気づいてくれたし、たぶん声も聴こえていた人
「ようやく気づいてくれた」
と、グウェンダルは言った。
「えっと、グウェン、だろ??」
「あー、どこから話したらいいのか。
まず、君に接触してたのは僕だけど僕じゃない」
頬をポリポリかいて、グウェンダルは続ける。
「まず、魔王軍の所業についてはどこまで知ってる??
一般常識くらい??
ちょっとそこくらいから話し始めたいからさ」
「えーと、悪いことして世界を滅ぼそうとした、くらい??」
「じゃあ、細かいことは知らない、か。
いや、忘れ去られちゃってるかなぁ。
うん、話すよ話すから」
グウェンダルの話を要約すると、こういうことだった。
「魔王軍が聖女だけでもなんとかしようと、グウェンダルさんの遺体を手に入れ魔改造。
体に残っていた魂の残滓を使って疑似人格を作り上げた。
その疑似人格を遺体へ入れることにも成功。
でも、実戦投入される前に魔王は倒され、魔王軍は壊滅散り散りに。
それから数年後に、魔改造もろもろした開発者が復讐のため、えーと、俺と接触した【グウェン】を派遣。
末っ子出産時に殴り込みをかけて、聖女と末っ子を呪い、手に入れようとした、と」
「そうそう。
本当は、そこまでの経緯をみせるつもりだったんだけど。
僕に気づいてくれたから手間が省けたよ。
その後、勇者は仲間たちとともに、あの僕を封印した。
その時に作ったのが、君たちが入ってきたダンジョン空間。
メリアも勇者も、彼は僕だと信じていた。
だからだろうね。
封印する時に、勇者はあの僕に情けをかけた」
「情け?」
「ウェディングドレス、みなかった??
あれ、僕のために彼が一緒に封印してくれたんだよ。
メリアはずっとあのドレスを手放せなかった。
新しい家族がもういるのに、処分できなかったんだ。
僕のことなんか、さっさと忘れてくれれば良かったのにね」
そこで言葉を切って、グウェンダルはリンを見る。
すぐに言葉を続けた。
「彼は、勇者はいい人だったよ。
時間を飛び越えられるスキルを持ってからは、なんとか過去を変えようとしてくれたし」
「過去を変えようと??」
「そ、魔王を倒す時にはそういうスキルを会得していたんだ。
でも、できなかった。
なにかしら条件が合わなかったんだろうね。
過去は変えることができなかった。
あの僕が封印されるのを見届けて。
それがキッカケになったのか、メリアから離れることができた。
死んでから僕はどういうわけかメリアから離れることができなくなったんだ。
たぶん、彼女の感情に引きずられていたんだとおもう。
まぁ、そんなこんなで自由になって、僕もさっさとこの世から去るつもりだったんだ、でもまた別のものに縛り付けられちゃったみたいで」
言いつつ、グウェンダルは自分の足元を指さした。
そこには枷があった。
枷は鎖が繋がっていて、どこかに伸びている。
どこに伸びているのかはわからない。
「別のものってのは、もう一人の僕のこと。
もう一人の僕が稼働し続ける限り、僕はここに縛られ続けるみたいなんだ。
最初はね、紋章持ちの子達に助けを求めようとした。
でも、誰も僕に気づかない。
気づいても、その時には僕がゴーストだとわからない」
「あ、もしかして、1人増えてる生徒って」
「うん、僕のこと。
ちなみに魂抜いちゃう云々は、もう一人の僕のことだよ」
怪異の正体見たり、である。
「ずっと気づいてもらおうとしたんだけど。
ほかのゴーストの方がキャラが濃いというか、存在感が強くて。
誰も僕に気づいてくれなかった。
でも、君はもう一人の僕にいろいろされたから気づいてくれるかなって思って」
「いろいろ??」
「君の魂を引っ張り出すために、もう一人の僕が食べ物に細工してたんだよ」
「魂?
引っ張りだす??
え、何でそんなこと」
「メリアの人形、見たでしょ??
あれに君の魂の残りと魔力を宿らせて動かそうとしてるんだ。
あの僕は、メリアと過ごすはずだった時間を取り戻そうとしてる。
君の魂や魔力は、血の繋がりがあるからかメリアにとてもよく似てる。
だから、最初はまちがえたんだろうね。
いま、ここにいる君は魂の要らない部分。
不必要とされた記憶が、魂として形を成した存在だ。
彼が君を捨ててくれてある意味良かったよ。
こうして話すことができたし」
「え、それってずっと昔から計画されてたの?」
「計画自体は考えてたよ。
でも、必要なものが揃わなかった。
メリアの魂の情報を色濃く受け継ぐ子がみつからなかったんだ。
でも、ここ最近、ようやくその存在にもう一人の僕が気づいた」
「もしかして、俺が配信に出てたから??」
「違うよ。
君、魔族が大陸全土を呪おうとしたのを防いだでしょ。
浄化のために、大陸全土に魔力を注いだ、あの事件のことだよ。
アレで気づかれた」
「おぅふ……」
「ずっと、伝えようとはしてたんだ。
でもさっきも言ったように、誰も気づいてくれなかった。
君にも声は届いてなかったし。
いや、でも一人だけ僕と目があった人がいたな。
たぶん、声も聞こえていたんじゃないかと思う。
その人も、メリアの孫の一人だし」
「え、その人って?」
「とりあえず、君だけでも仲間の元に帰したいんだけど。
欠けた魂だから、それこそ気づいてもらえるかどうか。
それに、体のこともある。
もう一人の僕は、君の体に残った魂の残滓や魔力を搾り取ったら要らなくなるから捨てると思う。
そしたら、たぶん学園内に君の体は現れると思うけど」
「けど??」
「欠けた魂の状態だとたぶん戻れない。
加えて蘇生も不可能。
つまり、天命を全うしたあつかいになる。
そうなったらどうなると思う??」
「え、それってつまり、死??」
「そういうこと。
って、あ、思ったより早いなぁ、もう一人の僕」
どこか遠くを見ながら、グウェンダルはそうこぼした。
「君の体、捨てられたみたい。
で、仲間たちがそれを見つけて大騒ぎになってる」
「え、えぇ~???」
どうしよう、これ。
というのがリンの正直な感想だった。
せめて土葬か火葬か、どちらかはわからないが、とにかく手遅れになる前になんとかしたい。
しかし、今さっきのやりとりを思い出して聞いてみた。
「そういえば、グウェンダルさんのことに気づいた人って?」
「え、あぁ、君のお母さんだよ」




