制服姿はダメって言われたけど、ダンジョン内を撮影しちゃダメとは言われてないので、配信用に撮影開始!
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配信者はこっそりと持ち込んだドローンを起動させる。
撮影用ドローンだ。
ダンジョン攻略の配信等で使用しているものである。
「いやぁ~、記録はとっとかないとなぁ」
と、誰もいないのにわざとらしいセリフを吐く。
ウキウキとした態度を隠しもしない。
本来なら、生配信をしたいところだがいつものように、こういった時は何故か掲示板にしか繋がらないのだ。
配信者はこういった事態に慣れていた。
そして、こんなこともあろうかという準備を怠らなかった。
制服姿のまま撮影するが、メインはあくまでダンジョン内の記録だ。
その辺は編集でなんとでもなる。
心霊スポットの動画配信など、配信者の姿はほとんど映さず、声だけというのもザラだ。
「さてさて、どんなモンスターが出るやら」
ダンジョン内は明るかった。
何故か松明が、規則正しく並んでいて道を照らしている。
洞窟の中のように見えた。
配信者は撮影を開始した。
※※※
考察厨は、慎重に歩みを進める。
それでも、きょろきょろと周囲を見回さずにはいられなかった。
ダンジョン内とはおもえなかった。
何故なら、
「王立学園の中、なんだよなぁ」
周囲の光景は、先程までいた王立学園の敷地内を再現していたからである。
違うのは、人の気配が全くないことだ。
考察厨は冒険者でもなければ、紋章持ちでも、スキル所有者でもない。
いわゆる【無能】である。
しかし、そういった異能力の代わりに天は彼へ考える力と、行動力、そして前向きさを与えてくれた。
「はぁ、死ぬ前に誰かと合流したい」
以前、王都襲撃の際に死に、リンのお陰で蘇生された時のことを思い出す。
なんとなく、リンがいるのだから仮に死んだとしても、見つけて蘇生くらいしてくれるだろう、という考えもあった。
しかし、そう何度も死にたくはないし。
どこで自分の天命が尽きるのかなどわからない。
もしかしたらここで死ぬのかもしれない。
「死にたくないなぁ」
大きな独り言を吐き出す。
その時だ。
考察厨は、それを見つけた。
「え??」
巨大なクリスタルである。
何かが閉じ込めてある。
「マジかー」
それは、人間だった。
何人もの人間がクリスタル漬けとなっていた。
考察厨は記憶力がいい。
だから、クリスタル漬けとなっている者たちの顔にも見覚えがあった。
行方不明となっている生徒たちだ。
「花嫁候補はいない、か。
薔薇ジャムさん、聖女Aもいない、と」
リリスとアリスは序列二位と三位だ。
いやでも配信などで顔を見る。
「…………」
これまでの情報を頭が勝手に整理し、推理しはじめる。
行方不明者の共通点は聖女紋持ちであること。
これだけだ。
ぼうっと、クリスタルを見る。
よくよく見れば、被害者たちは乱雑にクリスタル漬けになっているわけではなかった。
整然と並べられている。
まるで、
「コレクションか??」
まるでフィギュアや玩具を並べるコレクターの棚を見ているようだ。
嫌な妄想が頭の中で展開する。
「まさか、他にもあったりしないよな」
王立学園の歴史は古い。
今回の仕事の話が来た時に、考察厨も自分なりに王立学園について調べてみたのだ。
過去に行方不明者が出ていたか否か。
結果は、出ていた。
しかし、頻繁ではなかった。
出自もバラバラで共通点はやはり、聖女紋持ちであること。
貴族もいれば、庶民もいた。
当時も、それはそれは大騒ぎになったという。
「出自……」
なんだろう、なにか引っかかる。
「いや、でもリンには声が聞こえていなかった」
リンにそういったことがあれば、本人が報告していたはずだ。
不自然な声や、怪人と呼称される何かとの接触は無かった。
リンのことはさておくことにしたのか、考察厨の脳はそれでも妄想をやめなかった。
考察厨は、そこそこ人生経験が豊富だ。
スレ民としての経験、というのか、それも豊富だ。
だから過去、こういったオカ板案件について巻き込まれたこともあった。
脳はそれと今回の件で、似てるところがないか記憶をひっくり返し始めた。
やがて、脳は答えを提示した。
「まさか血縁の近さか??」
それは、本当にただの妄想だった。
しかし、だとすると、
「なんで、リンは除外されてる??」
男だからだろうか。
いや、もしかして除外されてはいない?
そういえば、霊が見えるものは生きてるか死んでるか、人外かなどの区別がつかないことがある、と聞いたことがある。
見る力が強ければ、強いほどハッキリ見えるが見分けができないことがある、と。
当人の体調など、様々な要因も関わってくるので一概には言えないらしいが。
どんなに力が強くても見分けられることもあれば、それが出来ないこともある。
考察厨は掲示板へアクセスする。
もしかしたら、リンはそうと知らないうちにすでに【声】もしくは【怪人】と接触しているのかもしれない。
それを確認するのだ。




