第34話 世界平和の礎となれ
ガルアドはドラゴンの背に乗り、ダグロヌたちが出てきたトンネルの穴に向かう。
俺の攻撃にいっときはたじろいだダグロヌたちだったが、今は再びトンネルの穴から木材を運びだして陣地を構築しようとしていた。
ガルアドは大剣を振りかざし、
「おおおおおおおおおぉぉぉぉ!」
と叫ぶ。
そして大剣を振り下ろすと。
ゴォンッ! という地響きのような音とともに、ダグロヌたちが吹き飛ばされる。
同時に、作りかけの柵も嘘みたいに吹き飛んだ。
「おお……」
「さすが、勇者殿!」
「これでわが村も守られる……」
農具で武装した村人たちが感嘆の声を上げる。
そのあいだにも、村から次から次へと奴隷たちが連れてこられている。
ココは真っ青な顔で、死んだ――いや、ガルアドに殺された奴隷の死体を見ていた。
ガルアドに連れてこられたもう一人の奴隷も、ガクガクと震えてへたり込んでいる。
「おい、ちょっと聞きたいんだが」
俺はその奴隷に話しかける。
「これはどういうことだ? あの勇者ってやつがこの奴隷を殺した後に、なにかパワーアップしたように見えたが……」
「は、はい……理由はわかりませんが、勇者様は戦いの前に必ず奴隷を痛めつけます……。殺すこともあれば、そうでないときもありますが……。人々は戦いの前の儀式だと言います……。我々奴隷の命など、誰も気にしないのです……。助けてください……私は死にたくありません……」
儀式?
違うな。
俺には確信があった。
ガルアドが奴隷を殺した後、ガルアドのステータス、■がSからSSSSSに変化したのを俺は見逃さなかったぞ。
これは……。
俺と同じ種類の能力かもしれない。
「おお……。今度はキラーウルフを蹴散らしてるぞ……!」
「ははは、見ろ、勇者様の力を! ダグロヌたちもみな逃げ出している……!」
ガルアドの力は圧倒的だった。
ダグロヌや炎を吐くオオカミのモンスター、キラーウルフというらしいが、そのレベルのモンスターはまったく相手にしていない。
しばらくモンスターどもを蹂躙したあと、ガルアドは空を飛ぶドラゴンの背に乗ったまま、俺たちのもとへと戻ってくる。
「見たか、これがこの俺の力だ!」
ガルアドが胸を張って言う。
デールやそのほかの騎兵たち、それに村人たちは拍手でそれを迎える。
対照的に、奴隷たちはこのあと訪れるだろう自分の運命に恐怖しているようで、みなガタガタと震えている。
ガルアドのステータスは変化していた。
身体能力 S
▲ S
■ SSSSS⇒A
魔力 A
信仰心 E
戦闘で■の数値が変化している。
「ははははは! まだ敵は残っている! もう一度蹴散らしてくるぞぉ!」
ガルアドが叫ぶと、村人たちは、「おおおおお」と歓喜の声を上げる。
そして自分が連れてきたもう一人の奴隷を見た。
「次はお前だ。世界平和の礎となれぇ!」
「い、いやです、た、助けて……助けてください!」
俺とは反対の方向へ走り出す奴隷。
だがダグロヌは豪快に笑って、
「そうだ。そうだそうだ。恐怖せよ! お前ら奴隷が恐怖するほど! 俺は強くなるのだ! くらええええぃ! ――ムンッ!」
ドラゴンの背に乗ったままのガルアドが奴隷に剣を向ける。
すると、その剣の先から眩しいほど輝くレーザー光線のようなものが放出されて、その背中を貫いた。
「ぐああっ! グググ……ウウウ……」
奴隷はどさりと地面に倒れてうめく。
「がははは! わざと急所は外してやった! 即死はせんが、あとしばらくすれば死ぬだろう」
「いやだ……死にたく……ない……まだ……私には……」
だけど、その奴隷はすぐに動かなくなってしまった。
ガルアドのステータスが変化する。
身体能力 S
▲ S
■ A⇒SS
魔力 A
信仰心 E
「ふむ……まだ足りんなあ。あと一人か二人、奴隷を……」
と、そのとき、ガルアドの視線が俺のそばにいたアリアを捉えた。
「この村の奴隷は全員、すでに俺のものだ。そこの水色の髪の女、お前も奴隷だな?」
胸の刻印を見るまでもない、アリアの着ている服はボロボロで、誰がどう見ても奴隷だと一目でわかる。
「お前も、世界平和のための礎となれぃ!」
ガルアドが剣の切っ先をアリアに向ける。
「え……あの……なに……?」
アリアは口をぽかんと半開きにしたまま立ち尽くしている。
「待てーー!」
俺はココの手を握り、叫んだ。
だがガルアドの剣先からレーザー光線が発射されて――。




