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【俺氏】聖女紋が発現して、王子の花嫁候補になった件【男なのに】  作者: 浦田 緋色 (ウラタ ヒイロ)
花嫁候補

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言の葉の刃

「それじゃ、ま、本題に入ろう」


ゲントウに促され、思い出す。

教祖の右腕とされていた、教団の最高幹部。

少女のようにも女性のようにも見える、あの得体の知れない人物とのやりとりを。


※※※


研究施設まで入り込めてからは、楽だった。

水槽のなかで浮いている、全裸の妊婦たち。

持ってきていたナイフで、空を切る。

それだけで、彼女たちは解放された。

蘇生も試みた、でも彼女たちは生き返ることが出来ない存在となっていた。

運命だったのだろう。


施設には誰もいなかった。

それが不自然だと、早々に気づくべきだったのだ。


拍手とともに、彼女は、教祖の右腕とされている女はどこからともなく現れた。


「あはは、お上手ですねぇ」


というセリフとともに、人を馬鹿にした笑いを浮かべながら、現れた。


「噂通り、初代聖女の再来だ、と言われているのがわかりました。

能力だけ、先祖返りしたみたいですね。

しかも、本当に男性とは」


なにがそんなに面白いのか、リンにはわからない。


「……教団は、俗世との関わりを切ってるんじゃないのか??」


「えぇ、信者はね。

私は信者じゃありませんから。

それよりも、聞きたくないですか?

貴方は、聞きたそうな顔をしている」


「なにがだ」


「ここでなんの実験をしていたのか、とか。

そういうのです。

報告しないとでしょう??

貴方、一応学生なのに社会人並みなことしてるじゃないですか。

報連相は大事ってわかってるでしょう。

だから、教えてあげようと思いまして。

貴方のことは聞いていましたから。

こちらに来ることも予想できていました。

本当に来たら、ご褒美に教えてあげるくらいはしてもいいかなと考えていたんです。


まさか、あの低能な人間が連れてくるとは考えていませんでした。

意外と貴方、顔が広いんですね」


低能な人間とは、ゲントウのことである。


「…………」


正直、すぐに逃げるべきだった。


「貴方が倒した魔族、いたでしょう?

彼もそれなりの実力があったんですよ。

でも、負けた。

貴方に負けた。

貴方は強い。

強い者には敬意を払うのが、マナーです」


訥々と、女は語っていく。

なぜ、実験をしていたのかを。

それは、スレで配信者が書き込んだ内容であった。


「と、まぁ、ここまでが表向きの理由です。

えぇ、裏の理由があります。

いえ、イコール、といってしまえばそうなのですけどね。


途中から裏の理由ができた」


そこで、女の指がスっとリンを指した。


「貴方ですよ」


「は?」


「種明かししますとね。

貴方の情報がほしかったんです。

初代聖女のように無差別に浄化してしまう能力。

そして、無効化の中でも魔力を流して大陸を浄化してしまったこと。

研究に研究を重ね、今代の大聖女ですら魔力を封じられ手も足も出なかった状況だったのに、貴方は違った。

今は廃れ、消え去った魔法を使い転移し、あの襲撃の中、起死回生の一手を打つことが出来た。

いまさっきも言いましたよね、大陸の浄化です。

大聖女ですら出来なかったことを、貴方は成した」


「それはっ」


姉ちゃんのお陰だ、と言いそうになった。

少なくとも転移に関しては、リコのお陰なのだ。

しかし、言えなかった。

女がリンの言葉を遮ったからだ。


「それもあって、研究内容を少し変えることにしたんですよ。

貴方をなんとか無力化するための研究に、変更したんです。


貴方、彼女たちのことを救った気でいましたよね?

でも、彼女たちがこうなったのは、貴方のせいなんですよ?」


水槽の中には変わらず妊婦たちが浮いている。

すでに魂はなく、そもそも死体のようなものだった体。

それを見ながら、リンは呟く。


「……おれの、せい」


赤ん坊も、妊婦たちも、妊婦以外の飼われている実験用の人達も。

その人たちがなぜ、そんな環境に追いやられているのか。

その理由は自分にあるのだ、と突きつけられてしまう。


「あはは、思った以上に貴方は【普通】なんですね。

安心しました。

これで精神まで化け物だったらどうしようかと思ってました」


リンの表情が絶望に染まる。

彼女たちがこうなったのは、リンのせい。

なのに、リンはそれを知らずに彼女たちを助けた気でいた。

救った気でいた。


そんなことは無かったのだ。


「貴方は思っていた以上に普通だ。

だから、こうして言葉が通じる。

さて、話を戻しますが。

私は貴方を待っていました。

貴方、今、私の話を聞いて責任を感じましたね?

なら、貴方は責任を取るべきだと思いませんか?」


「せき、にん」


「そもそも、紋章持ちという存在がこのような実験をするきっかけなんですよ。

それを無くすために、私たちに協力しませんか?

もちろん、すぐにとはいいません。

返答はまた後日で構いませんよ。

考える時間も必要でしょう」


そこで女は言葉を切り、絶望に染まり、途方に暮れているリンを愉悦の笑みで見る。


「あぁ、このことは話しても構いません。

信じるかどうかというなら、微妙なところでしょうね。

けれど貴方の責任について追求されるかというと、まぁ、まず貴方は責められることはないでしょうね。

なにせ、王都を、大陸を救った英雄だ。

そんな貴方の責任を誰も追及したり、責めたりしない。

貴方は、そういう立場にいるんですから。

さぞ、いい気分でしょう?

女性達の魂から感謝され、民衆からも英雄扱い。

けれど、女性達や子供たちは貴方のせいで本来ならされなくてもいい実験をされた。


これは、貴方の罪ですよ」


言うだけ言って、女は消えた。

少し遅れて、王子と配信者がやってきた。

二人はリンの表情を見るなり、ただごとではないと察した。

そして、


「「なにがあった??」」


異口同音でそう聞いてきた。

しかし、リンは全てを話す気にはなれなかった。

だから、


「胸くそ悪い」


そう呟くしかできなかったのだ。


※※※


「それで、どの言葉がグサッときた?

兄ちゃんに話してみろ。

さっきも言ったが、これは俺たちだけの秘密にしとく。

誰にも言わない」


ちなみに、とゲントウは続ける。


「俺は低能呼ばわりがグサッときたな。

たまたま事務パートのお局様たちの愚痴、つーか俺の陰口を聞いた時のこと思い出してグサッときた。

俺、自分じゃ仕事出来る方だと自覚してたからさー。


しかも今回は、低能呼ばわりされてたからなあ。

心外だった」


と、ゲントウは苦笑した。

その苦笑に釣られるように、リンも口を開いた。


「俺は――」


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― 新着の感想 ―
ええぇええええ、責任転嫁すぎるw 実験がリンのせいってw お前がやらんかったらいいって話じゃんw 私が言われても、お前がやらんかったらよかったんじゃんって言い返すけど、リンみたいな真面目なタイプだと考…
テロリストの言う事を真面目に考えるのはやるだけ無意味だよ 連中の言う事は全て自己弁護の屁理屈だから 正しい手段で社会を変える手間を惜しんで暴力等を含むいわゆるズルをしているだけだから 連中も薄々それが…
俺はこう言う賢しらな奴の絶望する顔が見たい。一番強い願望を目の前で踏み躙って、何もなせない環境で永遠に飼い殺したい 。
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