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夜空に瞬く星に向かって  作者: 松由実行
第八章 地球市民 (Citizens of TERRA)
212/264

13. 地球軍制式重アサルトライフルDRT43MJD


■ 8.13.1

 

 

 眼の前を明らかに形がおかしい民間の公共交通用ビークルが一台、通路の広さに対して非常識な速度で通り過ぎた。

 ビークルの後部がごっそりと削れており、追跡劇の間に何らかの攻撃を受けて破損消失したものと思われた。

 

 そのマサシ達が乗った民間のビークルも、多分ジャキョセクションが仕掛けたのであろう追跡者達の軍用ビークルも、マップ上に輝点で表示されている為間違うことはない。

 それらのビークルが、眼の前に存在する約20m四方ほどの断面を持つ狭い通路の中でどの辺りの位置を飛んでいるかの情報もメイエラから細かく中継されてくる。

 

 ニュクスはマサシ達のビークルが逃走して行った細い通路からさらに脇道に入ったすぐの場所に陣取っていた。

 ちょうど曲がり角の陰になる場所にいるので、通路を通るビークルから光学的に発見されることはない。

 メイエラが彼女たちのID情報が公共ネットワークに流れない様に止めているので、彼女たちがここに居ることはマサシ達には分かっても、追跡者達には分からない。

 

 マサシ達のビークルが通り過ぎてすぐ、あらかじめ設置してあったモノ(単分子)ワイヤーアンカーを撃ち出す。

 十基のモノワイヤーアンカー投射器からアンカーが打ち出され、アンカーが反対側の壁に食い込んで固定された。

 通路の上から下まで約2m間隔で十本のモノワイヤーを並行に張ったことになる。

 

 そこに追跡者達の二台の軍用ビークルが突っ込んだ。

 モノワイヤーとて万能ではない。

 一般の民間ビークルに較べて遥かに装甲が硬い軍用ビークルから伝わる大きな荷重に耐えきれず、車体を半分辺りまで切断したところでワイヤーが切れた。

 

 だがそれで充分だった。

 モノワイヤーは車体最前部に設置してある操縦席を操縦者ごと両断した。

 車体後部の貨物スペースに搭載されていた三基のHASの内、一番前の位置にあったものは輸送車と共に上下に両断された。

 二機目のHASは、胴体半ばまでが切断されたところでワイヤーが切れた。

 二機目のHASに外観上の大きな変化はないが、搭乗者の身体もHASと一緒に半ばまで切断されてしまった為、実質的に行動不能となった。

 

 二台目の追跡ビークルは、非常識な飛行速度で行われたカーチェイスの中で前方視界を確保する為、車体位置を一台目のビークルとずらしていたことが災いした。

 一台目のビークルが二本のワイヤーを切断したことで安全な空間が出来たのだが、車体位置がずれていた為にそれとは異なる部分のワイヤースリットの中にもろに突っ込んだ。

 二台目のビークルも一台目同様にワイヤーで切断され、操縦席と、貨物室に搭載されていたHAS一機が上下に切断された。

 

 余りの高速で、そしてモノワイヤーという余りに鋭利な「刃物」で切断された為、実は既に身体が上下に分かれてしまっている操縦手を含め、輸送車全てがまるで何事もなかったかの様にそのまま真っ直ぐ進む。

 しかしそれも一瞬だけのことだった。

 

 ニュクスとは反対側の脇道通路に陣取ったルナが、眼の前に飛び出てきたビークルにライフルの弾をありったけ撃ち込む。

 連射機能を犠牲にして初速を上げることで徹甲弾としての威力を向上させているのだが、それでも最大六十発毎秒の発射速度を持つアサルトライフルは高速徹甲弾を二十発毎秒、初速40km/secで吐き出す。

 その軍用ビークルは、ルナの正面を通り過ぎる僅か0.2秒の間に、四発の高速徹甲弾の直撃を真横から受けた。

 一発ずつは、直径20mm弱、長さ40mm強、100g程度の重さの弾丸でしか無い。

 しかし初速40km/secの速度で叩き付けられるこの弾丸の威力は、ライフル銃から撃ち出された弾丸とは言えども、黎明期の洋上艦搭載の火薬式実体弾の破壊力を凌ぐ。

 

 搭載された慣性制御装置の働きにより、横向きに吹き飛ばされ、通路の壁に叩き付けられる様な事は何とか防いだ軍用ビークルだったが、モノワイヤーで途中まで切れ込みが入っている車体構造はその暴力的な運動エネルギーの譲渡に耐えることが出来ず、一瞬でスクラップと化した。

 ルナは二台目のビークルにも同じ様に高速徹甲弾の連射を浴びせかける。

 どちらのビークルも、高速徹甲弾によって大穴が開き、ひしゃげ、モノワイヤー切断面から車体構造がめくれ上がり、ほぼくず鉄の外見となった。

 中に搭載されていたHASも、着弾の衝撃と、ねじ切られ叩き付けられた車体構造物でモノワイヤー切断面から上下に分断されて完全に機能を停止した。

 いずれのビークルでも、最後尾に搭載されていたHAS一機がその装甲の分厚さによってかろうじて破壊を免れ、ただの金属の塊となってしまったビークルの残骸から飛び出してきた。

 しかしそれは破壊されなかったというだけの事であり、緊急脱出に近い状態であった為に銃などの装備品の殆どを車内に残した状態となった。

 

 破壊された輸送車から飛び出してきたHASの内一機は、通路の壁に乱暴に叩き付けられた後に立ち上がり、方向を見定めるとマサシ達の乗った公共ビークルを追跡し始めた。

 通路脇の小さな側道に身を隠していたルナも、それを追う様にして通路の壁を蹴り、重力ジェネレータを使わずに壁の表面を駆けて行った。

 

 もう一方の一台目のビークルから脱出してきたHASは、通路の壁の上に横たわり動かなかった。

 しばらく経ってからゆっくりと身体を起こし、装着者がHASの中でぼやく。

 

「冗談じゃねえぞ。頭のイカレたセールスマンを二人消すだけの簡単な仕事だって話だったじゃねえか。輸送車は全滅でこっちも殺されかける。冗談じゃねえ。ふざけんじゃねえよ。やってられるかよ。」

 

 ぼやきながらHASがゆっくりと立ち上がる。

 どうやら男は、マサシ達の乗ったビークルをこれ以上追跡するつもりは無い様だった。

 

「あいつら何かやべえ武器持ってるに違いねえ。そもそもHASさえ着てねえセールスマン二人にHASを十機もけしかける時点で話がおかしかったんだ。ちくしょうめ。」

 

 ぼやく男の後ろ側で、外部音声センサーが小さいながらも異常な音の発生を拾い、短く鋭い警告音を発した。

 同時に、後方を警戒する為の光学センサーがブラックアウトする。HASの索敵システムはこれも異常として処理し、警告音を発した。

 

「あぁ? 何だってんだよちくしょ・・う・・・」

 

 振り向いた男の前に、黒衣の幼女が舞い降りる。

 おかしい。パッシブセンサーは何も検知していない。

 反射的に殴りつけて払いのけようとした男は、自分の身体の自由が利かないことに気付いた。

 正確には、HASが自分の思うとおりに動かないことを。

 

「ちぃと詳しい話を聞かせてもらおうかのう?」

 

 自分よりも遥かに下の位置にある黒髪に縁取られた幼女の緑色の目が、妖しく光りながら彼を睨め上げる。

 小さな幼女の眼差しの筈が、まるで自分を捕食する猛獣の一睨みの様に彼の意識を恐慌に陥れた。

 

 

■ 8.13.2

 

 

「輸送車は全滅。周囲に展開しているHASが五機、後方から追いかけてくるHASが二機・・・訂正、一機で、HASが計六機。他に追跡者無し。ジャキョセクションの駐在事務所のin/outに目立った変化無し。」

 

 メイエラの報告で、ニュクス達が張った罠が残りのビークルを始末してくれたことを知った。

 マップ上では、緑色の輝点で示されている俺達のビークルの後方を、包囲するかの様に赤い輝点が六つ追いかけてきている。

 

「アデール、外壁近くまで進んでゴチャゴチャしたところで止める。手分けして潰そう。」

 

「諒解。後ろからルナも追ってきている様だ。真後ろのは任せても良いだろう。」

 

 これまでは、船外での実力行使に対応出来るのは俺とアデールの二人だけだった。

 ここが天下の無法地帯アリョンッラ星系だからという訳ではなく、ルナとニュクスが地球圏以外でも船外の活動が可能となった事は大きい。

 勿論油断してはならない。

 ルナもニュクスも銀河系中で蛇蝎の如く憎み嫌われている機械知性体であるという事実が変わった訳ではない。

 非常にバレにくいだろうと予想しているだけのことであって、万が一彼女たちが機械知性体であるとばれてしまえば、周囲の全てが一瞬で敵に回るだろう事に変わりはないのだ。

 それでもこれまで船内に閉じ込めておくしかなかった彼女たちを、実力行使の為であれ、ただの観光や買い物の為であれ、船外に出してやることが出来る様になったというのは実力行使のやりやすさという点だけではなく、彼女たちの為にも良い事であるのは間違いが無かった。

 

 ステーション中央部から離れ、通路がさらに狭く、複雑に曲がり始める。

 ステーション外殻まであと10kmほどの場所で、ガラクタの廃棄場所の様なスペースを見つけ、そこにビークルごと突っ込んだ。

 変わり果てた外見となったビークルを乗り捨て、アデールと別れる。

 

 俺達を囲む様に接近してきていたHASを示す六つの輝点は、今やこのスクラップヤードの周囲で包囲網を完成させようとしており、さらに距離をゆっくりと詰めて来ていた。

 俺は手近な所に転がっていた何かの装置の残骸の中に入り込み、最も近い赤い輝点が接近してくるのを待った。

 AEXSSに基から備わっている機能として、マップ上に表示された敵性のマーカーを光学センサー画像に重ね合わせて視野に表示させることが出来る。

 追跡者のHASはジェネレータを切って地上を移動している様だった。

 非常にゆっくりとした動きで、遮蔽物に隠れた俺のほぼ正面を真っ直ぐこちらに向かって通路を移動してくる。

 

 赤いマーカーの向こうに通路の角を曲がって現れた黒い艶消しのHASが見えた。

 おおよその予測位置を向いていた狙いを修正し、トリガーを引く。

 アサルトライフルからレーザーと高速徹甲弾が同時に吐き出される。

 実体弾が空気を切り裂いた衝撃波で、眼の前のガラクタの上に降り積もっていたふわふわとしたゴミが舞い散り、レーザーに接触して燃えあがる。

 俺に狙われたHASはその炎に気付いただろうが、その時には既に俺が撃ったレーザーと徹甲弾が着弾しており、頭部が粉砕されて吹き飛んだ。

 

 すぐさまガラクタの遮蔽物から出て場所を移動する。

 移動のついでに、隣の赤いマーカーを迎え撃つのに都合の良い場所に別の遮蔽物を見つけ、その陰に転がり込む。

 マップ上では、今撃破したHASのマーカーが中抜きの赤い円となって移動し続けている。

 メイエラが追跡者達に向けて流し続けている欺瞞情報が表示されているのだ。

 

 遮蔽物の陰に隠れてすぐに、やはり艶消し黒に塗られたHASが通路の向こうから現れた。

 ライフルをこちらに向けて構え、通路の壁際を警戒しながら移動してくるが、メイエラの情報操作で俺の位置は特定出来ていないはずだ。

 半自動でその頭部に一瞬で狙いを付け、そしてトリガーを引いた。

 俺の周りに土煙が上がり、同時にHASの頭部が爆散した。

 

 アデールがレジーナに持ち込み以前から使っていた重アサルトライフルDRT43MDに較べ、この新型DRT43MJDで追加された高速徹甲弾モードの威力は素晴らしかった。

 以前の43MDでは、HASの分厚い正面装甲を突破する為には何発か連続して近い場所に着弾させる必要があったが、43MJDの高速徹甲弾モードはレーザーと併用する事で一発で正面装甲を抜くことが出来る。

 今俺がやっている様に、落ち着いて頭部を狙え(ヘッドショット)ば確実に一発で仕留めることが出来る。

 地球軍の正規陸戦隊でもまだ支給が始まったばかりと聞いている。

 情報部のエージェントであるアデールが優先的に手に入れられたのか、もしくはシャルルが言っていたアデールがST兵士であるという話もあながち嘘ではないのかも知れない、などと思った。

 

 また次の遮蔽物に移動して、隣のマーカーが示すHASを迎え撃つ位置を確保しようとしたところで、目標としていたマーカーが中抜きの赤円に変わった。

 獲物が突然消えてしまったことで少々躊躇い立ち止まっていると、大型機械のスクラップの陰から愛用の黒い刀を抜き身で右手に持ったルナが現れた。

 マップを見ると、既に全ての赤いマーカーが中抜きに変わっており、一瞬の後にそのマーカーも表示されなくなった。

 

「全HAS撃破完了。お疲れさま。ニュクスを拾ったビークルを回すわ。三人ともそのままフルサイレントモードでM(ミーティング)P(ポイント)1に向かって下さい。」

 

 メイエラからの通信が入ると同時に、スクラップヤードのほぼ反対側に黄色いマーカーでMP1が表示された。

 ルナが刀を鞘に戻し、俺の横に並んで歩き始めた。

 ルナの愛刀は、抜き身では全長1m近くあるものの、鞘に戻すと50cm程の長さになる。

 鞘の中がどの様な構造になっているのか、俺も良く知らない。

 

 MP1手前でアデールと合流し、三人で言葉を交わすでも無くMP1で一分ほど待っていると、先ほどまで載っていたものとは意匠の違うビークルが一台やってきてドアを開けた。

 俺達三人が乗り込むと、中には先客のニュクスが居り、床に届かない足を機嫌良さそうにばたつかせてシートに座っていた。

 

「お疲れさまじゃの。一匹捕まえて情報を吸い出してみたが、大した事は分からんかったわ。末端の使い捨ての駒には何も教えぬ、といった所かのう。」

 

 ニュクスがそう言ってニィと笑った。

 

「ビークルはこのままレジーナ近くまで戻すわ。良いよね?」

 

「ああ。構わない」

 

 そう言って俺は、深く腰掛けたシートの背もたれにもたれ掛かった。

 

 疲れた。

 連日ステーション内を歩き回った疲労もあるだろうが、一日の最後を締めくくったカーチェイスで結構神経を使った。

 酒を一杯引っかけて、そのまま眠ってしまいたい気分だった。

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 仕事が妙に忙しくなってしまい、更新が不定期になってしまっています。

 何とか火金の週二回アップに戻そうとしておりますが、今しばらく不定期投稿ご容赦下さい。

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