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俺を好きなやつの魔力を吸い取って奇跡を起こせる件。奴隷少女よ、だからといってそんなに俺にくっつくな  作者: 羽黒楓


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第58話 ねめまわす

「ゆ、誘惑……?」


 俺はメールエの全身をねめまわす。

 うーん、これは子ども。

 ココみたいな豊満な胸、ってわけじゃないし、アリアよりももっとちっちゃいおチビちゃんだ。

 ただ、アリアはほっそりとしていて多分抱きしめたら骨が当たりそうだけど、メールエはそれよりも一枚だけ脂肪が乗っていて、抱き心地が良さそうでもある。

 ……俺はいったいなにを想像してるんだ……。


 しかしまあ、誘惑、ねえ……。


 ルパン三世の峰不二子みたいな女性なら似合う言葉かもしれんけどさ。

 うーん、このおこちゃま体型だと……。

 ま、まあどうしてもってんなら誘惑に乗らないでもないけど……。

 などと思っていたら。


「ちょっと、不躾ではございませんの!? トモキさんは女性の誘惑になどのりませんわ! そんな殿方ではございませんもの!」


 ココがムキになったように言った。


「女性の……誘惑……。あれ? こっち側陣営に誘うのって誘惑って言わない?」

「……? 言わないですわ。それを言うなら……勧誘とか……」

「あ、それそれ! 勧誘! お姉さん、ものしりだねえ」


 いやいや、メールエって教養がSSだったからな。

 ぜったいわざとだろ。


「お姉さんではありませんわ。私にはココ・ライラネックという由緒正しい名前がありますわ」

「それなんだけど、お姉さん。その、ココって名前は、だれにつけてもらったの?」

「はい? 多分お父様からお母様じゃないかしら、普通に考えて。私は物心付く前にシーネ村に預けられて……。ココ、って名前だけは覚えていたって……。預けられたときに持っていた持ち物にもココって書いてありましたわ。魔王軍の襲来で燃えてしまいましたけど、私、テネス様のことを書いた立派な絵本を持っていて……そこにもココ、って名前があったはずですわ。文字は読めませんが、自分の名前だけはわかりますわ」


 文字は読めませんが、のところだけはかなり小声でココは言った。

 やっぱり、少し恥ずかしいのだろう。


「うひひひ! うふふふふ! 絵本! うふふふふ!」


 メールエはなんだか楽しそうに笑い始めた。


「で、その絵本にはどんなことが書いてあったの?」

「もう忘れましたわ……。なんか、雲にのったテネス様がなにかをしていたような……それ以上覚えてませんけど……」

「うひゃひゃひゃひゃっ! 雲にのったテネス様! ざーんねん! テネス様は雲になんかのりませーーん! だってテネス様は背中に翼があるんだもの! それで飛ぶんですう! うひゃひゃ! その絵本描いた人、なーーんも知らないんだ! うひゃひゃ!」


 膝を叩いて爆笑し始めるメールエ。

 笑いすぎて目尻に涙まで浮かべてるぞ。

 なんだこいつ。

 子供向けの絵本で女神様がどう描かれていようと、そんなに笑うところか?

 っっていうか、あの女神、背中に翼なんかあったかなあ。

 トウモロコシにかぶりついている姿が強烈に印象に残っていて覚えてねえや。


「ふー、ふー、こほん。笑いすぎちゃった。まあともかく、ちょっと考えてみて。女王陛下の味方になってくれるのであれば、私もどんな協力も惜しまない」


 それを聞いて、俺はすかさず聞いた。


「奴隷の刻印を消せると聞いたが?」

「簡単さ! ちょっと準備がいるからここではできないけど。まさか、そこのお姉さんの刻印を消そうとしてる?」

「ああ。あとアリア……こっちの子のもだ」

「うひゃひゃ! お安い御用さ。王都にある、私のラボに来てもらえればあっという間に消しちゃうよ。ほかには?」


 しかし、そこでシュリアが眉をひそめて言った。


「そう言われても……。そのお話を聞いた以上、私としてはお父様の了承を得なければなんともお返事のしようがないわ……。キャルル家の当主はお父様だし……」


「まあそうだよねえ! でも、よく考えて。協力してくれれば女王陛下はこの救世主ちゃんを救世主として認めるおつもりだよ! 勇者ガルアドに逆らったことももちろん不問! ま、ちょっとした喧嘩しただけってことで、あとで握手! あんたのとーちゃんが女王陛下を廃位しようとしたじじいの味方してることも不問! なんなら、シュリアちゃん、あなた、ほかに領地いらない? 今と同じ……いや、それ以上の領地もあげるってさ! 妹ちゃんいるんでしょ? 妹ちゃんにも領地あげちゃえるよ! 今は銀等級貴族? うひひ、白金! 白金を約束するって女王陛下はおっしゃってるよ! 救世主様にもね! それほど陛下は救世主ちゃんの協力をほしがってる。もちろん、シュリアちゃんもね」



 うーん、権力闘争に巻き込まれちゃってるぞ。

 んでもってそこまで必死に俺たちを陣営に引き込もうとしてるってことは、まじで女王派の旗色が悪いんだと思う。


「で、救世主ちゃん。ひとつ聞きたいんだけど。ここ、商業都市ゴーラでは、年に一度の奴隷市が開催されてる。……来るよ」


「来る? なにが? だれが?」


「勇者、ガルアド」


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