『娘の勘違い』
「私の母親は私のことが好きではなく嫌いらしいです。理由は深く聞いたことはありませんがある程度のことは察せます。私と母は義母なのではないか?ということが浮上してきています」
突然言われた言葉はどことなく、その場の雰囲気を一段と重くした。
「父もこのことに対しては話すことがないの一点張りです。流石に最初に問いただした時には驚いていたようだったみたいですが...」
どうやら、それだけで終わりだといいと思っていたら違うようだった。
「あの人は私に婚約者をつけて同棲させようと考え始めたらしいです。父が流石に反対してくれたので助かりましたが...」
そういうと、溜息をついていた。
思った以上に苦労していることがわかる。
「それで?志乃亜はどうしたいんだ?」
「どうしたいとは、なんですか?」
「今の状況を変えたいんじゃないのか?」
「いえ、今のところは大丈夫です。家も一人暮らしをしていて離れていますし、休日には父に1度でいいから家に帰ってきなさいと言われて帰ってるだけなので」
「めっちゃ過保護なんだな...」
どうやら志乃亜のお父さんは過保護らしい、聞いてる限りだと母親の方が良いイメージは持てていない。
「そうですね、ですが綾とは二度会ったことがありますよ?」
「え?」
俺と会ったことがあるというのならば十年前の方だろうか?
「それって今年?と十年前の二回?」
「そうですね。覚えてはないでしょうが父は綾のことを覚えていました」
え?俺が覚えてないのに志乃亜のお父さんが覚えてるっておかしくないか?
「父は記憶力が人並み以上に優れているので...」
そう言われると俺はすぐに納得してしまった。
志乃亜の完璧超人はお父さんからきたものなのだとわかったからだ。
容姿は多分母親似だったのだろう。
「それにしても結局どうするか決めてないんだよな...」
「そんなに急ぐ必要はないです。こうして綾に話を聞いてもらえましたので、それだけで充分です」
そう言う志乃亜はどこかスッキリしたような顔をしていた。
「そうか、なら良かった」
俺はこれ以上は過保護すぎるかな...と思い言葉を零したが志乃亜はまだなにか言いたそうにしていた。
「何か言いたいことあるのか?」
「その...今度家に来ます?もちろん父に会いに...」
なるほど、俺にお父さんを見せてあげたいのだろうか?
顔も覚えていないのでどういう人なのかは気になっている。
「わかった、今度っていつ辺りになりそうか?」
俺は日程など暇な日が多いが、念の為志乃亜に聞くことにした。
「幼馴染さんと話し終わってからでお願いします」
「・・・わかった」
幼馴染というのは千里のことだろう、全てが終わってから会えるというのはラスボス感があるのだがごつい人だったらどうしよう...。
その後は少し話をして志乃亜はまだ用事が済ませていないので帰るということになった。
「俺一人の空間もありだな」
随分と話をしていたようであたりは夕焼けに染っていた。
この場所には先程まで志乃亜もいたと言うのにいなくなれば静けさだけしか残らなくなった。
志乃亜の母親...多分義母だろうと言う可能性は俺としてはないと思った。
理由は単純だ、家を追い出すような形で出ていかせたのは早く独り立ちをしてほしいという願いからかもしれない。
そういう意味では志乃亜の父親と違い娘をきちんと思っているように見える。
次に婚約者のことだが無理にでも紹介してきた理由は娘の幸せを願ってどこからか探してきていたのだろう。
そう考えてしまえば...ただの良い母親だったのだろう。
『流石に最初に問いただした時には驚いていたようだったみたいですが...』
この言葉からして驚いていたのは実母に対してそう思ってしまった娘に対して父親は驚いたのかもしれない。
『話すことはないの一点張りで』
この仮説が正しければ話すことはないという父親の発言は真実を伝えているだけだった。
俺の考えは客観的に考えただけなので、正しいのかもわからない。
だけど一つだけわかるのは志乃亜はきちんと愛されて育っていっているということだ。
今日も、明日も前を向いているだろう。
そう思って俺も帰ろうとすると一人の男性がこちらに近づいてきた。
背は高く、とても渋い顔をしている男性だった。
着ている服はとても高価なものだということが一目でわかる。
「久しぶりだな、柊綾くん、私は神城裕司、神城志乃亜の父親だ。失礼ながら先程の話しを盗み聞きしていた」
「俺と一対一で話があるということですかね?」
「話が早くて助かる、まずは場所を移動しようか...ここは二人の場所だからな」
何か意味深があるような感じで言われているだろうが今は気にしている余裕がないのでスルーするとしよう。
「わかりました」
裕司さんに言われるがままに高級車へ乗ると裕司さんも、俺の前へと座った。
超長いことからこの車はリムジンだということがわかって心臓は緊張でバクバクなっている。
「単刀直入に言わせてもらうと、私の娘である、志乃亜は大きな勘違いをしてしまった」
そういう、彼の姿はどこか悲しそうに話すことからきちんと父親なんだなと思ってしまう。
「全ては私と結依が悪いのだが、娘には申し訳ないことをした。・・・続きは場所についてからにしようか...」
「そう...ですね」
緊張が解れないが、とりあえず有栖には『帰るの遅くなりそう』とメッセージを打っておいた。
これで余計な心配はなくなったので少し安心したが、これからどこへ向かうのか少し不安になってしまった。
志乃亜父が出てきました。母親の名前も出てきてます。
志乃亜の勘違いから神城家が壊れかけていきますが、早速動くお父さん、次回『父の思い』
ちゃっかり志乃亜が綾のことを貴方と呼んでいましたが、綾と呼び捨てになります。
二人の信頼度は高まったみたいです。
まだ綾の両親も出てないし、体育祭練習すらしてないし千里ともまともに話せてないのでまだまだつづきそうです。




