16 大丈夫らしい
「そ……そんな……っ!」
「…………。」
本気でショックを受けているスカイ様を見て、分かり会える日は絶対ないなと思った。
そのためゆっくりとスカイ様から離れようとしたのだが────……。
────ガシッ!!!
スカイ様が強く俺の腕を掴む。
「だ、だって……俺、カッコいいだろう?
強いし、顔もいいし……それに地位だって、国を救う光の勇者にまでなったよ……?」
「は、はぁ……。す、凄いですね。」
それは確かに凄い事なので素直に褒めると、スカイ様はパァ!と目を輝かせた。
「そうだろう!俺は凄いんだ!だから、そんな俺をムギは好きになるはずだろう?
あんな、つるつるカエルもどきが大ジャンプするより凄いんだから!!」
「えっ?つるつるカエル……??」
チリッ……と記憶に引っかかる言葉に、俺は眉をひそめてスカイ様を見つめる。
「……えっと?るつるカエルって、まさかイボイボ・ケロッグの事ですか?」
「そうだ!前に見せてくれただろう?
一匹だけつるつるで、高く飛べるからモテモテになっていたカエルもどきを!」
その話を聞いて、俺は驚きに目を見張りながらスカイ様を指さした。
「ま……まさかお前……コロ??」
「そうだ。今頃気付いたか!記憶力も農夫レベルだな!!」
堂々と頷くスカイ様に……俺の目玉はポポーン!!と飛び出し、行方不明に!
だって外見が違い過ぎるし……そもそも運動系全滅している様な動きしかしてなかったから!
畑を耕すクワすらまともに振れなかったコロを思い出しながら首を傾げたが、とりあえず再開できた事を喜び、スカイ様改めコロの両肩をポンポンと叩いた。
「うわ~!コロ、久しぶりだな!!全然外見が違うから気が付かなかったぞ。
元気そうで何よりだ。俺は凄く嬉しい!」
「!!ふ、ふんっ!!あの頃はちょっとアレな姿だったし……。ま、まぁ!俺だと気づかなかった事は許してやろう!仕方ないし……!!」
真っ赤な顔でモジモジするコロに、村民と騎士たちは呆然としていて、更に満身創痍で戻ってきたアース様も真っ白になっている。
俺はというと、おっかなくて意味不明な変人から、昔面倒みたツンツン弟分へとイメージがシフトしすっかり安心し、砕けた態度でコロに尋ねる。
「突然いなくなったから心配したんだぞ。どうして何にも言わずにいなくなったんだよ……。せっかくお前の分の野菜スープ、たくさん作って待っていたのに。」
「野菜スープ……飲みたかったな……。
────っじゃなくて!農夫如きが知り得ない大事な大事な仕事があったんだ!だから言付けだけして……宣言通り貰いにきたんだぞ!」
心做しかシュン……としょげてしまったコロに、気にしてないといわんばかりに、もう一度優しく肩を叩く。
「もしかして光の勇者としての使命的なヤツか……?
うんうん、俺みたいな農夫には分からない深い事情があったんだな~。
とりあえず、あれから俺の畑も大きくなってさ。これから見に来ないか?
なんでも貰ってっていいぞ。」
「────っ!!し、仕方ないなっ!貰ってやろう!や、約束だしな!」
カァ!と真っ赤になって頷くコロ。
そんなに俺の育てた野菜を好きになってくれるなんて……!と感動しながら、俺はムクッと立ち上がった。
すると……自分の恥ずかしいだけの格好を見下ろし、続けて恥ずかしそうに下を向いているコロを見つめる。
「そもそもお前……どうしてこんな怒ったり乱暴な言い方したりしたんだ?
こんなわけのわからない事までして……。
普通に『久しぶり~!』でいいじゃないか。……おえっぷ!……く、苦しい……。」
俺が苦しみながら少し非難する様に言うと、コロはまたモジモジと身体を揺らした。
「だ、だって……。恥ずかし────……じゃなくて!!
い、いいじゃないか!ムギは俺の言う事をただ全部聞けばいいんだ!一々煩いぞ!!」
ガーッ!!と突然怒るコロに、大きなため息をつく。
またわけのわからない事を……。
素直に『お野菜下さい』が言えないコロを、呆れたように見つめた。
コロは極度の恥ずかしがり屋&天邪鬼で、昔からわけのわからない言い回しや行動も多く、きっとまたとんでもない誤解や勘違いをしたに違いない。
あんまり人付き合いも得意じゃなかったし……基本的に人との距離の詰め方に失敗しているんだろうな……。
周りでコロがこんなよく分からない事をしても、仲間である騎士たちは誰も止めない事から、多分本格的にちょっと変な人扱いされている可能性もある。
あ、でも憧れが人を遠ざけちゃっているのもあるのか……。
変な服を持ってきてくれた騎士たちが言っていた言葉を思い出し、やれやれと肩を竦めた。
「ハァ~……全く仕方ないな、コロは~。」
これは昔馴染として、ちゃんと嫌な事は嫌だと言わないと!
とりあえず俺は自分の腹を苦しめるコルセットの紐を緩めて、やっとの事でベリーん!と外すと、そのまま恥ずかしいだけのガーターも脱ぐ。
そして女物のパンツ一丁になると、呆けているコロに向かい手招きした。
「もう今日はこのまま畑仕事しちゃおう!どうせ泥だらけになって捨てちゃうし……。
コロも野菜スープ飲みたいなら、収穫を手伝ってくれよ。」
「…………。」
コロは俺のフリフリ女物パンツを履いている身体を凝視しながら、ただコクコクと頷く。
そしてそのまま意識半分でついてくるので、俺はその場で放心している村長へ『大丈夫で~す!』と身振り手振りで伝えた。
スカイ様だと怖いけど、コロは大丈夫。
冷静さを取り戻したコロは無害。
だからOK~♬
そう伝えると、村長は大量に出ていた汗を拭い、ジロとニコもホッとしながら、俺の遺影??の様な似顔絵を破り捨てている。
更によく見ると、残されていた村民達の手にはそこら辺で毟った小さな花たちが握られていた。
……皆、また俺の葬式用の準備をしてたんだ。
────不吉!
複雑な気持ちだったが、生きていたのでよし!
ただアース様が凄い睨んでいるから、殺されそうで怖い!
「……排除せよ……排除せよ、平凡クソゴミ農夫めぇ~!!」
何度ふっ飛ばされても俺に殺意を向けてくるアース様。
その口から物騒な言葉の数々が飛び出したので、俺は早々にその場から逃げ出した。




