本当のところ、やっぱりお互い興味はある
※※※
「さすが勇者紋持ち」
口笛でも吹きそうなノリで、スネークは言った。
眼前には、たった今倒したモンスターの山。
この山を作った人物、王子――アーサーがつまらなそうな顔でスネークを見た。
スネークの背後にも同様のモンスターの山がある。
これはスネークが積み上げたものだ。
「紋章なしに言われてもなぁ」
「嫌味?」
「いや、そう聞こえたらすまない」
「真面目っすね~。
まだ16でしょ、もっとこう子供っぽいムーブしていいんですよ?」
「たとえば?」
「紋章なしに倒したモンスターの数で負けたー、悔しい、キー、みたいな?」
「…………」
「なんなら猥談でもします?
十代男子なんて、女性のケツかムネ、もしくは両方を視線でおっかけてるもんでしょ」
配信者並によくしゃべるなぁ、とアーサーは思った。
あんまり喋るイメージがなかったのだ。
「少なくとも俺はそうでしたよ」
スネークはいったい何歳なのだろうか。
気にはなったが、振ったのは別の話題だった。
「他の者たちは大丈夫だろうか?」
「さて?
心配なのは、現状考察厨だけですね。
あいつ、無能なんで。
戦えないんで。
もしかしたら、もう死んでるかも。
まあ、そうなってたらなってたでリンが蘇生させるでしょうけど」
「……前からきになっていたんだが」
「はい?」
「彼、リンとあなたたちは古い付き合いなのか?」
「いいえ。
知り合ったのは、ここ数ヶ月のことですよ。
リンが王都に上京してきた時です。
意外ですか?」
アーサーは頷いた。
「まぁ、うん」
「俺も興味があるから聞くんですけど。
結局リンって、どうなるんですか?」
「どう?」
「進路とかけっこうフワッとしてるでしょ、アイツ。
だから、その辺につけいって、手元に置いておくのかなって。
でも、それにしては強制的じゃないし。
だからわからなくて。
ほら、リンって通信制高校に籍を置いてるじゃないっすか。
なんで王立学園に籍を移すよう、手配しなかったのかなって疑問で。
仮にも次代の大聖女候補筆頭ですよ?
学歴も相応のものが必要でしょ。
じゃないとバカにするバカはどこにでもいる」
「彼が望んでいないからな。
それだけだ」
「じゃあ、リンが一年のお勤めを終えて実家に帰るって言ったらそうさせる?」
そこで、アーサーは大きなため息を吐いた。
「そこなんだよなぁ……。
もう、ばあちゃんは妹とさっさと婚約させろ、既成事実作って王都に縛りつけろってせっつくし」
ここで、なんだかんだ溜まっていたアーサーの本音が漏れる。
いまアーサーが口にしたのは、世間にも広がっているゴシップだ。
本気にする者はいないが。
そうなったらいいのになぁ、と考えている者はいる。
「俺としては、なんていうのかなぁ。
彼に対して罪悪感があるから。
あまりそういうのしたくないんだよ」
「罪悪感?」
おや、意外。
スネークは目を丸くした。
「神託でリンが王都まで来たのは、もう仕方ないことだ。
でも、問題はそこからだ。
リンは妹の命を救ってくれた。
その後の、他のもの達の彼への態度については知ってるだろ?」
「大炎上しましたからね。
知らない人の方が少ないかと」
「こちらの管理が甘かったこともあって、酷い待遇になってしまった。
にも関わらず、彼は二度にわたり、王都をこの国をあなた達と救ってくれた。
正直恨み言や、タコ殴りも覚悟してたんだ。
でも、なにもなかった」
「…………」
「責任者である俺への恨み言がなかったんだよ。
これは中々キツかった」
「いや、言えないでしょ。
立場の違いがあるじゃないですか」
「もともと紋章持ち同士は対等なんだ。
それは、先祖たちの関係でもある」
勇者パーティのことだ。
「なら、リンに謝ればいいじゃないですか」
「謝ったよ。
でも、リンは困った顔で逆に謝ってきた」
想像がつく。
おそらく、
『なんか、逆にすみません。
謝らせて』
とか言いそうだ。
「謝罪を受け取ってもらえなかった、と?
でも、屋敷や護衛を用意したでしょ??
それで十分じゃないですか??」
すでに出来ることはしている。
けれど、アーサーのなかにはリンに対する罪悪感が未だにあるのだ。
「それで返せないほどの恩ができてる。
でも、どうやって返していいのかわからない。
せめて、彼の考えを優先させるくらいしかできない」
真面目だなぁ。
と、スネークは王子を見た。
その時だ。
さらに追加でモンスターの群れが出現し、二人へ襲いかかってきた。
※※※
「あれ?
ここ、学園??」
リン達は、ダンジョン内をうろつきまわり、階段を見つけ進み続けていた。
そこは少し前まで、考察厨とタクト達がいた階層である。
考察厨とタクトは、リン達がくる少し前に階段を見つけ、ここを後にしていた。
きょろきょろと、リンとグウェンは誰もいない敷地内を歩き回る。
そして、それを見つけた。
「リリスさん、とアリスさん!!」
クリスタル漬けになった、聖女紋持ち達である。
「うわ、ひどいな、これ。
封印術式ってやつかな??
呪いバージョンってやつか」
リンの目にはクリスタルに施された呪いの術式が見えていた。
彼女たちを、ずっと閉じ込める為のものだ。
「わかるの?」
グウェンが驚いて問いかける。
「うん」
頷きながら、リンは念の為に持ってきていたナイフを取り出す。
その時だった。
「リン、あれ、なんだろ??」
グウェンがとある方向を指さす。
そこには、人形が立っていた。
マネキンには見えない。
というより、それはリンにはよく知った顔だった。
「お姉さん?」
人形も気になるが、今はリリスたちを助けるのが先である。
リンはナイフをふるった。
術式が切り裂かれ、クリスタルが消失する。
力無くその場に聖女紋持ちたちが倒れる。
怪我や、生死の確認をする。
全員、無事であった。
そのことにホッとしつつ、リンは次に人形を見た。
「聖女メリアの人形だね」
グウェンがそんなことを口にする。
「え?
女神様じゃないの?」
グウェンが首を傾げる。
「え、メリアだよ?
知らないの??」
言外に授業で肖像画くらいみたことあるでしょ、と言われてしまう。
しかし、リンは興味がないことにはとことん興味がない。
そのため、すでにその記憶は忘却されていた。
「あー、ははは」
とりあえず、笑って誤魔化した。
人形に近づいてみる。
聖女メリアの人形はとても美しいドレスを着ていた。
古いデザインではあるが、それはウェディングドレスであった。
近くまで来ると、リンと人形を中心にして魔法陣が発動した。
「へ??」
しかし、魔法陣は直ぐに消えてしまう。
「なんだったんだ??」
「大丈夫?!」
グウェンが声を掛けてくる。
その時だ、リンの視界がぐにゃりと歪んだ。
「……アルェー????」
まるで貧血でも起こしたかのように、リンはその場に倒れ込み、意識を失った。
辛うじて、グウェンがリンを支えたので、頭を打つことは無かった。
ただ遠のく意識の中でリンは、
「おかえり、メリア」
グウェンがそう呟くのを聞いた気がした。




