19.エルフの村へ行こうなの!
「アリアの村……エルフの村に行くって事か?」
クリスタがアリアにすりすりと身を寄せている。アリアもそれに応えるようにすりすりとほっぺを寄せる。
「いけません姫さま! 許可なく人間を里へ入れては……」
「アリアが許可するの!」
曇りのない笑顔にバーバリアンは「うぐっ」と言葉に詰まる。
「し、しかし姫さま! 勝手に……」
「なに? アリアの決定に文句あるの?」
怖かった。年上相手に物怖じしない態度で威圧的にバーバリアンを責める。
「わ、分かりました。しかし長老が中に入るのをだめだと言ったらだめですよ」
「それでいいの!」
アリアがはにかむ。先程のような剣呑な雰囲気は一気に霧散した。
「それではすぐにでも出発しましょう……黒騎士、準備はいいか?」
「ああ」
ようやくバーバリアンが、混じり物から黒騎士と呼んでくれた。
呼び名って結構大事だと思う。
移動を開始する際、アリアがバーバリアンから離れて俺たちの元へ来た。
抱っこから逃げられたバーバリアンが「ああ」と嘆く。
子供扱いするからそういう事になるんだ。
「パパ、ママ、手を繋ごうなの!!」
「はいはい」
「しょうがねえ……」
伸ばしかけた手が止まった。
アリアは自分の差し出した手を取ってくれない事に、不安そうな顔をする。
しかし俺はアリアの手を取る事が出来ない。
それはバーバリアン達、エルフが凄い視線を先程から送って来ているからだ。
間違いなく殺気が篭ってる。
「……パパ?」
アリア、頼むからそんな濡れた瞳で俺を見ないでくれ、ああ、今度は「泣かしたら殺すぞ」っていうオーラを出してきてる。なんて理不尽な。
「いや、その……」
俺の状況を察したクリスタがフォローしてくれる。
「アル君はね。手を繋いでるとアリアを守りにくいから繋げないんだよ」
「の……そんなのバーバリアン達に任せればいいの」
クリスタに乗じて、バーバリアンも続ける。
「いえ、姫さま。黒騎士は護衛としては私たちよりも適任です。どうかここは黒騎士の意向を汲んではくれませんか?」
「アリア、すまない。俺も手を繋ぎたいのは山々なんだが」
おっといけない。また鋭い目で睨まれてしまった。
「の……それなら仕方ないの」
アリアは渋々と言った様子で手を引っ込める。
エルフ達がガッツポーズしていた。くそったれめ。
◇◇◇
「ここから入ってきたのか」
「そうだ。我々は正面から入る事は出来ないからな」
神国アルディナを覆う壁の一角に、人一人が通れる穴が開けられていた。
魔法でカモフラージュしている為、普通の人には穴が見えないとの事だ。
その穴からアルディナを脱出すると、元々の予定であったアリアの故郷であるエルフの里に向かう。
彼らからすれば村なのだろうが、人間からすればエルフの村は里なのだ。
人間の村と比べれば、発展もしているし人口も多い、それに隠れ里のようなものだからだ。
そこら辺は人と異種族の認識の齟齬であろう。
追っては来なかった。おそらく、まだ国内を探し回っているのだろう。
「バーバリアンさん達が助けに来てくれて本当に良かったね。もう少し遅かったらアル君危なかったもん」
「それは否定できないな。でもお前とアリアだけは何がなんでも守りきらないといけないって思ったからな」
「そっか……ありがとねアル君」
「ああ」
俺とクリスタが会話に花を咲かせていると、アリアがむすっーと抗議し始めた。
「二人だけの世界を作らないで欲しいの! アリアも入れるの!」
「分かったよ」
アリアが会話に入る。ついでに「私も」と言ってバーバリアンも入ってきた。
お前、アリア好きだな。
壁を抜けた後は、魔物との戦闘もなく、俺たちは森の入り口へと足を踏み入れる。
自然で満ちた森は空気が美味しかった。
「すごい……」
「ああ」
森がさわさわと葉っぱを揺らし音を立てる。
アリアを含めたエルフ達の帰りを心から喜ぶように森がざわめいていた。
「ピピピッ!!」
「お」
小鳥が俺とクリスタの肩に乗る。
どうやら俺たちも歓迎されているようだ。
「ふんっ!!」
バーバリアンは気に食わないとでも言っているようだ。ここで弾かれるとでも思っていたのだろう。
でも結果はこの通り、森は俺たちを歓迎した。
森の奥へ進むと、一本の大樹が見えた。
「うわー」
「おおー」
それはそれは大きな樹だった。見上げてもまだその天辺が見えないような大きな大きな樹。正に大樹としか言いようがない。
何千年、何万年生きていると言われても納得出来る大きさだ。
そこで足を止めたバーバリアンが振り返る。
「ここより先がエルフの村だ。今、長老を呼ぶから待っていなさい」
「久しぶりにおばちゃんに会えるの!」
アリアは楽しそうだが、俺とクリスタは少し緊張気味だった。
数名を残し、バーバリアンとその他、多数のエルフ達は大樹の中へと入っていった。
「怖い人でないといいな」
「そうだね」




