復興
指宿蒼汰は48歳。その昔は警視庁お抱えの特別捜査官を務めていた。
彼は美しく建ち並んだビルを橋の上から眺めながら、誰に聞かせるともなく呟いた。
「滅亡から6年……。もう世界は終わりかと思われたが、人々は生き残り、めざましい努力で地球を復興させた」
山のむこうへ沈んで行く夕日に視線を移し、口からタバコの煙を吐く。
「あの日地球は真っ二つに割れ、地上に生き残るものは何ひとつないかと思われた……が」
両腕を広げ、神に感謝を捧げるように声をおおきくする。
「奇跡は起きた! 何者かの意思により、割れた地球は再びくっつき合わされたのだ!」
そして彼は大地に唾を吐く。
「二匹の怪獣どもは地割れに呑まれ、地中深くにその身を埋められた」
2本目のタバコに火をつけると、歩きだした。
「地面を掘り返してはいけない。あの怪獣どもを二度と蘇らせてはならないのだ」
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水星五月は18歳。今日は高校三年生になって初めての登校日だ。
太極高校の正門を潜る生徒たちの後ろからリムジンで乗りつけると、後部座席のドアを開けて五月が降りる。それを見て生徒たちが騒ぎだす。
「五月様よ!」
「今日もお麗しい!」
「なんて颯爽としたお姿!」
そんな黄色い声など聞こえていないかのように五月は歩きだす。
その後ろから馴れ馴れしく声をかけてくる男子生徒がいた。
「よう、クイーン。今日も人気者だな」
五月の幼なじみ、馬場勇次郎であった。
その日に焼けた爽やかな笑顔に女子生徒たちが騒ぎだす。
「キャー! 馬場様だわ!」
「今日もかっこいい!」
彼もまた、この学園における人気者の筆頭であり、学内ヒエラルキーのトップから2番目に君臨する王者である。
五月は振り向くなり、どこからか取り出した鞭で地面を打ちながら、勇次郎を叱りつけた。
「何度言ったらわかるのかしら? 『クイーン』はこの鞭の名前! わたくしのことは『サツキ』とお呼びなさい!」
「へへーっ」
勇次郎が土下座し、地面に頭をこすりつけた。
「女王様!」
「もう……!」
ぷいっと背を向け歩きだす五月の前に、ナナフシのように細い身体に銀ぶちメガネをかけた若い教師がヘラヘラしながら現れた。
五月がぺこりと挨拶をする。
「あら、うっきょん先生。おはようございます」
「やぁ、水星さん。おはよう」
「今日はロレたんはご一緒ではないんですの?」
新任教師、左近右京四郎が照れて身体をくねくねさせる。
「学校では一教師と生徒の関係だよ。名前を呼ぶ時もちゃんと『カミュさん』って呼んでます」
「ふふ……。お熱いこと」
噂をしていると、ちょうどそこへ『カミュさん』が登校してきた。
朝日に透けるような長いブロンドヘアーを揺らし、傷ひとつない顔を眩しく微笑ませて、紺色のセーラー服を着たロレインが『左近先生』に手を振った。
「先生! おはようございます!」
「あ……、ロレ……カミュさん、おはよう」
「早くロレたんが卒業して、一緒に住めるようになるといいですねっ」
五月がからかうように左近先生に言う。
「彼女を早く厳しい道場生活から救い出してあげないとねっ!」
「まだ彼女は二年生だよぅ」
五月と一緒にリムジンに乗って登校していたが影の薄かった弟の大根が姉にツッコんだ。
ロレインは駆けてくると、左近先生の隣にぴったりくっついた。なんだかやけに嬉しそうに笑っている。
「うふふ……。先生」
「な、なんだい? なんだか嬉しそうだね、カミュさん」
「今日から新入生、来ます!」
「あぁ……、そうか」
左近先生がようやく気づいた。
「アニ……大山さん、登校して来るんだね……っていうか一緒に住んでるんでしょ? 一緒に登校して来なかったの?」
「アニーか……。会うの物凄く久しぶりね」
五月が懐かしそうな目をして、言った。
「あの世界滅亡以来一度も会ってなかったもの。何してたの?」
「アニーちゃん、変わった?」
大根が聞く。
「アニーはあれから学校もやめて、ずっと修行をしていました」
ロレインは少し切なげな目をして説明したが、
「……でも! 今日からまた一緒の学校に通えるんですよっ」
そう言うと顔をぱあっと輝かせた。
「ほら! 噂をすれば……アニーが来たわ」
ロレインと会話をしていた全員が振り返ると、ずるり、ずるりと重たい音を引きずって、血のように赤いセーラー服に身を固めた小さな生き物が、楽しそうに顔を笑わせて、朝日の中をやって来るのを見た。
水星姉弟が声をあげた。
「アニー!?」
「アニーちゃん!」
「よっ! 久しぶりだなっ!」
二人の記憶の通りの笑顔が手を振った。
五月がツッコむ。
「あんた……。小四の時からちっとも変わってないわね」
「そんなことはないぞっ。あの頃129センチだった身長が15センチも伸びた」
アニーは目を猫のように細めてそう言うと、にゃははと笑った。
「ちょ……! それ……」
五月がアニーの引きずっているものに気づき、驚きの声をあげる。
それは巨大な丸太だった。
しかも二本、腰に紐でくくりつけ、平気な顔で引きずって来ていた。
「ちょっ……。道場から学校まで何キロあんのよ?」
「ほんの7kmだっ」
「フフフ……」
保健室の窓から保健教師、青野楸がそれを見ながら、頼もしそうに笑った。
「おもしれーやつが入学して来たじゃねーか……!」




