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手際よく朝食作りをする花咲君を、私は椅子に座って見ていた。花咲君に座っていてと言われたからなんだけどさ。
でもね、本当に落ち着かないんだけど。だってね、花咲君は動き回っているわけでしょう。それをただ見ているだけっていうのもねぇ~。話しかけるのも憚られるし・・・。
そうやって悶々としていたら、花咲君が小皿を持ってきた。「はい」と差し出されたのは、お味噌汁。味見をしてということだろう。飲んでみて、少し味噌が薄いかなと思った。
「どう?」
「おいしいわよ」
「ほんとうに~?」
私の言葉に疑わしそうに見てきた。そして、小鉢を渡された。中身は納豆だ。
「これは?」
「かき混ぜてくれるかな。・・・えーと、もしかして納豆が食べられないとか?」
「大丈夫。食べられるから」
「・・・好きってわけじゃないのか」
私の返事に何かを呟いていたけど、聞き取ることが出来なかった。そのまま冷蔵庫のほうにいってしまったので、私は彼に聞くことが出来なかったの。
花咲君がおかずを並べ終わった頃、佳純さんが台所に顔を出した。
「おはよう。藤山さん、朝から子猫の世話を任せてごめんね」
「いえ・・・。それよりも昨夜はお世話になりました」
「ううん。こちらこそごめんなさい。藤山さんは自己申告してくれてたのに、飲ませすぎちゃって」
「えーと、でも美味しかったですから。飲み過ぎた自分も悪いので」
和やかに佳純さんと会話していたら、花咲君が椅子に座った。そして三人で食事を始めたの。
食事を食べ終わったら佳純さんが言った。
「藤山さんにお願いがあるの」
「なんでしょうか」
「早速で悪いんだけど、今夜からこの家で暮らしてくれないかしら」
私は佳純さんの言葉に目を瞬かせた。
「それって、どうしてでしょうか」
「もちろん子猫のためよ。今が一番手が欲しい時でしょ。それも4時間おきのミルク。1匹ならまだしも、5匹もいるのよ。俊哉一人じゃ大変だし。あっ、でも、藤山さんはまだ講義があるとか?」
「それはないです。学部移転に伴うお知らせで、私がとっていた講義は早めに終了させるとありましたから。もう終わってます。一昨日最後のレポートを提出しましたし、4月までは空いてます」
「それなら、お願いできないかしら」
「・・・はい。わかりました。それでしたら、一度アパートに戻りたいのですけど」
「それなら、俊哉。あんた藤山さんについていきなさい。それで、運べる荷物を運んでくるのよ」
「分かったよ」
「はっ? えっ? もう、引っ越すんですか」
「違うわよ。とりあえず一週間、アパートに戻らなくていいように、荷物を運んできてほしいのよ。私も急だから、来週に戻ってくるつもりなの。まずは今と少し先の季節の服があれば、何とかなると思うしね」
佳純さんの言いたいことが分かったので、頷こうとして、ハタッと気がついた。
「佳純さん、子猫の世話は? 花咲君がいないと大変なのではないですか」
「ああ、自分の支度をしながら、面倒を見るから大丈夫よ」
「でも、花咲君は昨夜あまり寝てないのですよね」
「大丈夫だよ。この後2時間くらい仮眠させてもらえば、支障はないよ」
花咲君は任せろというように、軽く胸を叩いた。
「それなら、藤山さんももうひと眠りしたらどう。3時間後に起こしてあげるから」
結局、この後何を言っても、「花咲君と一緒にアパートに行って荷物を持ってくる」という考えは変えてくれなかった。
私は寝かせてもらっていた客間に行き、布団の中に入った。しばらく考えていたけど、いつしか睡魔に襲われて眠ってしまったのでした。
約3時間後、佳純さんに起こされました。そして替えの服と下着を渡されて、お風呂場に追いやられました。湯船にお湯も張ってあって申し訳なかったです。
私がお風呂から出ると、花咲君も入りました。・・・一瞬ドキッとしましたが、これからこれが日常になるのだと思い、気にするのをやめました。
お風呂を出た私は佳純さんに捕獲されて、彼女の部屋に行ったの。そこで荷物を詰めていたはずなのに、部屋いっぱいに服がかかっていて、片っ端から私に当ててきたのね。それで私に会う合わないをわけて、合う方の中からまた服を選ばれたの。
・・・というか、なんで佳純さんはそんなにうれしそうな顔で、私に服を当てているのかな。
出来ればスカートではなくてパンツが良いと思ったけど、言えませんでした。
佳純さんコーディネートの服を着て1階に戻ると、花咲君が待っていた。彼は私の服を見てニッコリと笑うと言った。
「とてもよく似あっているよ、藤山さん。それじゃあ姉さん、行ってくるよ」
「ええ。気をつけて行くのよ。夕方より遅くなるようなら連絡するのよ」
そう言って送り出されたのでした。
車は今流行りの軽自動車の背が高いタイプだった。。紳士的に助手席のドアを開けてくれたけど、後部座席じゃ駄目ですか。そう言おうとしたら「まさか、後ろがいいなんて言わないよね」と言われてしまい、おとなしく助手席に納まったのでした。




