第12話 勇者、ハラクローイ王に一矢報いる
儂はカスラ。ハラクローイの国王だ。崇め奉れ愚民ども。
さきほどヨ・クボウノ町にいるザコダから献金があった。
なんと3000万EN。
ただの庶民上がりの魔導師だが、ふむ。これだけの誠意ある男なら、男爵位をくれてやってもいいかもしれない。
執務室の机に金貨を広げて、一枚一枚確認する。
「これこれ、この重み、この手触り。おぬしには一生縁がないじゃろう、なあカーマ」
護衛をしている兵士長に、純金の輝きというやつを教えてやる。
「確かに、おれには縁遠いです。ははは……」
「そうだろう、そうだろう。どれ、これはしまっておこうか。いーち……」
革袋に入れようとしたとつまみ上げたところで、
突如、金貨がキバをむいた。
比喩ではない、儂の右手人差し指に、金貨がかみついている。人差し指があっという間になくなった。
それを皮切りに、テーブル上に並べてあった金貨が次々にキバを見せる。
金貨を振り落とそうとしたら、新たに左手の親指に、小指に、金貨が食らいつく。
引き離そうにも右手も噛まれていて、摘まむことができない。
「カーマ! 今すぐこいつをなんとかしろ!」
「陛下、これはミミックです。お下がりください! だれか、医師を呼べ! 陛下の手当を!」
カーマが剣を抜き、執務室の外に控えている部下を呼ぶ。
振り下ろされた剣が、危うく儂の手を切り落としそうになった。
「この間抜けが! ミミックだけを狙え!」
「そう思うなら動かないでください!」
どんどん痛みが増していくのに、じっとしていろなんてできるものか。
カーマがナイフに持ち替え、斬ろうとしたところでやっとミミックが離れた。
噛まれていた指は第一関節から先がなくなっていた。
「へ、へへへへ、兵士長、大変です!!」
城の常駐医を呼びに行ったはずの兵が、誰も連れず戻ってきやがった。
「どうした、何をそんなに慌てている」
「そ、それが……常駐医も、ミミックに襲われていて」
兵の後ろでは、常駐医が情けない悲鳴を上げながら走り回っている。
メイドたちは自分が襲われてはかなわないと、我先に逃げ出す。
「ひぃいいいいい! 誰か、誰かこれを引き剥がしてくれ! これじゃあ回復薬も持てない!」
何人かの文官も指を食われていて、医師に詰め寄っている。
「俺を最優先で治せ! 金ならいくらでも払う!」
「なにを言うか子爵の分際で。治療なら伯爵のわたしが先にされるべきだ」
阿鼻叫喚の事態の中、勇者ルーザーがデスワープで飛んできた。
大勢がミミックに噛まれているのを目の当たりにしても顔色を変えない。
「あれまー。どうしたんです皆さん」
「見れば分かるだろう! おまえ、勇者なんだからミミックをどうにかしろ!」
勇者の剣ならミミックくらい一撃で仕留められる。腐っても国一の名剣だ。
儂の命令が聞こえているだろうに、ルーザーはウエストバッグをさぐりさぐり、面倒くさそうにつぶやく。
「やっと【しんでしまうとはなさけない】以外のこと言ったと思ったら……」
「どうにかしろと言っているのが聞こえないのか」
ルーザーは儂の言葉を無視して、鞄から超回復薬の瓶を取り出した。
腕の欠損を直せるレベルの超高級薬だ。稀少な薬草をふんだんに使っているため、値段は一瓶10万ENを超える。
「それをよこせ! これは国王命令だ!」
「俺には1ENも支給してくれないのに、10万ENの薬をただでよこせって図々しいねー」
「50万ENやる! だからその回復薬はこの伯爵ナリキンに渡せ」
「国王を差し置いてなにを言うのだ、下がっておれ! さぁ早く瓶を渡せルーザー! それくらいしか役に立てんだろう」
ルーザーはにっこり笑顔で答える。
「いやっす」
笑顔を絶やさないまま、ルーザーは足下に散らばっていた金貨を一枚一枚拾っていく。
儂らは指がなくなるくらいの怪我をしたのに、ルーザーはなぜか噛まれない。そのままあたりに散っていたすべての金貨ミミックを集めて鞄につめた。
「言われたとおりミミックをどうにかしたんで、報酬いただけます?」
「魔族を駆除するのは勇者として当然の務め。金を要求するなんて卑しいぞ!」
突っぱねたら、ルーザーは持っていた超回復薬を一気飲みして、瓶を儂の前に投げ捨てた。
「金をよこさないのに薬を要求するのも卑しい行為だよね?」
一同が唖然とするなか、ルーザーは悠々歩いて自分から城を出て行く。
急いで国中の薬を集めさせたが、擦り傷を治すのに使うような初級薬すら品切れを起こしていた。
なぜだ、なぜ、薬がない。
魔力回復薬もないから、回復魔術士に傷を塞がせることもできない。
これもザコダが仕組んだことなのか。
ミミックを送りつけて爵位をよこせなんてとんでもない。やつは、ザコダは牢獄送りだ!!
ミミック「ルーザーってば、どうやってデスワープしてきたのよ〜」
ルーザー5「バナーナの皮で転んで頭ぶっつけた」
ユーちゃん様『クソダサいっす!』




