第48話:朱妃、皇帝に抱かれる。
ξ˚⊿˚)ξ更新1週間ほどあいてすいません、ヴィルヘルミーナ書籍化関連作業その他諸々多忙でした。
山は超えましたが別件もあってしばらくバタバタするのでとりあえず二日に一度程度の更新頻度でこれから続けていくかと思います。また更新あくときは事前に連絡できればと思います。
よろしくお願いします。
武甲帝は寝床に仰向けに倒れた朱妃にのしかかるように身を預け、彼女を抱きしめる。
朱妃は男の身体の重みと、服越しに硬く力強い筋肉の感触を覚えた。耳元に寄せられた唇から、低く小さい声が朱妃の鼓膜を震わせる。
「ここでの話は全て、外に待機する宦官らに聴かれている」
やはり。そう思った。武甲帝が笑ったような気配を頭上に感じる。
「それに自ずから気付くのは良い」
朱妃は不敬と思いつつも言葉では返答せず、小さく頷くに留めた、
武甲帝のどこか冷たい掌が朱妃の頬を撫でる。
「ロプノールの姫よ。遠き異国へと嫁ぎ色々と不便もあろう。それを語るが良い」
「……癸昭大人からも、窮状を皇帝陛下にお伝えせよと伝えられていました。ご存じだったのでしょうか」
「あやつは朕の腹心よ」
直接的な回答ではなかったが、その言葉は納得がいく話であるように感じられた。
「それでは……」
朱妃が自らの状況について話そうとした時である。部屋の外から宦官による男性よりも少し高い大きな声が発せられた。
「畏れ多くも皇上陛下へ言上仕ります! 今のなされようは交合の儀に反するお振舞いであると!」
何が問題なのか、と朱妃は思う。
龍床は広く、部屋もまたさらに広い。部屋の外に待機する宦官らに皇帝と朱妃の声が聞こえているとは流石に思えない。
「すまんな」
武甲帝は立ち上がり寝台から降りると、やおら服を脱ぎ捨て始める。当代でも随一の武人であるという彼の身体は引き締まったものであった。
脱いだ服を無造作に放ると、寝台の上に再び乗った。
見てはいけないと思いつつも、朱妃は彼の身体から視線を外すことができない。
「どうした」
「海参が……」
そう言えば皇帝は呵々と笑う。
「あれは海の生き物だ。これとは違う」
武甲帝は朱妃の身体を再び抱きしめ、そう囁いた。朱妃よりも体温が低いのか、肌は冷たく感じた。ただその下から熱が湧き上がるようである。
皇帝は続ける。
「宦官がああ言ったのは、服を纏って横臥してはならぬからだ。だがその真意は皇帝と妃嬪はこの部屋で話をしてはならぬことになっているからよ。妃嬪から皇帝に余計な奏上などさせぬようにな」
「だ、抱きながらお話しされても、構わないのですよ」
「声が震えているぞ、無理するな。どのみち、先ほど言った通りだ。朕が爾を愛することはない」
朱妃はその言葉に疑問を覚える。
殿方に抱かれることに恐れが無いとは確かに言えない。あの海参的逸物をこの身に受け入れるのかと。だがそれこそは妃嬪の仕事なのだ。
逆に言えば愛などなくても女を抱くのは皇帝の仕事だろう。
なぜこうして抱くことを拒むのか。また単に横になって話をすることが宦官らに疑念を抱かせるなら、抱いた上で話した方が良いのではないかと。
朱妃は考えるが、皇帝に話せと再び促されたため思考は中断した。
そうして朱妃が紫微城に入ってからの話を伝えることとなった。
「ふぅむ」
話がひと段落したところで皇帝はそう唸った。
「爾には迷惑を掛けるが、もう暫しその状態を続けさせよ」
「……御意にございます」
「驚かんのだな」
朱妃は頷く。癸氏が皇帝陛下側の陣営であるとして、後宮の不正をなんとかするのであれば、ここは泳がせておくべきだろうと考えただけである。
「無論、爾にできるだけ危険が及ばぬようにはしよう」
「有り難き幸せ」
朱妃の額に柔らかいものが押し当てられた。それが唇であると気付き、朱妃は赤面する。
「良い女だ」
「お時間に御座います! お時間に御座います!」
突如、部屋の外から声が響いた。先ほどの宦官のものである。
朱妃がこの部屋に入ってから一刻ほどは経ったであろうか。いや、それとも話しているだけと見越して短くされたのだろうか。
「ふん、無粋なものだ」
そう言いながら武甲帝は身を起こす。彼はその黒々とした瞳を朱妃に向けて言う。
「朱緋蘭よ。また呼ぶこともあるであろう」
「はい……」
そう答えた朱妃に向けて彼は笑みを浮かべてみせた。そして部屋の入り口にむけて声を放つ。
「入れ!」
頭を垂れた宦官らが部屋に入り、龍床の足元の方で跪く。
武甲帝が頷けば、彼らの数名は皇帝陛下に衣を羽織らせ、別のものが朱妃に裘を羽織らせる。貂の毛皮のみで仕立てた滑らかな肌触りの衣であった。その裾は長く、足元まで隠れるものである。
「宮へと連れていくが良い」
「是!」
宦官らが朱妃を抱え上げた。
あー……またか。と朱妃は思う。
朱妃がそっと溜め息を一つつくと、それが合図というわけでもないだろうが、宦官が彼女の身体に触る。朱妃をここに連れてくるときも見た顔の、敬事房の宦官が彼女の身体を持ち上げた。
そうして朱妃は再びその身体を抱え上げられて、乾坤殿を後にして永福宮に運ばれていくのであった。





