『知りたい』
コンコンと扉を叩き「入ってもいいですか?」という志乃亜の声が聞こえた。
俺は直ぐに「いいよ」とだけ返すと、扉が開かれる。
「どうした?」
今日の志乃亜の変化に少し気づきつつある俺は心配していた。
「どうしたとはなんですか...ただ話に来ただけです」
どうやら気にしすぎたみたいだった。
「綾、貴方と私の仲とはどれくらいなのかと気になりまして...」
「突然どうしたんだ?」
突然俺と志乃亜の仲を気にし始めている志乃亜に対して少し驚いていた。
「妹さんに少し聞かれて...私も気になったので直接聞きに来ました...」
有栖が何も気にせずに言ってしまったことが志乃亜を悩ませてるらしい。
「普通に仲なら良いだろ?」
「そうとは思いますが...頼られることがないと思います」
志乃亜を頼ったこと...俺はふとここ数ヶ月を振り返ってみることにした。
まず、入学式...特にスルーしようとしてたし、そこから何ヶ月と過ごしたが何かしたわけでもない。
「頼ってないかもしれないけど、神城志乃亜という存在が俺の心の支えになってる...と思う」
頼らなくとも支えになっていることなら沢山ある。
俺より前に、前に...何歩も何十歩も先に行っているからこそ支えられている。
俺が今こうして過ごしているのも5割くらいは志乃亜のおかげだろう。
残りの5割は有栖と坂上先生と、楓ちゃんくらいだった。
「心の支え...?」
志乃亜にはあまり伝わっていないみたいだった。
「俺さ、志乃亜と再会する前ずっと家で引きこもって勉強してたんだぞ?ずっとゲームか勉強の二択、ただの社会不適合者予備軍だった。高校にいってても多分そうだった、今みたいになれているわけじゃない。そこに志乃亜がいたから俺がこうなれてる、今の俺がいるんだ」
「なんで私が関係するんですか?」
いまいち自分が何故そこで出てくるのか分からないみたいだった。
「入学式の時に志乃亜を見た時、思い知ったんだ。俺と志乃亜じゃ差があり過ぎたと思った。だから話しかけずにいたんだ」
「・・・」
「それにさ...志乃亜は良い方向で変わっていってるのに俺は悪い方向で変わってしまった。だけど志乃亜を見ていると立ち向かうべきなんだなって思わされるんだ」
そう、頼られなくても、頼ってなくても実際には支えになっている。
有栖だって、俺を1年間支えてくれていた、今となっては迷惑をかけたと思うので申し訳なさがあるくらいだ。
「そうなんですか...なら良かったです。これでまた綾のことを少しだけ知れた気がするので今日はここまでにしておきます」
そう言って部屋から出ていった、我ながら恥ずかしいことを堂々と言いすぎたな...とあとから思ったが、志乃亜の顔が少し赤かった気がする。
「そう言えば俺の事知れて良かったとか言ってたけど俺の事そんなに知りたいのか...?」
そんな独り言を呟いてはみるが、誰も返事は返さない。
そりゃそうだろう、俺だけしかこの部屋にいないんだからな...。
そう言われれば俺も志乃亜のこと少ししか知らない気がする。
俺もなんか知りたいと思ってしまった。
今日は志乃亜も泊まるらしく有栖の部屋で二人で寝るらしい。
俺にはあまり関係ない事だが、志乃亜が泊まるのは初めてなので少しだけ緊張してみたり...いや俺らしくないからさっさと寝よう...そう思って夢の世界に入っていった。
◇
「志乃亜さんはどうだったんですか?お兄ちゃんに直接聞きに行ってきたみたいですけど!」
私は妹さん、正しくは有栖ちゃんに綾との事で迫られていた。
妹さん、と呼んでいると「よそよそしくないですか!?」と言われたので有栖ちゃんと呼ぶようにした。
そしたら凄く喜んでくれたので、少しだけ嬉しかったけど心の中で可愛らしいなと思った。
「有栖ちゃん、綾には直接聞いてきたけどそんなにいい話ではなかったです」
実際は綾に聞いて良かったと思うけど、妹さん...有栖ちゃんに話すのはさすがに恥ずかしかったりするのでそういうことにしておこうと思った。
「そうなんですか?嬉しそうな顔して戻ってきたのでてっきりいい結果で帰ってきたと思ってました!」
有栖ちゃん...さすがに察しが良すぎる。
「な、なんの事ですか...私は知りません」
私がそう言うと有栖ちゃんは「そうなんですか!」とニヤニヤしていた。
可愛らしいけど有栖ちゃんのこういう顔は知らなかった。
有栖ちゃんも含め、綾のことももっと知っていけたらいいな...と思った。




