第88話 最終決戦④
ガルアドはその大剣を振りかぶり、俺に襲い掛かって――こなかった。
やつの狙いは俺ではなかった。
この場で、もっとも弱く、殺してもかまわない人間――。
アリアに、斬りかかったのだった。
「へ?」
身動きもとれず自分に振り下ろされる剣を眺めているアリア、くそ、止めるすべがない……。
「うおりゃぁぁぁぁぁ!」
動いたのは、ニッキーだった。
持ち前の瞬発力、俺の魔法によってバフされた彼女は、ガルアドの剣がアリアを真っ二つにする直前、アリアの身体を体当たりで吹っ飛ばしたのだった。
ガルアドの剣は空を切り、ニッキーとアリアは二人もつれて床に転がる。
「てめえ! なにしやがる!」
俺が叫ぶと、ガルアドが不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふ。このあいだの戦闘で見切ったぞ。お前の能力は他人の魔力を奪うことで魔法を発動すること。……つまり、お前の周りの人間から殺せば、お前は無力になる」
なにを言ってんだ、もうこいつらの魔力は吸いつくしてゼロなんだ。
だけど、ガルアドがそこまで知っているわけがない。
というか、知られたら困る。
今の俺が無力だと知られたら……。
数秒もあれば、ガルアドは俺たちを皆殺しにできるだろう。
ガルアドが俺を警戒しているからこそ、こういう会話で腹の探り合いをする余裕があるのだ。
もう、俺に魔力を供給してくれる人はいない。
だけど。
もうひとつ、手がある。
以前のガルアド戦。
あのとき、俺はココの好感度(あの時は信仰心だと思い込んでたけど)を吸い取って自分の力とした。
多分、やろうと思えば今でもできるだろう。
だけど……。
俺の手を握っているココを見る。
ガルアドを前にした緊張感で少し震えているが、俺を信頼しきっている目で俺をみつめていてくれてる。
「俺さ」
ココに話しかける。
「はい?」
「俺はさ、実は他人の俺への好感度が見えるんだ……」
「……はい?」
この戦闘のさなか、なにを言いだしたのかと不思議そうに思っているのだろう、首をかしげるココ。
「ココ。お前が俺をすきなのは目に見えてるから知ってる。だけど……もしかしたら、俺はこの能力のせいで、他人をステータスでしか判断できなくなってしまっているのかもしれない。ココが俺を好いていてくれるのをいいことに、ココのステータスばかり見て、ココを見てなかったかもしれない……」
「そんなことないですわ、トモキさんはいつも私を……」
「いや。だからさ。ココ。俺はココが好きだ。だけど、今のこの関係はなんというか……不自然で不健全だと思うんだ」
「いったいなにを……」
「だから、いったん、全部リセットするぜ。ココ、お前の能力を全部俺にくれ」
「もちろんですわ? でも、いったい……?」
「この戦いが終わったら、一人の人間として、関係をやりなおそうぜ」
そして、俺はココの手を強く強く握った。
「ふはははは! 今生の別れは終わったか、女たらしの救世主よ! 女ばかりに囲まれていい気になっておるな! だがそれもここまでだ! お前の隣の女、そいつの魔力が一番強いのだろう? ではそいつを殺してやることにする! 行くぞ!」
ガルアドはそう言って、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
と雄たけびをあげた。
ガルアドの全身が光を帯びて輝き始める。
「ふはははははは! そんなに女と一緒にしたいなら、お前ら全員バラバラにして肉塊をまぜてやるぞ! ふはははは! 行くぞ!」
俺はココを抱き寄せた。
そして、その首筋にキスをする。
「明日からもよろしくな」
そう言って、俺はココの好感度を吸い取った。
ビゴン!
ココ
好感度 ULTIMATE⇒N/A
そして、
キュイーン!
と、いつもの音が鳴った。




