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続編のない短編達。

私はあなたの番ですが、自分の復讐をやり遂げてから向かうので少々お待ちください。

作者: 池中織奈

「……やってしまった」



 私のすぐ隣には裸の男性が居る。美しい銀色の髪の、彼とはつい昨日あったばかりだ。

 ――それなのにどうしてこんなことになったかというと、酒の勢いと彼があまりにも……真っすぐだったからだ。

 その肌は、一部が鱗状になっている。それは彼が竜人族だというのは分かる。



 私は彼の番らしい。……朝起きて、顔がすっきりして、彼が誰かというのは理解している。

 私は彼のことを好ましくは思っていて、番になることには異論はない。というか、私自身も獣人の血を少なからず引いているから、彼が私の番だとは分かっていたのだ。



 ……だけど、会わないようにしていた。

 会ってしまえば、私は我慢が出来ないだろうなと思っていたから。




 私は自分のやるべきことを全て片付けてから、彼に会いに行こうと思っていたのだ。……なのにどうして、竜人族の王様が……陛下が普通にこんなところをうろうろしているのよ!? 会うわけないと思っていたのに、もうっ!!

 一先ず私は服を着て、手紙を残す。名前は書かない。





 書いたのは下記である。

 ――私はあなたの番ですが、やることがあるのでそれが終えてからしかあなたの妃にはなれません。








 *



 突然だが、私の話をしよう。




 私はリオネニナ。昔はとある王国の伯爵令嬢という地位だった。先祖返りである私は、獣人の血が色濃くでていた。それもあって父は私のことを気味悪がっていて、それでいて伯爵家のためにと番が認知されなくなるような魔法具を私に常に身に着けさせていた。




 婚約者がいるのに本能で暴走されたら困ると、そんな風に思われたのだろう。それに関してはよくある話なので、特に問題はない。




 私のお母様は病死したと……私は愚かにも、父の言うことを信じていた。



 それが違うと思ったのは、異母妹に婚約者を取られ、悪女としての汚名をきせられ鉱山送りにさせられた時。

 お母様が亡くなった後、すぐに父は再婚をした。それも腹違いの異母妹もいた。お母様が生きていた頃から浮気をしていたのかと、そのことも私はとてもショックだった。それに継母や異母妹はそれはもう……嫌な人達だった。私のことを嫌っていた。

 まるで三人家族のように、彼らは振る舞っていた。





 私の悪評を流し、私をどうしようもない令嬢にして――異母妹の評判をあげる。そういうことを当たり前のようにやるのが私の父だった。

 ……私だって父の本当の娘なのに、本当に酷い話だった。

 私の見た目はお母様に似て優れていた。そのことも彼女達には気に食わなかったらしい。




 お母様譲りの青色の髪と瞳は、私にとってお気に入りだ。お母様の物は悲しいことにほとんど処分されてしまって、あまり残っていない。その中で私の髪と瞳の色は、お母様から譲り受けた大切な物だった。

 私はそういう状況下でも、まだ未来への希望を抱いていた。家を出ればきっと幸せになれるとそう考えていた。



 だけど……その夢は儚く散った。




 正直、婚約者に関しては元々親しくしていなかったので婚約が駄目になることは構わなかった。そうなったとしても――どうにか出来ればとそう思っていたから。

 そのための準備も進めていたのに……周りを巻き込んで私を悪女に仕立て上げたのだ。





 本当に運が悪かったのは、異母妹と婚約者が王族と親しくしていたこと。王子と親しくしていた彼らの意見の方が通ってしまった。というよりも伯爵家の中では発言力もないただの小娘である私の意見など――祖国の王族からすると優先すべきものではなかったのだろう。

 あの国の国王夫妻が、どこまで私達のことを正確に把握していたかは分からない。とはいえ、調べようと思えば調べられたはずだ。それをしなかったのは――国王夫妻が王子殿下達に甘いからだと思う。





 一人息子で、唯一の跡継ぎで……そんな存在だからこそその意思が優先された。




 私は……鉱山送りにさせられる前に、母が父に殺されたというのを知った。このまま罪人として鉱山に送られたら――お母様のことも明るみにならず、私の名誉も回復しない。

 そんな状況でお母様を殺した父や私に冤罪をかけた異母妹たちが好き勝手に生きて、幸せになるなんて――私は許せない。





 私はそう感じたからこそ、鉱山送りの馬車から逃げ出した。なんとか逃げ出して――私は今、復讐をしている最中だ。ちなみにその直前に、番が認知できなくなる魔法具は外されている。それもその魔法具が高価なものだったから。




 まずやったことは、商会を立ち上げたこと。

 それの何が復讐になるのだと言われるかもしれないけれど、祖国を依存させてしまおうと思った。

 便利な技術を提供して、私の立ち上げた商会が居なければ立ち行かなくなるように――。

 それが出来れば、目的は完了する。

 だってそういう面で依存させれば、私の言うことを聞かざるを得なくなる。





 私は魔法の才能が幸い優れていて、便利なものを作りだすことも出来ている。冤罪をかけられたりなんてしなかったら――私はそもそもの話、そういう面で頑張ろうと思っていたのだ。





 その夢は潰えた。




 私は……悪女の汚名をきせられたり、王族が私という存在を罪人のままにすることを良しとしたことに祖国への忠誠心といったものが皆無になった。何と言えばいいだろうか、その時までは当たり前の貴族令嬢として――私は王族に対する敬意はあった。

 それがなくなったのは、それだけのことがあったから。




 ――私はもう、遠慮する気はない。














「リオネニナさん、お帰りなさい。昨夜は帰宅してなかったみたいですが、大丈夫でしたか?」





 私が商会へと戻ると、従業員の女性にそう問いかけられる。



 私は商会で借りている建物の一室で暮らしている。祖国から出る際に……お母様の形見はほとんど持ちだせなかった。そもそも鉱山送りされる予定だった私が物を持ちだせるはずもなかったのだけど。

 形見も取り戻したいから、そのためにも少しずつ準備をしているの。

 腹立たしいことにいくつかのものは売りにだされていたので、それは買い取って回収はした。




 とはいっても全てではない。

 このまま私が自分の名誉を回復できなければ一生それらは取り戻せない。そんなことは嫌なので、私は行動を起こし続けている。

 ……それが終わる前に番と関係を持ってしまったことはあれだったけれど。





 だって会ってしまったら甘えてしまいそうだと思った。私が自分の手で復讐をやり遂げると決めたのに、身をゆだねてしまいそうだから。

 ――私はそう思っているから、全てを片付けるまでの間は会わない。




 私はそう決意して、部屋へと戻る。身体を清めておく。

 ……よしっ、どうにか即急に全てを片付けないといけないと私は決意する。

 その日は全てを片付けると、そのまま疲れて眠った。





 番が竜人族の王様だから、やろうと思えば向こうは私のことなんて簡単に探せる。ただ私の意思を尊重してくれるのならば――きっと手紙の通り、探さないでいてくれるはず。

 逆にもし無理に私を妃にするなどという方向性で彼が動くのならば、幾ら番だとはいえ私は嫌な気持ちにはなってしまうだろう。




 それが分かるからこそ、翌日になって何の騒ぎにもなっていないことには本当にほっとした。




 私の様子がおかしいことは周りにすっかり悟られてしまっているけれど、私が聞かれたくないのが分かったからか周りは問い詰めてくることはなかった。

 ただ気を抜くと、獣人族としての本能ですぐに番に会いたくなってしまう。





 すぐに抱きしめられたいとか、口づけをしたいとか……そういうことばかりを考えてしまっているので、何とか自分を律する。

 本当にこういう、種族としての本能はなかなか制御するのが難しくて、これまで番のためにと騒動を起こした者達のことも理解出来ると思った。尤も、他人に迷惑をかけるようなことは起こそうとは思わないけれど。

 何とか、本能を抑える効果があるという食べ物を口にして、自分の心を落ち着かせながら自分の目的を叶えるために行動を早急に行うことにした。





 それからの私は……それはもう以前より気合を入れて、私は商会を発展させるために動き続けた。

 それこそ周りから頑張り過ぎだと心配されるぐらいには……。






 私は自分の番のことも、身体の関係を持ってしまったことも、待たせていることも――誰にも言わなかった。

 それを言ったところで周りに気を遣われても困るし、それで周りの態度が変わるのも嫌だった。

 だって私は私でしかなくて、それでどうのこうの言われるのは嫌だ。それに色んな人が勝手に私に対して助けようとしたりされるのも嫌だ。番のことが原因でそういうのをされるのは私は嫌だ。





 ――その理由だけで助けられ、それを以ってして自分の目的を完遂させるなんてことになろうものなら私は番に対して素直な感情で接することが出来なくなってしまう。そのことが嫌だったなと思って、もやもやした気持ちでいっぱいになるだろう。





 そう考えると自分でも面倒な性格をしているとは思うけれど、これが私だ。

 ……番だからといって私のこういう性格も含めて好きになってくれるだろうかなんて考える。





 番は基本的に惹かれ合うものだ。でもよっぽど合わない性格の場合は出会ったとしてもそのまま良い結末にならないことはあったりする。……そうはならなければいいなと私は思っているけれど。

 早く全てを終わらせて、あの人の元へ行きたいな。そしたら相手をおもいやって良い関係を築けるように頑張るのに……と、そういうことばかり考えてしまっていた。

 そういう煩悩に満ちた私を隠しつつ、頑張った結果――私の目的は一年ほどで達成できた。






 ……正直こんなに早く終わるとは思っていなかったけれど、番に会いたいなと思う力は偉大だった。







「お久しぶりですね。あなたたちが悪女だと断罪した私、リオネニナがこの国に戻ってまいりましたわ」




 にっこりと微笑み、復讐対象である私を悪女と断罪した者達。





 私とお母様の名誉を回復するためにこうして祖国の王宮までやってきたのだ。……私が誰か理解した彼らは……特に元婚約者や妹たちはそれはもう騒ぎ立てていた。

 私が商会のトップだなんておかしいだとか、嘘だとか、どうして悪女が戻ってきたのかなど、沢山の罵声を浴びさせてくる。




 ――立場が分かっていない様子に思わず冷笑してしまった。




 私が此処にいるのは、ある程度王国内に商会の商品を広めた後に全て引き上げたからだ。生活に役立つようなものを安価で普及させた。そうして依存させて、一気に引き上げ、王国側は商会を呼び出した。

 私の望んだ通りの展開だ。

 強行手段を行われてしまう可能性もあるので、ちゃんと周りの護衛は固めている。私自身で全てどうにか出来れば別だけど、商会で雇っている冒険者達の力は借りる形になっている。

 喚いている者達は、陛下たちが黙るように命じていた。流石にああも騒がれると話にならないからだろう。

 妹たちと親しくしている王子も何かしら言いたげにしていたが、陛下の言葉を聞いて黙っていた。






「……それでこちらへの望みはなんだ?」

「そうですね。名誉の回復を求めますわ。私と、私の母親の」





 私がにっこりと笑ってそう告げると、向こうは怯んだ様子を見せた。それだけ私の機嫌を損ねたらいけないというのが分かっているのだろう。




 それこそここで私を無理やり排除したところで、完全にこの国から私の商会が引くだけ。

 この一年で商会の主として様々なところとも縁を結んだ。私に何かあればそれらの人達も動くだろう。そういう環境を私は完全に作り出していた。





 ……まぁ、番とは関わらないようにというか、関係があると分からないようにはしていたけれど。迷惑はかけたくないし、これは私の戦いだから。

 陛下たちは私のことはともかくとして、お母様のことに関しては心当たりがないといった様子だった。

 なのでそのあたりも一から説明した。




 ……妹は私を黙らせようと騒いでいたけれど、逆に黙らされていた。





 私がお母様が殺されたことも、証拠をつけて告発した。当然、それは大問題になり、きちんと処罰をすると約束してくれた。

 私とお母様の名誉は、私の望む形で回復したのであった。まだ陛下たちが親バカで、王子の意思を尊重するタイプとはいえ、状況をきちんと把握できるだけの能力があってよかったとは思う。そうでなければ実力行使して、もっと物騒な手段を取らなければならなかったから。




 目的が叶った私は、引き上げたものを全て元には戻す手配はした。

 それで早速戻って、番の元へと向かうとそう思っていた。





「お姉様!! 好き勝手にして、許さないわよ!! あなたなんて悪女のまま死んでしまえばいいんだわ!!」





 妹と元婚約者は、そこで終わりにはしたくなかったらしい。

 私のことが本当に気に食わなくて、私の存在が邪魔で仕方がないのだろうということがよく分かる。





「――本当に愚かね。私のことをそんなに殺したいだなんて。そもそも殺せると思っているの?」




 私はそう言って笑った。




 馬鹿にされたということは分かったのだろう。妹たちは怒っていた。

 そして彼らは雇ったらしい男たちを使って、私を殺そうとした。こういうことが起こるかもしれないことは把握していたので、事前に準備はしていた。だから、問題はなかった。



 彼らのことは殺さずにとらえた。そしてまた祖国の王宮へととんぼ返りした。



 私たちがすぐに戻ってきたことを陛下たちは驚いた顔をしていた。しかし事情を聴いて顔を青ざめさせていた。

 そういうわけで妹や元婚約者たちをきちんとした処罰を与えない限りはまた、同じように商品を引き上げるという宣告はした。




 それが終わってから私は帰宅した。




 ……きっちり着飾った上で、番の元へ向かおう。一番、綺麗な私で。

 私が情報を集めた限りでは、彼の傍には女性は居ない。私がやることを終えてからしか傍には居られないなんて……そんな我儘な言葉をそのまま受け入れてくれているのだろうか。面倒だとか、嫌な気持ちにさせてないだろうか……。




 自分から提案し、自分で決めたことなのにこんなことを考えている時点で私は本当に面倒な女だわ!

 そんなことを思いながら、竜人族の王宮へと向かうのに問題ない服装に着替えた。清潔感のある服装に、化粧を施し、おしゃれをする。






 急に私がそういう服装をしていたので、周りには驚かれたけれど……!!

 それから私は番の元へと早速向かうのだった。




 ――それからすぐに私は竜人族の王宮へと迎え入れられ、その後、妃となるのだった。

 私の意思を尊重してくれて、待っていてくれたことが嬉しかった。……まぁ、私にばれないようにたまにだけど見守ることはしてくれてはいたみたいだけど。

 私の望みを叶えてくれて、優しい人のことをずっと大切にしていこうとそう思った。








 ――私はあなたの番ですが、自分の復讐をやり遂げてから向かうので少々お待ちください。

 (望みを叶えてもらった私は、番の隣で幸せになる)


急に書きたくなって勢いで書いた短編になります。

あくまで番相手に宣言して、自分の望みをきちんと叶える話をさらっと書いたものになります。

感想をいただけたら嬉しいです。矛盾点などあったらあとで修正します。

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― 新着の感想 ―
番の話がいなくても本筋が成立するので、番の必要性が…… 番自身登場もしてないので、そういう意図だと思いますが、 さすがに背景すぎませんかね
話は好きです。ただ、それ、そう、そのような…やたらとそから始まる同じ言葉が気になりました 特に『それ』が多いです。類似語やもっと別の言い方で同じ言葉の意味としての言葉を作れたらもっと良いと思います
珍しく、相手の意思をきちんと尊重してくれるタイプの番だぁ! (なろうの番、だいたいろくでもないので…)
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