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大魔導師と王

三人称となります。

「役立たずどもが!!」


 王宮内で王冠を金髪の頭に載せ、髭を生やした男の叱責が続く。彼はこの国の王である。民衆から多大な支持を集め即位した男は欲望にまみれた男であった。


 普段は取り繕っている仮面を外し、己の性分を存分に出して部下を叱っていた。


 叱られているのは大魔導師ジュドー・アルヤスカと死体となったフィリックス・セラフィであった。


「むざむざと負けて帰ってくるとは……ジュドー貴様も命をかければ死にかけの黒騎士など倒せたのではないか?」


 痛いところをついてくるなとジュドーは用意していた言い訳を口に出す。


「僕も命をかけたら勝ててはいたでしょう。ですが黒騎士に勝てただけでこの先、僕の力無しではあの研究を完成させる事はできませんよ」


 研究の第一人者であるジュドーに言われたら反論の余地はなかった。彼等とて余裕がある訳ではないのだ。


「魔族共が攻めてくる時は近い。それまでに研究を完成させ、聖女を捕まえるだけにしておけ」


 はっ! と一声返事をする。


「しかし、聖女を狙おうとしている輩は多い。他の国に奪われる心配はないのか?」


「それは平気でしょう。彼女には黒騎士がついているのですから」


 彼の強さは死体となったフィリックスが証明していますと続ける。


「最近は大臣達の追及が煩くなってきている。勇者よ王族に歯向かう不届きものをまた成敗してくれまいか?」


「今度は何をくれるんだ?」


 彼が求めるものは決まっている。


「次は美少女と評判の小国の姫君をやろう。お前の要望通り処女だぞ」


「そうか……そいつはいいな」


 執事から大臣達の名前が書かれている紙を渡されるとケンジは夜の王都へと旅立った。


 欲望に忠実で扱いやすい男だとその場にいた者は全員呆れ顔になる。


「これで大臣達の方はなんとかなるだろう」


 その死体はどうするのだとフィリックスの亡骸を指差す。


「僕が後で人形にしますので、世間的には見せられるようになりますよ」


「そうかならいい」


 お前達はもう下がれと執事や給仕達、側近達を退出させる。


 部屋には王とジュドーだけが残った。


「さて、誰も居なくなった所で……」


 無遠慮に近づいたジュドーが王の胸倉を掴む。


「この役立たずが!!」


「ぶひぃぃーー! お許しください」


 さっきまでの偉そうな態度はどこにいってしまったのだと言うほど王は目に涙を浮かべていた。


「また僕のやり方に反しただろう! 僕の言う事だけ聞いていればいいのに」


 王としての貫禄などどこにも無かった。


「でも……大臣さん達が怖いんですもの。最近はあなた様の意見ばっかり取り入れると」


 チッと舌打ちして、掴んでいた手を離す。どすっと王は尻餅をついた。


「今度から、裏で指示を出すようにする」


 ありがとうございます。ありがとうございますと何度も頭を下げて懇願する王には威厳などまったく感じられない。


 その哀れな姿にジュドーは満足したようで、もういいとひたすら懇願し続ける王に告げる。


 そこでようやく王は顔を上げた。涙と鼻水で顔がしわくちゃになっていた。とても四十代とは思えない。


 そして髪の色も金髪から白髪に変わり、眼の色も黄土色から瑠璃色へと変貌していた。


 それを見たジュドーが一笑する。


「魔法が解けてしまったな。掛け直してやる」


 そういってジュドーが魔法を唱えるとみるみる王の顔は若くなっていき、部下達と話していた時と同じ凛々しい顔立ちになった。


「街で行き倒れになっていたお前を王に仕立て上げ、ここまで面倒を見てやったことに感謝するんだな」


 しっかり恩を返せよと告げ、ジュドーはフィリックスの死体と一緒に退室した。


 王は安堵した。自分が彼に殺されなかったことに。なにせ彼はこの国の本当の王を殺した人物なのだから。


 前王にはまだ妻も子もいなかった。


 仕事の山に目を向けジュドーから渡された物とすり替え、玉璽を押していく。文字が読めないので王族の印だけを押していく。


 基本的に政治関係の書類はジュドーの部下達が代わりにやってくれている。


 ミスがあれば処分されるのは自分達だと分かっている為、前王が考えそうな内容、筆跡を極限まで似せている。


 お飾りの王である彼もまた一日中資料を読み漁り、古くから国を守ってきた貴族にバレないよう努力をしていた。


 全ては計画を成功させ、魔王、魔族達を自分たちの手中におさめ世界を支配するために。

ここまで読んで頂きありがとうございました!


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