『お昼を一緒に』
俺と有栖の学校は逆方向なので家を出た後すぐに別れた。
なので今現在1人で登校していることになっている。
ここを通る人達は男女だったり、集団で登校していたりするので俺が少しだけ浮いているような気がした。
そんな人達は話しながら歩いているので遅い人達ばかりだ、俺は追い抜いてさっさと学校へ向かうことにした。
目の前の人物を目にするまでは───。
春宮千里俺の幼馴染とその隣にいるのは男だった、誰かは知らないが十中八九楓ちゃんの兄の確か...新城颯馬だったかな。
まぁいい、俺には関係の無いことだと思い横を通り抜ける。
案の定気づかれることはなかったが俺としては朝から最悪なものを目にした気がした。
◇
「おはようございます」
昇降口で、スリッパに履き替えていると後ろから声がする。
「志乃亜か、おはよう...」
さっきの出来事で朝から最悪な気分の俺は今の挨拶にも問題があったらしい。
「元気がないです、やり直し。おはようございます」
「お、おはようございます」
いやお前先生かよ...って思ってしまったがまた怒らせると面倒な気がしたので心の中だけにしておいた。
「それにしても何かあったんですか?」
「ズカズカと聞いてくるな...」
「情報収集が面倒臭いので本人に聞いた方がいいと思いました。それに私と貴方の仲でしょう?」
「どんな仲だよそれ...まぁ嫌なものを見た。とだけ言っておく」
「なるほど...」
無表情で何かを考えているが恐ろしい事じゃないことを祈っておく。
「それにしても今日は1日何もありませんね、お昼暇ですよね?」
「お昼?まぁ始まって1日目だし友達と呼べるやつ居ないからな」
「ならお昼空けといてください。後私たちは友達以上ですのでその解釈は褒めてあげます」
「上から目線だな...」
そう考えると志乃亜も少しだけ変わっているような気がする。
昔はもっと、知識を上手く使って動いていた気がする。
今は権力と悪知恵を使って動いてるような感じになっている。
まぁ、どちらも神城志乃亜という存在だということに変わりはないが...。
「私は信じれますか?」
志乃亜から突然そんなことを言われたが俺の答えはまだわからない。
「さぁな」
神城志乃亜という存在を信じたいと思う自分はもちろんいる。
それが本当に信じれるかどうかはまた別問題になってきているので仕方のないことだと思いたい。
「私だけは信じてくれればいいです。逆に私以外を信じるのはやめた方がいいと思います」
「何で?」
「特に春宮千里...貴方の幼馴染さんは危ないですね、嘘に慣れてしまってます。逆に貴方の義妹の有栖ちゃんは嘘をつかない純粋な子ですので信用してもいいと思います。ですが1番信用してほしいのは私ですのでご理解頂けると嬉しい限りです」
迫力のあることを無表情で言ってくる恐ろしい子だ。
それにしても志乃亜がそこまで俺の信用を勝ち取りたい理由はなんだろう。
「それでは私は席に戻ります。お昼忘れないでください」
「あぁ、わかった」
俺との過去の約束...それを律儀に守ってここまで来たと言っていた。
他に約束事でもしていたのだろうか、そう思うが何もなかった気がする。
全く何もわからない状態で午前の授業は終わってしまった。
1年の内容は引きこもってる間に勉強しまくったとはいえこれは少しテストに響くだろうなと思いながら志乃亜の方を見る。
周りに人が集まっていた、帰国子女ということもあり、人が集まるのは当然だろうと思ったが全く無視...という訳ではなく、お得意の無表情で返していた。
「お待たせしました。見てたなら俺の女だから話しかけるな!とか言ってくれれば良かったです」
「俺の女じゃないからな。あそこの男たちに殴られたら骨折れそうだから...ね?」
「そしたら権力で人生を折ってあげますので安心してください」
「ガチでしそうなのやめてね?」
「それは貴方次第です」
まだ見てそうな感じの男子たちがいるので敢えて大きな声で言う俺たち。
この状況下で志乃亜の意図を読めた俺は少し頭が良くなったのではないかと思ってしまった。
「それでは行きましょう」
「何処に?」
「屋上です。鍵は雅先生に貰いました」
「借りたんじゃなくて貰ったのね?」
学校でも何かと有利なのはここに大量に投資をしているらしく、志乃亜と理事長は面識がある程度あるらしい。
雇われの身の、雅先生が勝てるわけが無い、ご愁傷様です、雅先生。
「屋上ってこんな風になってるんだな?」
初めて屋上に来たので俺は少し驚いていた。
とても綺麗な感じだったのでびっくりだ、良く手入れが行き届いているなと思った。
「手入れが行き届いているのは私の従者が昨日お掃除してくれました。ボーナスで釣ったんです」
「ボーナス良さそうだな...」
「貴方も雇われてみます?」
「金に困ったらな雇われるよ、志乃亜専属でな。知らんおじさんの元で働くのはごめんだからな」
「随分と信用してくれてるんですね」
「信用しろって言ったのそっちだろ?」
俺はとりあえずだが、色々なことを考えた結果、志乃亜は信用してもいいと判断していた。
これも午前の授業中を全て潰した成果だと言えば良いだろう。
代償は少し重いが、志乃亜とは仲良くやっていきたいのでこれくらいなら惜しむことは無い、家で勉強しないとな...。
「まぁ、いいです。弁当作ってきたのでどうぞ食べてください」
「俺は学食にしようとしてたから有難いけどいいのか?」
「もちろん、貴方の為だけに作ってきましたので、食べて頂かないと私の早起きが意味無くなります」
そう言われて弁当を受け取ると中にはいかにも商品で売ってありそうな出来の良い料理が並んでいた。
「これ作ったのか?」
「そうですね、全部私の手作りです」
「すごく美味しそうだな」
「10年間家の専属シェフに学ばせて貰い2年前に1人前だ!と認めて貰いましたのでそこら辺の人よりかは上手くできてると思います」
「それじゃあいただきます」
全く話しは聞こえず俺は「美味しい、美味しい」と言って食べた。
食べている俺の顔を見つめる志乃亜の顔はどこか嬉しそうな顔をしていた。
お弁当作ってもらうのも書いてみたかった内容ですね。
ハイスペックな志乃亜ちゃん...。
何とか今日も2話投稿できて一安心です。




