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18. 数の暴力――エルフの村

なの!

「はぁっ!!」


「ふっ!!」


 俺が剣を振るい、バーバリアンが槍を回転させる。


「ぐあっ!!」

「くそッ! 近寄れん」


 黒剣が神官達の身体を斬り裂き、バーバリアンの槍が風を巻き起こしながら神官達を吹き飛ばしていく。


 分かってはいたが、このバーバリアンとかいうエルフ、中々の使い手だ。


「混じり物よ、遅れをとるではないぞ」

「あんたの方こそな、あと混じり物って……せめて黒騎士って呼んでくれよ」


「ふん、混じり物は混じり物よ。ゆくぞッ!!」


「あーくそっ。俺って初対面の人に酷く言われがちだなぁ」


 軽口を叩いてみたものの、戦況は有利だ。二人一組になった俺たちに近づけるものなどいない。


 そして背後からこっそりと近づく神官は、屋根の上からの援護射撃によって射抜かれていく。


 エルフの矢は的確に神官達だけを射抜いていく。


 ――これなら神官達を蹴散らせられる。そんな心の余裕まで生まれた。


 だがもう一つ懸念する点がある。それは民衆だ。


 一般市民には剣を向けられないから、また民衆が押し寄せて来ないといいんだが……それに、民衆に対しこのエルフ達が攻撃しないとは限らない。


 今の彼女達はアリアの事で相当怒っている筈だ。


「よくもアリア様を!!」


 槍を振り回すバーバリアンを見ると怒った時のクリスタを思い出す。


 あいつも槍を持ったらこんな感じなのだろうか。


「――ッ!」


 その時、鋭い視線を屋根の上から感じた。見るとクリスタが柔和な笑みを浮かべて「アル君? 何考えてるのかな?」とこちらを見ていた。


 決してクリスタが言葉を口にしたわけではない。だが、俺はそう感じたのだ。


 余計な事を考えるのはよそう。ろくな事にならなそうだ。


 短刀を振りかざす神官の腕を斬り落とす。それでもなお向かって来ようとする者は足の腱を切った。


 出来る限り殺したくはない。


 というかアリアの前で殺しを見せたくなかった。


 バーバリアンは殺しまくってるけど。


「まあでも戦いやすい事はいい事だな」


 クリスタとアリアがエルフ達に守られているので、俺は気兼ねなく戦えた。それはバーバリアンも同じだ。


「よくもあたい達の姫を連れ去ってくれたね」


 鬼のような猛攻でバーバリアンは神官達を串刺しにしていく。


 後ろでは「アリア見ちゃダメだよ」とクリスタがアリアの目を手で覆っていた。アリアは「なの?」と小首を傾げている。


 可愛い。


「さて俺も、もうひと頑張りかね」


 立っている神官達も残り少なくなってきた。勝てないと踏んで逃げ出そうとする者もいる。その者は無残にも無防備な背中を射抜かれていたが。


 エルフ相手に背中を見せるのは危険という事が分かった。


「よっと!」

「ぐあっ!!」


 神官、一人一人はそこまで強くない。しかし数が多くなると途端に厄介になる。


 やはり数は脅威だ。


「ひぃぃ、助け……」

「ふん!!」


 バーバリアンが命乞いをする神官を串刺しにする。そこには一片の慈悲もない。


 俺も残りの神官達を手短に倒していく。


「うわぁぁぁぁ」


「ぎゃああああ」


 路地裏に神官達の悲鳴が木霊した。


◇◇◇


「さて、一段落(いちだんらく)か」


 何人か息がある者もいるが、それは虫の息だ。このまま放っておけば死ぬだろう。


 戦いを終えた途端、バーバリアンがアリアの元に駆け寄った。


「あーアリア様。こんなにも痩せてしまって」

「? アリアは昔からこうなの」


 バーバリアンはすりすりとアリアのほっぺに擦り寄せる。アリアは「なの! なの!」と少しだけ抵抗する。


「なぁ、あんたらはアリアと……」


 俺が一歩近づいた途端、彼女達は武器を構えようとする。警戒されているらしい。


「パパは悪い人じゃないの!」


「パパ? あの者の事ですか?」


「なの! こっちがママなの」


 アリアがバーバリアンにクリスタを紹介する。紹介されたクリスタは「てへへ」と恥ずかしそうに笑う。


「一体アリア様の身に何が……」


 バーバリアンは言葉を失ってしまったようだ。無理もない。急に、新しいパパとママだよと紹介されたら誰でも驚く。


 アリアの発言で場が少しだけ和み、エルフ達の警戒が緩んだ。


「まあいいでしょう。今はここから早く離れなくては。アリア様、おうちに帰りますよ」


「やったのー! 久しぶりに家に帰れるの!!」


 バーバリアンがアリアの手を引く。アリアも嬉しそうだ。クリスタが俺をちょっとちょっとと手招きする。


「どうした?」

「私たちはどうする? 元々、里にアリアを送り届ける予定だったけど、ここでバーバリアンさん達にアリアは任せれば私たちはもう平気かな?」


「そう……なるな」


 欲を言えば、アリアと一緒にいる日々は楽しかったからもう少し一緒にいたかったが、俺たちといるより、彼女達といる方がいいだろう。


 「じゃあ、俺たちはこれで」と別れを告げようとした時、イルゼがこちらに顔を向けた。


「パパ、ママ何してるの? パパもママもアリアの村に一緒に行くの!」


「へぁ?」


 思わず変な声が出てしまった。どうやら、もう少し一緒にいれるらしい。


 クリスタも嬉しそうにアリアに抱きついた。


 

ここまで読んで頂きありがとうございました!


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