っ先にいちゃもんつけてたわ。わー。なんだか胃がきりきりしてきたぞー。




 ほどなくお食事会の準備が整った。時間は午後も半ばで、かなりお腹は減っているのであるが、ゆっくり食べる余裕など全くない。豪華な食事が用意されていたのだが、手を付けてみても味がほとんどわからないくらい緊張している。

 普段なら面倒な交渉事はエリーかアンにお任せなのであるが、本日のターゲットは俺である。

 王様、エルドレード・ドーラ・ベティコート殿のお隣に座らせていただく。特等席である。拒否権はたぶんないし、助けも期待できない。


 最初は嫁たちとの馴れ初めや、冒険者としての最近の活動などの当たりさわりのない話だ。

 突っ込んだ話をしようにも、王様のほうもちょっと距離を測りかねているようだ。

 俺としても対応に困る。呼び名一つとってもエルドレード殿と名前で呼ぶの馴れ馴れしいし、義父(ちちうえ)というのも早い気がするし、結局そのまま王様ということで落ち着いた。


 隣にはサティが座っているが俺と王様の話に割って入れるはずもなく、とりあえず俺のほうを気にしつつも、大人しく目の前の豪華な食事を平らげることにしたようだ。ティリカも食事が気に入ったのか、黙々と料理を口に運んでは、じっくりと味わって食べている。

 エリーとアンは王妃様やリリ様と何やら楽しげに談笑していた。

 どうやらピンチなのは俺だけのようだ。

 

 里を救った英雄として、下にも置かない扱いには変わりはないが、心理的に完全に立場が逆転してしまっている。

 リリ様の証言通り、異世界のエルフでも親子関係、親戚関係というのにはそうそう変わりはないようで、ファンタジーな異世界でエルフの王様との会食だというのに、やっているのは婚約者の父親へのご挨拶である。

 仕事は? 収入は? 将来の計画は?

 未来の義父からの質問だ。別に王様と仲良くしたいわけではないが、今後の良好な関係を期待するなら、正直に丁寧に答えるしかない。

 そして王様も食事はそっちのけで話しかけてくるものだから、俺も当然のように食事には手を付けられない。

 ひどくね、これ?って思っても、異論を唱えられるような場面ではなかった。

 今の俺は婚約者の父親に気に入られようと必死な好青年である。目の前の強大な敵にとにかく集中するしかない。


 王様は話の中でも俺の能力、それも魔法関連にはひどく興味を惹かれたようで、かなり詳しく質問を投げかけてきた。

 火、土、回復魔法は極めている。水と風は中級。空間魔法に召喚魔法に、エルフの霊薬でも回復しきれないほどの魔力に、剣と弓も上級レベル。

 探知系や隠密に関しては聞かれていないので黙っていたのだが、それでも里での戦闘で見せたよりもはるかに強力で多彩な魔法使いであったことに、王様たちはとても感銘を受けたようだ。

 エルフの方々からの評価が高まったのは良いのだが、なにやら俺一人が話している状態になって注目が集まっている。


「それほどの力……一体どうやって?」


 ここまで上手く回避していたのだが、質問がついに核心に入ってしまった。

 どっからどう話したものか。やっぱり最初からのが色々と質問も省けるだろうな。


「まず俺の生まれですが、日本という国です」


「ニホン? 誰か知っておるか?」


 王様の言葉に他のエルフも首を振る。


「かなり遠方らしいです。俺も神様に連れて来られたんで、どこにあるのかと言われても説明は無理です」


 どこかわからないが遠くにある国。それ以上の説明は難易度が高い。異世界の話をすると更にややこしいことになるだろうし。


「なんと。では神はなんのためにマサル殿をこの地へと?」


 そこが俺にも判別しがたい。最初の話だと勇者をやらせたい感じでもなかったし、今回みたいに勇者まがいの指令を出したりするし。


「神の意図に関しては測りかねます。俺は単に仕事を探してたんですよ。できればもっと普通の仕事でよかったんですが」


 ゲームのテスターだと思ったらガチのデスゲームに参加させられた。考えれば結構ひどい話だ。


「マサル殿ほどの力があれば仕事など選び放題でしょう?」


 と王妃様。


「ああ……なんというか、俺の故郷はとても平和でして。魔法や剣はあまり役に立たない国だったんですよ」


「だがそれほどの力を腐らせておくとは見る目のない」


「それに力を得たのは加護を貰ってこっちに来てからですし」


 そこからは何度もした話だ。ハロワに行って、神様に連れてこられて、冒険者ギルドへ。野ウサギ狩りの話はしないでいいだろう。重要じゃない。些事だ。

 いくつかの戦いを経て、加護の力により新しい魔法やスキルを得ていく。ついでに嫁も。


 王都に向かおうとしたところで神託(クエスト)が下され、二週間の旅を経てこの地へ。

 砦でリリ様たちと遭遇。そしてまた神託が入る。エルフの里を救えと。

 そこからは先程の英雄譚の通りだ。


「神託……クエストとは神託のことじゃったのか!」


「本当に神が我らを救うために貴方がたを遣わされたのですね……」


「加護に神託、そしてその力。確かにすべてが露見してしまえば、勇者じゃないというのも通るまい」


 通ってもらっては困るからこうやって必死に口止めして秘密を守ろうとしているのだが、今のところ上手くいっているとは言いがたい。こうやってぽろぽろと漏れていって、いつか大事になりそうで今から食欲がなくなる。

 すでに大事になっている気もしないでもないが、まだセーフだと思いたい。エルフ外部には話は漏れてはいないようだし。


「この話は、神殿も真偽院もほんの一部の人しか知りません。ですからほんと秘密厳守でお願いします」


「心得ておる」


 俺自身への追及はそこら辺で一旦は満足したようで、今回作る領地の話や今後の冒険者としての活動に関して話が移った。

 とりあえず春まではこちらに滞在するし、春から先の予定は決まってないのだが、改めてゲートの話をしていつでも戻れると説明するとかなり安堵したようだ。

 なんのかんの言ってもぽっと出の俺たちに娘を託すのは心配があったのだろう。

 

 俺の作る予定の領地へのエルフ側の協力は、冒険者としてあちこち飛び回っている間、エルフから戦力を少し寄越してもらい、こちらもエルフの里でまた何かあれば協力を惜しまないということで同意した。


「対アンチマジックメタルの兵器の試作品はもう完成しておる。再度やつらが来てもマサル殿の手を煩わすことはあるまいが」


 王様は楽観的なようだが、世界の滅びを予言されている俺としては悲観的にならざるを得ない。

 これは彼らにとって無関係なことでもない。警告を発しないのはフェアじゃないだろうな。


「はっきりしたことは言えませんが……今回の危機のようなことが今後もあるかもしれません」


 俺の言葉にテーブルが静まり返る。


「ヒラギスが滅んだのは聞き及んでおる。エルフの里もマサル殿たちの助けがなければ滅んでおった可能性が高い。今後もこのような危機が続くと?」


「わかりません。神は答えてくれませんし。もしかしたらすぐには……五年や一〇年は何もないかもしれません。ですが何が起こっても大丈夫なように備えておいたほうがいいと思います」


 実際のところわかってるのは二〇年という期限だけで、何が起こるかは神のみぞ知るだ。魔王か魔境からの大規模攻勢が第一候補なのは間違いないと思ってはいるが、何の確信も証拠もないのだ。

 もしかしたら魔物以外の地底人や宇宙人が攻めてくるのかもしれないし、この世界のマッドサイエンティストみたいなのが今頃惑星破壊爆弾を開発しつつあるのかもしれない。


「里の防備はもちろん強化するつもりであったが……さらなる増強も考えよう」


 その後は他愛もない雑談で昼食会は終わり、結局俺はろくにご飯が食べられなかった。

 エルフ料理はちょっと変わってて美味しかった、とはティリカさんの談である。


 


「さっきの話はどういうことなの?」


 また俺たちだけになったところでエリーに絡まれた。まあ気になるだろうな。


「俺も確信があるわけじゃ……」


「何かあるなら正直に言ったほうがいいんじゃない?」


「俺のスキル、色々説明したと思うけど、生産系もあっただろう?」


「そうね」


「それにこっちで暮らすだけなら店でも開いて料理でもすれば、命の危険もないし繁盛すると思わないか?」


「それも楽しそうね」と、アンが同意してくれる。


「でも最初に神様に警告されたんだよ。いや、忠告かな。町でじっとしてないほうがいいと。それは危険だと」


「それにしては五年一〇年って言ってたし、もうちょっと具体的な話に思えたけど」


「俺の戻る期限が二〇年なのは話したな? つまりその期間に何かあるんじゃないだろうか…… でも具体的には何が起こるかはわからないんだ」


 俺の発言にエリーはちらりとティリカに目をやったが、ティリカは無反応だ。ちょっと危ない発言かと思ったが大丈夫なようだ。

 まあバレたらバレた時のことだ。どうせそのうち話すべきことだし。


 この世界の破滅をもたらす何か。

 その何かが具体的にわからない限り警告の発しようもない。

 たとえば俺の警告が見当違いだった場合、そのこと自体が破滅を加速するかもしれない。

 通常の魔境に対する備えであるなら、俺が言わなくとも十二分にしているはずだ。

 もし大規模に警告を発する必要があるなら、神様が俺か、他の誰かにそう指示をすればいいだけの話なのだ。

 それをしないのはまだ時期尚早ってことなのだろう。


「まあ何かあれば、また神様が何か言ってくるんじゃないか? 今回もそうだったし」


 それでみんなは一応は納得してくれたようだった。

次回、112話パーティ

近日更新





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[気になる点] エルド将軍のエピソードの時、「帝王もエルド(レッド)で、他にもエルドって居たような、武門的に由緒正しい名前なんかな」と思っていたが、エルフ王がエルド(レード)だったか エルフ王はここ以…
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