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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第六章

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110話 リリアーネ・ドーラ・ベティコート

 リリ様こと、リリアーネ・ドーラ・ベティコートは、正統なるエルフ王家現国王の第二子、第一王女として生まれ、王位継承権第二位を持つ、どこに出しても恥ずかしくない見目麗しき姫君である。

 御年三〇歳。エルフ的にはお年ごろな年齢だ。

 エルフの寿命は人よりも長く成長も緩やかで、数え三〇で成人として扱われるようになる。

 リリ様も昨年成人と相成ったものの、今現在は無為徒食の日々を送る、いわゆるニートと呼ばれる存在である。

 むろんなりたくてニートとなったわけではない。リリ様にも言い分はある。


 話はリリ様の出生時まで遡る。

 リリ様生誕のおり、沢山の精霊があつまり祝福の歌で誕生を祝った。王家といえども精霊の祝福を受けて生まれるなど滅多にあることではなく、大変に名誉なことである。現に、二人いるリリ様の兄弟は祝福は受けていない。

 またその時にリリ様が将来、特別なことを為すだろうと精霊の言葉を賜り、後年の精霊との契約の儀では、格別に強力な風精霊を伴侶と成した。


 精霊は神の恩寵としてエルフに下された。それを伴侶とするエルフは、全住民が魔法使いであるエルフの中でも飛び抜けて強力な魔法の使い手となる。

 その精霊使いたちの中にあってもリリ様は強力な精霊魔法使いであった。


 増長する要素は多数あったが、両親の教育の賜物か、少々我儘ではあったが、素直で正義感が強い子へと育った。

 だが自分が少々特別な存在であると考えたとしても誰もリリ様を責められないだろう。実際生まれた時から特別扱いで、周りもそう言って育てたのだ。




 三〇で成人を迎えるエルフであるが、未成年だとて普通は怠惰に過ごしているわけでもない。通常施される教育とは別に、一〇を過ぎた頃にはお手伝いを始め、二〇くらいになると将来を見据え、本格的な就活や訓練、学習を始める。


 職業の中で一番多いのはやはり兵士や狩人であろう。魔境に近いエルフの里では日常的に魔物の脅威に対抗せねばならない。危険であるが、尊敬もされ大変にやりがいのある職業である。


 次に多いのは生産、職人系のお仕事である。

 閉鎖されたエルフの里では自給自足が基本である。武器防具から日常品まで、ありとあらゆる種類の職人が存在する。

 その長い生涯を物づくりに打ち込んだエルフの生産品は、例えただの鍋であってももはや芸術品と呼んで差し支えのないレベルに達し、里の外に持ち出せば高額で飛ぶように売れ、外貨獲得に一役を買っている。

 ただしすべてが丁寧な手作業で行われるので生産量はエルフの里での消費を超えるものでもなく、里の外に製品が出まわることも少なくレアリティに拍車がかかっている状況で、職人の需要も大きい。

 その他様々な職があるのだが、リリ様が食堂経営や農作業をするわけでもないのでここでは割愛する。


 リリ様の立場であれば、王族として里の運営に参画することも可能であったのだが、書類仕事は苦手なようで、残る選択肢は生産系か戦闘系である。

 リリ様は戦闘系を選んだ。当然である。若手の中では最強の精霊魔法の使い手なのだ。


 だがここで問題が発生する。能力があるとはいえ、未成年の姫様を危険な戦闘においそれと参加させるわけにもいかない。将来何か事を成すとの精霊の予言をもらった特別な姫君なのだ。

 危険な任務には参加を許されない。参加できたとしても簡単な任務。それもお客様、お姫様扱いである。

 つまらないが、現場に負担をかけていることも理解できるので無茶も言えない。

 昨年の成人後も、成人になったからといって急に危険な場所に行くのを許されるはずもなかった。

 かといって他の書類仕事だったり、職人仕事だったりもやる気は起きないし、外部との交流がほとんどないエルフの里では姫としての役目が求められる場面も滅多にない。

 勢い普段は怠惰な生活を送ることになる。

 

 この時点でニート化しつつあったのだが、魔法に関しては本当に優秀なのもあって周りも強くは言えない。

 



 ニートはエルフの里では大きな問題である。

 危険な魔境の側であるとはいえ、里を囲む強固な防壁が完成して以降、里の中だけを見れば極めて安全。

 輸出も安定しており、エルフは非常に裕福で、誰もが食うに困ることはない。

 エルフは長い寿命と引き換えに子供の出生率は低く、生まれた子供は大事に大事に育てられる。

 いくら働く必要があると、大人が言ったところで実感はないだろう。

 若年層のニート化は大きな社会問題となった。

 

 色々対策は練られたが、最終的に考えだされたのが外の世界での修行である。三〇を過ぎても仕事の決まらないニートは一〇年間、外部へと修行の旅に出ねばならない。

 里の人口が減少することにはなるが、このまま手をこまねいていてもニートが増える一方なだけである。数百年生きるエルフである。ニートの社会的な負担は莫大になるだろう。

 エルフたちは心を鬼にしてニートを里から送り出した。


 修行とはいえ、その実態はさほど危険でも過酷でもない。一部のアグレッシブなエルフは冒険者となったり、放浪の旅に出たりするのだが、大抵のニートは外部に居住するエルフを頼り、普通の仕事を仕込まれ、働くことのなんたるかを学ぶ。受け入れる側もわかっているので、厳しく指導にあたる程度である。

 幾人ものニートが旅の半ばで倒れたり、また外部が気に入り永住したりするが、多くのニートは一〇年を過ぎると居心地のよい里に、立派な働き手となって戻ってきた。

 また長く外部に居住するエルフにしても、五〇年一〇〇年と過ぎるうちに結局は里に戻ることが多い。寿命の短い他種族と混じり同じ時間を生きるのは様々な困難を伴うのだ。

 



 もちろんリリ様にもその準備はしてあった。王家からニートを輩出するわけにもいかない。

 王都に駐在する、王国との防衛協定の一環として提供しているエルフの魔導師部隊への参加である。

 一応はリリ様が希望する戦闘職ではあるのだが、儀式的意味合いが強い部隊だ。要はエルフと王国の仲が上手くいっているというパフォーマンス、お飾りなのだ。

 総員がメイジの部隊である。運用すれば強力なのであろうが、王国としても小なりとはいえ同盟国から預かる戦力をおいそれと傷つけるわけにもいかない。それよりも見目麗しきエルフを親衛隊として侍らすほうが色々と有用である。

 実戦はほぼないと思ってよいだろう。王都に行けば魔法使いとしてではなく、エルフの姫としての役割が多くなろうというのは容易に想像できた。

 正直まったく気が乗らない。このままニートをしていたほうがはるかにマシである。

 家出も含め強引な手段も考えないわけではないのだが、別にエルフの里や周りのエルフが嫌いなわけじゃない。


 エルフの寿命は長い。成人したからとてすぐに身の振り方を決めることもない。周りも急かさない。

 だがぼちぼち周りの視線が気になりだす中、いい加減に諦めて王都に行くか、それとも何か別の案を考えだすか? ニートな生活を送りつつじっくりと検討している最中、エルフの里が危機に陥り、リリ様は俺たちと出会い、里を救うこととなる。

 リリ様にとっては、これこそがついに巡りあった特別な役割、運命であったのだ。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



「妾はパーティに入れる。マサルは嫁が増える。双方ハッピーじゃろう?」


 リリ様はいいアイデアを思いついたとばかりに大変嬉しそうだ。


「家族なら良いということなのであろう? すでに四人もいるのじゃ。もう一人くらい増やしても不都合はあるまい」


「いやいやいや、パーティに入りたいからって、そんなのダメに決まってるでしょう?」


 確かに一人くらい増やしてもいいかなと、さっきも考えたし、みんなも肯定的な意見だった。

 エルフの里の防衛戦で皆のレベルはかなり上がったものの、さらなる戦力増強のためにパーティの人員を増やすことは、今後何かあった時のために必要だろう。

 それが女性でハーレムの一員となるのは加護を考えると致し方がない話だ。男は嫌だし。

 だが愛がないのはいけない。だからこそティトスさんももったいないと思いつつ断ったのだ。


「妾はマサルのことが好きじゃぞ? でなければこんなことを言い出したりはせぬ」


 そうなのか? ティリカのほうをちらっと見ると、どうやらパーティに入りたくて嘘をついてるわけでもなさそうだ。

 ええっと……好きならいいのかな? 嫁にもらっても? ハーレムに入れてエロいことをしても?

 少々心は惹かれるが、そんな簡単な話でもないな。


「だいたい俺とリリ様、今日で会うのは二回目ですよ?」


「人を好きになるのに時間や回数など関係ないのじゃ!」


 その理屈はわからないでもないが、だからっていきなり結婚というのはどうなんだ。

 いやでも、ティトスさんみたいに奴隷として差し出されるならともかく、好きだから貰ってくれというのを断るのも女性に対して失礼にあたる懸念も……


「か、軽い気持ちで嫁になるとか言うもんじゃないですよ、リリ様」


「妾は真剣じゃぞ!」


 真剣だと真剣な顔で言われて少し心が揺れ動いたが、至って真剣なのが間違いないにしても、こんなのは明らかに今の今思いついた話だろうに。

 俺の置かれている状況がもうちょっと気楽であるなら、リリ様がもっと普通の立場のエルフならと思わないでもないのだが。


 リリ様が勇敢であるのは一日戦場で見てわかっているし、冒険者になりたいというからには危険であることもある程度理解もしているのだろうが、俺の嫁になるということは、確実に世界の破滅と関わることになるのだ。

 みんなに関してはもうどうしようもない。すでに巻き込んでしまったし、みんながいないと俺が死ぬ。

 今回の一連のクエストを考えると、伊藤神は俺たちを積極的に危機に介入させたい意向だろう。出来ればそんなことは御免被りたいが、俺たちがクエストの指示に従ってタイミングよく現れていなければ、どんな悲惨な事態に陥っていたかと想像するだに恐ろしいものがある。

 伊藤神はクエストに関して受けても受けなくてもよいとは明言したが、受けないという選択肢を取ることは今後難しいだろう。


 そう考えると、今後ハーレムを増強するにしても人選はよくよく考える必要があるな。

 命をかける覚悟のある人だけ? いや、お留守番しててもらってもいいのか。全員連れ回す必要もないものな。戦闘向きじゃなかったり、戦う覚悟がなかったりするなら後方支援という手もある。

 でもリリ様は前線希望なんだろうな。留守番をしててくれるとは到底思えない。事情を全部説明しても喜んでついてきそうだ。


「ごめんなさい、リリ様」


 危険であることを考慮しないとしても、エルフの姫を嫁に貰うというのはハードルが高い。

 里を救った英雄だ、神託の勇者だとか言っても、俺みたいな冒険者とエルフの姫様で釣り合うとも思えない。例え俺とリリ様が好きあっていたとしても周りがそれを許すのだろうか。

 俺としても余分な厄介事は抱え込みたくない。目の前にご両親がいるのだ。

 ちらっと見た王様は口を開こうとはしないものの、難しい顔をしている。娘さんの暴走を止める気はないんだろうか?


 俺のお断りの言葉でリリ様の顔が歪んだ。


「そ、そんなに妾と結婚したくないのか……?」

 

 リリ様が突然涙をぽろぽろと流しだした。


「あ、いや、決してそういうわけじゃ」


「た、確かに出会ってから日は浅いが、妾は此度の戦いでマサルの勇姿をつぶさに見ておった。魔法で、剣で、戦う姿はまさしく英雄だと思ったのじゃ……」


 先ほど王様の語った俺の活躍はかなりカッコよく脚色されていたが、考えてみればそのあたりの話の情報源はほとんどリリ様だろうし、リリ様から見れば俺がまるで英雄のように見えたのだろうか。


「出会ったのは偶然かもしれぬ。じゃがマサルが陸王亀を倒したのを見て妾は確信したのじゃ。これは運命の出会いだと!」


 それは吊り橋効果ってやつじゃないだろうか。陸王亀を倒したフレアは衝撃的だったろうし。


「ドラゴンが現れた時、妾は死ぬ覚悟じゃった。マサルにしてもすでに魔力も尽きておったろうに、巨大なドラゴンに剣のみで立ち向かい倒してのけたのを見て、妾は……妾は……」


 これは……結構本気なのか? だとしたら軽い気持ちとか言ったのは悪かったかもしれない。


「リリがいいというのなら、祝福いたしますよ。もちろんマサル殿次第ですが」


 ここまで黙ってやりとりを見ていた王妃様がそう言った。


人間(ヒューマン)とエルフ族が添い遂げるのは、今でこそエルフの里は外部との交流が少なく珍しいですが、昔から普通にあったことです」


 そういやサティも獣人で種族は違うけど、特に誰にも何も言われたことがなかったな。異種族間の結婚は普通なんだろうか。 

 エルフの姫様なんて高嶺の花に手を出そうなんてかけらも考えてなかったが、それが許されるとなると……


 成人はしているらしい。両親が目の前にいて反対もしない。王様は何も言わないが、パーティに入ること自体は賛成していた。

 リリ様と会うのは今日で二回目であるが、一日戦場でいっしょに戦ったのだ。その能力、精霊魔法はうちのパーティで非常に有用だろう。性格や相性もたぶん問題ない。みんなで一日過ごして上手くやっていたと思う。

 生活能力はなさそうだが、リリ様が家事をする必要も、稼ぐ必要もない。


 何より見目麗しいエルフの姫である。お持ち帰りしてあんなことやこんなことをしてもいいのか?

 ちょっと頭の中で服を脱がせて妄想を……悪くない。いい、とてもいい。それを本人がおっけーと言うのだ。

 ぐすぐすと泣いてるリリ様を見ていると、気持ちとしてはとてもお持ち帰りしたいんだが……


 俺がここで了承すれば……いや、みんなにも聞かないと。

 泣いてるリリ様はとりあえず放置して、相談をするべくみんなと部屋の隅へと移動して顔を突き合わせる。


「どう思う?」


 エリーはリリ様の気持ちはわかる。パーティに入れてあげればいい。何より戦力の増強は急務であるという。

 アンはリリ様はいい子だし、家に迎えても上手くやっていけそうだと。

 サティはエルフのお姫様に求婚された、仲間になるかもと、とても喜んでいる。

 ティリカはただ歓迎すると。サティが喜んでるようだし、それでいいんだろうか。


「あとはマサル次第ね」


 エリーが最後にそう告げる。


 ここまで反対意見が一つもないとなると、もうここで返事してお持ち帰りしても……

 いや待て。一時の欲望やお姫様の涙に流されてはいけない。冷静に、冷静に考えるんだ。クールになれ。

 サティとアンは婚前交渉しちゃったから選択肢もなかったし、エリーとティリカもその流れでまとめて嫁にしたが、リリ様に関してはここで断っても問題ないはずだ。嫁にしてもなんら問題はないみたいだが。


 ええと、何かデメリットが……

 そう。エルフの姫、王女ってことだな。

 パーティに入って冒険者になるとして、ただのエルフならともかく、エルフの王女となるといろいろ問題が起こりそうだ。

 だが逆に言えば、そこさえクリアしてしまえば、ハーレム入りにせよ冒険者として危険な目に合うにしろ、あとはリリ様本人の問題に過ぎなくなる。

 身分を隠して……いや、冒険者としてパーティに入るなら王女の身分を捨ててもらう。でなければ共に戦うことはできない。


 俺たちがテーブルへと戻るとリリ様は泣きはらした目をしていたものの、もう落ち着いたようだ。不安げな様子で俺の発言を待ち構えている。

 

「もし……もしリリ様が王女としての身分を捨ててでも。そう言うのなら」


 それくらいの覚悟があるのなら。


「妾の王女としての身分は不要だと?」


「ええ」


「先ほど試したように力も足りぬ」


「俺の負っている役目というのは本当に危険なんです。力が足りなければ生き残れないでしょう。リリ様にその覚悟がありますか?」


「ある! マサルのためならばこの身をいつでも捧げようぞ! 王女の身分もいらぬ!」


「うちは冒険者だし、裕福でもないし、色々と大変ですよ?」


「構わぬ!」


「リリ様にそこまでの覚悟があるなら……」


「待て」


 俺がリリ様に答えようとすると、王様から横槍が入った。


「マサル殿」


「あ、はい」


「もしリリを連れて行くというのなら、いままで約束した報酬も、エルフの友誼もすべてなかったことにしてもらおう」


「父上!?」


 王様……娘がかわいいからって手のひら返しはええな。

 だが俺としては、リリ様が貰えるのなら、他はまあ捨てても問題ないな。お金も物も、手に入れようと思えばどうとでも手に入れられる。

 エルフの友誼に関しては王様がここで何を言おうが、敵対とまではいかないだろう。


「リリ様が王女として身分を捨てようとまで言ってくれたのです。報酬はすべてお返ししましょう」


 そもそもまだ何にも貰ってない気もするが。

 まだドラゴンも一匹残っているし、開拓のほうがまたこじれるかもしれんが、それはなんとかしよう。

 ごめんな、みんな。でもリリ様と引き換えなら、今回の報酬全部合わせても、お釣りが来ると思うんだ。

 みんなへの埋め合わせはがんばって何か考えよう。


「マサル……」


 即答した俺に王様は黙りこみ、リリ様は喜びの表情を浮かべている。


 注目が俺に集まっている。俺の判断、言葉待ちの状況なんだろう。

 ここはちゃんとしたプロポーズが必要な気がする。じゃあ結婚しましょうかとか、リリ様貰って帰りますねーじゃダメだろうな。

 かと言って普通のプロポーズや愛の言葉も違う気がする。リリ様の望みは俺たちと共に戦うことだろうし、俺としてもここで愛を誓うのも、嘘とまでは言わないが真実味にかける。

 この場面にふさわしい、何かカッコいい、感動的なセリフを……


「ここに集いたる人々を前に、我に加護を与えし神に厳かに誓おう。我ら生まれし時も、場所も、種族も違えども、家族となり、共に助け合い、共に困難に立ち向かい、共にあらゆる艱難辛苦と戦うと」


 ゆっくりと立ち上がり、みんなを、アン、エリー、サティ、ティリカを見回しながら話しだす。

 参考にしたのは三国志の桃園の誓いだ。我ら三人生まれし時と場所は違えども、兄弟の契を結び、死す時を同じくすることを願う。

 ただ俺は寿命で死にたいし、エルフのリリ様はすごい長生きだろうから冒頭部分だけ。


「高貴なるエルフの姫君よ。汝も我ら家族の一員となりて、共に助け合い、共に戦わんことを誓い、互いへの忠誠を約束できますか?」


「……約束しよう。我、リリアーネ・ドーラ・ベティコートは、汝らの盾となりて、共に戦い、助け合うことを、神と精霊に誓おう」


 ぶっつけで考えたセリフだったが、周りの反応を見るに悪くなかったらしい。

 話の展開が早過ぎるとちょっと思ったが、もはやこういう運命なのだろう。

 すぐに後悔するかもしれないが、リリ様を欲しいと思っちゃったのだ。


「歓迎します、リリ様」


「よ、よろしくなのじゃ」


 思いついて俺のつけている魔力の指輪を外して、リリ様の手を取り薬指にはめてあげる。


「この指輪は誓いの印です」


 指輪をはめた直後、リリ様のメニューが開いた。

 おお……この時点で忠誠値が五〇超えか。

 やることをやる前にメニューが開くのはサティに続いて二人目だ。この指輪か、それとも頑張ってカッコいいセリフを考えたのがよかったのだろうか。


「二人の婚姻、認めよう」


「父上!」


「マサル殿、試すようなことを言って済まなかった」


 ああ、そういう。王女ともなれば地位や財産目当てに来るやつとか多いんだろうな。俺も体目当てな気がして、ご両親の前だとさすがにきまりが悪いのだが……


「マサル殿、もしリリが気に入らなかったり我儘を言うようでしたら、いつでも追い出してくださって結構ですからね?」


「母上ぇ……」


 軽い冗談かとこの時は思ったが、今回の結婚はリリ様の修行も兼ねており、ダメならガチで追い出していいとエルフの修行の話を聞いて知ったのは、このすぐ後である。

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[気になる点] 「いわゆるニート」と表現するならば、就活や学習、訓練をしている時点でニートの定義には当てはまらないのでは?
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