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俺を好きなやつの魔力を吸い取って奇跡を起こせる件。奴隷少女よ、だからといってそんなに俺にくっつくな  作者: 羽黒楓


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第65話 五千人の奴隷

 五千人。

 集められた奴隷の数だ。

 だだっぴろい土地に、五千人の人間が並べられていた。

 俺たちは、少し離れた高台に立って、その光景を見る。

 老人、壮年、赤ん坊を抱いた若い女、少年少女、さらには3~4歳くらいの子供まで。

 男は上半身裸、女は胸に粗末な布を巻いたままの、体つきがわかる恰好で立っている。

 もちろん全員奴隷の刻印が胸に彫られていた。

 それぞれが首から札をかけられていて、そこにはその者ができることできないことなどの注意事項と値段が書いてあった。


 人間がモノ扱いされて売買されている。

 しかも、その数五千人だ。

 

 奴隷であるココやアリアは暗い顔をしてその光景を見ている。

 おっさんに身体をまさぐられている少女の奴隷、ガリガリに痩せこけた子供の奴隷、反抗でもしたのか、奴隷商らしき男にひどく殴られている女の奴隷までいた。


「お許しを、お許しを……」


 謝り続ける無抵抗の女の顔面を、男は容赦なくぶん殴っている。


 現代日本の価値観を持っている俺からすると、とんでもなく凄惨な市場に見えた。


 五千人全員のステータスが見えてしまって、俺は目がチカチカしてしまう。


 中には魔力がSある奴隷も、ほんの数人だがいる。

 だけど、ぶっちゃけ、俺たちの今の目的は奴隷を買うことじゃない。

 奴隷を買いにくるかもしれないガルアドを捕捉するためだ。

 だから、奴隷を買うつもりもなかった。


 メールエが面白くもなさそうに言う。


「この国には、数万人の奴隷がいるとされている。奴隷が子供を産んだらそれも奴隷になるけど、それと同じくらいの数の奴隷が毎年死んでいるから、数自体はそんなに変わってないというけどね。もはや数えることも不可能だし、実際はどのくらいの奴隷がいるかはわかんないよ」


 俺は気になっていたので、メールエにあることを尋ねた。


「女王陛下はこの奴隷制に対してどう思っているんだ?」

「どうもなにも……女王陛下だって産まれたときから奴隷がいる世界だったわけで……。でもね、女王陛下クラスになると、仕える者もそれなりの身分だったりするから、身近に奴隷はいないんだよ。だからきっと……」


 そしてメールエは目を細めて居並ぶ奴隷たちを見る。


「きっと、心を痛めるだろうね。テネス様の聖典にも、リューン様の聖典にも、奴隷については書かれていない。聖典が書かれたのは奴隷制以前の時代だからね。神々が本当は奴隷についてどう思っているかは、わからない。むしろ、私がお兄さんに聞きたいね。テネス様は奴隷についてなにか言ってなかった? お兄さんはテネス様が遣わした救世主様なんだろう?」


「女神様から奴隷についてはなにも聞いていないな。だが、個人的な考えは持っている。奴隷には人間としての権利もなく、魔法を使える力も奪われ、男は死ぬまで酷使され、若い女は慰み者にされる。見てみろよ、これだけいるのに、男の老人の奴隷はほとんどいない。つまり、これは……」


「その通り、男は老人になる前に死ぬからね。女は子供を産むし、子守の仕事もあるからそこそこ長生きするのもいるから」


「こんなこと、許されていいはずがないと思う。俺は、奴隷制には反対だ」


「うひゃひゃ! お兄さんは女神様に選ばれた救世主だ。女神様は自分の意にそわぬ人物を救世主として選ばないと思う。つまり、お兄さんの考え方は女神様の考えと同じだと私は解釈するよ」


「……そうだな」


「だったら、きっと、女王陛下も奴隷制をいずれ廃止しようとするかもね。……それにはまず、絶対的な権力を得なければならないけれど」


 目の前で、いろいろな人が奴隷を買いつけていた。

 中には、奴隷の刻印を持つものが奴隷を買っている光景すらあった。

 きっと、主人に言いつけられて買い付けにきているのだろう。

 なんて悲惨な……。

 

 俺たちは目立つようにして高台に立っていた。

 ガルアドが来たら、すぐに見つけられるようにだ。

 ここで戦闘になったら、どれだけの犠牲者がでるだろうか。

 だが、いつまでたっても、ガルアドはこない。

 あのドラゴンに乗って飛んでくるだろうかと、目が痛くなるまで空の向こうを見ていたけど、飛んでくるものは鳥だけだ。

 行きかう伝書ハルトだけが、空を支配していた。


 メールエが、ちらりとココを見て言った。


「奴隷制の廃止、ねえ。そうだね、それは必要なことなのかもしれない。お姉さんも、預けられたシーネ村が魔法軍に滅ぼされた後、奴隷商人に拾われて奴隷になったって言ってたもんね」


 ずっと思っていたが、メールエのココに対する執着がやけに強いように思う。

 そうさせているものは、いったいなんなんだろう?


 その時、一羽の伝書ハルトが、メールエの肩にとまった。


「お、情報提供者からだ。あちこちにスパイを潜り込ませてるからね」


 そう言って手紙を広げるメールエ。


「なるほどねえ。ガルアドは、直接ここには買い付けに来ていないみたいだ。ただし、手下を何人も雇って、自分のために奴隷を買わせているらしい。今は、ここから北のテラル村に滞在しているみたいだよ」


 それを聞いて、俺は言った。


「買い付けた奴隷をそこまで運ばせるつもりだろうな。ここからそのテラル村までどのくらいかかるんだ?」

「徒歩で二日ってところじゃないか?」

「今買い付けて、契約をして、買った奴隷を集めて徒歩で移動させる……。となると、二日じゃすまないだろうな」

「そうだろうね。一週間はかかるんじゃないかな。……トモキ、君は何を考えている?」


 俺は、その問いにはっきりと答えた。

 これは、最終的にココをお姫様にするためだ。


「奴隷がガルアドの元にたどり着く前に、俺たちの方で先制攻撃しよう。ガルアドが補給源の奴隷を手に入れるまで待つ道理はない」



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