11 出会い
◇◇◇◇
「……一体何の病気なのかしらね。」
「さぁ……。可哀想だけど……ウチの子に伝染ったらと思うと、近寄れないわよね……。」
村の中でヒソヒソ囁かれるのは、ある一人の少年の噂話だ。
当時18歳になっていた俺は、渦中の少年がいるであろう家へと視線を向ける。
ある日村の中でも外れの方にある一角に、ピカピカの一軒家が建てられた。
本当に突然建てられたので、村の皆はビックリしていたのだが、村長曰くある病気に患った子が療養の目的で送られてくるのだという。
どうしてこんな村に?と思ったが、村長曰く『厄介払い』、もしくは、ここなら周りに伝染ろうが、どうでもいいという事だろうと言っていた。
酷い話だが、他の広い街なら被害は甚大になるだろうし、小さな村なら病気自体を閉じ込める事も容易いだろうという事だろう。
「……どんなヤツが来るんだろうな。」
病弱で儚げな美少年かな?と勝手なイメージを抱いていたのだが、その姿形を見れば、そんなイメージは粉々に吹っ飛んだ。
背は小さいが丸々と太った体と、まるでヒキガエルのイボの様な出来物が顔や手足など体中に出来ていて、所々から膿が出ているその姿は……まぁ、ちょっと強烈だったかもしれない。
その姿を見た村民は、皆悲鳴を上げて逃げていっちゃったから。
「おお~……。」
俺もそんな状態のヤツを見たのは初めてで、しげしげと見つめていると、そいつはチッ!と大きな舌打ちをして俺を指さした。
「この汚らしい農民風情がっ!とっととお前も消えろっ!虫けらめっ!」
そう怒鳴りつけてくる少年の歳は、多分8歳くらい。
そんな子供が悪態を吐く姿は……なんだか悲しかった。
「は、はぁ……。」
俺はその子供が住むであろう家の方へチラッと視線を向けたが、どうも誰もいない様だ。
それだけで……この子供がどういう扱いでここに置かれたのかを知る。
酷ぇ~話だよな……。
頭をポリポリと掻きながら、俺は偉そうにふんぞりかえっている子供に近づいていき……。
────ヒョイッ。
そのぽっちゃりした体を抱っこした。
「────なっ!!!」
そいつはフルフル震えて顔を真っ赤にしていて……そして凄く驚いた顔をしていたと思う。
そんな様子がおかしてく吹き出した後、ポンポンと背中を軽く叩いてやった。
「分かった分かった。飯食わしてやるからウチに来いよ。野菜しかないけど……。」
「ふっ、ふざけるなっ!き、き、き、汚い手で触るなっ!無礼者めぇぇ!!」
子供はワーワーギャーギャーと煩く暴れたが、そのまま野菜を収穫するように担いで連れて行って、野菜のスープとパンを出してやると、無言で食べ始めた。
ひたすら食事の粗末さや俺の無礼さの文句を言っていたが、まぁ出されたモノは全部平らげていたから、お腹は減っていたらしい。
食べ終わった後は少し静かになったので、そのまま体を拭いてやろうとタオルと水桶を持っていったのだが……突然激しい拒絶をし始めた。
「やっ、やめろっ!!無礼者めっ!!まっ、まさか俺の体を拭くつもりかっ!?」
「?あ、あぁ。お前臭いし。」
さっきからプンプンに臭ってくるのは、動物が作った巣の匂いというか……要は何日もお風呂に入っていない様な匂いだ。
俺や村の人達は、近くの川や少し森に近い温泉などに浸かったりするが、今日の村の人達の様子だと外出しにくいだろうし、せめて体を拭いてやろうと思ったのだ。
当然の様にタオルを濡らして見せる俺を、その子供は信じられないモノを見るかの様な目で見てきた。
「……貴様は……怖くないのか……?俺は……こんな汚い姿で……太っているし……伝染るかも……しれないのに……。」
さっきの威勢はどこへやら?突然体を丸めて恥ずかしがる様子を見せる子供に、俺はハァとため息をつく。
「伝染るモンだったら困るけど……流石に子供を飢えさせるわけにはいかないだろう。
それに、俺が感染しても、迷惑かける様な家族はとっくに死んじまってるからなぁ……。まぁ、気にすんな。」
「…………。」
つらつらと答えると、子供は無言で下を向いて黙ってしまったので、俺はタオルを持って子供に近づいた。
そして汗と膿でグチャグチャになっている首元を拭いてやると、子供はビクッ!と体を震わせて……そのまま泣いてしまう。
多分この病気のせいで、こいつは嫌な想いをしてきて、だから必死に虚勢を張っているんだろう。
そう思った俺は、泣いているのを指摘するのはせずに、そのまま知らんぷりして体を拭いて、その日はそのまま寝かせてやった。
「おいっ!農民!!それは何をしているんだっ!!」
その日からそいつは、コロコロと太った体を必死に動かし俺について回る様になり、他の農民達は俺達を遠巻きにする様になる。
「お、お前、お人好しも大概にしろよな!」
「病気が伝染るかもよ!」
遠くからジロとニコが真っ青な顔でそう忠告してきたが、だからといって放って置く事はできずに、俺は畑の耕し方を教えたり、いろいろな生きる術の様な事も教えてやった。
しかし、どうにも運動が苦手な様子で、結局なんにもできなかったが……。
その際に聞いたのだが、その子供には名前はないのだというので、とりあえず俺は<コロ>という名前をつけて呼ぶことにする。
すると気に入らないと思いきや、別に文句を言われることもなかったため、俺はコロと根気強く付き合い続けた。
しかし、ある日緊張の糸が切れたのか────巨大なビック・ダンゴムーシが畑から飛び出してきたのに驚き、突然泣き出してしまったのだ。
「びえぇぇぇ────ン!!!」
「ほら~泣くなって、いい子いい子~。」
泣いてしまった原因でもあるビック・ダンゴムーシを抱っこしながら慰めたが、コロは泣き止まない。
「わーん!わーん!!怖いよー!怖いよー!!」
ダンゴムーシを遠ざけるため、ソッと近くの木の幹に置いてやると、コロはわけのわからない事を大声で叫ぶ。
「ぼ、僕がデブで汚い病気の子だからこんな地獄に捨てられたんだぁぁぁ!!わーんわーん!!誰も僕の事なんてぇぇぇ!!!」
ギャンギャンと泣きわめくコロの顔を仕方ないから拭いてやると、ちょっと失礼な物言いに一応物申した。
「いや、お前ぇ~……。地獄って、俺、ずっとこの村に住んでるんだけど……。」
汗を掻きながらため息をついた後……俺は泣き止まないその子の頭を優しく撫でてやる。
「あのさ、お前自分の外見が嫌いなのか?」
「当たり前じゃないかぁぁぁ!!このせいで俺は捨てられたんだからぁぁぁ!!」
ギャギャンッ!!!
更に激しく泣きながら叫ぶコロに苦笑いしながら、俺はコロの体をヨイショと抱き上げた。
「良いもの見せてやるからちょっと行くぞ。」
「……?」
グスグスと鼻を啜っているコロを抱っこしたまま、俺は近くにある沼へと向かう。
すると、そこには沢山の<イボイボ・ケロッグ>達がいて、コロは「ヒッ!!」と悲鳴をあげた。
<イボイボ・ケロッグ>
体長30~50cmくらいの沢山のイボがついたカエル型モンスター
性格は大人しく、沼などの湿地帯を好んで住んでいる
沢山のイボから油を出して、常に体をヌメヌメにさせて外敵から身を守るのだが、その油は臭いため、人からは忌み嫌われてきたモンスターでもある
トマトやレモンなどの酸味の効いたモノが好物




