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『俺に青春の二文字はない(後編)』

 



 その後100メートル走などの個人競技が次々に終わっていった。


「よっしゃ!次はパン食い競走だわ!頑張ろ!」


 どうやら次は悟が出るパン食い競走らしい、声出して応援は喉が疲れるので手だけでも動かしておくことにしようと思った。


「頑張って1位取ってこい。こういうところのポイントの積み重ねが大事だからな」


 竜馬が悟にそう言うと「パン食うの得意だから大丈夫!」と意気込んで出ていった。


「悟...大丈夫かな」


 不安そうな目で悟の背中を見る竜馬を見ている俺は「わかるぞその気持ち...」と共感していた。


『それでは位置についてよーいドン!!』


 放送委員の声が聞こえたので悟を見守ることにした。


「悟のやつ足は速いけどぶら下がってるパン上手く加えれるのか?」


「悟ならいけるんじゃないかな?」


 少し不安気味な俺とさっきとは違い前向きな竜馬だった。


 そこら辺の人より速くパンをくわえてゴールに向かって1位という結果を出した直後...。


「よっしゃぁぁ!見たか女子!ラブレターは1年2組大野悟までよろしくーーー!」


 やらかしてくれたらしい。


「あいつあんなに馬鹿だったっけ?」


「日に日に馬鹿になってきてるだけだから安心して綾」


「竜馬はああならないでくれ...」


「次は神城さんの障害物競走だ!!!よっし綾応援するぞ!」


 俺の話を無視して竜馬は志乃亜のことで頭がいっぱいらしい。


 二人ともダメダメな感じがしてるがしっかりするところではやっているので文句は言わないでおくことにした。


「綾、それでは行ってきます」


「あぁ、頑張れ」


 志乃亜なら、普通に1位という結果を出してくれるだろうが応援はしておく。


「神城さん、がが、頑張ってください!」


 竜馬はカチコチになって応援の言葉を志乃亜に向けて言っていた。


 俺は噛みすぎ...とか思っていたが志乃亜は少し引き気味だった。


『それでは次の競技は障害物競走です。この競技につきましては学校に全体を使いますのでドローン撮影によって見る形になります』


 確か、この競技にでるもう一人の男は橋本駿という男だった気がする。


「なぁ竜馬、橋本駿とお前どっちが運動神経良いの?」


「まぁ、俺かな〜なんて言えたらいいな...神城さんに応援されたら俺が絶対上だけどね!?」


 どうやら橋本くんの方が運動神経が良いらしい。

 確か俺の記憶が正しければ障害物競走に出ると決めた日くらいに志乃亜に告白したと聞いた気がする。


 応援されたら橋本くんも頑張るから結局どっこいどっこいだと思う。


『それでは実況の雅先生を横に見ていきたいと思います。雅先生、今年の1年2組は凄いですね、どう思われますか?』


『まぁ、私のクラスだから皆頑張ってくれてます。特に今回障害物競走に出る橋本くんとかも体育祭では中心的に活躍してくれると思います』


 そんなことを言っているが、多分カメラマンや記者などに向けて言っているのだろう。


 たまにだがこういう体育祭を見てスカウトをしに来る人がいるらしい。


『そうなんですね、私は勝手に神城さんに期待してしまってますがどうですかね?』


『女子とは思えないくらいの運動神経を兼ね備えて、文武両道なので期待は大ですが、この後の代表リレーなどで笹木さんが活躍してくれる場面が多くなってくると思います』


『そうなんですね!おっと、ここで人が並んでいるのでそろそろスタートの様です』


 放送委員の人がそう言った直後、ピストルの音がし、スタートの合図だということがわかった。


『まずは、落とし穴コースですね、三年生でも未だに慣れないこのコースは先生たちが朝から掘って作ったそうです。生徒には位置バレしないようにすることが苦労したことらしいですね!』


『その通りです。私も朝から掘っていたので最近は腰が...なんてそんな歳じゃないんですけどね』


『そ、そうなんですね、おっと!ここで速くも三年生の新城颯馬選手が落とし穴コースを突破、それに続き橋本選手、神城選手が続いています』


 ん?新城颯馬選手?あの男の名前が聞こえた気がするので余計に敏感になってしまった。


 見てみると確かに新城颯馬がそこにいた。

 が、今回は気にせず志乃亜の応援でもしておくことにしたが横で「神城さんがんばれぇぇぇえええ!!!」と大声で叫んでる竜馬を見たら応援するのも馬鹿らしく感じできた。


『次にプールの上を渡ります、落ちたらびしょ濡れに加え激しいタイムロスが発生します!』


 舞台はプールに移っているらしい、新城颯馬と橋本くんと志乃亜の3人がトップだった。


『おっと、ここで妨害行為が始まりました、新城選手が、橋本選手に向かってなにかしているようです。雅先生はどう思いますか?』


『そうですね、障害物競走ですので選手同士も障害になってくると思いますので妨害行為はいいと思われますが、少し三年と一年なので可哀想に見えますね』


 嘘はついていないみたいで、新城颯馬がなにかしないかが少し不安らしい、雅先生は俺の事情も少しは知っているのでもちろん、新城颯馬についても知っている。


『おっと!この隙にプールコースをクリアしネットコースに神城選手が移動してます!』


『二人で争ってるうちに動く行動力流石神城さんとしか言えませんね』


 二人のことなんかどうでも良くなるような、大絶賛だった。


『ネットコースはすぐにクリアしラストコース、ローションコース、毎年ヌルヌル地獄のコースです!』


「な、なんなんですかこれ...」


 競技が始まってから初めての第一声だった、が結構困惑しているみたいだった。


『おっと!ヌルヌルになりながらも1位になった神城選手!』


『流石、良くやった!』


「「う、うぉおおおおおおおお!!!!!眼福ぅぅううう!!!!」」


 雅先生は1位だったことに喜んでおり、男子生徒は志乃亜のローションまみれの姿に喜んでいた。


 ある意味欲望に忠実だったので、すごいと思ってしまった。




 ◇




 その後障害物競走が、終わり、お昼タイムになっていた。


「お兄ちゃん、仮装レース面白かったよ!タキシード姿似合ってた♪」


「はいはい、ありがと」


 有栖に茶化されながら昼食を取っていた。

 いつ食べても有栖の料理は上手なのでこれからも作り続けてほしいと思った。


「それにしても午後は団体競技がメインになってくるのか...」


「そうみたいだね、予定表にもそう書いてあったし大丈夫?お兄ちゃん...」


「正直に言ったら限界だな、あと少し持つかなぁくらいかも」


「大丈夫?無理しないでねお兄ちゃん」


 心配してくれる有栖に対し「わかってる」とだけ返事をしておく。

 最近よく、運動をしていてもそう簡単に体力がつくわけもなく、それに加え快晴で暑さが増してきている。


 少しどころじゃなくてめちゃくちゃキツいというのが感想だ。


「それじゃあ行ってくる」


 次の競技はクラスの皆で玉入れ、玉を入れた数だけポイントが追加されるらしい。


『それでは玉入れを開始します!』


 ピストルの音と同時に玉入れが始まった。


「あ、やば...」


 玉を投げて入らなかったのが俺の頭に当たりそうになっていた。


 俺の意識はそこで途切れた。




 ◇




 玉入れの玉は比較的に当たっても痛くないのだが頭にヒットし倒れた衝撃で気絶してしまったらしい。


「大丈夫かい、少年?」


「大丈夫じゃないですよ麻里奈先生...それにしても俺が出るはずだった借り物競争どうなりました?」


「補欠くんがやってくれることになったし、もう、最後の競技だよ」


「そんなに寝てたんですか...」


 どうやら結構寝てしまっていたらしい、曰く体の疲れがよく取れていないとのことだった。


「クラスリレーですかね?」

 

「そうだね、代表リレーと違ってクラスの皆がでるから君の分はアンカーが走ってくれるらしい」


 そう言われるとほっとして俺はその姿を眺めていた。


「少年悩み事でもあるのかい?」


「ありますよ、たくさん」


 突然聞かれたが、自然に返すことにした。


「じゃあ、一つくらい聞いてあげようか?」


「それでは、()()って何ですかね?」


「難しいところくるね〜青春ってのは、今彼女たちがしていることなのかもしれない、ほら三年の先輩たちはリレーで負けて泣いてるだろ?あれも青春と言えるはずだ。青春とはね、気持ちの持ち方だよ、少年が青春をしていると思っていたらそれが青春になる」


「じゃあ、きっと俺は青春なんかしてないんですかね」


「少年がそう思うならそうかもしれない、全ては少年、君の気持ち次第なんだよ」


 これの気持ち次第...それで青春が決まってしまうのか、なら俺は今青春なんてものをしているのだろうか?


 今日だって、頑張ってきたのに結局は倒れて眺める立場になってしまった。


「青春してないですね、あれが青春だと言うのなら、俺がしている可能性がある青春なんて紛い物でしかないんだと思います」


「そうかもしれないな、少年の言う通りかもしれない」


 俺の自虐的な発言をしっかりと肯定してくれる、その言葉は優しさに溢れていた。


「ほら、少年。銀髪の少女がこっちを見て手を振ってるよ」


 麻里奈先生がそう言うとリレーが終わったのかこちらを見て手を振っている志乃亜がいた。


 途中でクラスの人たちに呼ばれて志乃亜はすぐに去って行ったが俺はその姿を見ながらこう思ってしまった。





 俺に青春の二文字はないんだと、そう確信してしまった。

 目の前ではみんなで盛り上がっている人たち、対して俺は麻里奈先生と話をしているだけだった。


「麻里奈先生はどう思います?ってあれ?麻里奈先生?」


 俺が先程まで話をしていたところを見ると麻里奈先生はいなくなっていた。


 この保健室の空間に俺一人だけが突っ立っていた。


 俺は一人で帰路を辿ることにした。


『少年、君には青春なんて無かったかもしれないけど、たくさんの出会いがあったはずだ、それを青春なんて言葉で言っていいはずがないだろう、その出来事一つ一つがきっと青春なんだ。青春なんてその人の気持ちで変わる。少年が青春なんて文字がないなんて言うなら私がそれを否定しよう。君は今ではなくとも必ず青春を謳歌しているはずだ。頑張れよ柊綾』


()()()にて坂上麻里奈はそう言ったのだった。




 ◇




 私がクラス対抗リレーを終えると保健室の窓からこっちを眺めている綾がいた。


 その姿を見て安心してほっとしたので手を振ると、彼は横に向かって喋りかけていた。


 誰かいるのかな?と見てみるがその場所には誰もいなかった。


 綾がこちらに気づいてくれたみたいだったがすぐにクラスの人に呼び止められてそちらに行くことができなかったが体育祭が終わりすぐに向かうことにした。


 彼はすぐに帰ってしまったらしい。

 何か起きてしまったのだろうか?私にはわからないがすぐ会えるだろう、そう思って体育祭の後片付けに励んだ。


 綾は月曜日休んでいた、綾が今年学校に来てから休んだことは一度もなかったので余計心配したがメッセージで『体調崩しただけだから』と連絡がきた。


 本当に大丈夫かな?とこの時胸にざわつきを感じた。

三章を書いてる途中からタイトルの『俺に青春の二文字はない』を回収してみたいなと思って書いていました。



次は三章の登場人物をまとめます。

その後坂上先生の学生時代エピソードを何個か挟んで四章にいきたいと思います。


謎だった麻里奈先生についても明かしていきたいと思います。


前編より長く4700文字となってしまいましたが、なんとか三章完結です。長かった気がします。



この作品まだまだ続きますのでぜひ、ブクマや評価などして頂けると嬉しいです。


評価は下の☆☆☆☆☆を押すことでできます。


誤字脱字報告、毎回助かってます。

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