彼が夢を見せた理由
全てが終わり、軟禁生活となったリンの元へグウェンダルが現れた。
しかし、その足にはやはり枷がある。
『ありがとう、お母さんにもよろしく言っておいてね。
それと、これ、斬ってくれるかな?』
グウェンダルがリンに、事情説明のために見せた夢。
結局、最後までは見ることは無かった、彼と、そして勇者とメリアの過去。
ただの事情説明だけで見せたわけではなかった。
なにもかもが解決して、もしまだ天へ行けなかった時の保険として、グウェンダルはリンへあの夢を見せたのだ。
リンは優しいから。
困ってる理由を見せれば、知れば、まず断れないと知っていて、グウェンダルはあの夢を見せた。
そのことは、とっくにリンへ説明済みである。
だから、リンは肩をすくませて頷いた。
手近にあった果物ナイフを取る。
けれど、少し躊躇う。
「あの、お姉さんに会わなくていいんですか?」
リンが女神だと思っていた女性、【綺麗なお姉さん】のことだ。
『うん。
彼女には、やっぱり僕たちのことは見えないはずだし。
それに……』
そこでグウェンダルは、足元に視線を落とす。
それから、何かを抱き上げ、肩に乗せるような動きをする。
そしてリンを見た。
『彼女は新しい時間を過ごして、幸せに生きた。
その結果を見れただけで、僕は満足してる。
僕の、僕たちの時間はとっくに終わってるんだ。
新しい時間も経験も必要ない。
後悔が無いわけじゃないよ。
でも、人生ってそういうものなんだよ。
なるようにしかならない。
この結果に思うところがないわけじゃないけど、会わなくていい』
「そういうもの、ですか」
リンはナイフを振るう。
枷が外れ、鎖が消える。
『本当にありがとう。
僕達の死が無駄じゃなかったって、最後に思わせてくれて』
たち??
そういえば、さっきから複数形だ。
消えていくグウェンダルの肩、そこにさっきまで見えなかったモノがみえた。
たぶん、ずっとグウェンダルの傍にいたのだろう。
それは、子供だった。
二歳くらいの、子供。
グウェンダルに肩車される形で、その小さな子はリンを見ていた。
でも、リンはおろか、リンの母ですら、あまりに希薄で気づけなかった存在。
そして、リンの母親がグウェンダルに対して持った疑問の答えでもある。
なぜ、他人の子供に対して必死になっていたのか。
それは、彼も親だったからだ。
もう一人の自分のやらかしではあった。
けれど同じ親だから、よその家の子とわかっていて、余計なお世話だと理解していて、口を出したのだ。
もしも、ここにリンの母親がいたならその理由に気づいたことだろう。
けれど彼女は現在、王都を観光中のため不在であった。
小さな子どもは、ニコリと笑うとバイバイとリンへ手を振った。
リンも手を振り返した。
小さな子どもは、嬉しそうにわらってくれた。
そして、二人は光の粒子となって消えていった。




